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そんな私が、本格的に体を動かせるようになったのは、一週間もとうに過ぎた頃だった。
家に帰った翌日から熱が出て、ずっと寝込んでいたのだ。
特に熱の高かった三日間は、ほとんど記憶がない。
けれども幸か不幸かそのおかげで、ロルフ卿との間にあった一連の記憶は曖昧になり、自分を酷く責めることなく過ごすことができた。
シンシアを含めて周りの人間が、いつもと変わりなく接してくれたのもよかったのだろう。
お父様とはあれからまだお会いできていないけれども、お兄様は何度か顔を見に訪れてくれた。
近頃は、同じ家に住んでいてもお兄様とお会いすることが滅多になくなってしまったから、きっかけがなんであれ、以前のように庭の花を摘んで部屋を訪れてくれるお兄様と久方振りに他愛のない会話をすることができたのは嬉しかった。
一点だけ、もし妊娠していたらどうしようという不安はあったけれども、それも今朝には解消された。
いつもは憂鬱な月のものの訪れに、こんなにも安堵したことはない。
そこからさらに一週間、月のものが完全に終わった頃、ようやく私はお父様に呼び出された。
書斎のドアをノックして、窓際に置かれた机の前まで進む。
私に背を向ける形で立って窓の外を眺めるお父様の背中を、見るともなしに見る。
私たちと同じお父様の淡い金の髪に、目立たなくとも幾筋もの白い髪が混じっていることに、その時初めて私は気が付いた。
「体はもういいのか?」
「はい。問題ありません」
「そうか」
振り返りざまに聞かれて、穏やかに答える。
今私の心は、驚くほど平静だ。
この二週間とようの間に、色々と覚悟を決めたのだ。
たとえお父様に今すぐ出て行けと言われても、仕方ないこととして受け入れるつもりで、私はここに居た。
家に帰った翌日から熱が出て、ずっと寝込んでいたのだ。
特に熱の高かった三日間は、ほとんど記憶がない。
けれども幸か不幸かそのおかげで、ロルフ卿との間にあった一連の記憶は曖昧になり、自分を酷く責めることなく過ごすことができた。
シンシアを含めて周りの人間が、いつもと変わりなく接してくれたのもよかったのだろう。
お父様とはあれからまだお会いできていないけれども、お兄様は何度か顔を見に訪れてくれた。
近頃は、同じ家に住んでいてもお兄様とお会いすることが滅多になくなってしまったから、きっかけがなんであれ、以前のように庭の花を摘んで部屋を訪れてくれるお兄様と久方振りに他愛のない会話をすることができたのは嬉しかった。
一点だけ、もし妊娠していたらどうしようという不安はあったけれども、それも今朝には解消された。
いつもは憂鬱な月のものの訪れに、こんなにも安堵したことはない。
そこからさらに一週間、月のものが完全に終わった頃、ようやく私はお父様に呼び出された。
書斎のドアをノックして、窓際に置かれた机の前まで進む。
私に背を向ける形で立って窓の外を眺めるお父様の背中を、見るともなしに見る。
私たちと同じお父様の淡い金の髪に、目立たなくとも幾筋もの白い髪が混じっていることに、その時初めて私は気が付いた。
「体はもういいのか?」
「はい。問題ありません」
「そうか」
振り返りざまに聞かれて、穏やかに答える。
今私の心は、驚くほど平静だ。
この二週間とようの間に、色々と覚悟を決めたのだ。
たとえお父様に今すぐ出て行けと言われても、仕方ないこととして受け入れるつもりで、私はここに居た。
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