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エルヴァン王国の未来

第一話 覚悟

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 ーー見られてますね。

 警戒感丸出しですわ。

 私はそれに気付かない振りをして、ケルヴァン殿下の隣に移動します。

「もう間もなく到着しますが、大丈夫ですか?」

 私はケルヴァン殿下に尋ねます。

 顔色が悪いですわね。

 昨夜の侍女の報告のショックが抜けきれていないのは明らか。寝ていないのでしょう。表情も固いですわ。

「大丈夫だ。行こう」

 ケルヴァン殿下は安心させようと、無理矢理笑おうとしたけど、全然笑えてませんわね。同情はいてしませんが、痛々しいですわ。

「では、行きますか」

 私たちは廃村となった村に足を踏み入れます。

 それにしても、まさかこんな所に隠れていたなんて、不快ですわね。だってそうでしょう。廃村になった原因の片割れが潜んでいるのですから。

 広場にまで来た私と侍女、案内人は足を止めます。ケルヴァン殿下の足も自然と止まります。

「いい加減に出てきたらどうです? 潜んでいるのはわかっていますわよ。それとも、追い剥ぎに身を貶したのですか?」

 言い終わらないうちに取り囲まれる私たち。

 七、八人ですか。全員、抜刀してますわね。一見、ハンターか兵士にしか見えませんが、その身のこなしで、騎士だと簡単にバレていましてよ。

「止めろ!! 引け!!」

 響く、男性の声。

 殺気立っている騎士の背後で放たれた声に、即座に反応する騎士たち。

 騎士を押し退け、姿を現したのは、ケルヴァン殿下とよく似たガッシリとした男性でした。

 おそらく彼が、エルヴィン王国第二王子殿下ライヴァン様ですね。

「ライ兄上!!」

 その声と同時に、ドカッという音がしました。

 ケルヴァン殿下がライヴァン殿下を抱き締めるのだと思っていましたのに、まさか、殴るとは思いませんでしたわ。

 ケルヴァン殿下はライヴァン殿下に馬乗りになり胸倉を掴み揺すっています。

 煩わしいので、外野の皆様の動きは封じさせてもらいましたわ。うちの優秀な侍女が。勿論、私はケルヴァン殿下を止めませんよ。

「どうして、ここにいるんだ!? 何で、王都から離れた場所でくすぶってるんだよ!? その間に、どれだけの民が苦しみ死んでいってるのか、わかんないのか!! それに、この国に関係ない人まで巻き込んでーー」

「…………すまない」

 力なく謝罪するライヴァン殿下。

「俺は、謝れとは言ってない!! 何で、この場所でくすぶってるんだって訊いてるんだ!!」

「…………」

 何も言えないのでしょう。ライヴァン殿下は唇を噛み締め、何かを耐えてるようでした。

 私からしたら、それが何? って、言いたいですけどね。

「ケルヴァン殿下、そこまでに。茶番ですわ。本当に醜い」

 吐き捨てるように私が言うと、ケルヴァン殿下は渋々手を離し、ライヴァン殿下から退きます。

「……さて、ケルヴァン殿下の依頼は終了しましたわ。では、私はこれで失礼しますわね」

 兄弟喧嘩にこれ以上、付き合う必要はありませんもの。踵を返す私。

「待ってくれ!! セリア様!!」

「何ですか?」

 渋々、振り返ります。

「…………」

「呼び止めておいて、無言ですか……本当に、帰りますよ。これ以上貴方に時間を割くと、シオン様が不機嫌になりますからね」

 溜め息を吐いてから、不機嫌を隠そうともせずに答えます。

「隊長には悪いと思ってるけど、俺と一緒に、王都に行ってくれないか!? 頼む!!」

「何故?」

「イル兄様、いや、イルヴァンを止めないと、この国は滅びる」

 呼び捨てにするってことは、彼を犯罪者として扱うということですね。遅過ぎますが。それでも、そこに転がっているライヴァン殿下よりは、よほどマシですわね。

「既に、滅びの一歩前まで来てますけどね」

「それはわかってる!! イルヴァンを止めても、この国が維持できる可能性は低いだろう。でも、最悪な自体は回避しないと……エルヴィン王国だけの問題ではなくなるから」

「それが、どういう意味か理解して言っているのですか?」

 実の兄を手に掛けるということですよ。

「理解している。俺はこの手を血に染める覚悟がある」

「できるのですか? そこに転がっている、貴方が尊敬している第二王子殿下ができなかったことを」

 ライヴァン殿下を一瞥してから、ケルヴァン殿下に視線を戻します。

「できる、できないの問題じゃない。やらないといけないんだ」

 この旅の中で、一番大きな溜め息を吐いてしまいましたわ。

「ならば、条件が一つあります。ハンター協会に正式に依頼しなさい」

「公にしろと?」

 目を見開き尋ねます。しかし直ぐに意味を理解したケルヴァン殿下は、唇を噛み締め、両手を強く握り込んでいます。口元と手から血が出ていることに、本人は気付いていないのでしょうね。

「ええ」

 その条件を撤回するつもりは端からありません。そこまで、甘くはありませんわ。しかし、皇女として、友人として、それが最善の選択だと思いますから、なおさらですわ。

「ーーわかった。正式に、ハンター協会に依頼する」

 いい判断ですわね。それに、いい覚悟ですわ。

「ならば、戻りましょう。グズグズしてられませんよ」

 私はそう告げると、転移魔法の魔法陣を発動させます。
 
「何を勝手に!!」

 焦り出すライヴァン殿下に、ケルヴァン殿下は告げた。

「確かに、イルヴァンが元凶だった。でも、それを助長し、ここまでにしたのはライ兄様、貴方の責任です。そして、何も知らずに平和な場所にいた俺も、同等の罪でしょうね。ライ兄様、邪魔はしないでください。もし、するようなら、貴方も俺の敵として対処します」

 感情のこもらない、冷たい声で。

 そして、ケルヴァン殿下はライヴァン殿下を見ることを止めた。

 私はそれを確認すると、転移魔法を発動させた。行き先は決まってますわ。





☆☆☆

 応援ありがとうございますm(_ _)m

【第5回ほっこり・じんわり大賞参加作品】が始まりましたね。

 実はこっそり、参加しています。

 初のライト文芸。タイトルは「俺は妹が見ていた世界を見ることはできない」です。

 これからも一生懸命書いていきますから、応援宜しくお願い致しまm(_ _)m




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