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ヴァルト=ルゲルスと変わった雌1
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薄暗い室内。
立ち並ぶガラスケース。
雌を品定めする野郎共。
その全てに吐き気がした。
「お兄さん、ここははじめて?」
「あ゛?」
端で蹲っていると背後から声がして、振り向く。
身体に合ってない大きな服を着た小柄な少年で、ヴァルトは咥えていた煙草の火を消した。
少年の細い首輪には首輪があった。
「たまにいるんですよねぇ。気分が悪くなっちゃう人。ちょっと過激ですからねぇ」
「お前は」
「僕はいま、お散歩中なのです」
人差し指を立てて、ふふんと言った少年は、普通の少年に見えた。
「ご安心ください。お外でサカったりしないですよぉ」
胡散臭い少年ではあるが、その言動はケースの中の雌とは違ってしっかりしている。
しかし、気になることはある。
「雌を放し飼いするなんざ、聞いたことねぇが?」
少年がぱちぱちと空色の目を瞬かせ、へらぁと誤魔化すように笑った。
その直後。
「いた!!見つけたぞ!!」
「489番!発見!!」
10人ほどの飼育員が必死の形相で駆けてくる。手には網やら縄やらを持っている。
「おやぁ、見つかってしまったか」
少年は呑気に言って、降参と手を挙げた。
飼育員たちは手早く首輪にリードをつけて、逃げられないように囲った。
飼育員の1人がこちらに来て深々と頭を下げた。
「大変申し訳ございません。このようなことあってはいけないのですが」
怪我はないか、失礼なことを言ってはいないかなどを聞かれたが「ねえよ」とだけ答える。
少年を見ると、怒られてはいるのだがこれっぽっちも反省していなかった。
「ドアが開いてたので散歩してもいいかなって思っちゃいまして。ほらぁ、あんなとこずっといたら気が滅入っちゃうんですよぉ」
調子が狂う。
髪をかきあげて、飼育員に言った。
「そいつ、空いてるなら、買わせろ」
薄暗い部屋だ。大きなベッドと浴室しかない作りなのは他と同様ではあったが、その作りは今まで見た中では簡素なものだ。
「僕は庶民ですから、豪華なの、苦手なんです」
たしか出産率が足りないとかで、庶民からも雌を集め始めたのは聞いていた。
タダ同然で集めるので、集まるかといえばそうでもないらしいが。
「お兄さん、初見さんかと思ったらそうでもないみたいですねぇ。すみませんね、変な雌に関わったせいで、こんな流れになってしまって」
コートやら何やらを脱ぎ捨てると、少年は拾ってハンガーにかけていく。
「高そうな服。立派な紋章。若いのに杖。お貴族さまなのはわかるんですけど、僕その辺りよくわかんないんですよね」
そうしていると本当に普通だ。
ヴァルトは欠伸をしてベッドに転がった。
「お前適当にしてろ。俺は寝る」
「へ?」
「元々、俺は付き合いで来ただけだ。元々雌とヤるつもりもねぇよ」
「だったら、何故、僕を?」
「お前、ヤりたくねぇから逃げ回ってたんじゃねぇの?俺は適当に時間潰せればいいからな」
「………あ、わかってたんですね」
ちょこんと、ベッドの端に座る。
「お前、名前は?」
「フィーです」
「フィー、お前も好きなことしてろ。明け方起こせ」
「はい、わかりました。おやすみなさい。えっと」
「あ?ヴァルトだ」
「ヴァルトさん」
フィーは苦笑し、離れたところで横になった。
ヤりたくない日は呼べ。
そう伝えれば、フィーは飼育員を使って連絡をよこすようになった。
こちらも、雌を相手してる記録さえ残しておけばよかったので都合が良い。
お互い良いように使った。
たまに、外の空気が吸いたいというので、散歩に連れ出してやったり、適当な話をしたり。どちらも話はそれほど上手くないので、お互いぼんやりすることの方が多く、気づけば寝ていた。
散歩に連れ出す際は首輪にリード。
ヴァルトはそれが好きではないので、適当なところで手を離した。
最初は「だめですよ。ちゃんと持っててもらわないと逃げたくなっちゃうじゃないですか」と言われたが「俺に迷惑をかけるな」と言ってはあるので逃げはしないようだった。
