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黎明の章
決意の旅立ち
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レオノーラが来てから、グレイシアの心は決まっていた。
(まずは彼の無事を、自分の目できちんと確かめる……)
全ては、それから………。
グレイシアは、院長室を訪れた。
「院長さま」
「シャノン……何かありましたか?」
「はい……人に、会ってきたいのです」
グレイシアは静かに出来るだけ淡々と言葉にした。
これまで人や運命に流されるばかりだったグレイシアは、はじめて自分の意思で……前向きに動こうとしている、その事に怖れ震えそうだから。
思えば……王都を飛び出したのも、後ろ向きだったとはいえ自分の意思だったとも言える。
「そうですか、貴女が決めた事に私の許可は要りませんよ、思うように行動していいのですよ。気をつけて行っておいでなさい」
「ありがとうございます、行ってきます」
「まだ冬です、充分備えをしてお出かけなさいね」
「はい」
そろそろ、新年は近く王都へと向かう貴族たちも増えてくるだろう。
村の貸し馬車に依頼して、シェリーズ城のある街 ウィンスティアを目指した。
上の空のままのグレイシアには、のどかな景色も目にただ映るだけで感情までたどり着かない。
ウィンスティアを目指して、馬車に揺られているとレナはうとうととして眠っている。途中途中で、休憩をとりながらだが大人のグレイシアでさえ疲労はたまる。
小さいレナなら尚更だろうと、起こさないように抱き上げる。
地図で見ればそれほど遠くは見えなくてもやはり遠いものだ。
ここよりも遠かったラングトンの領地のチェルノが、社交シーズンに王都に行かなかったのも頷ける。
レイシェンを出発して、女子供の慣れない旅に無理は禁物であるからアルセスターで一泊することにした。
そしてまた馬車に乗りイルストナムさらにウィンスティアに行くにはまた馬車を変えなくてはならない。
しかし、イルストナムへ着いた時グレイシアはレナの様子がおかしい事に気がついた。
「ああレナ……熱があるわ」
いつもよりもすこし熱く、青い瞳は潤んでいて無理はさせられない。
幸いイルストナムは、大きな街でありながら保養地としても発展しており、宿も食事をとれる所も豊富だった。
街の中心部にある、手頃なセントローゼというホテルにチェックインをして、慣れないベッドで休ませる事にグレイシアは胸が痛む。
まだようやっと3歳に手が届くくらいの幼いレナ。
全てのグレイシア選択が、レナに負担をかけていて泣きたくなるのをぐっと堪えた。
「大丈夫よ、レナ。お母様はずっとそばにいるわ」
こくん、とうなずくのを見ながら、寝付くまでゆっくりと金の柔らかい髪を撫でた。
ゆっくりと瞼が閉じてやがて寝息をたてだしたレナにほっと胸を撫で下ろして、ホテルの女性にすこしだけ部屋を離れることを告げて、グレイシアはパンを買いに出掛ける。
持ち帰るのにちょうど良さそうな焼きたてのパンを買いそして、馬車の行き交う大通りを歩いた。
――――――その時。
目の前に立派な薔薇の紋章入りの馬車が留まったかと思えば、中から降りてきたのは……。馬車に見合った身なりの紳士でその人は
「グレイシア」
「ジョルダン」
どちらがより、驚いたか………。
しばらく、信じられなくてその名を呼んだきり立ち尽くした。そのグレイシアに、石畳に靴音のリズムを刻んで歩みよる。
夕刻前の街のざわめきの中でも小さな声さえも届く、そんな距離。幻でも夢でもなく会いたくて、会ってはいけないとさえ思っていた人で……。
記憶にある青ざめた顔は、いつもの貴族らしい端整な彼に上書きされる。
血色の良いその肌と、その吐く白い息に安堵させられた。
「「良かった」」
グレイシアは、彼が無事で良かった。とそう言ったし、ジョルダンはきっと会えて良かったという意味に違いなく……。
「心配、していた」
