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しおりを挟む「だから――」
「いいや、ロゼ。どう見ても責任はロルフ卿にある。君は今、自分がどういう状況かわかっていないんだ」
「それは……」
「なんにせよ、今は何も考えなくていい。まずはゆっくり休むんだ」
「……」
口調こそは優しいものの、そこには有無を言わさぬ何かがある。
これは、相当怒っている。
こういう時のお兄様には、何を言っても通じない。
今は口を噤むべきだと判断した私は、大人しくお兄様に従うことにした。
部屋に連れられ、自室のベッドに下ろされる。
お父様が用意させていたのだろう、お兄様が部屋を出るなり私の側仕えであるシンシアが、カートにお湯を張った盥を載せて部屋に入ってきた。
「お嬢様、お体をお拭きしましょう」
「……ええ」
断る理由もないので頷けば、シンシアが私を包んでいたマントに手をかける。
マントの下は、シュミーズ一枚を着ているのみだ。
多分ロルフ卿が着せてくれたのだろうが、王宮の侍女を呼ぶわけにはいかなかったため、複雑な構造の服はロルフ卿一人では着せられなかったのだろう。
そのシュミーズも取り払われて、光調の落とされた薄灯の中で素肌が現れる。
盥のお湯で布を絞って私の体を拭き始めたシンシアが、何故か、喉を詰まらせた。
「シンシア?」
「い、いいえ。お嬢様、お熱くはございませんか?」
「大丈夫よ、ちょうどいいわ」
「左様でございますか。では、腕を失礼いたします」
腑に落ちないままも、促されるままに腕を上げる。
ふと視線を下に落とすと、虫に刺されたような赤い斑点が体のそこここに広がっているのが目に入った。
思わず絶句する。
痣のようなそれは、薬の副作用だろうか。
シンシアが喉を詰まらせた理由を悟る。
きっと、私を気遣って言わなかったのだろう。
まるで熱病に罹ったかのようなそれに、心が重く塞ぎ込む。
人を陥れようとした罰だとしても、これはあんまりではないか。
純潔を失ってもはや嫁せる身ではないとはいえ、もし跡が残ったらと思うと泣きそうになる。
それでも、これ以上シンシアに心配を掛けたくない私は、何でもない振りをして体を拭われるに任せた。
寝衣を着せられて、支えられて体を横たえる。
正直座っていることすら辛かった私は、横になってすぐ、泥が沈み込むように眠りについた。
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