剣神と魔神の息子

黒蓮

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第五章 能力別対抗試合

予選 4

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 1次予選の初日が終わり、2日目の昼過ぎ、魔術演習場の一角にはカリンが緊張した表情で立っていた。



「カリン!頑張れよ~!!」


「落ち着いて、リラックスやで~!」


「深呼吸して、集中だよ~!」



アッシュの声援を皮切りに、ジーアと僕も声援を飛ばす。その声に気づいたカリンは、ぎこちないながらも笑顔を向けてきた。


少しして彼女の予選が始まり、地面からランダムに出現してくる的を弾丸のような水魔術で破壊を試みるが、遠方に出現した的への初弾は僅かに外れてしまった。彼女は即座に次弾を放つと、今度は命中するが的の破壊には至らなかった。



(魔力の制御がまだ甘いか・・・必要な攻撃力に至れていない。もっと一撃の魔術に魔力を込めれればだけど、まだそこまで出来ていないからな・・・)



アッシュ同様に、彼女の現在の実力を分析する。第二楷悌であるカリンでは、一度の魔術行使に込められる魔力量は微々たるものだ。その為、込められる魔力量の限界を越える手段として、まずは魔力の精密操作の鍛練を行っているのだが、残念ながらまだ十分な成果には達していない。


それでも2発3発と命中させていくと、次第に崩れていき、4発目でようやく最初の的を完全に破壊することが叶った。ただ、1つの的を破壊できた時間から逆算すると、残り9つを破壊することは難しいと言わざるを得なかった。


それに構わずアッシュやジーアは応援を続けているので、僕も最後まで彼女を応援しようと一緒になって声をあげた。



 5分後、6つ目の的を破壊したところで彼女の持ち時間は終了となってしまった。ただ、僕らの元に戻ってきたカリンは、悔しいというよりもどこか晴れ晴れとした表情をしていた。



「半分以上も壊せたんだし、上出来ね!正直、今までの私だったら的に当てる自信もなかったし、それを考えれば成長したものよ!」



いつもより少しだけ口数の多いカリンは、胸を張りながら自分の成長を誇っていた。



「そうだね、最初の頃よりも格段に成長しているよ!」


「せやせや!10m先の的にも当たらへんかったあの頃と比べれば、雲泥の差やで?」



僕とジーアがカリンの成長と健闘を称えると、彼女は明るい笑顔で笑っていた。そんなカリンにアッシュが歩み寄り、優しい笑顔を向けながら「ポンッ」と彼女の頭に手を置いた。



「お疲れ、カリン。頑張ったな!」


「・・・うん。ありがとう!」



アッシュの言葉にカリンは照れ臭そうに顔をうつむけると、次の瞬間には弾けるような笑顔でお礼を伝えていた。そんな2人の雰囲気に、こちらまで顔が綻んだ。




 それから2時間後には、ジーアの予選が始まった。彼女は堂々とした立ち居振舞いで、腰に手を当てながら演習場に立っていた。彼女の同い年とは思えないような外見は、多くの者の視線を惹き付けているようで、この時ばかりは普段ノアを蔑む視線を送る人達も、彼女に注目しているようだった。



「主に男から、だけどね・・・」



ジーアを応援しながら周りを見ると、彼女を見るために集まったのか、多くの男達が魔術演習場に集まってきているようだった。その現状に、カリンがため息を吐きながら軽蔑したような眼差しを彼らに向けて呟いていた。



「まぁ、ジーアは大人っぽいし、魅力的だからね」



僕はいつの間にか周りからの人気を獲得していたジーアに若干驚きながらも、集まってきた多くの男達の考えを推測した。



「エイダ・・・全然違うわよ!!あいつらの目的はジーアの胸よ!ム・ネ!!」


「えっと・・・む、胸?」



忌避感と苛立ちが混ざった表情を見せながら、力強く断言するカリンに困惑して聞き返した。



「そうよ!大抵の男どもなんて、女の子の胸から見てくるのよ!挨拶する時だって、まず胸を見てから顔を見るのよ?分かる?この気持ち悪さ!?思い出すだけでも鳥肌が立わ!!」



何か嫌な事があったのか、カリンは青い顔をしながら自分の身体を抱き締めるようにして吐き捨てていた。そんな彼女の勢いに引きつつ、アッシュに助けを求めるように視線を向けるのだが、「その話題に俺を巻き込むな!」という表情と共にそっぽを向かれてしまった。どうやらこの話題は、彼女の地雷だったようだ。


確かに、カリンもジーアも同い年の女の子より胸が成長している。ジーアに至っては存在感が強過ぎると言っても過言ではないだろう。だからといって、女性のその部分だけに注目するのもどうかと思うが、今この状況で自分の考えを挟むのは薮蛇になりそうだとアッシュの様子から推察して、苦笑いを浮かべて沈黙を貫いたのだった。



 予選が始まると、ジーアは魔術杖を構えて出現した的に向けて風魔術を放った。制御はまだ甘いが、初弾から的には命中していた。しかし、少し亀裂が走っただけで、破壊するまでには至らなかった。



(やっぱりまだ難しいか・・・来年くらいには一撃で破壊できるだけの魔力制御が身に付くと思うんだけど・・・まぁ、焦らずに基礎をしっかり磨いた方が良いだろうな)



そんな感想を抱いていると、周りからは声を押し殺したような感嘆の声が響き渡ってきた。



「おぉ!スゲー!」


「ヤベェよ、あんなにダイナミックに弾むものなのかよ!」


「眼福だ・・・見に来て良かった・・・」



周りから聞こえてくる声に、カリンは舌打ちをしながら不機嫌に顔をしか顰めていた。その様子に僕とアッシュは、彼女の怒りに触れないように戦々恐々としながら、真面目にジーアへ声援を送っていた。



