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第六章 王女の依頼
遺跡調査 7
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「シッ!」
「・・っ!?ぐ、ぐあぁぁぁぁぁ!」
接近してきていた2人の男に狙いを定めると、彼らが突き込んでくる初動を見極め、躱せないタイミングで一気に詰め寄ると、彼らの攻撃の瞬間にしゃがむように身体を沈ずませ、まずは左の男の左膝を破壊するように剣を振り抜いた。
剣には闘氣を纏わせていなかったので、膝から下が切断されることはないが、男の左足は本来曲がらない方向でくの字に折れ曲がった。男は攻撃を受けた瞬間、何が起こったのか理解できなかったのだろう、叫び声を上げるまでに間があった。
「は?お、おまーーー」
右側の男は、急に仲間が叫び声を上げたことに驚いたようで、意識が散漫になっている。その隙を見逃すはずもなく、低いままの姿勢で振り抜いた向きとは逆に身体を回転させながら、男の言葉を遮るように、もう一人の男の右膝も破壊する。
「シッ!」
「っ!ぎゃぁぁぁぁ!!」
同時に襲いかかってきた2人は、激痛のためか脂汗を流しながら膝を押さえて、地面を転げ回って悲鳴をあげていた。
「・・・な、なんだ?お、お前いったい何者だよ?」
「ありえねぇ!あの2人が、あんなガキに一撃で・・・」
「あのガキ、闘氣が変だ!安定しすぎだろ?」
転げ回る男達の真ん中に悠然と佇む僕を、恐怖に染まった表情をしながら盗賊達が次々と畏怖の声をあげていた。その声に彼らを見回すと、突然の出来事に理解できていない顔の者や、驚きに目を見開く者など、反応は様々だった。
「何者ねぇ・・・ただの学生だよ!」
「ふざけんな!そんなわけあるか!クソッ!」
「あの落ち着きよう・・・こいつ、名の知れた騎士か!?」
「いや、冒険職の奴かもしれんぞ!!」
僕の言葉に悪態をつきながら、彼らは見当違いなことを言い出してきた。そんな彼らとは別に、後方にいる盗賊達は別の可能性を話していた。
「お、おい、もしかしてこれは俺達【紅の慈愛】を捕縛する為の罠だったんじゃないか?」
「ああ、ワザと目立つような馬車と少ない人数に意識を向けさせて、襲いかかろうとするところを、用意しておいた手練れで返り討ちにするって腹か!?」
「だとすると、こいつだけじゃねぇ!俺達は囲まれてるかもしれんぞ!?」
「そ、そんな、まさか!」
先程までの威勢はどこかへ消え、彼らは周囲を警戒するようにキョロキョロ視線を彷徨わせ、居もしない存在に怯えているようだ。
「何でも良いけど、盗賊を野放しにすると他の被害者が出ちゃうから、君達は全員叩きのめさせてもらうよ?」
「ふ、ふざけるな!俺達がそう簡単に殺られるかよ!!」
「そ、そうだ!別の仲間が来る前に、こいつをブチ殺して、一旦態勢を立て直すために拠点に戻るぞ!」
「よし!いくら強かろうが、こいつは一人だ!全員でやりゃ問題ねぇ!殺るぞ、お前ら!!」
「「「おぉーーー!!!」」」
よく分からない内に彼らは方針を決め、それぞれの武器を掲げながら戦意を向上させるように声を上げていた。その声に反応したのか分からないが、周囲に広がっていた盗賊達の気配は、僕がいる場所へ集中してきていた。
(手間が省けてありがたい!)
