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渦
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やっほー、という軽いノリの男に、タカは一礼して彼の名前を呼んだ。
「ご無沙汰しております。晟雅王子。お招き預かりましてありがとうございます」
丁寧なタカに、晟雅はばんばん、とタカの肩をたたいた。
「元気だった?」
「はい。王子も」
「もうっ!かたいな~。『晟雅』ってよんでよ!いつもみたいに!」
ぷくっと頬を膨らませて、晟雅は抗議する。
『いつも』
遠く離れたこの地で、タカにそう言う晟雅。頻繁に会っているわけでもないのに、このうちとけた間柄がとても不思議だとヤナは思った。
「いつも、みたいに?」
ヤナが晟雅の言葉を反芻すると、晟雅はにっこり笑ってヤナとシダカに挨拶した。
「初めまして!俺は、晟雅・橄欖石(セイガ・ペリドット)。この国の第二王子です。よろしくね!晟雅って呼んで!」
気さくな挨拶に、ヤナは驚いた。思わずタカを見て、どう反応していいものか困惑した。タカはため息をついて、ヤナに耳打ちする。
「いつもこんなんなんだ。晟雅って呼んでいい」
「え、いいの?」
うん、とタカが頷いた。ただ、簡単に言えるはずもなく。
「はじめまして。お招きありがとうございます。私はヤナ・ユルスナールです。よろしくお願いします」
「僕は、シダカ・ユルスナール。ツィスニル国の外交官見習いとして参りました。よろしくお願いします」
二人そろって礼をする。
晟雅はにっこり笑って。
「ヤナに、シダカね!こちらこそ、よろしくお願いします。二人は……兄妹?苗字が一緒だもんね?」
シダカもヤナも顔をしっかり見れば、目元は優しそうな目をしていてそっくりなのだが、パッと見、髪と瞳の色が違うため、兄妹と気づかない人も多いだろう。シダカの髪と瞳は茶色。対して、ヤナは黒髪緑眼。
「はい。双子の兄妹です。一応、僕は外交官見習いではありますが、正式なものではありません。レヲイ・サシャイン陛下の御心にそって、タカに同行させていただきました」
「そっか。俺の方が年下かな?敬語でしゃべんなくていいよ?」
「二人は俺と同じ年齢です」
タカは晟雅にそう告げる。
「じゃぁ、余計に肩の力抜いて!クレオード国を楽しんでいってね!」
*
綺麗な照明に、クレオード特有の刺繍の絨毯。幾何学的な文様が目を引いた。失礼のないように、とは思うものの、見慣れないものばかりでヤナはきょろきょろと目が泳ぐ。外交官はほかの部屋に、クレオード国の大臣と一緒に向かい、タカとヤナ、シダカの三人は応接室に招かれた。しばらくすると、宮仕えの女性二人が四人の前にお茶と茶菓子を用意した。
「よかったら食べてね」
晟雅はそう言って、ティーカップに砂糖を入れる。ひカもそれに倣ってお茶を口に運んだ。四人がお茶を一杯づつ飲んで、宮仕えの女性たちが空になった茶器にお茶を注ぐ。四人の茶器にお茶が注がれたところで、晟雅は軽く手をあげる。宮仕えの女性たちはその動きを見て、軽く一礼をして退出をした。四人が無言で彼女が去っていくのを見送る。彼女たちが席を外したところでタカは口火を切った。
「で、俺に何をさせるために呼んだんだ?」
タカの単刀直入すぎる言葉に、晟雅は肩をすくめた。仕方がないな、というような苦笑をしているような、何とも言えない顔をする。
外交官や大臣、周りの人たちがいる前で丁寧な態度を崩さなかったタカだったが、ヤナとシダカ、晟雅のみになった途端、そっけない態度になった。いや、タカにとっては打ち解けているような、飾らない態度であった。まるで、本当に何年も一緒にいる友のような。シダカに対する態度と幾分変わらぬそれは、一国の王子にしていい態度なのだろうか。―――いや、タカも元ツィスニル国の王子。今は、王族から抜けているとはいえ、国王の弟だ。対等の立場ということになるのだろうか。
