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第六章 王女の依頼
遺跡調査 9
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「死ねや!!」
野太い怒声と共に放たれたのは風魔術だ。ギルドランクがAだと言っていただけあって、どうやら彼は第四楷梯に至っているようだ。風の刃が僕の視界を覆い尽くすかのような勢いで迫ってくる様子に、僕は感心するように「へぇ~」と呟いた。
その様は一見すると、凄い技量のようにも感じる。実際その魔術を目にした彼の部下は、称賛の眼差しで彼を見ているほどだ。ただ、パッと見ただけでも僕に命中するのは、全体の3分の1以下しかない。命中精度に自信が無いのか、退路を塞ぐためかは分からないが、僕からしてみれば魔力の無駄遣いに他ならない。
(あっ、実力を誇示して相手を怯えさせるって考えもあるか?だとしたら、その考えを逆手にとって、こちらの実力を思い知ってもらおうかな!)
僕は両手をだらんと下げて無防備な状態になると、あの紫のオーラを展開する。僕が無防備な状態になったのを見て、何を勘違いしたのか、彼は勝ち誇ったような言葉を投げ掛けてきた。
「ははっ!何だ!?威勢の良いこと言ってやがったが、所詮それだけのガキだな!お前は本当の強者って奴を知らなかった!それが敗因だ!」
「・・・・・・」
今の僕の状態は、頭痛がして何も喋りたくなかったので、彼の言葉に沈黙を貫いた。直後、彼の放った魔術が僕に襲いかかった。しかも僕だけでなく、地面に倒れていた自分の仲間達にも風の刃は降り注ぎ、血にまみれる周囲は阿鼻叫喚の地獄絵図のようだった。
「ギャーーー!」
「ボ、ボス!何で俺らまで・・・」
「ぐあぁぁ!俺の腕がぁぁぁぁ!!」
僕への攻撃の巻き添えを喰った者達は、口々に悲痛な叫び声をあげていた。中には当たりどころが悪かったのだろう、腕や足が切断されている者もいた。しかし、彼の攻撃は僕の身体に傷一つ付けることなく終わったので紫のオーラを解除すると、魔術を放った杖を掲げたままの姿勢で、彼は信じられないものを見るように目を見開いて大口を開けていた。そしてその表情は、彼に指示を受け、僕に追撃を加えようと近づいていた部下の人達も一緒で、想定外の状況にどうしていいか分からずに呆然と立ち尽くしていた。
「・・・テ、テメェ・・・何しやがった?」
畏怖の感情が籠った彼の言葉に、僕は嘲りながら答えた。
「別になにも。見ていた通り無防備に立っていただけだよ?僕が無傷なのは、ただの実力差だよ!」
事も無げに言う僕に、彼は怯えを隠すように声を荒げた。
「ふ・・・ふざけるな!そんな訳あるか!俺は第四楷梯に至ってるんだぞ!何か裏があるはずだ・・・その外套か!?それが特殊な魔道具なんだろ!?」
「第四楷梯の威力の魔術を無効化する魔道具か・・・実在するなら、いったい幾らの価値が付くんだろうね?」
鼻で笑う僕に、彼は苛立ちも露に再度魔術を発動した。
「さっきのは偶然・・そう、偶然魔術が当たらなかっただけだ!今度は外さねぇ!次こそ殺してやる!!」
どうやらさっきの魔術は、彼の中で全弾外したと結論付けたようだ。彼にとってみればその方が現実的なのかもしれないが、それは現実逃避に他ならない。そうして放たれた二度目の風魔術は、1つの風の刃だった。その大きさや密度、精度はそこそこだったが、それは悪手だ。
「魔術妨害!」
僕は杖を掲げ、純粋な魔力の塊を相手の魔術の中心を見極めて放った。
『バシュ・・・』
「・・・は?」
自らが放った、おそらくは渾身の一撃だったのだろう。空中で掻き消された己の風魔術を、彼は呆然とした表情で眺めていた。周りで推移を見ていた残りの盗賊達は、自分達の首領の魔術が消滅したのを見て、僕に対する戦意を失うように地面に膝を着いていた。
(逃げられると面倒だ、今外に出てきている奴らで盗賊の大半は無力化が終わりそうだな)
気配で感知できている残りの存在は、外にいる8人と、天幕や建物にいる7人で全てだった。
(捕らわれているのが何人か分からないけど、少なくとも2、3人は見張りがいる可能性がある。先輩達は大丈夫かな・・・)
