剣神と魔神の息子

黒蓮

文字の大きさ
上 下
240 / 244
最終章 未来

最終決戦 20

しおりを挟む
 馬車から外に出ると、王子とその近衛騎士達も拘束されていて、目を覚ましていた王子は憮然とした表情を王女に向けていた。


騎士達は諦めとも悟りとも言えないような表情を浮かべながらも、その顔に後悔の色は無いように見られ、どのような結果になったとしても受け入れようとしている誇りが感じられる。


王子は【救済の光】の盟主であるザベクさん、ナリシャさんと横並びに跪かされており、その様子だけ見るなら、罪人として同列に扱われているようだった。



「王女殿下、お呼びとお聞きしましたが・・・」



王女に歩み寄ると、エレインが臣下の礼をとりながら僕達が来たことを告げた。王子との事もあって王族に対する礼儀など忘れていたが、彼女は王女直属の近衛騎士なので、本来はこうしなければならないということを今更ながら思い出した。


僕も彼女に倣って敬意を表した方が良いのか逡巡したが、その気勢を制するように王女が口を開いた。



「エレイン、ここは公式の場ではありませんし、事態が事態ですので気を楽にして対応してくれて構いませんよ。エイダ様もその様に」


「畏まりました」


「分かりました」



王女の言葉に、エレインは恐縮しながらも臣下の礼を止めて立ち上がった。僕としてもありがたい話だったので、多少気が楽になった。



「実は、エイダ様には今後の事について予めお話ししておきたい事がございます」



そう前置きすると王女は、この世界を巻き込んだ一連の出来事についての責任の所在と、僕の身柄について想定される扱いを簡潔に説明してくれた。


曰く、世界を揺るがす実力を有する僕に対して各国からの過剰な干渉を防ぐ為に、両親同様に僕の身分や行動に対しての条約を結ぶことになるだろうという事だ。更に、僕の能力の規格外さから、各国がより安心できるように数人の側室をもって欲しいという話までされてしまった。


事前にエレインからも同じような話をされていたが、こうして一国の王女からも懇願されるということは、余程僕の存在を警戒しなければならないという事なのだろう。まるで化け物の様な扱いをされている状態に思うところもあるが、その考えも分からないではない。為政者達にとってみれば、僕はいつ暴れ出すか分からない狂暴な魔獣で、その首には頑丈な首輪を何重にも着けておきたいという考えなのだろう。


また、僕の身柄についても幾つかの可能性を示された。このまま共和国に住まう場合、僕の両親である2人も合わせて、3人もの世界を揺るがす力を持つ存在が存在していることに対して、他国から不平・不満が噴出する可能性があるので、もしかすると国外に居を移す必要性が出るかもしれないというものだ。


更には僕の職業についてまで言及があり、当然ながら他国との力関係が崩れてしまうような国防関係の仕事はご法度で、国と繋がっている貴族の奉仕職や、国の機密文章を閲覧可能な文官職も不適当らしい。直接国と関わりが少ない職業で言えば、生産職か商売職ということになるらしい。その話を聞いて、両親がとんでもない実力を有しているにも関わらず、2人とも生産職をしていたのはそのせいだったのかと納得もした。


僕とすればエレインと一緒に居られればとも思ったが、この国には少なからず友人も居るので、為政者達の勝手な思惑で住む場所まで自由に決められないということに若干の苛立ちを覚えてしまうし、職業までも制限されるのも致し方なしと思えるほど達観しているわけでもない。


もちろん王女も、これらの話しはあくまでもこれから僕の身に振りかかるかもしれないという前提で話しているので、そんなことにはならないかもしれない。ただ、両親を取り巻く過去の出来事を勘案すると、そうなる可能性は非常に高いので、仮にその様な話しになった時に逆上しないために敢えて今のうちにこの話をしているとの事だった。


それに、王女が僕に何かを強制しようと考えている訳ではない事を事前に伝えられているし、理不尽な要求が成されようとするなら、全力で味方をすると明言してくれた。しかし、あくまで今の彼女は王位継承権を持ってはいるが、まつりごとに関しては決定権を持たないただの子供であると、申し訳なさそうに謝罪されてしまった。


僕としては、例え国王に言われたところで譲れないものがあるが、それをこの場で王女に言ったとしてもどうしようもない事だとも理解している。その為、どう王女に返答したものか困っていると、母さんが戻ってきたようで、上空から僕達の方へと降りてきた。