ヤナは戸惑っていた。双方を見比べて、はらはらしていた。そんな中でも話は進む。
「もう、『周囲』の人がいなくなった途端だね」
タカの態度に、晟雅は苦笑した。
「それを望んだのは、お前だろう」
「まぁね」
嬉しそうに笑う晟雅。
「―――仲がいいのね」
ぽつり、とつぶやいたヤナ。おや、と晟雅は目をむけた。
「そう見える?」
喜色満面のその表情に、ヤナは自分が思った言葉が口から出たことに気がつき、手を口に当てた。消えそうな声で「すみません…」とつぶやく。
「全然!うれしいなぁ。ヤナも仲良くしてね!」
「は、はい!」
思わず声が上ずり、タカはやれやれ、と肩をすくめた。
「もちろん、シダカもね!」
「ええ、よろしくお願いいたします」
にこりと笑うシダカ。
「で。話がそれているんだが。聞いているのか」
そう正すタカに、晟雅は「えっと」と言葉を詰まらせた。
「俺を呼んだ理由は何だ。周囲の目があるといえない内容だろう」
問いただすタカに、晟雅の目が泳ぐ。
「俺とお前が二人きりになることはツィスニルの内情で言えば、避けたいことだろうから、手短に済ませろ」
「せっかちだな、もう」
「そうは言っても、時間は限られている。レヲイ陛下がヤナとシダカを選んだのにも理由がありそうだしな」
「よくわかってるよ、ホント」
何をいまさら、とタカは続ける。
「本当の意味での『一般市民』を選ぶなら、俺を選ぶ必要はないだろう。そして、相手に俺とつながりがある人物を選ぶ理由もわからない。内輪で解決したいということではないのか」
タカの言葉に、晟雅は口をキュッと結ぶ。
タカもヤナも、シダカも晟雅の言葉を待った。
三人からじっ、と見られて、晟雅は観念したように、ため息をつく。
「来た初日に言いたくなかったんだけど。確かに、ツィスニル国の元王子とクレオード国の―――一番離れている位置とはいえ、王位継承者の権限を持っている俺が接触することは許されないことだからね」
ツィスニル国では、数年前の内乱後、王族に政治的権限はない。大きな権限を未来永劫持たせないことで、王族が生き残ることを許している。だのに、他国の後ろ盾ができてしまえば、権限が復活してしまうかもしれない。それを阻止するために、いろんな制約がつくられている。タカを政治的権力者と一緒にさせない、タカを監視しない人間が一人もいないという状態にさせるということはできないのだ。
「この状況が作れること自体、奇跡なんだろうね」
「そうだな」
頷く二人に、ヤナが口を開いた。
「私のような、ただの一市民が聞いてもいいの?」
おずおずと尋ねた言葉に、晟雅は首を縦に振る。
「ツィスニル国に感謝を」
そう前置きをして、晟雅は言葉をつづけた。
「クレオード国がタカを招待した理由は、表沙汰にできない理由があった。けれど、ツィスニル国側としても、タカという特別な立場の人間をおいそれと簡単に出すわけにはいかない。『国交友好のため』という名目は、飾りでしかないことは明白だった。だって、俺は最初からタカを呼んだんだから。誰でもいいわけじゃない。タカじゃないとダメなんだ」
タカはじっと続く言葉をまった。
「そして、クレオード国の不文律を崩しかねない事態を招いた俺の力不足をくんで、ツィスニル国はタカを呼ぶことに許可を出した。ルウ・クリエスタ・アクレル前王妃の件を不問にするという言葉と引き換えに」
その名前に、タカは怪訝そうに眉を寄せた。ヤナは何が言いたいのか理解できずに、首を傾げた。
「なぜ、母上の名前が出るんだ?」
晟雅はまっすぐタカの目を見て続ける。
「だって、前王妃はクレオード国国王の妹だからね。ツィスニル国の前国王が国外追放なのは仕方なかったとしても、前王妃も一緒に国外追放扱いだ。王妃はクレオード国からツィスニル国への『友好の証』。にもかかわらず、王妃を国王から保護するのではなく、一緒に国外退去に追い込んだ。王妃が国王と一緒に悪政に加担したわけではないのに、だ。王妃の保護をしなかったこと、それをクレオード国は納得しなかった。だが、それを今回の一件で不問にする、っていうのがクレオード国の『条件』なんだ」
