上 下
16 / 71

14 R

しおりを挟む
次の日、朝ご飯を食べた私達は死の森へと出発した

昨日の事もあり、通る道には人が集まって城の出来事を話している


「王様のせいで賢者様が出ていったらしいじゃない」


「黒の王の復活はどうなるんだ?」


「第2王子の婚約者が賢者様を逃したらしいよ」


「あの方も無理矢理婚約者にされたって聞いたよ」


「神様は何故王様に罰を与えないのかしら?」


「不思議だよな。賢者様を蔑ろにし、国民を権力で抑えつけてるのに天罰がくだらないって、どうなるんだ?」


「ねーママ。神様は平等だって教わったけど嘘なの??賢者様達可哀想だよ。」


子供まで加わって話をしている

国民にはそれほどにも衝撃的な事だったのだ


昼前には予定通り死の森の入口についた


その近くの村で食事をとることにする


入った定食屋では、また噂話で持ち切りになっていた


「聞いたか?ついに国王派の貴族が全員捉えられたってよ!」


「聞いた聞いた!俺達が納めた税金横流しして懐温めていたらしいじゃねーか!」


「昨日さ、国王派の騎士だけが雷に撃たれた理由知ってるか?王妃派の騎士は賢者様が結界を張って助けたらしいぞ」


「ってことは、賢者様が憎んでるのは国王派であって王族って訳じゃないってことか?」


「でも王と王子の事は憎んでるだろ。無理矢理他国を脅して召喚したんだぞ。それにしても、他国を脅すなんて気が振れたんじゃないか?」


「そうだよな。これで黒の王を討伐できなかったら、1000年続いた友好関係も壊れちまう。
せめて王様が退位して第1王子が王に立てば他の国との関係は修復できるだろうけど。」


「だよな。留学って言われてるけど、あれも国王様と第2王子が差し向けた暗殺者にずっと狙われてたから王妃様が他国へ行かせたらしいじゃん?」


「本当にろくなことしねーなぁ…この国はどうなっちまうんだろうな…………」



そんな話を片耳で聞きつつも急いで食事をする



バタンッーーーーー


「大変だ!!王様と第2王子が捕まった!!」


大きな男が転びそうになりながら入ってきた


「「「「え!?」」」」


店内は一気に静まる


「賢者様を蔑ろにしした事と、昨日賢者様達が出ていく時、青の国の第2王子が賢者様を守ってたらしいんだけど………王様が3人を捕まえろって命令して、賢者様と青の国の第2王子、メラトス公爵の息子のカイン様に剣で斬りかかったんだって!!」



「何てことを………!!」


息を呑む者や怒りを顕にしテーブルに拳を叩きつける者


「他国の王子様と賢者様に斬りかかるなんて、他国が黙ってないよ!?戦争にでもなったら…!!」

「賢者様もカイン様も怖かったでしょうに………なんて可哀想な………」


「賢者様に怪我をさせてはならないって、神話の第二章に書いてなかったか………?」


「書いてたよ!ミオ、昨日神話読んだもん!!賢者様は一度しか召喚できないんだよ。召喚された賢者様は二度とお家に帰れないの……家族に二度と会えないんだよ…ミオなら悲しくて寂しくて辛いだろうな………賢者様だってそうだよ……だから寂しくない様に、賢者様が幸せだなって思ってくれるように皆で大切にするんだよ!」


小さな女の子が会ったこともない賢者様の為に涙を流し心を痛めている



「……そうだよな。賢者様…今頃どうなさってるんだろうな?怪我とかしてなきゃいいけど。」










食事を終えた私達は死の森に入った


入口から20m程入ったところを馬に走らせる


30分程経った時だった


「前方に2体の魔獣確認、後方にも1体!前方は僕が倒すのでラウ様は後方をお願いします!」


カインに叫ばれて後ろを確認するが気配も無ければ、姿も見えない


「ソウ様はご自分の周りと馬に結界を張ってください。後50秒で来ます!」


「わ…わかった!」


カインは馬を降り前方へ走る


「ギャャア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!!!」


魔獣の声が聞こえた瞬間、前方で青い稲妻が走った


「レイド…!!来た!」


後ろを振り返ると茶色の大きな魔獣が突進して来た


すぐに剣を抜き、核を斬り裂いた


急いで前方を見ると既にカインは馬に跨っている


………いつの間に?


