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そして魔女は語り
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教会を離れた白鬼は一目散に、魔女が住む森へと向かいました。遠くから、数人が駆けてくる足音が聞こえてきます。兵士たちが白鬼を追いかけてきているようです。
白鬼は森へと入りました。兵士たちに見つからないよう、木陰に隠れながら移動します。
森に入った時から、白鬼の額がずきずきと痛むようになっていました。それは森の魔女の家に近づくにつれて、どんどん大きくなっていきます。
森の魔女の家が見えると、その痛みは焼けるようなものに変わりました。そこで白鬼は意識を手放してしまいました。
▽
目を覚ますと、白鬼はベッドで寝ていました。あたりを見回すと、怪しい色の薬が入った瓶が雑然と並んだ棚と、フラスコや植物などがごちゃごちゃに置かれた机が目に入りました。白鬼はここが、森の魔女の家だと気づきました。
「やあ、目が覚めたかい? 僕のベッドを1日占領するなんて、これは何か対価を支払ってもらわないといけないなぁ」
そう言いながら、どこにいたのか森の魔女が現れました。白鬼はゆっくりとベッドから出ました。
「ありがとう。俺が支払えるもんならなんでも払うが」
「あー。冗談だよ冗談! この間君にもらった刀、スミレの花と交換だったろう? けどこのふたつじゃ価値がつりあってないって思ってたんだよね。だからこれでトントン……いやまだ足りないかな? もうひとつ、君のお願いを聞いてやっと等価ってところかな」
森の魔女は悪戯っ子のような笑みを白鬼に向けました。白鬼は小さくため息をつきます。
「素直に『タダで君の願いを叶えてあげるよ!』とでも言やァいいのによ」
「ん~回りくどかった? ごめんごめん。あんまり人と喋らないとさ、ついついいっぱい喋りたくなっちゃうんだよね」
森の魔女は下をペロリと出した後、「さてさて」と言って水晶玉を取り出し、机の上に置きました。
「君の願いは、『ファイルヒェンがどこにいるか知りたい』で合ってるかな?」
「合ってる」
「よしよし。だけど素直に教えるのも面白くないからね、君には僕の昔話につきあってもらおう」
「は?」
白鬼は怪訝な顔をして森の魔女を睨みましたが、彼女にとっては糠に釘だったようで、くすくすと愉快そうに笑うだけでした。白鬼はため息をつきました。
「分かった、聞く。話せ」
白鬼は空いていた椅子に腰をかけ、森の魔女の声に耳を傾けました。
▽
彼女が森の魔女の家を訪れたのは、結婚式が行われた日の夜だった。本来ならフォスキーアとの初めての夜を迎えているはずの時間帯だったね。
まぁ僕は彼女が来るのが分かっていたから、笑顔で迎え入れてあげたよ。
「いらっしゃい、お嬢さん。来ると思っていたよ。まぁ座って座って」
彼女は僕を睨みつけてきたけど、言う通りに椅子に座った。警戒心がとても強い猫みたいで面白かったな。
「それで、書類上はアナスン王国の第一皇子の妻になった君が、僕に何の用かな?」
「とぼけないで。分かってるんでしょう? 私をミタマの傍にいられるようにしてちょうだい」
「それは、彼が海に沈んでいると知ってての発言かい?」
僕がそう言えば、彼女はひざの上で拳を握りしめていたよ。
「……ええ、聞いたわ。ミタマの先輩から、フォスキーアがミタマを処分したって」
「君は王子さまから、彼は突然失踪したと聞いていたんだろう? どうして庭師の言うことの方を信じるんだい?」
彼女は黙ったまま、机の上に1枚の小さな長方形の紙を置いた。そこにはスミレの花が貼り付けてあったんだ。
「最初は私も、フォスキーアの言うことを信じた。だけど結婚式で、私の席にこれが飾られていた。これを用意したのはミタマだって、すぐに気づいたわ。私がスミレを好きだって知ってるのは、あの子しかいないもの。同時に理解した。あの子が私の傍から姿を消すなんておかしいって」
「そうかな? 恋した女が別の男と幸せになるところなんて、見ていられないじゃないかい?」
「ミタマはそんな子じゃないわ」
「どうして君にそんなことが分かる? 君が彼と過ごした時間は短いじゃないか」
「どうしたって私にはわかるのよ! あの子は私のミタマなんだから! それに現に、ミタマの先輩に聞いたらフォスキーアが処分したって教えてくれた!」
彼女は目に涙を溜めて、僕を睨んだ。ちょっといじめすぎたかなぁと思って、僕はすぐに謝ったよ。
「ごめんごめん。君が本気かどうかを確認したかったんだ」
それから僕は、棚から1本の小瓶を取り出して、彼女の前に置いた。彼女は怪訝そうに、その小瓶に入ってる、深い海の底を思わせるような暗い青色の液体を眺めていたよ。
「その薬を飲めば、君は魚になれる。そうしたら、彼の傍にいられるよ」
彼女は僕の言葉を聞いて、ごくりと唾を飲み込んだ。額に冷や汗がにじんでいたから、ちょっと怖かったんだろうね。
「……確か、代償を払わないといけないのよね?」
「ああ。君が払う代償は、その美しい容姿と声をなくすことだよ」
「なるほどね」
「ここで飲んで大丈夫だよ。近くの海まで、僕が運んであげる。そこからは頑張って泳いで、彼の元まで行くんだ」