そう考えながら、僕も動き出す。
「誰一人として逃がさない・・・よっ!!」
宣言すると同時、まずは後方支援の魔術師達を一掃するため、手前に群がる剣術師達を無視して彼らの後方へ一直線に突き進む。
「「「うわぁぁ!!!」」」
僕の急激な移動に伴なって発生した突風が、近場にいた盗賊の剣術師達のバランスを崩して仰け反らせていた。
「シッ!フッ!ハァッ!」
そうして、一呼吸の内に魔術師達がたむろしている内側に入り込むと、何が起こっているのかまるで理解出来ずに呆然と立ち尽くしている魔術師達を、魔術を発動させる隙を与えることなく次々と戦闘不能に陥らせる。
「ぎゃ、ごふっ!」
「ごっ!がぁぁ・・・」
「ぎゅぷ・・・」
足・腕・喉・魔術杖を破壊して、完全に戦闘能力を奪う。彼らは痛みに声を上げるも、次の瞬間には喉を潰され、奇声をあげて倒れ伏す。僕は、己の身体の一部のように変幻自在に操る剣に闘氣を纏わせないように気を付けつつ、全員殺さずに無力化していく。
そして、わずか数秒で地面には痛みに喘ぐ十数人の魔術師達が転がっていた。
彼らには認識できなかったのか、想像の埒外の出来事だったのか分からないが、魔術師達が無力化されているというのに、誰も動くことができずに固まっていた。対峙して何となく分かっていたが、彼らは精々が第三段階の剣術師と魔術師で、ギルドの武力ランクで言えばC相当だろうと考えた。
ギルドが認める武力としては一人前の力はあれど、徒党を組んで悪事を働いている者達だ。その動きはまるで研鑽されておらず、魔力の扱いや闘氣の扱いはもちろんのこと、僕に返り討ちにあった際の対応を見ても、まだ学生であるアーメイ先輩にも劣るだろう。
「ば、化け物め!!」
「お、俺達にこんなことしやがって、ボスが黙ってねぇぞ!」
「そうだ!ボスは元Aランクの本当の強者だぞ!お、お前みたいなガキなんて片手で捻り潰すぞ!?」
魔術師達が全滅した状況にようやく認識が追い付いたようで、彼らは口から唾を飛ばす勢いで語気を荒げていた。その内容は僕の実力に畏怖を抱くものだったり、虎の威を借りる小物の戯れ言だったり様々だ。
「何をそんなに慌てているんだ?自分達がやろうとしていた事をやり返されただけでしょ?まぁ、僕は殺してないから、おじさん達よりも優しいと言えるかな?」
僕は彼らを逃がさない為、相手の神経を逆撫でするように、ことさら侮蔑の籠った表情で見下しながらそう指摘した。
「うるせぇ!!ガキが、良い気になってんじゃねぇ!」
「大体、テメェには関係ねぇだろ!」
「そうだ!ガキはさっさと帰って、ママのおっぱいでも吸ってろ!!」
僕に煽られたからか、おじさん達は威勢よく罵ってくる。しかしその反面、誰も僕に向かってこようとはしていなかった。剣を構えている手も微妙に震えており、僕と戦うのを身体が拒絶しているのは明らかだった。
「関係ないわけないだろ?盗賊のおじさん達の目的が、この先にいる大きな馬車に乗った4人なのだとしたら、僕はその内の一人なんだからね?」
「なっ!?お、俺達の動きに気づいたってのか?」
「ば、バカな!慎重を期してこんな夜更けの時間に、気配を殺しながら移動してきたんだぞ!?気づけるわけが・・・」
僕の言葉に反応する盗賊達の返答に、思わず鼻で笑ってしまう。
「ふっ、あれで気配を殺してたって・・・」
「っ!こ、このガキ・・・」
「ぶ、ぶっ殺してやる!!」
「・・・さて、残りはあと半分位だし、さっさと終わらせよう!」
「「「っ!!う、うわぁぁぁぁ!!!」」」
お喋りは終わりとばかりに剣を構え直して彼らに殺気を向けると、僕の殺気に呑まれてしまったようで、彼らは狂騒状態のように発狂し出してしまった。
