279 / 297
なんとしてでも、結婚してみせます
第五話 しっかりと反省してください
しおりを挟むカリカリとペンの音が響く執務室。
領主の仕事と学生、たまに舞い込む皇女としての外交、毎日が目が回るほど忙しいですわ。それも、自分が招いた結果なので仕方ないんですけどね。
「今日は、これで最後ですよ」
お目付け役であるスミスの言葉に、私はフーと息を吐きながら腕を回します。コキコキと骨が鳴る音がしました。
「……やっと終わる……終わったら、熱いお風呂に入りたいですわ」
体を思いっきり伸ばしたいです。腕を伸ばす私を見て、スミスがありがたい提案をしてくれました。
「明日に疲れを残すわけにはいきませんので、マッサージをするよう、侍女に言っておきます」
「なら、マッサージは私がしてあげるわ」
素直に「ありがとう」と言おうといた私に被せる声が。同時に、背中から少しヒンヤリとした風が室内に入ってきました。書類が飛ばないように押さえ付けます。
振り返らなくてもわかりますわ。こんな登場をする方は一人しかいませんもの。
書類をスミスに渡してから振り返ると、窓枠に腰を掛ける黒髮に黒目の女性。
やっぱり……この光景、前にも見たわね。
「いえ、結構ですわ」
深く考える前に、速攻で断りました。
だって、そうでしょ。どのような顔して、私の前に現れたのです。お母様は、今私の敵ですわ。
「冷たい……我が子が冷た過ぎるわ……」
泣き真似しても騙されませんからね。
そもそも、これくらいで、お母様が泣くわけないでしょ。あぁでも、このまま泣き真似されたら、面倒くさいことになりますね。お父様の登場は、精神をゴリゴリと削られますから。
「今日、泊まるつもりですか? なら、侍女に部屋を案内させますね。では、私はこれで」
さっさと執務室を出ようとする私に、焦ったのはお母様。
「ちょっと待って!! せっかく、出て来てあげたのよ!! 私を捕まえたら、レイを誘き寄せれるでしょ」
お母様の言葉に、私は大きな溜め息を吐いてしまいましたわ。淑女なのに。
「……確かに、お母様を人質にとれば、お父様は釣れますよね。でも、それに何の意味があるのです?」
「婚姻できるじゃない!!」
「お情けで? それも、親を人質にとって? お母様、私を馬鹿にしているのですか? それとも、舐めてます? そんなことをされて、私が嬉しいとお考えですか? そもそも、なぜ、私たちの婚姻を邪魔したのです?」
畳み掛けるように質問する私に、珍しくお母様がタジタジした様子で言い淀んでます。
「……だって、十六で婚姻なんて早過ぎるじゃない。それに、あれって、完全な吊り橋効果じゃない……」
お母様の回答に、私はまたしても盛大な溜め息を吐いてしまいました。
「この世界で、十六歳で婚姻は、特に早いことではありませんよ。……吊り橋効果については否定はしませんが、なんの覚悟も無しに、私とシオン様が婚姻を決めると?」
少し、言い方がキツかったかしら。でも、これくらいはいいですよね。完全に、私たちは振り回されてるのだから。
私に嫌われたと思ったのか、お母様が顔色を変えて焦ってます。
「だって!!」
手を伸ばすお母様を避けるように扉に向かいます。そして、出て行く前に伝えました。
「妙なところで、お母様は過保護ですから。今回のことも、私のことを考えてのことだと思っていますわ。だとしても、簡単に許すつもりはありません。こんなことをする前に、私たちと話をするべきだったのでは? 少なくとも、した後でも話し合いの場を設けることはできたでしょ。なのに、しなかったのはお母様たちですわ」
それだけ伝えると、私は執務室を出ました。
しっかりと反省してください、お母様。私たちには言葉があるのですから。そうそう、シオン様にもお母様が泊まりに来たことを伝えないと。今夜は、抱っこの時間が長くとれそうですわね。
応援ありがとうございます!
8
お気に入りに追加
7,521
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。