「久しぶりね、クリスティナ王女」


「ご無沙汰しております、サーシャ様」



 母さんの軽い挨拶に、王女は緊張した面持ちで答えていた。この一瞬のやり取りで、母さんが王女よりも上の立場にあるのだろうということが察せられた。



「エイダに何の話をしていたのかしら?」


「・・・エイダ様には、これからその身に振りかかるであろう、各国からの動きについてご説明しておりました」



母さんは、若干トゲのあるような言い方で王女に質問をしていた。王女も母さんの心情を正確に把握しているようで、申し訳なさそうな表情を浮かべていた。



「確かにそういった話しも重要かもしれないけど、私にはそれよりも先に片付けておくべき事があると思うのだけど・・・」


「・・・心得ております、サーシャ様。今回のご子息に対する共和国の非道・・・発案者はフレッド王子ではありますが、その発言を許容してしまったのは他でもない、共和国の為政者達です。このことは国家としての最重要問題として提議させていただき、関わった者達全員に然るべき処罰を受けさせるとお約束いたします」



母さんの静かに激昂しているような圧力に、王女は冷や汗を流しながら萎縮した様子で言葉を紡いでいた。そんな王女の言葉に異論を挟んだのは、当事者である王子だった。



「なっ!?待て、クリスティナ!お前にそのような事を約束する権限など無いであろう!出来もしないことを約束すーーー」


「うるせぇ坊主だなぁ。少しその口閉じてろ」



王子の言葉を遮って、苛立った顔を浮かべた父さんが現れた。まるで瞬間移動のように現れた父さんに、僕と母さん以外は目を見開いて驚いていた。そんな父さんは開口一番、王子に一瞬だけ濃密な殺気を向けると、せっかく目を覚ましていた王子を再び気絶させてしまった。



「・・・っ!し、失礼しましたジン様!彼が何と言おうと、わたくしの王女としての存在の全てを賭けてお約束いたします!必ずご子息に対して行った報いを受けさせると」



父さんの登場に、王女は更に萎縮したように身体を縮こまらせて、何とか言葉を吐き出しているような雰囲気だった。そんな彼女の言葉に、父さんは追い討ちをするように口を開いた。



「俺達が各国と結んだ相互不可侵条約の効力は、確かに息子には及ばない。が、それを良いことに、息子にだったらどんな事をしても俺達が黙っていると誤解されても困る」


「・・・はい。仰る通りです」


「そこの坊主の策略で、息子が犯罪者扱いをされたんだ、親としてその張本人と、それを認めた共和国を簡単に許すことは出来ない」


「・・・・・・」



父さんの畳み掛けるような口調に、王女はただただ申し訳ない表情を浮かべるしかないようで、何も言い返せずに縮こまってしまっている。あまりの様子に何だか可愛そうになってきた僕は、意を決して口を挟んだ。



「父さん?王女は僕の味方をしてくれていたし、今回の事に直接関わっていたわけでもないんだから、そんなに強く言わなくても良いんじゃない?」


「エイダ、世の中には謝ったらそれで終わりって事には出来ないこともあるの。今回の一件、落とし所をしっかりしないと、同じような事が起こってしまうのよ?」



僕の問い掛けに答えたのは母さんだった。母さんは僕を諭すように、今回の一件を有耶無耶の内に終わらせてはいけないと警告してきた。その視線は僕の隣に居るエレインにも向いているようで、彼女との将来の事を心配しての発言だというのが伝わってきた。



「エイダ、ご両親は君の事を本当に大事に思っているからこそ、こうして怒りも露にしているのだろう。それに、私達の事も考えてこうした行動に出てくれているのだ」



エレインは僕の肩に手を置きながら、両親の想いを代弁するように話してくれる。それは今回の一件の本質が、各国と両親が結んだ条約が僕には適用されないから起こってしまった事で、その条項で条約を結んでしまった両親が申し訳なく思っていると、暗に伝えてくれているようだった。


さらに今後の事を考えれば、力のある僕や両親が各国の策謀に巻き込まれようと、ある程度実力で打開できるが、エレインやもしかしたら将来生まれてくるかもしれない僕達の子供についてはそうはいかない可能性の方が高い。もし何かしらの条約を各国との結ぶのなら、今回の事を教訓に、僕に近しい者達にも適用されるようにしなければならない。



(って、いつの間にかエレインと結婚するのが決まっているように考えてた!でも、きっとそうなるよな・・・いや、そうなる!)