前方には爬虫類型の魔獣が2体息絶えている


それに、何故気配もなかった魔獣にカインは気づいたんだ?



「終わりましたね。行きましょう、夜になる迄に洞窟まで行かないと。」


何事も無かったような態度に、カインへの疑問が増えていく



「洞窟なんてあるのか?俺初めてなんだけど…」


「はい、この間偵察に来た時に見つけました。中もキレイにしておいたので大丈夫ですよ。」


ソウに笑いかけるカインからは悪意などは感じられない


敵ではないんだろうけど、得体のしれない人物なのは間違いない



それから洞窟に着くまで魔獣に会うことはなかった


しかし、通る道には抉り取られた土と魔獣の残骸が点々と落ちていた


ソウが「何これ………」と顔を青くさせるとカインが「前に来た時罠を仕掛けておいたんです。魔獣に反応して2度爆発する仕掛けです。」と言った


こんな所まで一人で来たって事か


でもここまで来るのには半日はかかる


往復すれば丸一日


だが、カインは毎日3食私達に食事を作ってくれていた

そんな時間は無かったはずだ


考えれるのは移転魔法……いや、無いな


アイツじゃあるまいし、たった一人で移転魔法を使えるなんて、それこそアイツと同等の魔力を保有していなければ不可能だ


「ーーーイド………レイド!」


「あ……すまない。どうした?」


私達は夕食を食べ終え、カインが準備していた洞窟の一番奥で休んでいた

地面には干草がたんまりと敷いてあり、その上に絨毯を敷き寝袋を敷いた


干草のお陰で柔らかく横になっても体が痛くない


「カインがもう寝てって。馬も休んだし、明日は川によって魚を調達して、街に馬を預けたら歩いてクウーラを迎えに行かなきゃ駄目らしいぞ。その後に砂漠に向かうって。砂漠は体力勝負らしいから早く休めって言ってたぞ。」



「そうか、じゃあ寝よう。」


二人で横になりロウソクの灯りを消す


暗闇になり、すぐにソウの寝息が聞こえてきた


本当に寝付きがいいな



ソウが眠って少し立ってから寝袋から抜け出す



入口の方へ向かうとそこは灯りが灯っていて、黒い豹が横たわっていた



しなやかなその体に魅入ってしまう


尻尾をパシン……パシンと地面に打ち付けてからこちらを振り返った


紫色の瞳に射貫かれる


「どうされましたか?ラウ様」


「…カインは黒豹なんだな。何故獣化している?」


「念の為ですよ。この方が聴力も身体能力も夜目も利きますからね。」


「……ちゃんと寝てるのか?」


「勿論です。安心してお休みください。」


「…カイン。お前はいったい何者だ?」


「僕は公爵家の次男坊、ただそれだけですよ。」


「………話す気はないか。今はそれでいいが、砂漠の向こうで待っている私の親友にはそれでは通じないよ。
隠せるなら隠した方がいい。
アイツはカインの事を知っても利用したりなんてしないけどな。」






綺麗な瞳を細め無言でジッと見てくるカインに「おやすみ」と言って洞窟の奥へと戻る


ソウは起きた気配がなく、また隣に寝転がった






「カイン!?すっげー!!格好いい!!」



ソウの大きな声で目が覚めた


どうやらカインの獣化を初めて見たようだ



起きて入口の方へ行くと、ソウが目をキラキラさせてカインにポーズを強請っている


「次は、こう……顔の毛づくろいしてるみたいな感じで!」


「……こう?」


カインもソウのお願いを聞いてポーズをとっている


「やばー!!大きい猫ちゃんじゃん!!マジ可愛い!!格好いいのに可愛いとか最強かよ!!」


興奮しているソウは言葉遣いがおかしくなっている


「この世界に猫という動物はいないが、気に入ってもらえて良かったよ。怖がられたらどうしようかと思った」


「怖がる!?こんなにも神々しいのに!?ありえない!!あー……モフりたい……肉球触りたい………」


「僕は構わないけど……ラウ様がヤキモチ妬くから、ラウ様に獣化してもらってモフらせてもらったら?僕より毛が長くて気持ちいいと思うよ。」


……モフるとは何だ??