「違う!陛下のせいじゃない!母上の、せいでも…ないんだ………っ!」
苦悶の表情を浮かべるタカは声を絞り出した。
「すべては、俺のせいだろうっ!」
吐き出したその言葉に、晟雅は何も言わなかった。何も言えなかった。
ツィスニル国の王族を知っている人物にとって、誰も触れない、誰も触れれない。そして、誰もが知っている事実。
「違う!」
「君のせいじゃないよ」
けれども、ここにいる二人には、隠す必要も、隠せることでもない。
ヤナとシダカは瞬時に否定した。
「っ!」
声を飲む声が聞こえた。
「違うよ」
「君のせいじゃない」
歯を食いしばり、眉を寄せる彼に、二人はタカの言葉を否定する。
「「晟雅王子」」
静かで落ち着いた声音。けれども、有無を言わせない響きがそこにはあった。
「………なに?」
その雰囲気に、晟雅は何も思わないことはないだろう。内心、冷や汗をかいている。けれども、その表情を見せずに、晟雅は二人を正面から受け止める。
「タカに、何をさせたいんですか?」
その声は静かだが、はっきりと怒りがにじみ出ている。ヤナのまっすぐな問いに、晟雅はバツが悪そうに、眉を寄せる。
「お偉いがたを通さないということは、クレオード国にとっても都合の悪いことを隠すためですね?僕らが同行したのはタカを一人にさせないという口実であって、事実上、タカをクレオード国のために使う、ということですね」
ヤナは憤りを隠さない。シダカは笑みを浮かべて話しているものの、目が全く笑っていない。二人の言葉に、観念して晟雅は苦笑した。
「身も蓋もないな」
「蓋をしてどうするのですか。クレオードのためにツィスニルのために、タカを人柱にさせることは赦しませんよ。僕はね」
「王族に政治的権限はないといっても、タカはタカです」
きっぱりと宣言するヤナとシダカにタカが手で制す。
「いい。聞こう」
その言葉に、ヤナは不満げに顔をしかめる。シダカは相変わらず笑いながら、晟雅を笑顔で睨んでいる。
「お前は俺に何をさせたいんだ」
「ご無沙汰しております。晟雅王子。お招き預かりましてありがとうございます」
丁寧なタカに、晟雅はばんばん、とタカの肩をたたいた。
「元気だった?」
「はい。王子も」
「もうっ!かたいな~。『晟雅』ってよんでよ!いつもみたいに!」
ぷくっと頬を膨らませて、晟雅は抗議する。
『いつも』
遠く離れたこの地で、タカにそう言う晟雅。頻繁に会っているわけでもないのに、このうちとけた間柄がとても不思議だとヤナは思った。
「いつも、みたいに?」
ヤナが晟雅の言葉を反芻すると、晟雅はにっこり笑ってヤナとシダカに挨拶した。
「初めまして!俺は、晟雅・橄欖石(セイガ・ペリドット)。この国の第二王子です。よろしくね!晟雅って呼んで!」
気さくな挨拶に、ヤナは驚いた。思わずタカを見て、どう反応していいものか困惑した。タカはため息をついて、ヤナに耳打ちする。
「いつもこんなんなんだ。晟雅って呼んでいい」
「え、いいの?」
うん、とタカが頷いた。ただ、簡単に言えるはずもなく。
「はじめまして。お招きありがとうございます。私はヤナ・ユルスナールです。よろしくお願いします」
「僕は、シダカ・ユルスナール。ツィスニル国の外交官見習いとして参りました。よろしくお願いします」
二人そろって礼をする。
晟雅はにっこり笑って。
「ヤナに、シダカね!こちらこそ、よろしくお願いします。二人は……兄妹?苗字が一緒だもんね?」
シダカもヤナも顔をしっかり見れば、目元は優しそうな目をしていてそっくりなのだが、パッと見、髪と瞳の色が違うため、兄妹と気づかない人も多いだろう。シダカの髪と瞳は茶色。対して、ヤナは黒髪緑眼。
「はい。双子の兄妹です。一応、僕は外交官見習いではありますが、正式なものではありません。レヲイ・サシャイン陛下の御心にそって、タカに同行させていただきました」
