剣神と魔神の息子

黒蓮

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第八章 世界の害悪

開戦危機 1

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side ジン・ファンネル&サーシャ・ファンネル



 時は少し遡り、エイダ達が国王から依頼を受けて、襲撃を受けた村へと移動している頃、2人は都市レイク・レストにてアリアとシュフォンとの情報共有を行っていた。



「どうやら、かなりきな臭いことになってきたようだな・・・」



教会の応接室にて、ジンは”害悪の欠片”を取り込んだ魔獣との戦いについて、裏で暗躍しているであろう【救済の光】の行動に言及していた。



「今回の騒動なんだけど、どうも魔獣の件については、ただの火種かもしれないわ」



ジンに続いてサーシャも、今回の騒動は始まりにすぎないという考えを伝えた。



「ジン様、サーシャ様、それはどういう事なのですか?これから一体、何が起こるのでしょうか?」



2人の深刻な表現に、同席しているシフォンは神妙な表情で、何が起ころうとしているのか問いかけていた。



「はっきり断定できる訳じゃないが、俺のつてを使って王国の内情を少し確認したんだが、どうやらあちらさんはこの国に対して戦争を吹っ掛けてくる動きがあるようだ」


「っ!!せ、戦争を、ですか!?」



ジンの言葉に驚きを露にしたシフォンは、勢いよく椅子から立ち上がって声を荒げた。



「シフォンさん、落ち着きなさい。・・・それで、その話の信憑性はどうなのですか?」



シフォンの行動に、隣に座っていたアリアが苦言を呈すると、彼女は自分の言動を省みて、申し訳なさそうに椅子に座り直した。アリアはジンの発言の真偽を確かめるべく、対面に座るサーシャに確認した。



「・・・正直、ジンの言う通りよ。王国の宰相が、かなり戦争に対して前のめりになっているらしいわ」


「その理由は分かっているのですか?」


「どうにも先の異常な魔獣騒動が発端のようね。王国との国境付近だったから、彼らもあの騒動について監視のために動いていたらしいの。で、どこから得た情報かは不明だけど、共和国が【救済の光】と手を組んで”害悪の欠片”の研究をしていて、今回の騒動はその成果を確認するための実験だったのではないか、と考えているらしいわ・・・」



マリアの問いかけに、王国側の思惑のかなり詳細な情報まで掴んでいたサーシャは、ため息混じりに王国の考えを説明していた。



「まさかっ!?そんな話は聞い事ありません!お父様やお母様、いえ、お兄様やお姉様であっても、あのような組織に荷担することなどあり得ません!!」



話を聞いていたシフォンが、顔を赤くして憤慨したように共和国の無実を主張していた。



「落ち着きなさいと言ったでしょ!?サーシャ様は、貴方の家族が関係しているとは言ってないでしょ?それに、口には気を付けないと貴方の出自が露呈してしまいますよ?」


「・・・す、すみません」



アリアが諌めると、彼女は身体を縮ませて謝罪を口にしていたが、その表情は未だにサーシャの話が信じられないといった顔をしていた。



「国だって一枚岩じゃないわ。王族とは関係なく、要職に就いている貴族が動いているかもしれない。あるいは、まったくのでっち上げの情報かもしれないしね?」



サーシャの推測にアリアは難しい表情をしながら口を開いた。



「国の権力者が関わっているとなれば、王国の動きも理解できますが、でっち上げの場合は何が目的でしょうか?」


「・・・可能性の話だが、その場合は俺達への牽制かもしれんな」


「牽制・・・ですか?」


「”世界の害悪”が絡めば俺達は自由に動けるが、事が戦争に至ってしまえば俺達に手出しは難しい。もし、組織の連中が俺達の存在を疎ましく思っているとすれば、これは罠だろうな」



アリアの口にした組織の狙いについて、ジンが推測を語った。更にその話にサーシャが付け加える。



「彼らは”害悪の欠片”を利用して何かを成そうとしているのでしょうね。でも、それを阻止出来る可能性のある私達は邪魔。とすれば・・・」


「戦争を起こしてしまえば、お二人の介入を防ぎつつ”害悪の欠片”も使用することが出来る」



サーシャの言葉を引き継ぐように、真剣な表情をしたシフォンが口を開いた。



「そういうことね。それにもし、例の組織に唆される格好で王国が戦争を仕掛けるとすれば、かなり面倒なことになるわ。なにせ、”害悪の欠片”を口実に介入しようとしても、王国側が『これは国同士の問題で、協定違反だ』と言い出せば、迂闊に手出しできなくなるわ」


「あぁ。それに、最悪王国から『共和国が【救済の光】に手を貸して”害悪の欠片”の研究を行ったのが悪いから、俺達に王国側に付け』という話が来るかもしれないからな」


「っ!そんな・・・」



ジンの言葉に、シフォンは言葉を失ったように絶句していた。その推測は、可能性としてありえると思ってしまったからだろう。


剣神と魔神と評される2人に介入されないように、国同士の戦争を口実にして介入させないという狙いも、”害悪の欠片”を確認したからという大義名分で押し通すこともできそうだったが、その場合は2人が王国側に与するという展開になってしまう可能性がある。