「相手の力量を測ってから来るんだった・・ねっ!」
錯乱しだし、統制もとれなくなった盗賊達を無力化するのはもはやただの作業でしかなく、僕は淡々と彼らを地面に転がしていった。そして、懐中時計の秒針が一周する頃には襲いこようとしていた26人の盗賊達が何もできずに倒れ伏す結果となっていた。
「ふぅ・・・後はエイミーさんとセグリットさんに任せよう」
地面に転がる盗賊達を一瞥すると、彼らに背を向けて野営場所へと戻ることにした。彼らは両手足を破壊され、動くこともポーションを飲むことも出来ないだろうが、念のため早急に後処理をした方がいいだろうと急いで移動した。
野営場所に戻ると、完全武装した状態の3人が周囲を警戒していた。どうやらエイミーさんが眠っていた2人を起こして状況を伝えたようだった。
「っ!エイダ君!無事か!?」
僕の姿を見つけたアーメイ先輩が、走り寄りながら安否を確認してきた。
「すみません、心配を掛けたみたいで。僕はこの通り全然大丈夫ですよ?」
「そうか、良かった・・・全く、君は昔から無茶が過ぎるぞ?どれだけ私を心配させるんだ?」
「そ、そんなつもりは無かったんですが・・・それに、アーメイ先輩を危険な目に晒したくはないですし・・・」
「エ、エイダ君・・・」
僕の言葉に頬を赤らめる先輩に、何だか僕まで自分で言った言葉に恥ずかしさを覚えてしまったが、そんな状況に構わずエイミーさんが口を挟んできた。
「はぁ、そういうのは一先ず後にしておいて欲しいんですけど?今は状況を確認するのが先なんですけど!で、接近してきていた人達は何者だったんですか?」
呆れ顔になりつつも、状況確認に努めようとするエイミーさんに、近づいてきていた者達の素性と、対処した内容を伝えた。
一通り話を聞き終えると、エイミーさんとセグリットさんは表情を引き締めていた。
「では、我々は無効化した盗賊達の確認をして参ります。エイダ殿とアーメイ殿はこの場にて待機していてください」
セグリットさんはそう言い残して、エイミーさんと共に盗賊達が転がっている地点へと駆け出していった。残された僕と先輩は、一応周囲を警戒しつつも、そろそろ時間もいいので、朝食の準備をするために荷物から食材を取り出した。
しばらくして、僕とアーメイ先輩が簡単なサンドイッチとスープを作り終えると、少し疲れた表情をしているエイミーさんとセグリットさんが戻ってきた。その外套には返り血だろう赤黒い染みが所々付いており、2人が盗賊達をどうしてきたのかは明らかだった。
(嫌な事を2人に押し付けちゃったかな・・・でも、僕も人を殺すのにそれほど覚悟が決まっている訳じゃないからな・・・)
申し訳ない気持ちを抱きながら戻ってきた2人を迎えて労いの言葉を掛けようとするが、そんな僕の気勢を制するように、エイミーさんから報告があった。
「エイダ殿、アーメイ殿、実は盗賊達を尋問したところ、彼らの拠点にはまだ20人を越える盗賊とその首領、更には彼らに捕らえられた女性達が居るということが分かりました」
「何て事を・・・すぐに助けに行きましょう!!」
エイミーさんの報告にアーメイ先輩は怒りも露に救出を提案する。その言葉に渋い顔をしながらセグリットさんが口を開いた。
「ですが、こちらの戦力は我ら4人。対して相手は20人以上に、その首領はAランクの実力者ということです。戦力比は5倍を越えます」
「そ、それは・・・」
セグリットさんの指摘に、先輩は口を噤んだ。彼の言わんとしていることを理解したからだろう。そして、僕の顔色を伺うように見つめてくる。同時にエイミーさんとセグリットさんからも視線を感じた。つまりは、そういうことだろう。
