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艶やかな長い海を思わせる髪をハーフアップでまとめ上げ、大きな深い蒼の宝石のような瞳。
私に振られる真っ白く細い手。白魚のようなとは、たぶん一番彼女に似合う表現だろう。
はかない一輪花のようでもあり、それでいて周りの生徒とは比較にならないぐらいの気品に溢れている。
同性の私が見ても、ため息が出るほどの美しさだ。
そう。私なんかとは大違い。
「ティア、カイルから聞いて待ってたのよー」
にこやかな顔で、私たちの幼馴染であるリーリエが馬車の前に立った。
「そうなのね。ごめんなさい、カイルから何も聞いてなくて……。ありがとう、リーリエ」
彼女は私とカイルの幼馴染であり、侯爵令嬢。私よりも身分が上で、本来は彼女がカイルの婚約者となるはずだった。
でも父と公爵の関係性から、侯爵家からの持ちかけを断る形で私とカイルの婚約が結ばれた。
ただその頃から、私たち三人の関係性がほんの少しだけおかしくなってきた気がする。
だってそう……リーリエがカイルのことを好きだったことは、私も知っていた。
私たち二人は同じ時に同じ、カイルに恋心を抱いていたから。
「なぁんか、すごく大変だったみたいね」
「……ええ、そうなのよ」
そうは答えたものの、私はカイルからリーリエに話が言っていることは何にも聞いていない。
ちょっと待って。
もしかしてカイルは私のことを全てリーリエに話したってことなのかしら。
いやでも、さすがに全部は言ってはいないとは思うけど。
それとなくリーリエに確認しないと。
なんだか落ち着かない。
「ごめんね、わざわざこんなところまで来てもらちゃって。カイルから聞いてびっくりしたでしょう?」
「本当よ。爵位を叔父様たちが継いだために、居心地が悪くなったから寄宿舎に入ることにしただなんて」
「そうなのよ。同じ年の子が向こうにもいるし、なんだか……ね」
「ティアかわいそうに……」
良かった。まぁそうよね。
いくら相手がリーリエだからって、全部カイルが話すわけないものね。
それにリーリエがここで待っていてくれたのは、純粋な好意だし。
もしかしたら、リーリエの中ではカイルのことはもう何とも思っていないのかもしれない。
それなのに、なんとなく私が顔を合わせずらくって避けてしまっていただけで。
幼馴染なんだし……こんな風にまだ、私のことを思っていてくれてるんだし。
私もちゃんとしないと。
「でもありがとうリーリエ。あなたの顔を見たら、少しホッとしたわ」
「そう? それなら良かったわ。でも寄宿舎生活なんて大変じゃないの? 自分で自分のことは基本やらなきゃダメみたいだし」
「そうねぇ。でもほら、気をつかわなくても済むから」
「そんなに気難しい方だったの叔父様は」
「ん-。なんていうかなぁ。気難しいっていうか……父とは正反対のような人、かな。だから苦手で」
「ふーん。そっかぁ」
気難しいとは違うのよね。
強欲で、ただ自分たちが良ければいいというようなそんな人たち。
元々商人だから、ああいう考えは普通なのかしらね。
今度商人の子がいたら、聞いてみようかしら。
どうせなら、いろんなことが聞けたらいいな。
前まで私はただ通うことだけに専念して、あんまり周りを気にしてこなかったのよね。
でもこれもいい機会だし。
これからの役に立ちそうなことは全部吸収していかなくちゃ。
「ねぇ、ティアの寄宿舎のお部屋まで着いて行っていいかしら。一度見て見たかったのよ」
「私の?」
リーリエはそんなものに興味があるのかしら。
ああでも、ほとんどの貴族は寄宿舎のある方になんて行ったことはないものね。
確かに、見てみたい気持ちも分かる。
「そうね。うん、一緒に行きましょう。私も初めてなのよ」
「どんなお部屋なのかしらね」
「ん-。きっと狭いとは思うけど……」
そんな馬車の前で会話を楽しむ私たちを気にすることなく、どんどん侍女たちの手によって荷物が運び出されていた。
そうだった。その狭い部屋に、どうやってあんな大量の荷物をしまうのかしら。
だいたい、特注したドレスや制服たちはまだ来ていないはずだし。
今運んでいる量の二倍……で済むかしら……。
「おうちみたいに広いといいわね」
悪気など微塵もないリーリエの笑顔がまぶしく思える。
でも本当にそうね。
貴族からしたら、きっと使用人の部屋くらいの広さでしかないのだろうなぁ。
リーリエはそんな部屋を見て、どんな反応をするのかしら。
はぁ。気が重い。
絶対に無理なのは分かってるけど、せめてクローゼットが広ければいいなぁ。
「そ、そうね」
「行きましょうティア。すごく気になるもの~」
「そうね。私も気になる……違う意味で」
「え? なんか言った?」
「ううん。なんでもない」