フィーは一定の距離を保ってヴァルトについてくる。たまに、木陰で交尾に耽ったり特殊なプレイを楽しんでいる雄雌に遭遇する。ヴァルトが眉を寄せて明らかに嫌そうな顔をするのでフィーが笑って、睨まれるのが常だった。
「雌のくせに、お前みたいなのは他にいるのか?」
雌のくせに普通に過ごせる奴はいるのかという意味でヴァルトは尋ねる。
「あーまぁ、いますよ。少ないですけど。雌としては精神的にも肉体的にも負担がかかるのでよろしくないんですよね」
「負担?」
「僕だって、雌としてめちゃくちゃになってる自分をあえて認識したくないですよ。そりゃもう、冷静になった瞬間死にたくなります。肉体的にも、雌だったり雌の機能が治ったりしてる状態なのでとても負担がかかります。あとしたくないのが長引くと、入れるの大変ですしね」
「原因は?」
「それがわかったら苦労しませんよ。体質とか性質とかそんなじゃないですか?飼育員さんとか調教師さんたちも頑張ってくれたんですけど、したくないときはしたくないんですよ。下手に負担かけて完全に壊れてしまったら元も子もないのでわりと自由にさせてもらってます。…あ、なにを頑張ったか聞きますぅ?」
「興味ねぇ」
「はっきり言ってくれますね。これ持ちネタなんですけどね、僕の」
フィーは、ぴったりとヴァルトの腕に身体を寄せた。
大きめの服を着ていると言っても、その布地は薄いのでくっつけば線は明らかにわかるし、肌も見え隠れしている。
「ヴァルトさん」
フィーは小柄なのでヴァルトを見るときはほぼ真上をみるような形になった。
「あ?」
「怖。やめます。デートみたいだなとか思ったけど、本人は全然その気じゃないみたいですし」
ひらりとまた離れる。
「なにがデートだ。犬の散歩だろ」
フィーは口をあけた。
「犬ですか。僕は」
言い過ぎたか、とヴァルトは思うが。
「ヴァルトさんがもう少しその気になって、僕が狂っていれば喜んで耳と尻尾つけてプレイしてあげられたのに、残念ですね」
フィーがけらけら笑うものだから撤回するのはやめた。
ヴァルトがベッドの上で新聞を読み、コーヒーを啜っている。
フィーもベッドの上でゴロゴロしながらそのヴァルトの顔を眺めていた。
「あのですね、ここは、カフェではないんですよ?わかってます?」
「あぁ?」
「怖い顔しておけば良いって思わないでくださいね。ここは、雄と僕が交尾する部屋であって、カフェでも貴方のプライベートスペースでもないんですよ。良いように部屋を改造しちゃってもう。これだから金持ちは」
改造といってもそんなに手は加えていない。少し部屋を広くして、テーブルやら椅子やら、ソファやらを追加しただけだ。
「お前だってソファは気に入ってただろうが」
「いかにもヤれと言わんばかり家具しかないのが嫌だっただけです。でもヴァルトさんセンスは良いので、満足はしてますよ。変に煌びやかじゃないですし。雌に貢ぐ雄は好まれます。…まぁ、その価値がわかる雌でないとなのでヴァルトさんの貢ぐものが好まれるかは微妙ですが」
「俺はお前にやったんだから、お前が喜んでるならいいだろ」
「……ヴァルトさん、たまーに嬉しいこと言ってくれますよね。コーヒーおかわり入れますね。あ、入れるのは僕ではなく飼育員さんですけどね」
フィーが扉をあけて、飼育員を呼んでカップを渡した。飼育員は人の良さそうな男だ。ヴァルトはその飼育員がフィーに精液を飲ませていることは知っていた。ここはそういうところで、コレはそういう生き物だ。
「はい、どーぞ。コーヒーはあまり飲みすぎるとよくないって言ってましたよ。なのでこれが最後です」
ふと気になったことを聞いてみる。
「………お前は飲めねぇのか?」
「それ、聞きます?」
フィーは苦笑した。
ヴァルトのカップに口をつけてぺろりと舐める。
「うん、美味しくないです」
「……毒ではないんだな」
「そうですね。たぶん普通に飲めるとは思いますよ。たぶん。飲みたいとは思いませんけど」
そう言ってヴァルトの指をとってぺろりと舐めた。
「こっちのほうが、美味しいんですよ。まぁ、唾液とかミルクの方が良いんですけど。嫌でしょうから」
ふふふと笑う顔をデコピンして、コーヒーを飲んだ。味は悪くない。
「あーあと、あれは好きです。水とかを口移しでされるやつ。雄の唾液が交じってるのすごいすき」