「あ!おはよ、レイド!レイドはなんの獣人なんだ!?」


私に気づいたソウが走ってきてそのままガシッと抱きしめてきた


あぁ…可愛い 


「おはよう。私は狼だよ。」


「狼!!俺本物の狼見たことない!」


「ソウの世界も狼が居たのか?」


「居たけど俺の住んでる国にはほとんど居なかったんだ。だから映像でしか見たことない。」


映像…とは何だ?


「今日は雨が止みそうに無いのでここで雨宿りになります。せっかくですから、獣化してあげてください。
僕はクウーラに餌をやりに行ってきます。
朝ごはんと昼ごはんはこの鞄に入れておきましたので食べてください。
夕方には戻ります。」




カインはそう言って人化して出ていった


夕方って………


私達獣人は獣化すると本能の方が強くなる


獣化した時番が隣に居て触れ合えばそりゃ我慢も出来なくなるわけで………


カインは気を使ったんだろうな

それに昨日の事を掘り返されたくないんだろう



「こっちへおいで」


ソウをまた寝床へと連れて行き獣化した



モフるとは何なのかわかったが、何とも苦痛であり幸せであり複雑なものだった………


番に触れられる分にはメチャクチャ嬉しい

けどこんなに触れ合ってるのに私からは触れない………ワシャワシャ撫でられ、肉球を揉まれる、抱き締められて頬ずりされているのにも関わらず……


この姿で襲いかかってしまえば怖がらせてしまう


でも少しだけ…と、ペロッと頬を舐めてみる

ソウは嬉しそうに笑った

……怖がってない


じゃあもうちょっと良いかな………


ペロペロと鼻や口も舐めてみる


夢中で舐めていたら、気づくとソウを押し倒していた


「あ……すまない…………」


「ふふふッ…狼のレイドは可愛いな!昔飼ってた犬みたいだ!」


「…犬??」


「うん、レイドみたいに大きくないんだけど、似た動物を家族として迎え入れるんだ。他にもカインの小さい版の猫って言う動物とかね。
この世界では動物を飼ったりはしないの?」


「そうだな、移動に使う動物くらいだな。」


「へぇ…ならあまり愛でたりできないんだな」


ショボンとするソウも可愛くてまたペロペロと舐める


「ソウは私を愛でたらいい」


「レイドを?また獣化してくれんの?」


「ああ。いつでもしてやる。だから他の獣人に獣化を頼んで抱き着いたりしないでくれよ?」


「ハハハッ!ヤキモチ??大丈夫、他の人にはしないって約束するから!」



「約束だからね?さぁ、そろそろ獣人の姿の私ともいちゃついてもらえるかな?」


鼻をソウの首に擦りつけ匂いを嗅ぐと番のいい香りがする


ベロッと舐めると「うひゃっ!!」と面白い反応をした


そのまま獣化を解き獣人の姿になり、ソウの首にキスの雨を降らす
時には強く吸い付いたり舐めたりしながら服を脱がせていく





「待って待って!!カイン戻ってくる!」


必死で私の腕の中から逃げようとするソウの耳を犬歯でカプッと軽く噛み「夕方まで帰ってこないよ」と囁いた


「え??そうなの?」


「話し……聞いてなかった?彼なりに気を遣ってくれたってことだよ。だから…ね?
次は私の番だよ。」



「私の番って……」


「ソウはさっきいっぱい触ったから、次は私がソウを愛でる番。いっぱい気持ちよくなろうね?」



お手柔らかにー!との叫びは聞こえないふりをして、美味しく頂きました





しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

最推しの義兄を愛でるため、長生きします!

BL / 連載中 24h.ポイント:26,611pt お気に入り:12,911

運命の番を見つけることがわかっている婚約者に尽くした結果

恋愛 / 完結 24h.ポイント:13,342pt お気に入り:257

極道恋事情

BL / 連載中 24h.ポイント:2,182pt お気に入り:778

【完結】記憶を失くした貴方には、わたし達家族は要らないようです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,733pt お気に入り:3,800

7人目の皇子

BL / 完結 24h.ポイント:71pt お気に入り:96

処理中です...