悲しみの迷宮

軫成恵

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 三人の視線に、晟雅は知らず汗をかいていた。晟雅は真剣な表情で口を開いた。
「クレオード国第二王子晟雅・橄欖石から、ツィスニル国王王弟タカ・ライストを要請したのは、クレオード国にある扉を『破壊』してほしいからだ」
「扉?」
 タカは首を傾げた。
「「破壊?」」
 二人の言葉に、晟雅はうなずいた。
「以前、クレオード国に来てもらった時に。タカ、君はクランのいた異空間を破壊した」
「クラン?」
 何のことだ、シダカが晟雅に問う。
「以前タカがクレオードに来たとき、クレオードの王族を次々と殺していった者がいてね。彼は、この世界にいて、この世界でない別次元の空間にいたんだ。簡単に言ってしまうと、俺たちから手が出せない、そんなところにいた。その空間をタカはー―ー」
 そう言いかけて、晟雅はタカを見た。難しそうな顔をして、口を開いて閉じる。
―――いまさら何を迷うことがあるのか。
 クレオード国からの要請をタカ一人で聞くことができない今、誰かが相席しなければいけない。普通は、晟雅の言っていることは空想の世界のことにしか聞こえないだろう。
 けれども、ヤナもシダカも。
「二人は俺の『力』を知っている」
 そういって、続きを話せとタカは晟雅に促した。その言葉に、晟雅は分かった、と頷いた。 
「その空間を『破壊』できたタカに、頼みたい」
 三ヶ月ほど前から、工事現場で行方不明者が相次いだ。無許可で行われていた工事だったため、警察に連絡するのが遅れ、連絡したときにはもう、ひと月はすぎていたという。調べていくうちに、工事現場周辺の住人も同じような消えていることがわかった。人から人へ『あの街には近づくな』と広まっていったが、好奇心で近づくものも後をたたなかったという。そして、近づいたものの中でもまた、行方不明者が増えていったのだ。彼らが消えていた工事現場周辺を調べるうちにもまた、行方不明者が増えていく。だから、普通の人間を調査に行かせることは、新たな行方不明者を増やすだけとして、『力』のある人間が、調査へ向かうことになった。
「『力』か。妙な言葉だよな」
 タカがぽつりとつぶやいた。
「そうだね」
 晟雅が頷く。
「今の時代、物語にしか出てこないようなものだからな。『魔法』『魔術』『超能力』。たまに公にする人物もいるが信じない者がほとんどだからな」
「うん。でも、確かに『力』がある人はいるからね」
 そうして派遣された『能力者』たちは、工事現場を調べ、近くの木々の合間、建物の合間に異常がないか探し続けた。そして。
「その先に、大きくて頑丈な扉を見つけたんだ。けれど」