「すみませんエイダ殿。騎士としてまだ学生の身である貴殿に頼らざるを得ないのは恥ずかしい限りなのですが、それでも、拐われた方々を助け出すのにご助力願いたい!」
「大丈夫ですよ!拐われた女性達を助けましょう!僕が盗賊達を引き受けますので、その隙に捕らえられている人達を救出してください!」
セグリットさんからの懇願に、僕は笑顔でそう返答した。元より断る理由もないし、辛い境遇にいる人達を見捨てたいとも思っていなかった。
「感謝致します!」
僕の言葉にセグリットさんは、腰を直角に曲げて大袈裟なまでに頭を下げた。
「・・っ!?ぐ、ぐあぁぁぁぁぁ!」
接近してきていた2人の男に狙いを定めると、彼らが突き込んでくる初動を見極め、躱せないタイミングで一気に詰め寄ると、彼らの攻撃の瞬間にしゃがむように身体を沈ずませ、まずは左の男の左膝を破壊するように剣を振り抜いた。
剣には闘氣を纏わせていなかったので、膝から下が切断されることはないが、男の左足は本来曲がらない方向でくの字に折れ曲がった。男は攻撃を受けた瞬間、何が起こったのか理解できなかったのだろう、叫び声を上げるまでに間があった。
「は?お、おまーーー」
右側の男は、急に仲間が叫び声を上げたことに驚いたようで、意識が散漫になっている。その隙を見逃すはずもなく、低いままの姿勢で振り抜いた向きとは逆に身体を回転させながら、男の言葉を遮るように、もう一人の男の右膝も破壊する。
「シッ!」
「っ!ぎゃぁぁぁぁ!!」
同時に襲いかかってきた2人は、激痛のためか脂汗を流しながら膝を押さえて、地面を転げ回って悲鳴をあげていた。
「・・・な、なんだ?お、お前いったい何者だよ?」
「ありえねぇ!あの2人が、あんなガキに一撃で・・・」
「あのガキ、闘氣が変だ!安定しすぎだろ?」
転げ回る男達の真ん中に悠然と佇む僕を、恐怖に染まった表情をしながら盗賊達が次々と畏怖の声をあげていた。その声に彼らを見回すと、突然の出来事に理解できていない顔の者や、驚きに目を見開く者など、反応は様々だった。
「何者ねぇ・・・ただの学生だよ!」
「ふざけんな!そんなわけあるか!クソッ!」
「あの落ち着きよう・・・こいつ、名の知れた騎士か!?」
「いや、冒険職の奴かもしれんぞ!!」
僕の言葉に悪態をつきながら、彼らは見当違いなことを言い出してきた。そんな彼らとは別に、後方にいる盗賊達は別の可能性を話していた。
「お、おい、もしかしてこれは俺達【紅の慈愛】を捕縛する為の罠だったんじゃないか?」
「ああ、ワザと目立つような馬車と少ない人数に意識を向けさせて、襲いかかろうとするところを、用意しておいた手練れで返り討ちにするって腹か!?」
「だとすると、こいつだけじゃねぇ!俺達は囲まれてるかもしれんぞ!?」
「そ、そんな、まさか!」
先程までの威勢はどこかへ消え、彼らは周囲を警戒するようにキョロキョロ視線を彷徨わせ、居もしない存在に怯えているようだ。
「何でも良いけど、盗賊を野放しにすると他の被害者が出ちゃうから、君達は全員叩きのめさせてもらうよ?」
「ふ、ふざけるな!俺達がそう簡単に殺られるかよ!!」
「そ、そうだ!別の仲間が来る前に、こいつをブチ殺して、一旦態勢を立て直すために拠点に戻るぞ!」
「よし!いくら強かろうが、こいつは一人だ!全員でやりゃ問題ねぇ!殺るぞ、お前ら!!」
「「「おぉーーー!!!」」」
よく分からない内に彼らは方針を決め、それぞれの武器を掲げながら戦意を向上させるように声を上げていた。その声に反応したのか分からないが、周囲に広がっていた盗賊達の気配は、僕がいる場所へ集中してきていた。
(手間が省けてありがたい!)
