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貴方がそれを望むのなら

第一話 これは浮気なのでしょうか

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 やっと、貴方を私のものにできたと思ったのに、それは私の勘違いだったの……

 まさか、新婚早々に、そのようなことを想う日がくるとは思いもしませんでしたわ。

 とはいえ、浮気を裏付けるような行動をシオン様がしているわけではありません。例えば、私以外に唇を許すとか、抱き締めるとか、裏通りにある宿屋に連れていくとか、そういうお店にはいるとか……一般的にいえば、シオン様の行動は浮気とはいいませんね。

 しかし、それでもショックなのです。そこに、私以外の女性を伴うなんて、どのような理由があっても絶対に許しはしませんわ。理由があったとしても。

 だって……シオン様の身体も心も、その笑顔も私だけのものなのだから――

 ことの発端は、三日前の侍女からの報告でした。

 小柄な女性ハンターとよく一緒に行動しているとのこと。

 私は常にシオン様に近付く女がいないか、仕事の合間に見張らせていました。シオン様にハニートラップを仕掛けてくる輩が多かったからですわ。私との婚約を発表してから、特に増えましたの。私が成人前の子供だから、付け入る隙があると考えたのでしょう。浅はかですわ。

 でも、その気持ちがわからないわけではありません。シオン様はどの角度から見ても格好いいですし、仕事もできますし、とっても強いですわ。なので、どうしても、女を引き寄せてしまうのです。そういうのをフェロモンというのかしら、シオン様は常に放出している状態なのです。しかたないとはいえ、とても嫌なのだけど、どうしても防ぎようがないのが現状ですわ。

 だとしても、婚前旅行以後は、必要以上に女性を傍に置かないように注意してくれるようになりました。おしおきが効いたみたいですね。当然、仕事関連以外ですよ。そのシオン様が、プライベートに女性を同伴させている。それも親しげに。

 そこが問題なのです。

 始めは信じられませんでした。

 一応、念のために侍女が映像を撮っていたので確認しましたわ。シオン様の隣で微笑む女性。二十歳前後かしら、まったく見覚えがありませんでした。シオン様に関係する女性及び親族の顔は、過去の女性を含め全員把握してます。隊長たちの彼女かもしれないとも考えましたが、その兆しは一切ないそうです。

 ならば、あの女性はシオン様にとってなんなの!? もしかして、私が成人するまでの身代わりですか!? 

「……いやまさか、それはないわ」

 人族なら考えられるけど、シオン様は竜人族、番を一番に考える種族ですもの。でも、それを公表はしていない。だから偶然を装って、他の貴族が側室にしようと画策したのかもしれない。事実、過去に数回、そのようなことがありました。その度に、この私が丁寧に返品しましたわ。

 今回もそのたぐいなの?

 そうだと予想しながらも、何故か、胸の奥がザワザワします。今まで感じたことのない嫌などろっとした感覚でした。だから、なおさら不安にかられたのです。自分の目で確かめたくなるほどに。

 嫌な予感を胸に抱きながら、私は認識阻害の魔法を強くかけ、その上で、私の匂いが漏れないように結界を何重にも施してから、スミスとともに確認することにしました。

 少し離れた場所の建物の影に隠れていると、まるでデートを楽しんでいるみたいに、街中を歩く二人が目の前を通り過ぎます。腕を組んだり手を繋いだりはしていません。

 それにホッとしながら、あとを追う私とスミス。次に入ったのは、最近オープンしたカフェでした。次のデートで行こうと約束していたカフェです。

 私の前に……目の前が暗くなるって、こういうことなのね……

 私が見ているとは知らずに、シオン様と女はカフェでお茶とケーキを楽しんでから、入っていったのは一軒の宝石店でした。

 そこで、二人は指輪を見ていたのです。

 女は嬉しそうに指輪を選び嵌めると、シオン様に見せていました。シオン様は嬉しそうに微笑むと、店の店主にその指輪を渡していました。購入するのでしょう。

 サーと私の中でなにかが崩れ落ちていく音がしました。こういう場面で、よくその場にのりこむ話を聞きますが、私にはそれができませんでした。

 シオン様を信じています。彼が私に告げてくれた言葉も仕草も、その温もりも、匂いも――

 なにかしらの理由があるからだと考えていますが、これ以上見たくはなくて私は踵を返します。

「……帰りますよ、スミス」

 冷たい低い声でそう告げると、私はスミスと共に執務室に戻りました。

 このような時でも、残してきた仕事が山ほどありますから。

 
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