拐われた人達の救出のために先輩達が捜索しているが、敵と鉢合わせる危険も当然ある。1人や2人程度なら問題ないと言ってはいたが、心配は心配だ。
「陽動はこれで十分かな?あとはこの場にいる全員、無力化させてもらう・・よっ!」
「っ!に、逃げーーーごがっ!!」
僕が殺気を放ちながら宣言すると、気迫に呑まれた盗賊の一人が身体を起こしながら反転させて駆け出そうとしたところで、瞬時に闘氣を纏い、その盗賊の後頭部に杖で鋭い一撃を与えて気絶させた。
「くそっ!こんなところでやられてーーぐごっ!!」
「ひっ!た、助けーーがぁ!!」
「・・・・・・」
盗賊達は何か言いかけるが、そんなことはお構いなしに次々と昏倒させていく。そんな様子に、彼らのボスは成す術なく沈黙していた。
数秒で残すところ盗賊の首領一人となった時、彼は急に地面に這いつくばって懇願してきた。
「ま、待ってくれ!お、俺と取引しないか?」
「・・・取引?」
「そ、そうだ!俺らは見た目の良い少女を数人捕まえている。お前・・あなた様が望むならその少女達を好きにして良い!見たところあなた様も年頃の男だ、そういった行為には興味あるだろ?」
彼はプライドも何もかなぐり捨てたように、下卑た笑いを浮かべながら僕にそう提案してきた。その言葉に、僕は大きなため息を吐き出して嫌悪感を示した。
「女性を物みたいに扱うな!虫酸が走る!!」
「ち、違う!そんなつもりはーーごっ!!」
地面に這いつくばっている彼を横殴りに杖で振り抜くと、数m程吹っ飛んでいき、そこで意識を失ったようで動かなくなった。
「・・・アーメイ先輩達は大丈夫かな?」
周囲を見回して、これ以上盗賊達がいないこと確認した僕は、みんなと合流するために天幕の方へと移動した。
ひとつの天幕の前で、セドリックさんが難しい表情をしながら佇んでいた。僕と目が合うと、彼は何とも言えない表情をしながら事の次第を教えてくれた。
天幕や建物には盗賊が3人残っていたようだったが、大した実力もなかったので、すぐに制圧出来たとの事だ。建物の中には檻があり、その中に3人の少女がいたのだと言う。目立つ外傷は無かったが、衰弱していたためポーションを飲ませて様子を見ているらしい。
そして3人の少女の話から、もう一人の女性が別の天幕に連れていかれたということで救出に向かうと、首輪をされ、鎖で繋がれている妙齢の女性を見つけたということだった。
「じゃあ、拐われたのは全員で4人ということですか?」
「そうです。ただ、天幕の女性はかなり・・・その、暴行を受けていたようでして、我らの手持ちのポーションでは治癒できず、どうしたものかと・・・」
「そんなことなら僕が治療しましょう。元々聖魔術は得意ですから問題ないですよ?女性のいる天幕はここですね?」
「あっ!エイダ殿!待ってーーー」
気配でこの天幕にアーメイ先輩とエイミーさんともう一人が居ることは分かっていたので、何の躊躇いもなく天幕の布を上げて入ろうとした僕を、慌てた様子でセグリットさんが止めようとした。
「・・・あっ・・・」
セグリットさんの静止は間に合わず、布を上げて見た先では、鎖を付けられた全裸の女性を手当てするアーメイ先輩とエイミーさんが目に入った。
「っ!コ、コラッ!!断りもなく入ってくるな!!」
その様子に固まっている僕と目が合った先輩は、怒りの表情で僕を糾弾してきた。
「す、すみませんでした!!」
慌てて天幕を出た僕は、盛大なため息を漏らして俯いた。
(しまった~!!まさか捕らわれていた人が服を着ていないなんて・・・)
先程の一瞬で冷や汗が止まらない僕に、申し訳なさそうな表情のセグリットさんが近づいてきた。
「申し訳ありませんエイダ殿、私の制止がもう少し早ければ・・・後程、誤解は私の全身全霊を持って解かさせていただきますので、どうかご安心を!」
腰を90°に曲げながら謝罪の言葉を口にするセグリットさんに、僕は苦笑いをしながら答えた。
「いえ、僕も不注意でしたので、セグリットさんがそんなに気に病むこと無いですよ?僕も後で弁解しますけど、今は先にやるべき事をやっておきましょう」
僕は現実逃避気味に今やるべき事を優先することで、先程の失態をとりあえず棚上げすることにした。