「そっか。俺の方が年下かな?敬語でしゃべんなくていいよ?」
「二人は俺と同じ年齢です」
タカは晟雅にそう告げる。
「じゃぁ、余計に肩の力抜いて!クレオード国を楽しんでいってね!」
*
綺麗な照明に、クレオード特有の刺繍の絨毯。幾何学的な文様が目を引いた。失礼のないように、とは思うものの、見慣れないものばかりでヤナはきょろきょろと目が泳ぐ。外交官はほかの部屋に、クレオード国の大臣と一緒に向かい、タカとヤナ、シダカの三人は応接室に招かれた。しばらくすると、宮仕えの女性二人が四人の前にお茶と茶菓子を用意した。
「よかったら食べてね」
晟雅はそう言って、ティーカップに砂糖を入れる。ひカもそれに倣ってお茶を口に運んだ。四人がお茶を一杯づつ飲んで、宮仕えの女性たちが空になった茶器にお茶を注ぐ。四人の茶器にお茶が注がれたところで、晟雅は軽く手をあげる。宮仕えの女性たちはその動きを見て、軽く一礼をして退出をした。四人が無言で彼女が去っていくのを見送る。彼女たちが席を外したところでタカは口火を切った。
「で、俺に何をさせるために呼んだんだ?」
タカの単刀直入すぎる言葉に、晟雅は肩をすくめた。仕方がないな、というような苦笑をしているような、何とも言えない顔をする。
外交官や大臣、周りの人たちがいる前で丁寧な態度を崩さなかったタカだったが、ヤナとシダカ、晟雅のみになった途端、そっけない態度になった。いや、タカにとっては打ち解けているような、飾らない態度であった。まるで、本当に何年も一緒にいる友のような。シダカに対する態度と幾分変わらぬそれは、一国の王子にしていい態度なのだろうか。―――いや、タカも元ツィスニル国の王子。今は、王族から抜けているとはいえ、国王の弟だ。対等の立場ということになるのだろうか。
ヤナは戸惑っていた。双方を見比べて、はらはらしていた。そんな中でも話は進む。
「もう、『周囲』の人がいなくなった途端だね」
タカの態度に、晟雅は苦笑した。
「それを望んだのは、お前だろう」
「まぁね」
嬉しそうに笑う晟雅。
「―――仲がいいのね」
ぽつり、とつぶやいたヤナ。おや、と晟雅は目をむけた。
「そう見える?」
喜色満面のその表情に、ヤナは自分が思った言葉が口から出たことに気がつき、手を口に当てた。消えそうな声で「すみません…」とつぶやく。
「全然!うれしいなぁ。ヤナも仲良くしてね!」
「は、はい!」
思わず声が上ずり、タカはやれやれ、と肩をすくめた。
「もちろん、シダカもね!」
「ええ、よろしくお願いいたします」
にこりと笑うシダカ。
「で。話がそれているんだが。聞いているのか」
そう正すタカに、晟雅は「えっと」と言葉を詰まらせた。
「俺を呼んだ理由は何だ。周囲の目があるといえない内容だろう」
問いただすタカに、晟雅の目が泳ぐ。
「俺とお前が二人きりになることはツィスニルの内情で言えば、避けたいことだろうから、手短に済ませろ」
「せっかちだな、もう」
「そうは言っても、時間は限られている。レヲイ陛下がヤナとシダカを選んだのにも理由がありそうだしな」
「よくわかってるよ、ホント」
何をいまさら、とタカは続ける。
「本当の意味での『一般市民』を選ぶなら、俺を選ぶ必要はないだろう。そして、相手に俺とつながりがある人物を選ぶ理由もわからない。内輪で解決したいということではないのか」
タカの言葉に、晟雅は口をキュッと結ぶ。
タカもヤナも、シダカも晟雅の言葉を待った。
三人からじっ、と見られて、晟雅は観念したように、ため息をつく。
「来た初日に言いたくなかったんだけど。確かに、ツィスニル国の元王子とクレオード国の―――一番離れている位置とはいえ、王位継承者の権限を持っている俺が接触することは許されないことだからね」
ツィスニル国では、数年前の内乱後、王族に政治的権限はない。大きな権限を未来永劫持たせないことで、王族が生き残ることを許している。だのに、他国の後ろ盾ができてしまえば、権限が復活してしまうかもしれない。それを阻止するために、いろんな制約がつくられている。タカを政治的権力者と一緒にさせない、タカを監視しない人間が一人もいないという状態にさせるということはできないのだ。
