剣神と魔神の息子

黒蓮

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第五章 能力別対抗試合

決勝 9

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 舞台上には王女の暗殺を目論む襲撃者からの遠距離攻撃が、舞台下近くでは前衛の剣術師による接近攻撃が、さらに演習場周辺では貴族達を狙った無差別な攻撃が繰り広げられている。


現状では王女の側に近衛騎士2名と僕が、接近してきている剣術師達に対しても近衛騎士2名とアーメイ先輩が、周辺の貴族達の護衛は15名程の近衛騎士が動いている。当然守られる貴族も全く戦闘能力が皆無と言うわけではないので、可能な人はそれぞれに応戦している状況だ。


しかし、無差別な攻撃に対して、1000人を僅か数十名の騎士が守るという状況に無理が出始め、主に貴族を守っている護衛のような人達から、犠牲者が少しづつ出始めてしまっている。



(厄介なのはあの魔道具だな・・・)



戦場を俯瞰するように観察して気づいたのは、認識阻害と認識集中の魔道具が攻勢に出れない最大の障害ということだった。


認識しづらい敵を視認しようとして集中し、ようやく視界に捉えると、それを見計らったようにあの白ローブ男が視線を引き付けるように魔道具の効力を発動させる。そのせいで視界に収めた敵から意識が外れてしまい、防御に致命的な遅れをきたしてしまっている。


さすがに目の前まで迫られれば気づくのだが、どうしても反応が遅れてしまい防戦一方になってあるようだ。それはこの戦場の至るところで見られており、応戦している者達に劣勢を強いている。



(くっ!かなり連携された動きだな・・・このままだと、いずれ戦線が崩壊してしまう!王女達はどうするつもりなんだ?)



何か作戦があると思って手出しを控えていたが、さすがにこれ以上静観していては致命的な状況に陥り、引いてはアーメイ先輩にも危険が及ぶと考え、積極的に動き出そうか迷い始めた。


そこで、エリスさんに相談しようと声を掛けようとした時、演習場から野太い男らの声が上がった。



「くそっ!このままでは子爵である私の身も危ないではないか!」


「ベンゼル殿。だからと言ってこの状況ではどうしようも・・・」


「いや、方法はあるではないか!」


「し、しかし、それは・・・」



 自らの身の安全を優先してか、その男達は嫌な視線を王女に向けていた。まさかこの状況で敵に寝返って、王女暗殺に荷担しようなどという考え無しがいると思いたくはないが、周りからは嫌な雰囲気が漂ってきた。


よく見ればあちらこちらから、少なからず不敵な視線が王女に向けられ始めてきていた。おそらくこの状況こそが相手の思惑通りなのだろう。


不穏な雰囲気を漂わせている者達の数はそれほど多いわけではないが、無視するには危険な状況だと直感した。



「エリスさん?あまりよくない状況ですよ?このままじり貧になると、敵に寝返る人達も出てきます!」



僕は現在の状況を打開すべきだと暗に告げ、彼女の反応を窺った。



「そうだな。おそらくあちら側に着く者達も、それなりに出てくるだろう」



エリスさんは、想定通りと言わんばかりの様子でそう答えた。その言葉に、王女の目的はこの状況を利用して、王族にとって忠誠心の低い者達を見極めているのではないかと考えた。そう思い至って辺りを見れば、騎士達は来賓の貴族よりも学院の生徒達を重点的に守っている様子が見えてきた。


生徒達は演習場の一角に集められ、先生と数名の生徒達に騎士が加わり、密集するように防御陣形をとっている。また、別の一角では対抗試合を観戦に来た貴族の当主やその関係者が、自前の護衛の様な人達と、数人の騎士に守られていた。


どうやら未だこの状況は双方にとって様子見のようで、様々な者達の思惑が渦を巻くようにして今の状況が作り上げられているような気がした。



(あ~!も~!父さん母さんの言う通り、貴族って言うのは面倒くさい!)