「了解しました!これ程の人数を連行することは不可能ですし、何より誘拐されていた4人を保護する必要がある以上、必要な処理をしなければなりません」
「それをセグリットさんに頼むのは心苦しいのですが・・・すみません。・・・この場ではあれなので、盗賊達を離れた場所に運びましょうか?」
「そうですね。捕らわれていた彼女達は精神的に参っている状態ですし、これ以上精神に負担の掛かるような光景は見せない方がいいでしょう。騎士として、私が彼らの処理をしますので、エイダ殿には運搬だけお願いできますか?」
「はい、もちろんです」
僕は盗賊達をこの拠点から見えない場所まで運び、その間にセグリットさんには盗賊の首領に対して尋問をしてもらうことで、何か必要な情報がないか確認してもらった。
盗賊達は30人程度だったので、10分もする頃には全員運び終え、あとの事はセグリットさんにお任せした。その間に尋問も終わっており、この盗賊団についての大まかな実情を聞いた。
彼らはいつも僕達が使っていた、あの街道を通る商人や金持ちに狙いをつけて襲っていたのだと言う。金目の物は全て奪い、年頃の女性がいれば拐って人身売買をして生計を立てていたそうだ。
奴隷と言う存在はこの国では認められていないはずなのだが、それでも裏社会ではそういった人身売買が横行しているらしく、その被害に合う人達は年間数百人は下らないらしい。
また、そういった非合法な物の取引のために盗賊等の犯罪組織は、裏稼業を営む商人との繋がりがあり、今回この盗賊と繋がりが確認された商人への捜査は、騎士団が主体となって動くと言われた。他には特に有益な情報はなく、他の変な組織との繋がりもないことなどから、所謂、普通の盗賊だと言うことだった。
後処理を任せて天幕の方へ戻ってくると、アーメイ先輩が少し唇を尖らせながら話しかけてきた。
「エイダ君、盗賊に捕まった女性は、その・・・そういうのを目的にされることもあるんだ。だから、もう少し配慮した行動をして欲しい」
「すみませんでした!その・・・まさか女性をそんな風に扱うなんて、考えてなくて・・・」
「まぁ、君が女性を物のように扱うという考えがないから、理解できない事だったかもしれない。ただ、これからは気を付けるんだぞ?」
「はい、気を付けます」
素直に頭を下げて謝ると、先輩は僕が被害女性の裸を見てしまったことにそれ以上言及することはなかった。
「・・・エイダ君、実は君にお願いしたいことがあるんだ」
真剣な表情になった先輩は、沈痛な声音でそう言ってきた。
「僕に出来ることなら」
「君にしか出来ないことだ。実は、先程君が見たあの女性なのだが、何か薬物を使われたようで、手持ちのポーションでは治療が出来ないのだ。聖魔術であれば、毒も怪我も関係なく治癒することができる。だから・・・」
「分かりました。任せてください!」
「ありがとう。それと一つ言っておくが、その女性は薬の影響で精神が錯乱している。暴れないように拘束をしているが・・・その・・・彼女から何を言われても驚かないように」
「???分かりました」
そうして僕はアーメイ先輩の先導のもと、先程の天幕へと足を踏み入れた。そこには先輩の言葉通りに手足を布で拘束された状態の女性が布にくるまれていた。栗色のロングヘアーに優しげな顔立ちをしており、年齢は30過ぎ位だろうか、大人な女性という印象だ。
ただしーーー
「っ!お、男!?だ、抱いて!私を抱いてーーー!!」
「・・・へっ?」
天幕に入ってきた僕の姿を見た女性は、狂喜に取り付かれたような表情をしながらそう叫んできた。
野太い怒声と共に放たれたのは風魔術だ。ギルドランクがAだと言っていただけあって、どうやら彼は第四楷梯に至っているようだ。風の刃が僕の視界を覆い尽くすかのような勢いで迫ってくる様子に、僕は感心するように「へぇ~」と呟いた。
その様は一見すると、凄い技量のようにも感じる。実際その魔術を目にした彼の部下は、称賛の眼差しで彼を見ているほどだ。ただ、パッと見ただけでも僕に命中するのは、全体の3分の1以下しかない。命中精度に自信が無いのか、退路を塞ぐためかは分からないが、僕からしてみれば魔力の無駄遣いに他ならない。
(あっ、実力を誇示して相手を怯えさせるって考えもあるか?だとしたら、その考えを逆手にとって、こちらの実力を思い知ってもらおうかな!)
