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そして白鬼は王様と
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紫の魚がいなくなってから、数日が経ちました。白鬼は様々な悲しみから回復し、元のように教会の手伝いをしています。
そんなある日のことでした。外で白鬼がティグレたちと洗濯ものを干していると、馬の足音が聞こえてきました。
馬は教会で足を止めました。乗っていた人は慣れた様子で馬から下りると、ずんずんと白鬼たちの方へやってきます。その顔を見て、白鬼はぎょっとしてしまいました。白鬼の記憶より老けてはいるものの、彼はフォスキーアでした。
他の修道女や子供たちもフォスキーアに気が付いたようで、作業の手を止めて平伏しました。白鬼もそれに倣い、顔を伏せました。
ただひとり、そうしなかった人がいました。ティグレでした。ティグレはフォスキーアに近づくと、にこりと笑いました。
「お父さま、ようこそ。前触れもなしに現れるなんて驚きました」
ティグレが発した「お父さま」という言葉に、白鬼は思わず顔を上げそうになってしまいました。が、なんとか耐えました。
フォスキーアは愛しいものを見る目で、ティグレの頭を撫でました。
「仕事でこちらの方面に行っていたのでな。帰りに娘の顔を見ようと思ったのだ。元気にしているか?」
「はい、お父さま」
仲睦まじい親子の会話を聞きながら、白鬼は冷や汗が止まりませんでした。顔を見られれば、彼は白鬼がかつて海に沈めた庭師だと気づくでしょう。そうすれば、白鬼の正体がバレてしまいます。
なんとかこのまま去ってほしいと願っていた白鬼ですが、それは叶わぬものとなりました。
「お父さま、実は先日、記憶喪失の男の人を海で見つけたんです。お父さまの力で、彼を家に帰してあげられないでしょうか?」
「ふむ、他ならないティグレの頼みなら聞いてやろう。それはどいつだ?」
「彼です」
ティグレは平伏したままの白鬼の背中を、そっと撫でました。白鬼の心臓が、ばくばくと大きな音を立てます。
「面を上げなさい」
「ビアンコ、驚かせてごめんなさいね。私、お父さまに頼んでこの教会で働かせてもらっているの。大丈夫よ、お父さまは優しいから」
ふたりにせっつかれて、白鬼は仕方なく顔を上げました。白鬼とフォスキーアの目が合った瞬間、フォスキーアの顔がさっと青くなりました。
「おっ、お前、なんでここに……いや、どうして生きて……!?」
フォスキーアは一歩後ろによろめきました。ティグレが「お父さま?」と首を傾げています。
フォスキーアはなおも白鬼を凝視していましたが、やがて乾いた笑い声をあげました。それから、ぶつぶつと呟きます。
「は、ははっ、そんなわけがないか。あの男は海に沈めたんだ。生きているわけがない。仮に運よく生き延びたとして、あの時のままじゃないか。そうだ、息子か何かだろう」
「お父さま? しっかりして」
ティグレが真っ青な顔をしたフォスキーアの背中をさすります。
そんなある日のことでした。外で白鬼がティグレたちと洗濯ものを干していると、馬の足音が聞こえてきました。
馬は教会で足を止めました。乗っていた人は慣れた様子で馬から下りると、ずんずんと白鬼たちの方へやってきます。その顔を見て、白鬼はぎょっとしてしまいました。白鬼の記憶より老けてはいるものの、彼はフォスキーアでした。
他の修道女や子供たちもフォスキーアに気が付いたようで、作業の手を止めて平伏しました。白鬼もそれに倣い、顔を伏せました。
ただひとり、そうしなかった人がいました。ティグレでした。ティグレはフォスキーアに近づくと、にこりと笑いました。
「お父さま、ようこそ。前触れもなしに現れるなんて驚きました」
ティグレが発した「お父さま」という言葉に、白鬼は思わず顔を上げそうになってしまいました。が、なんとか耐えました。
フォスキーアは愛しいものを見る目で、ティグレの頭を撫でました。
「仕事でこちらの方面に行っていたのでな。帰りに娘の顔を見ようと思ったのだ。元気にしているか?」
「はい、お父さま」
仲睦まじい親子の会話を聞きながら、白鬼は冷や汗が止まりませんでした。顔を見られれば、彼は白鬼がかつて海に沈めた庭師だと気づくでしょう。そうすれば、白鬼の正体がバレてしまいます。
なんとかこのまま去ってほしいと願っていた白鬼ですが、それは叶わぬものとなりました。
「お父さま、実は先日、記憶喪失の男の人を海で見つけたんです。お父さまの力で、彼を家に帰してあげられないでしょうか?」
「ふむ、他ならないティグレの頼みなら聞いてやろう。それはどいつだ?」
「彼です」
ティグレは平伏したままの白鬼の背中を、そっと撫でました。白鬼の心臓が、ばくばくと大きな音を立てます。
「面を上げなさい」
「ビアンコ、驚かせてごめんなさいね。私、お父さまに頼んでこの教会で働かせてもらっているの。大丈夫よ、お父さまは優しいから」
ふたりにせっつかれて、白鬼は仕方なく顔を上げました。白鬼とフォスキーアの目が合った瞬間、フォスキーアの顔がさっと青くなりました。
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「は、ははっ、そんなわけがないか。あの男は海に沈めたんだ。生きているわけがない。仮に運よく生き延びたとして、あの時のままじゃないか。そうだ、息子か何かだろう」
「お父さま? しっかりして」
ティグレが真っ青な顔をしたフォスキーアの背中をさすります。
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