頭をかきむしって絶叫を上げたい衝動に駆られるが、ぐっと我慢してこれからの事態の行方を自分なりに考える。



(敵の目的はおそらく、王女暗殺が最大の目的だろう。次点で仲間を集めて戦力の増強。最悪はある程度王女の持つ戦力を削げれば、それで良しと考えているかもしれないな)



【救済の光】なる組織の目的をそう推察し、次いで王女側の目的も考える。



(こっちの最大の目的は、不穏分子の炙り出しか?次点で敵組織員の捕縛もしくは排除。最悪はこちらも相手の戦力が削げれば良いといったところか・・・)



そう考えると、演習場にいる貴族達が寝返れば、王女も次の行動へと移るはずだ。なら、僕も動くのはそれ以降の方が良いということになる。


そこまで考えたとき、僕は1つ見落としていたことに気付いた。



(あっ!!そう言えばアッシュのお兄さんはどこに行った!?)



【救済の光】なる組織が乱入してからすっかりその存在を忘れていたが、気がつくとお兄さんはどこにも居なかった。



(生徒達に紛れて避難した?だったら皆が集まっている一角に居るか?あそこなら騎士の人もいるし、逃げようと行動すれば捕縛に動くはず。いや、でも、もしかして・・・)



この混迷した状況で、騎士に捕縛されようとしたお兄さんが取るだろう最も可能性のある動きは、あの【救済の光】とかいう組織に加わろうとするのではないかという事だった。そうなれば最悪、またあの人にちょっかいを掛けられる可能性が高い。



(僕に対してだけなら問題ないけど、もしアーメイ先輩にもちょっかいを出すつもりなら、その時は容赦しない!)



彼についての確実なことは何も分からないが、最悪を想定するなら、この場でなんとしても身柄を確保しておきたい。なにせ、逃げられた場合は常に警戒しなければならないからだ。



 しかし、そんな僕の思考も途中で中断される。均衡を続けていた戦場で、数人の者達が両手を挙げて敵の方に投降していったからだ。それを見た他の貴族達も数瞬の間思案した後、手に持っていた武器を捨てて白ローブの男がいた観客席の方に走っていった。



(まさかっ!この状況で本当に敵に寝返る人がいるなんて・・・)



投降していく者達を見ながら、僕は驚愕に目を見開いた。さすがに王族の目の前で裏切るなんてあり得ないと思っていたのだが、現実は違っていたようだ。



(これで状況が一気に動きそうだ。あっちもこっちも、どう動くつもりだ?)



襲撃者の方へ寝返っていったのは、目測にして100人以上だった。人数的にはこちらの方が多いが、戦力という面では不安がある。


こちらの半数は学院の生徒で、残る貴族達も十分な実力者達とは言えないだろう。となると、こちらの戦力的には、近衛騎士約20名と、貴族が雇っている護衛が数十名ということになる。



(攻撃の規模と把握している気配から考えると、襲撃者の総数は50人程度。寝返った人達が全員剣を向けてきた場合、向こうが有利か・・・)



戦力差を分析すると、こちらの勝利はやや怪しくなるが、僕が自由に動いても良ければ話しは変わってくる。とはいえ、盤上をひっくり返すにしても、次の動き次第と考え、今からの事態の推移を見据える。




『ははは!賢い者達の選択によって、我らが同志はその数を増した!さぁ!我らの目の前に残るは、この世界を腐敗させた愚か者の群衆だ!奴らを浄化し、平和と安寧の世界を我らが手中に収めるのだ!』


『『『おおーーー!!!』』』




 白ローブの男が口上を述べると、それに呼応するかのように叫び声が上がった。それを合図とするかのように、今まで以上の規模の魔術が放たれようとしていた。



「皆さん!わたくし達はこの国を害しようとする彼らを見過ごすことはできません!近衛騎士が先頭に立ちますが、どうか皆様もお力をお貸しください!」



相手の様子に対抗するかのように、王女が残った皆を見渡しながら大きな声を上げた。胸の前で手を組み、まるで祈るような仕草でお願いをする王女の様子に、一人の男性が声を上げた。



「クリスティナ殿下!我々が殿下の力になるのは当然の事でございます!私が連れてきた護衛達も、民を守るに命を惜しみません!微力ながらロイド家当主の私めも、ご助力いたします!!」