僕は両手をだらんと下げて無防備な状態になると、あの紫のオーラを展開する。僕が無防備な状態になったのを見て、何を勘違いしたのか、彼は勝ち誇ったような言葉を投げ掛けてきた。
「ははっ!何だ!?威勢の良いこと言ってやがったが、所詮それだけのガキだな!お前は本当の強者って奴を知らなかった!それが敗因だ!」
「・・・・・・」
今の僕の状態は、頭痛がして何も喋りたくなかったので、彼の言葉に沈黙を貫いた。直後、彼の放った魔術が僕に襲いかかった。しかも僕だけでなく、地面に倒れていた自分の仲間達にも風の刃は降り注ぎ、血にまみれる周囲は阿鼻叫喚の地獄絵図のようだった。
「ギャーーー!」
「ボ、ボス!何で俺らまで・・・」
「ぐあぁぁ!俺の腕がぁぁぁぁ!!」
僕への攻撃の巻き添えを喰った者達は、口々に悲痛な叫び声をあげていた。中には当たりどころが悪かったのだろう、腕や足が切断されている者もいた。しかし、彼の攻撃は僕の身体に傷一つ付けることなく終わったので紫のオーラを解除すると、魔術を放った杖を掲げたままの姿勢で、彼は信じられないものを見るように目を見開いて大口を開けていた。そしてその表情は、彼に指示を受け、僕に追撃を加えようと近づいていた部下の人達も一緒で、想定外の状況にどうしていいか分からずに呆然と立ち尽くしていた。
「・・・テ、テメェ・・・何しやがった?」
畏怖の感情が籠った彼の言葉に、僕は嘲りながら答えた。
「別になにも。見ていた通り無防備に立っていただけだよ?僕が無傷なのは、ただの実力差だよ!」
事も無げに言う僕に、彼は怯えを隠すように声を荒げた。
「ふ・・・ふざけるな!そんな訳あるか!俺は第四楷梯に至ってるんだぞ!何か裏があるはずだ・・・その外套か!?それが特殊な魔道具なんだろ!?」
「第四楷梯の威力の魔術を無効化する魔道具か・・・実在するなら、いったい幾らの価値が付くんだろうね?」
鼻で笑う僕に、彼は苛立ちも露に再度魔術を発動した。
「さっきのは偶然・・そう、偶然魔術が当たらなかっただけだ!今度は外さねぇ!次こそ殺してやる!!」
どうやらさっきの魔術は、彼の中で全弾外したと結論付けたようだ。彼にとってみればその方が現実的なのかもしれないが、それは現実逃避に他ならない。そうして放たれた二度目の風魔術は、1つの風の刃だった。その大きさや密度、精度はそこそこだったが、それは悪手だ。
「魔術妨害!」
僕は杖を掲げ、純粋な魔力の塊を相手の魔術の中心を見極めて放った。
『バシュ・・・』
「・・・は?」
自らが放った、おそらくは渾身の一撃だったのだろう。空中で掻き消された己の風魔術を、彼は呆然とした表情で眺めていた。周りで推移を見ていた残りの盗賊達は、自分達の首領の魔術が消滅したのを見て、僕に対する戦意を失うように地面に膝を着いていた。
(逃げられると面倒だ、今外に出てきている奴らで盗賊の大半は無力化が終わりそうだな)
気配で感知できている残りの存在は、外にいる8人と、天幕や建物にいる7人で全てだった。
(捕らわれているのが何人か分からないけど、少なくとも2、3人は見張りがいる可能性がある。先輩達は大丈夫かな・・・)
拐われた人達の救出のために先輩達が捜索しているが、敵と鉢合わせる危険も当然ある。1人や2人程度なら問題ないと言ってはいたが、心配は心配だ。
「陽動はこれで十分かな?あとはこの場にいる全員、無力化させてもらう・・よっ!」
「っ!に、逃げーーーごがっ!!」
僕が殺気を放ちながら宣言すると、気迫に呑まれた盗賊の一人が身体を起こしながら反転させて駆け出そうとしたところで、瞬時に闘氣を纏い、その盗賊の後頭部に杖で鋭い一撃を与えて気絶させた。