先に言ったのはジョルダンで、
「心配してくれていたの?」
「もちろん……きっと、不自由をしてるんじゃないかと」
「私も………とても心配だったの。それで………あなたの無事を確かめたくて………」
ゆっくりと歩みよる。
「私は今から聖クリステル女子修道院に向かう所だった、会わせてもらうまで、粘るつもりでいた」
ジョルダンのひさしぶりに見るその笑みにグレイシアは目を伏せた。
「本当に………門前に座り込む事も、倒れるまでしてやる気でいた」
その言葉に、居留守を使ってしまったことを後悔する。もしも、ここで会えて居なければ、そうしていたかも知れなくて、無理をさせて本当に病気になってしまったとしたら。
そう考えると、ゾッとしてしまう。
「ごめんなさい………。私を探してくれてありがとう、ジョルダン」
それだけが言葉として出なかった。
「君こそ………、会いに来てくれようとした?」
ジョルダンの言葉に、伏せていた目を上げて見つめているその顔を見上げた。
「そう……シェリーズ城にいると聞いて」
「レナと?」
レナ、と言われて一人で部屋いるから早く帰らないとと、焦る気持ちで、早口で話し出した。
「そう……!レナが熱で、近くのホテルに泊まることにしたの」
その焦る気配にジョルダンは、顔を引き締め
「それは、大変だ。どこに泊まってる?」
「セントローゼよ」
「一緒に行こう」
待たせていた馬車の御者に一言二言告げて、グレイシアの手を取るとジョルダンは手に持っていた買い物した荷物を取りやって、セントローゼの方へと歩き出した。
どこか、ぎこちなさの残るグレイシアだが、それはジョルダンもまた同じだった。
ホテルのその部屋に戻ると、レナは眠ったままだった。
「医者には?」
「まだ、見せてないわ」
ベッドに寄って、ジョルダンはレナの額に触れる。
「呼ぶように、伝えよう」
ジョルダンは、ベルでホテル従業員を呼ぶ。
まもなくやって来た客室係に、医者を依頼している声が聞こえてくる。やはり、こういう時てきぱきとしてくれるのをみれば、なんて自分はふがいないのかという気持ちにさせられてしまう。
(まずは彼の無事を、自分の目できちんと確かめる……)
全ては、それから………。
グレイシアは、院長室を訪れた。
「院長さま」
「シャノン……何かありましたか?」
「はい……人に、会ってきたいのです」
グレイシアは静かに出来るだけ淡々と言葉にした。
これまで人や運命に流されるばかりだったグレイシアは、はじめて自分の意思で……前向きに動こうとしている、その事に怖れ震えそうだから。
思えば……王都を飛び出したのも、後ろ向きだったとはいえ自分の意思だったとも言える。
「そうですか、貴女が決めた事に私の許可は要りませんよ、思うように行動していいのですよ。気をつけて行っておいでなさい」
「ありがとうございます、行ってきます」
「まだ冬です、充分備えをしてお出かけなさいね」
「はい」
そろそろ、新年は近く王都へと向かう貴族たちも増えてくるだろう。
村の貸し馬車に依頼して、シェリーズ城のある街 ウィンスティアを目指した。
上の空のままのグレイシアには、のどかな景色も目にただ映るだけで感情までたどり着かない。
ウィンスティアを目指して、馬車に揺られているとレナはうとうととして眠っている。途中途中で、休憩をとりながらだが大人のグレイシアでさえ疲労はたまる。
小さいレナなら尚更だろうと、起こさないように抱き上げる。
地図で見ればそれほど遠くは見えなくてもやはり遠いものだ。
ここよりも遠かったラングトンの領地のチェルノが、社交シーズンに王都に行かなかったのも頷ける。
レイシェンを出発して、女子供の慣れない旅に無理は禁物であるからアルセスターで一泊することにした。
そしてまた馬車に乗りイルストナムさらにウィンスティアに行くにはまた馬車を変えなくてはならない。
しかし、イルストナムへ着いた時グレイシアはレナの様子がおかしい事に気がついた。
「ああレナ……熱があるわ」