この状況で最初に声を上げたのは、アッシュのお父さんだった。軍務大臣である彼ならば何もおかしいことでは無いと思うが、先程までのアッシュのお兄さんの騒動といい、目の前で繰り広げられる貴族の思惑といい、どうしてもこの言動には裏がありそうだと疑いの眼差しを向けてしまう。


ただ、そんな僕の考えとは裏腹に、ロイド侯爵の言葉を聞いた他の貴族達も、先をこぞって王女に協力することを表明した。



「殿下!もちろん伯爵である我がビクトリス家も協力は惜しみませんぞ!」


「子爵であるコルレイ家とて、それは同じです!喜んで協力いたしましょう!」


「当然、我がゾーン家も力をお貸ししましょう!この難局を共に乗りきろうではございませんか!」



そんな貴族達の様子に王女は口許を緩め、目に涙を浮かべながら感謝の言葉を述べた。



「皆さま・・・本当にありがとうございます!では、戦闘に参加される方は近衛騎士の指揮下にお入りください!また、学生の方は出来るだけ騎士達の後方に下がっていただけますか?」



王女の指示の元、臨時の部隊が手早く編成される。学院の生徒達は指示通り後方へと下がり、基本的に戦闘には参加しないようにとの事だ。とはいえ、ただ見ているだけというわけではなく、万が一にも近衛騎士達の防御を突破してくる場合に備えて、腕に覚えのある生徒が皆を囲むように配置される。


そして、そこには今回の対抗試合の決勝戦まで残った者達が中心となった。当然そこにはアーメイ先輩も配置されることになる。先輩にそれなりの実力があるといっても、それはあくまで学生の中での話だ。人と人との殺し合いになるかもしれない状況下では、王女とて、学生である先輩に積極的に戦って欲しいと言うことは出来なかったようだ。


その指示に先輩は不満そうな顔をしていたが、さすがに王女からの指示だったので、素直に後方へと下がっていった。



 そんな先輩に声を掛ける暇もなく、僕はエリスさんから話があると呼ばれた。



「エイダ殿!学生の身である貴殿にこのようなお願いをするのは、騎士として不甲斐ないばかりだが、どうか我々と一緒に戦ってはくれないだろうか?」



深々と頭を下げてくるエリスさんに、僕は慌てて頭を上げさせた。



「顔を上げてください!そもそも僕は手伝うと言ってましたし、先程も迎撃には協力してましたから、今さらお願いしなくても大丈夫ですよ?」


「先程は緊急事態と言うことだったが、今はまた少し事情が違うのだ。きちんと道理を通さねば、後々面倒なことにもなるのだよ・・・」



苦々しい表情でそう話すエリスさんの言葉に、おそらくは国の法律か制度的な事が関係しているのだろうと考えた。



「事情は分かりましたから、大丈夫です。ただ、僕は大きな部隊の一員として連携して動くことには馴れていないのですが、どうすればいいですか?」



見たところ、こちらの戦力は100人弱といったところだが、これだけの人数での連携の経験がないので、不安を吐露した。



「大丈夫だ。実は、貴殿には遊撃をお願いしたいのだ!」


「遊撃ですか?それって・・・」


「簡単に言えば、自由に動いて敵を撹乱して欲しいと言うことだ。先程の王女を守った手腕といい、貴殿の視野の広さと索敵能力は群を抜いていると考えている。そこで、その視野と索敵を活かして、味方に誤射しないように気を付けつつ動いてもらいたい!出来るか?」



そう問われ少し考えるも、問題ないと首肯する。



「大丈夫です!敵は捕縛した方が良いですか?」


「無理に生かす必要はない!自分や味方の命の為なら、決して躊躇うなよ?」


「分かりました!」



そこまで話を詰めると、襲撃者達の方も動き出したようだ。あちらは寝返った者達のほとんどが、新たに武器を渡されて部隊を編成し、今にも動き出そうとしていた。その様子を確認して、僕はある提案をエリスさんにすることを思い付いた。



「すみませんエリスさん、ちょっといいですか?」


「ん?どうした、エイダ殿?」


「実はーーー」



単なる思い付きではあったが、この騒動を早く終息させたかった僕の申し出の内容に、エリスさんは驚愕の声を上げた。



「はぁぁぁぁ!!?」
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