「くそっ!こんなところでやられてーーぐごっ!!」
「ひっ!た、助けーーがぁ!!」
「・・・・・・」
盗賊達は何か言いかけるが、そんなことはお構いなしに次々と昏倒させていく。そんな様子に、彼らのボスは成す術なく沈黙していた。
数秒で残すところ盗賊の首領一人となった時、彼は急に地面に這いつくばって懇願してきた。
「ま、待ってくれ!お、俺と取引しないか?」
「・・・取引?」
「そ、そうだ!俺らは見た目の良い少女を数人捕まえている。お前・・あなた様が望むならその少女達を好きにして良い!見たところあなた様も年頃の男だ、そういった行為には興味あるだろ?」
彼はプライドも何もかなぐり捨てたように、下卑た笑いを浮かべながら僕にそう提案してきた。その言葉に、僕は大きなため息を吐き出して嫌悪感を示した。
「女性を物みたいに扱うな!虫酸が走る!!」
「ち、違う!そんなつもりはーーごっ!!」
地面に這いつくばっている彼を横殴りに杖で振り抜くと、数m程吹っ飛んでいき、そこで意識を失ったようで動かなくなった。
「・・・アーメイ先輩達は大丈夫かな?」
周囲を見回して、これ以上盗賊達がいないこと確認した僕は、みんなと合流するために天幕の方へと移動した。
ひとつの天幕の前で、セドリックさんが難しい表情をしながら佇んでいた。僕と目が合うと、彼は何とも言えない表情をしながら事の次第を教えてくれた。
天幕や建物には盗賊が3人残っていたようだったが、大した実力もなかったので、すぐに制圧出来たとの事だ。建物の中には檻があり、その中に3人の少女がいたのだと言う。目立つ外傷は無かったが、衰弱していたためポーションを飲ませて様子を見ているらしい。
そして3人の少女の話から、もう一人の女性が別の天幕に連れていかれたということで救出に向かうと、首輪をされ、鎖で繋がれている妙齢の女性を見つけたということだった。
「じゃあ、拐われたのは全員で4人ということですか?」
「そうです。ただ、天幕の女性はかなり・・・その、暴行を受けていたようでして、我らの手持ちのポーションでは治癒できず、どうしたものかと・・・」
「そんなことなら僕が治療しましょう。元々聖魔術は得意ですから問題ないですよ?女性のいる天幕はここですね?」
「あっ!エイダ殿!待ってーーー」
気配でこの天幕にアーメイ先輩とエイミーさんともう一人が居ることは分かっていたので、何の躊躇いもなく天幕の布を上げて入ろうとした僕を、慌てた様子でセグリットさんが止めようとした。
「・・・あっ・・・」
セグリットさんの静止は間に合わず、布を上げて見た先では、鎖を付けられた全裸の女性を手当てするアーメイ先輩とエイミーさんが目に入った。
「っ!コ、コラッ!!断りもなく入ってくるな!!」
その様子に固まっている僕と目が合った先輩は、怒りの表情で僕を糾弾してきた。
「す、すみませんでした!!」
慌てて天幕を出た僕は、盛大なため息を漏らして俯いた。
(しまった~!!まさか捕らわれていた人が服を着ていないなんて・・・)
先程の一瞬で冷や汗が止まらない僕に、申し訳なさそうな表情のセグリットさんが近づいてきた。
「申し訳ありませんエイダ殿、私の制止がもう少し早ければ・・・後程、誤解は私の全身全霊を持って解かさせていただきますので、どうかご安心を!」
腰を90°に曲げながら謝罪の言葉を口にするセグリットさんに、僕は苦笑いをしながら答えた。
「いえ、僕も不注意でしたので、セグリットさんがそんなに気に病むこと無いですよ?僕も後で弁解しますけど、今は先にやるべき事をやっておきましょう」
僕は現実逃避気味に今やるべき事を優先することで、先程の失態をとりあえず棚上げすることにした。