乾いた笑い声を返しながら、私たちは荷物の運び込まれている先にある部屋へと向かった。
私に振られる真っ白く細い手。白魚のようなとは、たぶん一番彼女に似合う表現だろう。
はかない一輪花のようでもあり、それでいて周りの生徒とは比較にならないぐらいの気品に溢れている。
同性の私が見ても、ため息が出るほどの美しさだ。
そう。私なんかとは大違い。
「ティア、カイルから聞いて待ってたのよー」
にこやかな顔で、私たちの幼馴染であるリーリエが馬車の前に立った。
「そうなのね。ごめんなさい、カイルから何も聞いてなくて……。ありがとう、リーリエ」
彼女は私とカイルの幼馴染であり、侯爵令嬢。私よりも身分が上で、本来は彼女がカイルの婚約者となるはずだった。
でも父と公爵の関係性から、侯爵家からの持ちかけを断る形で私とカイルの婚約が結ばれた。
ただその頃から、私たち三人の関係性がほんの少しだけおかしくなってきた気がする。
だってそう……リーリエがカイルのことを好きだったことは、私も知っていた。
私たち二人は同じ時に同じ、カイルに恋心を抱いていたから。
「なぁんか、すごく大変だったみたいね」
「……ええ、そうなのよ」
そうは答えたものの、私はカイルからリーリエに話が言っていることは何にも聞いていない。
ちょっと待って。
もしかしてカイルは私のことを全てリーリエに話したってことなのかしら。
いやでも、さすがに全部は言ってはいないとは思うけど。
それとなくリーリエに確認しないと。
なんだか落ち着かない。
「ごめんね、わざわざこんなところまで来てもらちゃって。カイルから聞いてびっくりしたでしょう?」
「本当よ。爵位を叔父様たちが継いだために、居心地が悪くなったから寄宿舎に入ることにしただなんて」
「そうなのよ。同じ年の子が向こうにもいるし、なんだか……ね」
「ティアかわいそうに……」
良かった。まぁそうよね。
いくら相手がリーリエだからって、全部カイルが話すわけないものね。
それにリーリエがここで待っていてくれたのは、純粋な好意だし。
もしかしたら、リーリエの中ではカイルのことはもう何とも思っていないのかもしれない。
それなのに、なんとなく私が顔を合わせずらくって避けてしまっていただけで。
幼馴染なんだし……こんな風にまだ、私のことを思っていてくれてるんだし。
私もちゃんとしないと。
「でもありがとうリーリエ。あなたの顔を見たら、少しホッとしたわ」
「そう? それなら良かったわ。でも寄宿舎生活なんて大変じゃないの? 自分で自分のことは基本やらなきゃダメみたいだし」
「そうねぇ。でもほら、気をつかわなくても済むから」
「そんなに気難しい方だったの叔父様は」
「ん-。なんていうかなぁ。気難しいっていうか……父とは正反対のような人、かな。だから苦手で」
「ふーん。そっかぁ」
気難しいとは違うのよね。
強欲で、ただ自分たちが良ければいいというようなそんな人たち。
元々商人だから、ああいう考えは普通なのかしらね。
今度商人の子がいたら、聞いてみようかしら。
どうせなら、いろんなことが聞けたらいいな。
前まで私はただ通うことだけに専念して、あんまり周りを気にしてこなかったのよね。
でもこれもいい機会だし。
これからの役に立ちそうなことは全部吸収していかなくちゃ。
「ねぇ、ティアの寄宿舎のお部屋まで着いて行っていいかしら。一度見て見たかったのよ」
「私の?」
リーリエはそんなものに興味があるのかしら。
ああでも、ほとんどの貴族は寄宿舎のある方になんて行ったことはないものね。
確かに、見てみたい気持ちも分かる。
「そうね。うん、一緒に行きましょう。私も初めてなのよ」
「どんなお部屋なのかしらね」
「ん-。きっと狭いとは思うけど……」
そんな馬車の前で会話を楽しむ私たちを気にすることなく、どんどん侍女たちの手によって荷物が運び出されていた。
そうだった。その狭い部屋に、どうやってあんな大量の荷物をしまうのかしら。
だいたい、特注したドレスや制服たちはまだ来ていないはずだし。
今運んでいる量の二倍……で済むかしら……。
「おうちみたいに広いといいわね」
悪気など微塵もないリーリエの笑顔がまぶしく思える。
でも本当にそうね。
貴族からしたら、きっと使用人の部屋くらいの広さでしかないのだろうなぁ。
リーリエはそんな部屋を見て、どんな反応をするのかしら。
はぁ。気が重い。
絶対に無理なのは分かってるけど、せめてクローゼットが広ければいいなぁ。
「そ、そうね」
「行きましょうティア。すごく気になるもの~」
「そうね。私も気になる……違う意味で」
「え? なんか言った?」
「ううん。なんでもない」
乾いた笑い声を返しながら、私たちは荷物の運び込まれている先にある部屋へと向かった。
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