「お前、もう口を開くな」
「ひどいですねぇ」
立ち並ぶガラスケース。
雌を品定めする野郎共。
その全てに吐き気がした。
「お兄さん、ここははじめて?」
「あ゛?」
端で蹲っていると背後から声がして、振り向く。
身体に合ってない大きな服を着た小柄な少年で、ヴァルトは咥えていた煙草の火を消した。
少年の細い首輪には首輪があった。
「たまにいるんですよねぇ。気分が悪くなっちゃう人。ちょっと過激ですからねぇ」
「お前は」
「僕はいま、お散歩中なのです」
人差し指を立てて、ふふんと言った少年は、普通の少年に見えた。
「ご安心ください。お外でサカったりしないですよぉ」
胡散臭い少年ではあるが、その言動はケースの中の雌とは違ってしっかりしている。
しかし、気になることはある。
「雌を放し飼いするなんざ、聞いたことねぇが?」
少年がぱちぱちと空色の目を瞬かせ、へらぁと誤魔化すように笑った。
その直後。
「いた!!見つけたぞ!!」
「489番!発見!!」
10人ほどの飼育員が必死の形相で駆けてくる。手には網やら縄やらを持っている。
「おやぁ、見つかってしまったか」
少年は呑気に言って、降参と手を挙げた。
飼育員たちは手早く首輪にリードをつけて、逃げられないように囲った。
飼育員の1人がこちらに来て深々と頭を下げた。
「大変申し訳ございません。このようなことあってはいけないのですが」
怪我はないか、失礼なことを言ってはいないかなどを聞かれたが「ねえよ」とだけ答える。
少年を見ると、怒られてはいるのだがこれっぽっちも反省していなかった。
「ドアが開いてたので散歩してもいいかなって思っちゃいまして。ほらぁ、あんなとこずっといたら気が滅入っちゃうんですよぉ」
調子が狂う。
髪をかきあげて、飼育員に言った。
「そいつ、空いてるなら、買わせろ」
薄暗い部屋だ。大きなベッドと浴室しかない作りなのは他と同様ではあったが、その作りは今まで見た中では簡素なものだ。
「僕は庶民ですから、豪華なの、苦手なんです」
たしか出産率が足りないとかで、庶民からも雌を集め始めたのは聞いていた。
タダ同然で集めるので、集まるかといえばそうでもないらしいが。
「お兄さん、初見さんかと思ったらそうでもないみたいですねぇ。すみませんね、変な雌に関わったせいで、こんな流れになってしまって」
コートやら何やらを脱ぎ捨てると、少年は拾ってハンガーにかけていく。
「高そうな服。立派な紋章。若いのに杖。お貴族さまなのはわかるんですけど、僕その辺りよくわかんないんですよね」
そうしていると本当に普通だ。
ヴァルトは欠伸をしてベッドに転がった。
「お前適当にしてろ。俺は寝る」
「へ?」
「元々、俺は付き合いで来ただけだ。元々雌とヤるつもりもねぇよ」
「だったら、何故、僕を?」
「お前、ヤりたくねぇから逃げ回ってたんじゃねぇの?俺は適当に時間潰せればいいからな」
「………あ、わかってたんですね」
ちょこんと、ベッドの端に座る。
「お前、名前は?」
「フィーです」
「フィー、お前も好きなことしてろ。明け方起こせ」
「はい、わかりました。おやすみなさい。えっと」
「あ?ヴァルトだ」
「ヴァルトさん」
フィーは苦笑し、離れたところで横になった。
ヤりたくない日は呼べ。
そう伝えれば、フィーは飼育員を使って連絡をよこすようになった。
こちらも、雌を相手してる記録さえ残しておけばよかったので都合が良い。
お互い良いように使った。
たまに、外の空気が吸いたいというので、散歩に連れ出してやったり、適当な話をしたり。どちらも話はそれほど上手くないので、お互いぼんやりすることの方が多く、気づけば寝ていた。
散歩に連れ出す際は首輪にリード。
ヴァルトはそれが好きではないので、適当なところで手を離した。
最初は「だめですよ。ちゃんと持っててもらわないと逃げたくなっちゃうじゃないですか」と言われたが「俺に迷惑をかけるな」と言ってはあるので逃げはしないようだった。
フィーは一定の距離を保ってヴァルトについてくる。たまに、木陰で交尾に耽ったり特殊なプレイを楽しんでいる雄雌に遭遇する。ヴァルトが眉を寄せて明らかに嫌そうな顔をするのでフィーが笑って、睨まれるのが常だった。