いつもよりもすこし熱く、青い瞳は潤んでいて無理はさせられない。
幸いイルストナムは、大きな街でありながら保養地としても発展しており、宿も食事をとれる所も豊富だった。
街の中心部にある、手頃なセントローゼというホテルにチェックインをして、慣れないベッドで休ませる事にグレイシアは胸が痛む。
まだようやっと3歳に手が届くくらいの幼いレナ。
全てのグレイシア選択が、レナに負担をかけていて泣きたくなるのをぐっと堪えた。
「大丈夫よ、レナ。お母様はずっとそばにいるわ」
こくん、とうなずくのを見ながら、寝付くまでゆっくりと金の柔らかい髪を撫でた。
ゆっくりと瞼が閉じてやがて寝息をたてだしたレナにほっと胸を撫で下ろして、ホテルの女性にすこしだけ部屋を離れることを告げて、グレイシアはパンを買いに出掛ける。
持ち帰るのにちょうど良さそうな焼きたてのパンを買いそして、馬車の行き交う大通りを歩いた。
――――――その時。
目の前に立派な薔薇の紋章入りの馬車が留まったかと思えば、中から降りてきたのは……。馬車に見合った身なりの紳士でその人は
「グレイシア」
「ジョルダン」
どちらがより、驚いたか………。
しばらく、信じられなくてその名を呼んだきり立ち尽くした。そのグレイシアに、石畳に靴音のリズムを刻んで歩みよる。
夕刻前の街のざわめきの中でも小さな声さえも届く、そんな距離。幻でも夢でもなく会いたくて、会ってはいけないとさえ思っていた人で……。
記憶にある青ざめた顔は、いつもの貴族らしい端整な彼に上書きされる。
血色の良いその肌と、その吐く白い息に安堵させられた。
「「良かった」」
グレイシアは、彼が無事で良かった。とそう言ったし、ジョルダンはきっと会えて良かったという意味に違いなく……。
「心配、していた」
先に言ったのはジョルダンで、
「心配してくれていたの?」
「もちろん……きっと、不自由をしてるんじゃないかと」
「私も………とても心配だったの。それで………あなたの無事を確かめたくて………」
ゆっくりと歩みよる。
「私は今から聖クリステル女子修道院に向かう所だった、会わせてもらうまで、粘るつもりでいた」
ジョルダンのひさしぶりに見るその笑みにグレイシアは目を伏せた。
「本当に………門前に座り込む事も、倒れるまでしてやる気でいた」
その言葉に、居留守を使ってしまったことを後悔する。もしも、ここで会えて居なければ、そうしていたかも知れなくて、無理をさせて本当に病気になってしまったとしたら。
そう考えると、ゾッとしてしまう。
「ごめんなさい………。私を探してくれてありがとう、ジョルダン」
それだけが言葉として出なかった。
「君こそ………、会いに来てくれようとした?」
ジョルダンの言葉に、伏せていた目を上げて見つめているその顔を見上げた。
「そう……シェリーズ城にいると聞いて」
「レナと?」
レナ、と言われて一人で部屋いるから早く帰らないとと、焦る気持ちで、早口で話し出した。
「そう……!レナが熱で、近くのホテルに泊まることにしたの」
その焦る気配にジョルダンは、顔を引き締め
「それは、大変だ。どこに泊まってる?」
「セントローゼよ」
「一緒に行こう」
待たせていた馬車の御者に一言二言告げて、グレイシアの手を取るとジョルダンは手に持っていた買い物した荷物を取りやって、セントローゼの方へと歩き出した。
どこか、ぎこちなさの残るグレイシアだが、それはジョルダンもまた同じだった。
ホテルのその部屋に戻ると、レナは眠ったままだった。
「医者には?」
「まだ、見せてないわ」
ベッドに寄って、ジョルダンはレナの額に触れる。
「呼ぶように、伝えよう」
ジョルダンは、ベルでホテル従業員を呼ぶ。
まもなくやって来た客室係に、医者を依頼している声が聞こえてくる。やはり、こういう時てきぱきとしてくれるのをみれば、なんて自分はふがいないのかという気持ちにさせられてしまう。
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