そう考えると、両親の王女に対する剣幕も理解できる。それは自分の子供が理不尽な権力に晒された事で、相手に対しても、それを予見出来なかった自分達自身に対しても感じている怒りなのだろう。そして、今後そのような事がないよう予め牽制する意味合いも込めて、両親は王女に対して強く出ているのだろう。自分達の意思を誤解なく、明確に示すように。


ただ、それは今でなくても、多くの為政者達の集まる場であっても良かったはずだ。何故今この場でという僕の疑問は、すぐに分かることとなった。



「ジン様とサーシャ様は、今回の件に与した共和国の為政者達の刷新をお求めなのですね?」



王女は両親に向かって深刻な表情をしながら、確認するように問いかけた。



「下を切り捨てるような奴らなど信用できないからな。それに、相応の処罰がなされなければ、俺達も溜飲が下がらない」


「そうね。私達家族を政治利用すると痛い目をみるということを、共和国はこの期に学んでもらおうかしら?それが他国に対しても良い教訓にもなるでしょう」



父さんと母さんの怒りを圧し殺した様な暗い笑顔に、王女は引き攣った表情を浮かべながらも、何とか返答をしていた。



「お2人のご意向、必ずや陛下にお伝えし、然るべき対応を進言致します」


「俺はこの際、次の国王の選定を行い、早期に譲位することをお勧めするぜ」


「出来れば次の国王は、平和や対話を重んじる人物が望ましいわね。あなたからの進言に、私達からの言葉と添えて付け加えておいてくれるかしら?」



王女の返答を受けて、父さんと母さんは一転して柔和な表情を浮かべながら王女に国王の位の譲位を迫っていた。その言葉を聞いた王女は、一瞬大きく目を見開くと、すぐに納得したような表情になり、決意を秘めたような顔で頷いた。



「畏まりました。わたくしの身命を賭して実現できるよう善処致します。また、エイダ様と条約を結ぶ際には、お2人にも同席をお願いいたします」


「あぁ、分かった。これから頑張りな」


「頑張ってね」



両親は王女の言葉に満足したように笑顔を浮かべると、僕の方へ振り向いてきた。そんな両親に対して僕は、自分の思い至らなかった点をカバーしてくれたことに感謝を伝えた。



「父さん母さん、僕の為に色々ありがとう」


「当然だ。俺はお前の父親なんだからな!」


「そうよエイダ。それに、本当に大変なのはこれからよ?あなたはこれから、政治闘争に巻き込まれるかもしれない。確固たる自分の考えと将来どうしたいかをよく考え、あらゆる可能性を考慮して行動するのよ?それから、困ったり分からない事があれば、必ず信頼できる人物に相談すること。勿論その際には、自分の存在が相手にとって迷惑を掛けることにならないかよく考えて動くのよ?あなたは昔から少し考え無しで動く癖があるから。それにーーー」



僕の感謝の言葉に、父さんは笑顔を向けながら短く返答してくれたのだが、母さんは僕を心配し過ぎているようで、延々とこれからの事についての忠告を受けてしまった。その話しは、ようやく落ち着いたということで時間に余裕があったことが災いしたのか、母さんの忠告はやがてお小言に変わり、更にお説教へと変貌していった。そんな母さんのありがたいお話しは、それから約1時間に渡って繰り広げられた。


その最中、僕は「うん」か「はい」としか言葉を発せず、父さんやエレイン達はその様子をしばらく見ていたが、やがてすぐには終わらないと悟ったのだろう、僕達から離れて後処理を始めたようだった。



「エイダ!ちゃんと聞いてるの!?」


「は、はい!聞いてます!」



エレイン達の様子を見ようと少し余所見していると、母さんが額に青筋を浮かべながら僕を叱りつけてきたので、反射的に背筋を伸ばして母さんに向き直ったのだった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

極悪チャイルドマーケット殲滅戦!四人四様の催眠術のかかり方!

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:844pt お気に入り:35

ドラゴン☆マドリガーレ

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:1,428pt お気に入り:670

【オンボロ剣】も全て【神剣】に変える最強術者

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:1,233

トラブルに愛された夫婦!三時間で三度死ぬところやったそうです!

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:894pt お気に入り:34

処理中です...