そう考えながら、僕も動き出す。
「誰一人として逃がさない・・・よっ!!」
宣言すると同時、まずは後方支援の魔術師達を一掃するため、手前に群がる剣術師達を無視して彼らの後方へ一直線に突き進む。
「「「うわぁぁ!!!」」」
僕の急激な移動に伴なって発生した突風が、近場にいた盗賊の剣術師達のバランスを崩して仰け反らせていた。
「シッ!フッ!ハァッ!」
そうして、一呼吸の内に魔術師達がたむろしている内側に入り込むと、何が起こっているのかまるで理解出来ずに呆然と立ち尽くしている魔術師達を、魔術を発動させる隙を与えることなく次々と戦闘不能に陥らせる。
「ぎゃ、ごふっ!」
「ごっ!がぁぁ・・・」
「ぎゅぷ・・・」
足・腕・喉・魔術杖を破壊して、完全に戦闘能力を奪う。彼らは痛みに声を上げるも、次の瞬間には喉を潰され、奇声をあげて倒れ伏す。僕は、己の身体の一部のように変幻自在に操る剣に闘氣を纏わせないように気を付けつつ、全員殺さずに無力化していく。
そして、わずか数秒で地面には痛みに喘ぐ十数人の魔術師達が転がっていた。
彼らには認識できなかったのか、想像の埒外の出来事だったのか分からないが、魔術師達が無力化されているというのに、誰も動くことができずに固まっていた。対峙して何となく分かっていたが、彼らは精々が第三段階の剣術師と魔術師で、ギルドの武力ランクで言えばC相当だろうと考えた。
ギルドが認める武力としては一人前の力はあれど、徒党を組んで悪事を働いている者達だ。その動きはまるで研鑽されておらず、魔力の扱いや闘氣の扱いはもちろんのこと、僕に返り討ちにあった際の対応を見ても、まだ学生であるアーメイ先輩にも劣るだろう。
「ば、化け物め!!」
「お、俺達にこんなことしやがって、ボスが黙ってねぇぞ!」
「そうだ!ボスは元Aランクの本当の強者だぞ!お、お前みたいなガキなんて片手で捻り潰すぞ!?」
魔術師達が全滅した状況にようやく認識が追い付いたようで、彼らは口から唾を飛ばす勢いで語気を荒げていた。その内容は僕の実力に畏怖を抱くものだったり、虎の威を借りる小物の戯れ言だったり様々だ。
「何をそんなに慌てているんだ?自分達がやろうとしていた事をやり返されただけでしょ?まぁ、僕は殺してないから、おじさん達よりも優しいと言えるかな?」
僕は彼らを逃がさない為、相手の神経を逆撫でするように、ことさら侮蔑の籠った表情で見下しながらそう指摘した。
「うるせぇ!!ガキが、良い気になってんじゃねぇ!」
「大体、テメェには関係ねぇだろ!」
「そうだ!ガキはさっさと帰って、ママのおっぱいでも吸ってろ!!」
僕に煽られたからか、おじさん達は威勢よく罵ってくる。しかしその反面、誰も僕に向かってこようとはしていなかった。剣を構えている手も微妙に震えており、僕と戦うのを身体が拒絶しているのは明らかだった。
「関係ないわけないだろ?盗賊のおじさん達の目的が、この先にいる大きな馬車に乗った4人なのだとしたら、僕はその内の一人なんだからね?」
「なっ!?お、俺達の動きに気づいたってのか?」
「ば、バカな!慎重を期してこんな夜更けの時間に、気配を殺しながら移動してきたんだぞ!?気づけるわけが・・・」
僕の言葉に反応する盗賊達の返答に、思わず鼻で笑ってしまう。
「ふっ、あれで気配を殺してたって・・・」
「っ!こ、このガキ・・・」
「ぶ、ぶっ殺してやる!!」
「・・・さて、残りはあと半分位だし、さっさと終わらせよう!」
「「「っ!!う、うわぁぁぁぁ!!!」」」
お喋りは終わりとばかりに剣を構え直して彼らに殺気を向けると、僕の殺気に呑まれてしまったようで、彼らは狂騒状態のように発狂し出してしまった。
「相手の力量を測ってから来るんだった・・ねっ!」
錯乱しだし、統制もとれなくなった盗賊達を無力化するのはもはやただの作業でしかなく、僕は淡々と彼らを地面に転がしていった。そして、懐中時計の秒針が一周する頃には襲いこようとしていた26人の盗賊達が何もできずに倒れ伏す結果となっていた。