「この状況が作れること自体、奇跡なんだろうね」
「そうだな」
頷く二人に、ヤナが口を開いた。
「私のような、ただの一市民が聞いてもいいの?」
おずおずと尋ねた言葉に、晟雅は首を縦に振る。
「ツィスニル国に感謝を」
そう前置きをして、晟雅は言葉をつづけた。
「クレオード国がタカを招待した理由は、表沙汰にできない理由があった。けれど、ツィスニル国側としても、タカという特別な立場の人間をおいそれと簡単に出すわけにはいかない。『国交友好のため』という名目は、飾りでしかないことは明白だった。だって、俺は最初からタカを呼んだんだから。誰でもいいわけじゃない。タカじゃないとダメなんだ」
タカはじっと続く言葉をまった。
「そして、クレオード国の不文律を崩しかねない事態を招いた俺の力不足をくんで、ツィスニル国はタカを呼ぶことに許可を出した。ルウ・クリエスタ・アクレル前王妃の件を不問にするという言葉と引き換えに」
その名前に、タカは怪訝そうに眉を寄せた。ヤナは何が言いたいのか理解できずに、首を傾げた。
「なぜ、母上の名前が出るんだ?」
晟雅はまっすぐタカの目を見て続ける。
「だって、前王妃はクレオード国国王の妹だからね。ツィスニル国の前国王が国外追放なのは仕方なかったとしても、前王妃も一緒に国外追放扱いだ。王妃はクレオード国からツィスニル国への『友好の証』。にもかかわらず、王妃を国王から保護するのではなく、一緒に国外退去に追い込んだ。王妃が国王と一緒に悪政に加担したわけではないのに、だ。王妃の保護をしなかったこと、それをクレオード国は納得しなかった。だが、それを今回の一件で不問にする、っていうのがクレオード国の『条件』なんだ」
「違う!陛下のせいじゃない!母上の、せいでも…ないんだ………っ!」
苦悶の表情を浮かべるタカは声を絞り出した。
「すべては、俺のせいだろうっ!」
吐き出したその言葉に、晟雅は何も言わなかった。何も言えなかった。
ツィスニル国の王族を知っている人物にとって、誰も触れない、誰も触れれない。そして、誰もが知っている事実。
「違う!」
「君のせいじゃないよ」
けれども、ここにいる二人には、隠す必要も、隠せることでもない。
ヤナとシダカは瞬時に否定した。
「っ!」
声を飲む声が聞こえた。
「違うよ」
「君のせいじゃない」
歯を食いしばり、眉を寄せる彼に、二人はタカの言葉を否定する。
「「晟雅王子」」
静かで落ち着いた声音。けれども、有無を言わせない響きがそこにはあった。
「………なに?」
その雰囲気に、晟雅は何も思わないことはないだろう。内心、冷や汗をかいている。けれども、その表情を見せずに、晟雅は二人を正面から受け止める。
「タカに、何をさせたいんですか?」
その声は静かだが、はっきりと怒りがにじみ出ている。ヤナのまっすぐな問いに、晟雅はバツが悪そうに、眉を寄せる。
「お偉いがたを通さないということは、クレオード国にとっても都合の悪いことを隠すためですね?僕らが同行したのはタカを一人にさせないという口実であって、事実上、タカをクレオード国のために使う、ということですね」
ヤナは憤りを隠さない。シダカは笑みを浮かべて話しているものの、目が全く笑っていない。二人の言葉に、観念して晟雅は苦笑した。
「身も蓋もないな」
「蓋をしてどうするのですか。クレオードのためにツィスニルのために、タカを人柱にさせることは赦しませんよ。僕はね」
「王族に政治的権限はないといっても、タカはタカです」
きっぱりと宣言するヤナとシダカにタカが手で制す。
「いい。聞こう」
その言葉に、ヤナは不満げに顔をしかめる。シダカは相変わらず笑いながら、晟雅を笑顔で睨んでいる。
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