「了解しました!これ程の人数を連行することは不可能ですし、何より誘拐されていた4人を保護する必要がある以上、必要な処理をしなければなりません」
「それをセグリットさんに頼むのは心苦しいのですが・・・すみません。・・・この場ではあれなので、盗賊達を離れた場所に運びましょうか?」
「そうですね。捕らわれていた彼女達は精神的に参っている状態ですし、これ以上精神に負担の掛かるような光景は見せない方がいいでしょう。騎士として、私が彼らの処理をしますので、エイダ殿には運搬だけお願いできますか?」
「はい、もちろんです」
僕は盗賊達をこの拠点から見えない場所まで運び、その間にセグリットさんには盗賊の首領に対して尋問をしてもらうことで、何か必要な情報がないか確認してもらった。
盗賊達は30人程度だったので、10分もする頃には全員運び終え、あとの事はセグリットさんにお任せした。その間に尋問も終わっており、この盗賊団についての大まかな実情を聞いた。
彼らはいつも僕達が使っていた、あの街道を通る商人や金持ちに狙いをつけて襲っていたのだと言う。金目の物は全て奪い、年頃の女性がいれば拐って人身売買をして生計を立てていたそうだ。
奴隷と言う存在はこの国では認められていないはずなのだが、それでも裏社会ではそういった人身売買が横行しているらしく、その被害に合う人達は年間数百人は下らないらしい。
また、そういった非合法な物の取引のために盗賊等の犯罪組織は、裏稼業を営む商人との繋がりがあり、今回この盗賊と繋がりが確認された商人への捜査は、騎士団が主体となって動くと言われた。他には特に有益な情報はなく、他の変な組織との繋がりもないことなどから、所謂、普通の盗賊だと言うことだった。
後処理を任せて天幕の方へ戻ってくると、アーメイ先輩が少し唇を尖らせながら話しかけてきた。
「エイダ君、盗賊に捕まった女性は、その・・・そういうのを目的にされることもあるんだ。だから、もう少し配慮した行動をして欲しい」
「すみませんでした!その・・・まさか女性をそんな風に扱うなんて、考えてなくて・・・」
「まぁ、君が女性を物のように扱うという考えがないから、理解できない事だったかもしれない。ただ、これからは気を付けるんだぞ?」
「はい、気を付けます」
素直に頭を下げて謝ると、先輩は僕が被害女性の裸を見てしまったことにそれ以上言及することはなかった。
「・・・エイダ君、実は君にお願いしたいことがあるんだ」
真剣な表情になった先輩は、沈痛な声音でそう言ってきた。
「僕に出来ることなら」
「君にしか出来ないことだ。実は、先程君が見たあの女性なのだが、何か薬物を使われたようで、手持ちのポーションでは治療が出来ないのだ。聖魔術であれば、毒も怪我も関係なく治癒することができる。だから・・・」
「分かりました。任せてください!」
「ありがとう。それと一つ言っておくが、その女性は薬の影響で精神が錯乱している。暴れないように拘束をしているが・・・その・・・彼女から何を言われても驚かないように」
「???分かりました」
そうして僕はアーメイ先輩の先導のもと、先程の天幕へと足を踏み入れた。そこには先輩の言葉通りに手足を布で拘束された状態の女性が布にくるまれていた。栗色のロングヘアーに優しげな顔立ちをしており、年齢は30過ぎ位だろうか、大人な女性という印象だ。
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天幕に入ってきた僕の姿を見た女性は、狂喜に取り付かれたような表情をしながらそう叫んできた。
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