僕がそう説明したら、彼女は唇をぎゅっと引き結んだ後に、小瓶を掴んで一気にその薬を飲み干した。彼女はあっという間に魚になった。きれいな紫色だったよ。
僕はそんな彼女を、海に放してあげたのさ。
白鬼は森へと入りました。兵士たちに見つからないよう、木陰に隠れながら移動します。
森に入った時から、白鬼の額がずきずきと痛むようになっていました。それは森の魔女の家に近づくにつれて、どんどん大きくなっていきます。
森の魔女の家が見えると、その痛みは焼けるようなものに変わりました。そこで白鬼は意識を手放してしまいました。
▽
目を覚ますと、白鬼はベッドで寝ていました。あたりを見回すと、怪しい色の薬が入った瓶が雑然と並んだ棚と、フラスコや植物などがごちゃごちゃに置かれた机が目に入りました。白鬼はここが、森の魔女の家だと気づきました。
「やあ、目が覚めたかい? 僕のベッドを1日占領するなんて、これは何か対価を支払ってもらわないといけないなぁ」
そう言いながら、どこにいたのか森の魔女が現れました。白鬼はゆっくりとベッドから出ました。
「ありがとう。俺が支払えるもんならなんでも払うが」
「あー。冗談だよ冗談! この間君にもらった刀、スミレの花と交換だったろう? けどこのふたつじゃ価値がつりあってないって思ってたんだよね。だからこれでトントン……いやまだ足りないかな? もうひとつ、君のお願いを聞いてやっと等価ってところかな」
森の魔女は悪戯っ子のような笑みを白鬼に向けました。白鬼は小さくため息をつきます。
「素直に『タダで君の願いを叶えてあげるよ!』とでも言やァいいのによ」
「ん~回りくどかった? ごめんごめん。あんまり人と喋らないとさ、ついついいっぱい喋りたくなっちゃうんだよね」
森の魔女は下をペロリと出した後、「さてさて」と言って水晶玉を取り出し、机の上に置きました。
「君の願いは、『ファイルヒェンがどこにいるか知りたい』で合ってるかな?」
「合ってる」
「よしよし。だけど素直に教えるのも面白くないからね、君には僕の昔話につきあってもらおう」
「は?」
白鬼は怪訝な顔をして森の魔女を睨みましたが、彼女にとっては糠に釘だったようで、くすくすと愉快そうに笑うだけでした。白鬼はため息をつきました。
「分かった、聞く。話せ」
白鬼は空いていた椅子に腰をかけ、森の魔女の声に耳を傾けました。
▽
彼女が森の魔女の家を訪れたのは、結婚式が行われた日の夜だった。本来ならフォスキーアとの初めての夜を迎えているはずの時間帯だったね。
まぁ僕は彼女が来るのが分かっていたから、笑顔で迎え入れてあげたよ。
「いらっしゃい、お嬢さん。来ると思っていたよ。まぁ座って座って」
彼女は僕を睨みつけてきたけど、言う通りに椅子に座った。警戒心がとても強い猫みたいで面白かったな。
「それで、書類上はアナスン王国の第一皇子の妻になった君が、僕に何の用かな?」
「とぼけないで。分かってるんでしょう? 私をミタマの傍にいられるようにしてちょうだい」
「それは、彼が海に沈んでいると知ってての発言かい?」
僕がそう言えば、彼女はひざの上で拳を握りしめていたよ。
「……ええ、聞いたわ。ミタマの先輩から、フォスキーアがミタマを処分したって」
「君は王子さまから、彼は突然失踪したと聞いていたんだろう? どうして庭師の言うことの方を信じるんだい?」
彼女は黙ったまま、机の上に1枚の小さな長方形の紙を置いた。そこにはスミレの花が貼り付けてあったんだ。
「最初は私も、フォスキーアの言うことを信じた。だけど結婚式で、私の席にこれが飾られていた。これを用意したのはミタマだって、すぐに気づいたわ。私がスミレを好きだって知ってるのは、あの子しかいないもの。同時に理解した。あの子が私の傍から姿を消すなんておかしいって」
「そうかな? 恋した女が別の男と幸せになるところなんて、見ていられないじゃないかい?」
「ミタマはそんな子じゃないわ」
「どうして君にそんなことが分かる? 君が彼と過ごした時間は短いじゃないか」
「どうしたって私にはわかるのよ! あの子は私のミタマなんだから! それに現に、ミタマの先輩に聞いたらフォスキーアが処分したって教えてくれた!」
彼女は目に涙を溜めて、僕を睨んだ。ちょっといじめすぎたかなぁと思って、僕はすぐに謝ったよ。
「ごめんごめん。君が本気かどうかを確認したかったんだ」
それから僕は、棚から1本の小瓶を取り出して、彼女の前に置いた。彼女は怪訝そうに、その小瓶に入ってる、深い海の底を思わせるような暗い青色の液体を眺めていたよ。
「その薬を飲めば、君は魚になれる。そうしたら、彼の傍にいられるよ」
彼女は僕の言葉を聞いて、ごくりと唾を飲み込んだ。額に冷や汗がにじんでいたから、ちょっと怖かったんだろうね。
「……確か、代償を払わないといけないのよね?」
「ああ。君が払う代償は、その美しい容姿と声をなくすことだよ」
「なるほどね」
「ここで飲んで大丈夫だよ。近くの海まで、僕が運んであげる。そこからは頑張って泳いで、彼の元まで行くんだ」
僕がそう説明したら、彼女は唇をぎゅっと引き結んだ後に、小瓶を掴んで一気にその薬を飲み干した。彼女はあっという間に魚になった。きれいな紫色だったよ。
僕はそんな彼女を、海に放してあげたのさ。
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