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第二話 暗殺などさせません。

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 リオン様のお部屋はそれは立派なものです。

 私の部屋も狭くないと思うのですが、その三倍くらいの広さがあります。

 薄いブルーで統一されたお部屋は至る所に金の糸で細やかな刺繍が施されています。

 王妃様がちょうど今、国王様とお会いになられているということ。

 なので先にリオン様のお部屋でお茶菓子を頂きつつ、お待ちすることにしました。

 二人きりのお部屋。

 なんだかやっぱり、落ち着かないですね。


「今日はディアナの好きな、ナッツのたくさん入ったクッキーがあると言っていたよ」


 そう話しているうちに、侍女がお茶とお菓子を運んで来ました。

 侍女はそれぞれお付きの方が決められていて、それに合わせて衣装の色などが違います。

 リオン付きのメイドはこの部屋に合わせた薄いブルーの衣装。

 そんな感じで一目見ただけで、誰の侍女なのかということが分かるようになっているのです。

 ああ、私の大好きなクッキーと紅茶。

 今日、登城予定ではなかったというのにわざわざ私の好物が用意されている。

 ん-。

 なんだか用意周到の様な気がするのは私だけでしょうか。

 いつでもこの頭の良い、リオン様の手の上で踊らされている気がしてならないのですよね。


「美味しそうだね、ディアナ」

「はい、リオン様」


 確かにリオン様が言うように、目の前に並べられていくお菓子やお茶菓子はとても美味しそうです。

 何度か食べたことがあるので、よく知っています。

 そして必ず私が来た時に出してくれる紅茶も、いつも同じ物です。

 私はこの紅茶に砂糖を一欠けとミルク。

 リオン様はそのままお飲みになります。

 ああ、この時間は確かに手放したくないほど好きです。

 同じ時間を何も考えずに過ごすことが出来るのなら……。

 ただ私たちのこの関係が、身分がそれを許しません。


「……」

「ディアナ、考えごとかい?」


 んー、なんですかねぇ。

 所作がとても美しいのに、私はこの侍女さんから目が離せません。

 真新しい制服の匂いに、それ以上に気になるのは、今出されたものたち。

 侍女は給仕を終えると、部屋の隅に下がりました。

 私はその姿を最後まで確認してから、お茶菓子に手を伸ばします。

 手に取ったクッキーを二つに割ると、サクッという音と共にナッツが一つ零れ落ちる。

 ああ、やっぱりこの匂い。


「これは食べられません」


 香ばしい匂いの中に、いつもとは違う匂いが混じっているからです。

 そしてスプーンでお茶を掬うと、ご丁寧にこちらからも同じ匂いがしてきます。

 せっかくの美味しいお菓子と紅茶が台無しです。

 楽しみにしていただけに、食べ物をこんな風に使うなんて許せません。

 ホント。残念すぎますわ。

 すごくすごく楽しみにしていたのに。

 この時間も何も、全部台無しです。


「衛兵!」


 リオン様が短く低い声を上げる。

 するとすぐにドアの前に控えていた兵士たちが流れ込み、そしてすぐにその場にいた侍女を捕縛する。

 相変わらず、リオン様のお付きの兵士様たちは手際がいいです。


「こ、これは何かの間違いです。わたくしは何もしておりません」


 侍女は涙を湛え、必死に自分ではないとリオン様に懇願していた。

 でもごめんなさい。

 私も理由なく、こんなことをするわけではないんです。


「でも、あなた、殿下の侍女ではないですわよね。その新しい服も、盗んだのではなくて? それとも誰かがあなたにわざわざ渡したのかしら」


 本当の侍女ならば、新しい制服を下ろす前に水通しをしているはず。

 しかし彼女の着ている制服からはその匂いすら感じられません。


「そ、それは……、あの、その……」

「まあいい。言い訳は牢で聞くとしよう。連れて行け」

『はっ!』

「違います、殿下。これは何かの間違いで、違うんです! どうか、どうかー!」


 両脇を兵士に抱えられ、項垂れた侍女は連行されて行きました。

 きっと優秀なリオン様の部下様たちが、彼女から丁寧に話を聞いて下さることでしょう。

 もっとも、王族を毒殺しようなどと。

 償う罪は、一番重いものとなるでしょう。


「全く、僕には毒はほとんど効かないというのに、ご苦労なことだ」


 王族であるリオン様は幼い頃よりありとあらゆる毒に慣らされるために、少量ずつ毒を口にされていたそうです。

 王族で、しかも後継者となる者は常に暗殺の危険が伴います。

 そのための苦肉の策だそうですが、少量ずつはといえ毒は毒。

 昔から毒のために体調を崩し、それでも頑張っている姿を私は知っています。


「しかし……今回の毒は、リオン様を狙ったものだったのでしょうか……」


 リオン様に大抵の毒が効かないというのは、王宮に住まう者ならば皆知っていることです。

 それなのに、なぜこのタイミングでリオン様に毒を盛ろうとしたのでしょう。

 何かが引っかかる。

 なんでしょうか。 

 そんな気がして声をあげれば、同じことを考えていたリオン様が大きく頷く。


「そうだね、他の者もこのお菓子たちを口にしていると大変だ。他の兵には厨房へ行くように言って、僕たちは父上たちのとこへ行こう」


 胸の奥がざわざわとして嫌な予感がする。

 こういう時の勘は、当たらないでと思えば思うほど悪い方に当たってしまうものです。

 私はリオン様に手を引かれ、王様と王妃様のいるお部屋へ走り出しました。
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