「雌のくせに、お前みたいなのは他にいるのか?」
雌のくせに普通に過ごせる奴はいるのかという意味でヴァルトは尋ねる。
「あーまぁ、いますよ。少ないですけど。雌としては精神的にも肉体的にも負担がかかるのでよろしくないんですよね」
「負担?」
「僕だって、雌としてめちゃくちゃになってる自分をあえて認識したくないですよ。そりゃもう、冷静になった瞬間死にたくなります。肉体的にも、雌だったり雌の機能が治ったりしてる状態なのでとても負担がかかります。あとしたくないのが長引くと、入れるの大変ですしね」
「原因は?」
「それがわかったら苦労しませんよ。体質とか性質とかそんなじゃないですか?飼育員さんとか調教師さんたちも頑張ってくれたんですけど、したくないときはしたくないんですよ。下手に負担かけて完全に壊れてしまったら元も子もないのでわりと自由にさせてもらってます。…あ、なにを頑張ったか聞きますぅ?」
「興味ねぇ」
「はっきり言ってくれますね。これ持ちネタなんですけどね、僕の」
フィーは、ぴったりとヴァルトの腕に身体を寄せた。
大きめの服を着ていると言っても、その布地は薄いのでくっつけば線は明らかにわかるし、肌も見え隠れしている。
「ヴァルトさん」
フィーは小柄なのでヴァルトを見るときはほぼ真上をみるような形になった。
「あ?」
「怖。やめます。デートみたいだなとか思ったけど、本人は全然その気じゃないみたいですし」
ひらりとまた離れる。
「なにがデートだ。犬の散歩だろ」
フィーは口をあけた。
「犬ですか。僕は」
言い過ぎたか、とヴァルトは思うが。
「ヴァルトさんがもう少しその気になって、僕が狂っていれば喜んで耳と尻尾つけてプレイしてあげられたのに、残念ですね」
フィーがけらけら笑うものだから撤回するのはやめた。
ヴァルトがベッドの上で新聞を読み、コーヒーを啜っている。
フィーもベッドの上でゴロゴロしながらそのヴァルトの顔を眺めていた。
「あのですね、ここは、カフェではないんですよ?わかってます?」
「あぁ?」
「怖い顔しておけば良いって思わないでくださいね。ここは、雄と僕が交尾する部屋であって、カフェでも貴方のプライベートスペースでもないんですよ。良いように部屋を改造しちゃってもう。これだから金持ちは」
改造といってもそんなに手は加えていない。少し部屋を広くして、テーブルやら椅子やら、ソファやらを追加しただけだ。
「お前だってソファは気に入ってただろうが」
「いかにもヤれと言わんばかり家具しかないのが嫌だっただけです。でもヴァルトさんセンスは良いので、満足はしてますよ。変に煌びやかじゃないですし。雌に貢ぐ雄は好まれます。…まぁ、その価値がわかる雌でないとなのでヴァルトさんの貢ぐものが好まれるかは微妙ですが」
「俺はお前にやったんだから、お前が喜んでるならいいだろ」
「……ヴァルトさん、たまーに嬉しいこと言ってくれますよね。コーヒーおかわり入れますね。あ、入れるのは僕ではなく飼育員さんですけどね」
フィーが扉をあけて、飼育員を呼んでカップを渡した。飼育員は人の良さそうな男だ。ヴァルトはその飼育員がフィーに精液を飲ませていることは知っていた。ここはそういうところで、コレはそういう生き物だ。
「はい、どーぞ。コーヒーはあまり飲みすぎるとよくないって言ってましたよ。なのでこれが最後です」
ふと気になったことを聞いてみる。
「………お前は飲めねぇのか?」
「それ、聞きます?」
フィーは苦笑した。
ヴァルトのカップに口をつけてぺろりと舐める。
「うん、美味しくないです」
「……毒ではないんだな」
「そうですね。たぶん普通に飲めるとは思いますよ。たぶん。飲みたいとは思いませんけど」
そう言ってヴァルトの指をとってぺろりと舐めた。
「こっちのほうが、美味しいんですよ。まぁ、唾液とかミルクの方が良いんですけど。嫌でしょうから」
ふふふと笑う顔をデコピンして、コーヒーを飲んだ。味は悪くない。
「あーあと、あれは好きです。水とかを口移しでされるやつ。雄の唾液が交じってるのすごいすき」
「お前、もう口を開くな」
「ひどいですねぇ」
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