「とにかく、今はまだ不確定な事柄です。今後、より一層の情報収集が必要でしょう!私も本国に対して連絡してみます」


「・・・私も王家の方へ話を通してみます。ある程度情報は掴んでいると思いますが、情報は多ければ多いほど良いでしょうから」



静まり返った雰囲気を変えるように、アリアは話を纏めた。それに追随するように、シフォンも自分の成すべき事について口を開いた。



「なら、私達も動きを早めましょう。”害悪の欠片”が使われたとなれば、別の場所でも使用される可能性があるわ」


「そうだな。あれに対処できるのは現状、俺とサーシャとエイダだけだ。例の組織が、それを取り込んだ対象を意のままに操れるかどうかは不明だが、都市周辺で使われれば、とんでもない被害がでるのは間違いない」



サーシャとジンも、今後の行動について2人にそう伝えた。4人は行動指針が決まると、それぞれ動き出すための準備のために部屋をあとにした。4人が話し合っていた問題が、これからこの大陸全土を巻き込んだ争乱に発展していってしまうことを、彼らはまだ知るよしもなかった。






side ザベク・アラバス




「・・・報告は以上でございます」


「ご苦労・・・報告を聞く限り、多少想定外の出来事に見舞われているが、概ね計画通りというところだな」



 共和国内のとある屋敷の執務室にて、私は同志から共和国内における各種工作の報告を受け取っていた。内容は、我々の最終目標へ向けての足掛かりである、国家間の争いを煽るものだ。


計画は順調に推移し、”害悪の欠片”を使った魔獣実験も人体実験も概ね良好。更に、その実験を国と国との国境付近で行い、その副次的効果により、各国に共和国に対する疑念を抱かせることも叶った。


また、各国の要職に紛れ込ませている同志達が上手く煽動して、大まかな戦争への下準備も整いつつある。王国は既に共和国に対して宣戦布告書を準備しており、公国も”害悪の欠片”の研究を共和国が援助しているという話を聞いて、王国から共闘を持ちかけられている。


現状は回答を保留しているようだが、あと少し切っ掛けがあれば、公国も王国同様に共和国に対して戦線布告を行ってくれるだろう。



「しかし、やはり例の少年が邪魔になりましたか・・・」



私は報告の中で気掛かりであった少年の動きについて、ため息混じりに呟いた。



「ええ、被験体である同志ジョシュ・ロイドは、我々の想定以上の能力を獲得しておりましたので、万が一彼と出会ってもあるいは・・・と考えていたのですが、手も足も出なかったようです」


「ふむ、化け物に進化した同志が手も足も出ない正真正銘の化け物ということですか・・・さて、どうしたものか・・・」



これから計画を最終段階へと進めていくに当たって、あの少年の存在は非常に厄介なものになる。彼の両親であれば、強制進化させた村人達を何百人かぶつけていけば、やがて疲弊していくだろう。所詮、紛い物の魔闘錬氣だ。


彼らが活発に動き出したのを契機に、行く先々で”害悪の欠片”を取り込ませた魔獣に襲わせて情報を収集させていたが、あの状態は長く持たないとの調査結果も出ていた。


しかし、あの少年は本物の使い手だ。ともすれば、我々が長年掛けて積み上げてきた努力を、一瞬で無に帰してしまう可能性すらある。



「その事ですが、学院に居るに、例の計画の実行を命令してみるのはいかがでしょうか?」


「・・・上手くいくと思うかね?」


「おそらく問題ないかと。あの同志は、彼からの信頼も得ています。先の学院での騒動も上手く学生を煽動しつつ、自身は特定されぬよう切り抜けておりますし、能力に問題はないでしょう」


「認知阻害の魔道具のお陰でもあるがな・・・ただ、確かにあの同志なら、我らの切り札を得ることが出来るかもしれないか・・・」



私は同志との話し合いの中、既に少年を無力化するべく温めていた策についての考えを巡らせていた。そして、すぐに行動に移させる為、計画書に事の詳細を書き記し、学院に通う同志に渡すように命令する。



「これから開戦に向けての各国の攻防が始まり、混乱に乗じていくらでもチャンスはあるだろう。我らが殺せぬ化け物だとしても、そもそも介入させなければ良いだけの話だ」


「畏まりました。ではすぐに早馬を出させます」


「頼んだぞ」



一礼をして部屋を退出した同志を見送ったあと、私は窓の外に視線を向けながら、これからの組織の行く末について想いを馳せる。



「ふぅ・・・ようやくここまで来たか。このまま思惑通りに3か国が争ってくれれば、我らの悲願は目前だ。あと少し、あと少しだ」



私はこれから加速していくだろう世界の動きに対処すべく、どのような不測の事態が起こってもいいように、予備計画の準備に取り掛かった。



「私の計画は完璧だ!この世界は、我々【救済の光】の名の元に統治されるのだ!!」



書き上げつつある計画書を見つめながら、私は確信していった。この世界は我々のものになるのだと。
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