「ふぅ・・・後はエイミーさんとセグリットさんに任せよう」
地面に転がる盗賊達を一瞥すると、彼らに背を向けて野営場所へと戻ることにした。彼らは両手足を破壊され、動くこともポーションを飲むことも出来ないだろうが、念のため早急に後処理をした方がいいだろうと急いで移動した。
野営場所に戻ると、完全武装した状態の3人が周囲を警戒していた。どうやらエイミーさんが眠っていた2人を起こして状況を伝えたようだった。
「っ!エイダ君!無事か!?」
僕の姿を見つけたアーメイ先輩が、走り寄りながら安否を確認してきた。
「すみません、心配を掛けたみたいで。僕はこの通り全然大丈夫ですよ?」
「そうか、良かった・・・全く、君は昔から無茶が過ぎるぞ?どれだけ私を心配させるんだ?」
「そ、そんなつもりは無かったんですが・・・それに、アーメイ先輩を危険な目に晒したくはないですし・・・」
「エ、エイダ君・・・」
僕の言葉に頬を赤らめる先輩に、何だか僕まで自分で言った言葉に恥ずかしさを覚えてしまったが、そんな状況に構わずエイミーさんが口を挟んできた。
「はぁ、そういうのは一先ず後にしておいて欲しいんですけど?今は状況を確認するのが先なんですけど!で、接近してきていた人達は何者だったんですか?」
呆れ顔になりつつも、状況確認に努めようとするエイミーさんに、近づいてきていた者達の素性と、対処した内容を伝えた。
一通り話を聞き終えると、エイミーさんとセグリットさんは表情を引き締めていた。
「では、我々は無効化した盗賊達の確認をして参ります。エイダ殿とアーメイ殿はこの場にて待機していてください」
セグリットさんはそう言い残して、エイミーさんと共に盗賊達が転がっている地点へと駆け出していった。残された僕と先輩は、一応周囲を警戒しつつも、そろそろ時間もいいので、朝食の準備をするために荷物から食材を取り出した。
しばらくして、僕とアーメイ先輩が簡単なサンドイッチとスープを作り終えると、少し疲れた表情をしているエイミーさんとセグリットさんが戻ってきた。その外套には返り血だろう赤黒い染みが所々付いており、2人が盗賊達をどうしてきたのかは明らかだった。
(嫌な事を2人に押し付けちゃったかな・・・でも、僕も人を殺すのにそれほど覚悟が決まっている訳じゃないからな・・・)
申し訳ない気持ちを抱きながら戻ってきた2人を迎えて労いの言葉を掛けようとするが、そんな僕の気勢を制するように、エイミーさんから報告があった。
「エイダ殿、アーメイ殿、実は盗賊達を尋問したところ、彼らの拠点にはまだ20人を越える盗賊とその首領、更には彼らに捕らえられた女性達が居るということが分かりました」
「何て事を・・・すぐに助けに行きましょう!!」
エイミーさんの報告にアーメイ先輩は怒りも露に救出を提案する。その言葉に渋い顔をしながらセグリットさんが口を開いた。
「ですが、こちらの戦力は我ら4人。対して相手は20人以上に、その首領はAランクの実力者ということです。戦力比は5倍を越えます」
「そ、それは・・・」
セグリットさんの指摘に、先輩は口を噤んだ。彼の言わんとしていることを理解したからだろう。そして、僕の顔色を伺うように見つめてくる。同時にエイミーさんとセグリットさんからも視線を感じた。つまりは、そういうことだろう。
「すみませんエイダ殿。騎士としてまだ学生の身である貴殿に頼らざるを得ないのは恥ずかしい限りなのですが、それでも、拐われた方々を助け出すのにご助力願いたい!」
「大丈夫ですよ!拐われた女性達を助けましょう!僕が盗賊達を引き受けますので、その隙に捕らえられている人達を救出してください!」
セグリットさんからの懇願に、僕は笑顔でそう返答した。元より断る理由もないし、辛い境遇にいる人達を見捨てたいとも思っていなかった。
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