 最終的にジーアは、7つの的を破壊したところで時間切れとなった。その結果に満足げな表情で戻ってきたジーアは、額にじんわりと浮かんだ汗をハンカチで拭いながら笑顔で口を開いた。



「まぁ、こんなもんやね!自分で思ったよりも精度が上がってて驚いたくらいや!これも鍛練の成果やね。ありがとうな、エイダはん!」


「どういたしまして!ジーアなら来年にはもっと精密な魔力制御も出来るだろうし、これからも頑張ろう!」


「せやね!皆も応援ありがとうな!」



ジーアはアッシュとカリンにも笑顔を向けながら感謝を伝えた。



「あと少しで惜しかったけど、上出来じゃないか?」


「そうそう!あの男どもの視線の中、よく集中できてたわね?」


「ふふふ、あんな視線くらい、ウチにとっては日常茶飯事や。そんなにウチにご執心してくれるんなら、ありがたい事やで」



そう言うと、ジーアは意味ありげに周囲に集まっていた男達に向かって視線を流した。その妖艶な雰囲気に、集まっていた男達は頬を赤らめながら満足げな表情をしていた。



「ふふふ、これでまた色々な情報が収集しやすくなったわ」



彼女が自分の行動の意味を教えてくれると、カリンは大きく息を吐きながら感心していた。



「まったく・・・変な恨みを買わないように気を付けた方がいいわよ?」


「おおきに、カリンはん。大丈夫や!何かあればエイダはんが助けてくれるやろ?」



彼女の口から急に自分の名前が出てきたことに、驚きながら聞き返した。



「あっ、えっ?僕?」


「せや!エイダはんには、色々と力になっとるやろ?」



そう言われて思い返すと、心当たりはいくつもある。あの商人の契約書の事やアーメイ先輩のお父さんと話す前に受けた忠告、恋愛講座は置いとくにしても、確かに彼女にはよく世話になっている。



「分かった!分かった!何かあれば僕が力になるから、遠慮無く言ってよ!」


「ありがとうな、エイダはん!」



ジーアから向けられた花のような笑顔が、どうしても僕は素直に受けとれず、何か裏があるかもしれないと身が引き締まる思いを抱いてしまった。



 翌日ーーー


 いよいよ、僕の1次予選の日が来た。特に何か緊張するでもなく、いつものように早朝から複合クラスの演習場で鍛練をしていた時に、アーメイ先輩から声を掛けられた。


うつむきがちに「お守りだ」と言ってハンカチを手渡してくると、先輩は顔を真っ赤にしてその場を去ってしまった。先輩の後ろ姿を見送りながら、耳に残る先輩の可愛らしい声と、渡された純白のハンカチの手触りの良さを感じていると、なんだか身体に力がみなぎ漲ってくるようだった。



(今日は身体が軽いな!今ならドラゴンの2、3匹は叩きのめそうな気がする!)



気のせいかもしれないが、調子が良いのは間違いない。ドラゴンとの一戦で気絶して目が覚めてから、なんとなく身体の好調は感じていたが、それが今日は一際大きいといった感覚だ。



「エイダ!今日は頑張れよ!!」


「応援してるから、皆の度肝を抜いちゃってよね!」


「ここで活躍すれば、将来安泰やで!」



時間になり、演習場に向かう前、アッシュ達から励ましの言葉をもらった。その表情はまるで僕の活躍を確信しているようで、1次予選で落ちる心配など微塵もしていないようだった。



「ありがとう!ちゃちゃっと1次は通過してくるよ!」



応援してくれる皆に笑顔を向けて、僕は颯爽と割り当てられている演習場へと向かった。



 僕の予選に割り当てられた演習場の区画へ行くと、担当の先生が冷たい視線を向けてきた。



「あぁ、次の生徒はあなたでしたか、まぁ精々頑張りなさい」



どこかで見た顔だったと思えば、1年魔術コースのジェシカ・キャロライン先生だった。ジーアやカリンに対してもそうだったが、ノアに対しては蔑みを隠そうともしない人で、正直あまり良い印象はなかった。



「はぁ・・・よろしくお願いします」



先生と言えどあまり好きではない性格の人なので、生返事を返しながら挨拶をした。



「ふん!目上に対する態度がなってないわね!これだからノアは・・・さっさとそこにある木剣を持って付いてきなさい!」



先生はあくまでも見下すような口調で僕に行動を促してくる。そうだとしても、ここで反発するだけ無駄だと諦め剣を選ぼうとするが、そこにはたった1本のボロボロの木剣が置いてあるだけだった。



「・・・先生?ここには壊れそうな木剣が1つしかないのですが?」


「あらそう?でも、ちょうど良いんじゃない?どうせあなたなんて予選敗退なんだから、壊れかけでも木剣を準備してもらったことに感謝すべきでしょ?」



何故先生がこれほど僕に対して敵意を剥き出しにしているのか理解できないが、そっちがその気ならこっちも相応の態度をするまでだ。



「そうですか。まぁ、予選の内容を見た限り、この木剣で十分ですけどね」



ボロボロの木剣を手に取ると、感覚を確かめるために一、二度振ってからそう言い放った。



「はぁ?ノアの分際が、ちょっとまぐれで活躍したからっていい気にならない事ね!」



そんな僕の様子を苛立たしげに睨んでくる先生に、僕は不敵に笑い返した。



「さ、時間も迫っていることですし、さっさと予選を始めましょうか!先生?」



挑発的な僕の態度に先生は、顔を真っ赤にしながら怒りの形相で睨み付けてくるのだった。
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