「「誰もその扉を破壊することができなかった?」」

 異口同音に紡がれたそれに、晟雅が振り向いた。ヤナとシダカだ。
「そうだよ」
 苦虫を噛み潰したような表情で晟雅は頷いた。
「あなたも『力』があるの?」
 あまりにも、当然のように『力』とヤナが口にした。晟雅は驚いたが、すぐに頷く。
「ああ。だから、俺がなんとかしないといけなかった。だが」
「あなたの手に負えないことを、タカに頼まないでほしいものですね」
 ばっさりと切り捨てていうシダカの口元には笑み。凍えそうな笑顔であった。普通ならそれ以上、余計なことを言わないように口をつぐむだろう。けれども、晟雅にそれはできない。
「それでも、俺には頼むことしかできないんだ。タカ―――どうか、クレオード国の民を助けてほしい」
 晟雅が深く頭を下げた。
「頭をあげてくれ」
 タカは、自分の頭に手を当てて難しそうな顔をした。
「晟雅にできないことが、俺みたいな半端な『力』の持ち主にできる気がしないんだが」
 その言葉に、晟雅は首をふった。
「俺の力は、『炎』」
 右手のひらをおもむろにあげてると同時に、炎が灯る。ヤナの目が見開かれる。『力』というものの存在を知っていても、実際、見ることはそうそうないのだろう。手を握るのと同時に、炎はかき消えた。
「俺は、その扉を燃やそうともしたんだ。だが、燃えることはなかった。そして、クレオード国にはタカ、君のような空間すら破壊できる術者はいないんだよ。君と同じ力を持つ者はいない。つまり、君になら、できると思うんだ」
「―――はぁ」
 深いため息をついて、タカは言う。
「俺の力は『封じて』いるんだ。いつ暴走してもおかしくない力だから。お前が送ってくれたこのカフス」
 タカは、左耳に手を当てる。髪で隠れていたそこには、小さな銀色のカフスが付いていた。
「これがなければ、俺は『力』を暴走させるかわからない。以前、クレオード国から帰るときに、贈られたカフス―――『封印』させる道具であるこれは、数年前の内乱時に壊れた。隔離された俺に周囲の人たちの協力で、クレオード国へとつなぎ、新しい封印具であるこのカフスを贈ってくれたよな。だから、俺のこの力は『使える』ものじゃないことを、お前は知っているだろう?」
 その言葉に、晟雅は首を横に振った。
「モノは違ったとしても、『能力』の一つ。コントロールできるように、させてみせるよ」
 晟雅の言葉に困惑した表情をみせるも、「わかった」とタカが頷いた。
 しかし。
「待って」
「ヤナ………」
 よく響く声だった。無視できる声ではなかった。三人の視線を受けて、ヤナはまっすぐ、晟雅を見て聞いた。
「私は。本当の意味で、『力』を見たのは、タカが初めてだし、ほかに見たことはなかった。殿下が『炎』を見せたのも、私はほかに見たことはない。けど」
 静かに、言葉を選びながら、ヤナは晟雅に問う。
「封じる必要があったタカの力を求めるなら。コントロールできると言い切れるならば。―――なぜ、今までコントロールできるようにさせなかったの?」
「それは…」
 ツィスニル国の内乱の影響もあっただろう。ツィスニル国第二王子であるタカを、子供であるタカを一人、クレオード国に置いておくわけにいかない事情もあっただろう、けれども。
「今まで放っておいて、タカの力を求めるのは、虫が良すぎるわ!」
 憤り、彼女は晟雅を睨みつける。晟雅は、応えることができなかった。
 気まづい沈黙だった。晟雅につかみかかりそうな勢いのヤナだが、その頭に、ぽん、と手が置かれた。優しく、撫でられる。
「タカ………」
 タカの優しい表情に、ヤナは泣きそうになった。
「いいんだ。クレオード国のせいじゃない」
「けど……」
「それに、力の使い方がわかる機会なんて、ツィスニル国ではないから」
「……そうだけど…」
 ヤナは消えそうな声で、反論しようとするが。
「私にも『力』があれば、タカの力になれたのに…」
 悔しさをにじませた消えそうなその言葉は、確かにタカの耳に届いた。困った顔で、タカはヤナに目を合わせた。
「俺は充分、お前に助けられている」
 そういって、タカは晟雅を振り返る。
 タカはまっすぐ晟雅を見ていたので気づかなかったが、晟雅は確かに見えた。ヤナの目の涙を。タカに気づかれないように顔をタカの方からそらして、こぼれないように、ごしごし目をこすった姿を。
 ヤナがこれだけ取り乱しているので、そっと、晟雅はシダカの様子をうかがった。シダカはにっこりと笑った表情を晟雅に向けて、晟雅と目が合った瞬間、更に深い笑みを浮かべた。思わず、体が後ろに下がる。その様子に、タカは首を傾げたが、晟雅を見て深くこうべを垂れた。
「こちらからも、殿下へ乞おう。俺の『力』のコントロールができるよう、よろしくお願いいたします」
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