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005 寝取りを祝福する家族たち
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「聞いているのかオリビア」
「えっと、ごめんなさいお父様。よく聞き取れなかったのです」
「まったく、お前は耳まで悪くなったのか。アレン殿の婚約者をシーラにすることにしたと言ったんだ!」
「えっと?」
なったというのは、結果ということなのかしら。
ん-。つまりは決定事項ってことよね。
ああ、きっと聞き間違えね。そんな馬鹿な話、聞いたこともないもの。
父は威厳たっぷりに言いはなったあと、自慢の髭を撫でた。
その分頭皮が寂しいのが残念なのよねと、心で思ったことは秘密だけれど。
でも、親馬鹿ぶりもここまで来ると病気ね。
なんでも両親に言えば思い通りになるってシーラは思っているし、父たちも私に言えば、私が何とかするって思っている。
しかもどうせ姉なのだから譲りなさい、我慢しなさいってこの後お母様が続くのでしょうね。
安定のいつもの会話過ぎて、ため息すら出てこないわ。
「先ほどもそのよう話をシーラとしましたわね。何を思ったか知りませんが、今の状況はお父様の方がよくご存じのはずですよね?」
「今の状況と言われても、何のことか分からぬなぁ」
はぁぁぁぁぁぁ? 分からぬですって?
今どの口がそんなこと言っているのかしら。
一応仮にもここの当主で、私の父親よね。
いくら家のことを全て私にやらせているとは言ったって、この秋に自分の娘の結婚式があるって分かっているでしょう。
それにもう式場もドレスも全て用意が終わっているし、招待状も送ってしまった。
それにそのお返事もちらほら集まってきているっていうのに。
ホントいい加減にしてほしいわ。
「これはもう決定事項だ」
「決定事項って。ですから、そんな簡単なことではないとシーラにも説明したのですが?」
「こんな良き日に、本当に相変わらず細かいことをグズグズとうるさいわね。お父様が決定と言ったら決定なのですよ! どうしてそんなことも分からないの! 仮にもあなたは娘なのだから、親の言うことを聞くのは当たり前でしょう」
「仮にも、ね」
そこだけは本音よね。知っているわ。
何が良き日なのよ。こっちは何にもいいことないじゃない。
それが娘に言うセリフなのかしら。私だって、仮でもなんでもちゃんとあなたたちの娘なのですけど?
私のことなんてどうでもいいっていう態度をあからさまにされると、私でも傷つくのよ。
まぁ、そんなこと一度だって気に留めてくれたことなんてないわよね、あなたたちは。
「そう言われましても」
「黙りなさい、オリビア」
神経質そうに母は、ナイフとフォークを持った手を勢いよくテーブルに叩きつける。
人には散々マナーは大事だと言うくせに、本人のマナーがなってないという残念な見本ね。
こんな人になりたくないっていうのを、地で行っているコトに気づいていますか?
もうホント、うんざりする。
早くここから出ていきたい。あんな婚約者だって、結婚すれば少しは変わるかもしれない。
今は浮かれて女の子たちと遊ぶのに夢中でも、きっと身を固めれば当主としての自覚も出てくれるはず。
そう思えばこそ、今までいろんなことに耐えてきたのだもの。
あと少し、あと少し。この嫌味な家族も、私を見ようとしない婚約者も。
結婚さえすれば、みんな上手くいくはずなのよ。
だからこんな押し迫った時に、ごちゃごちゃ言わないで。もうこれ以上、私の邪魔をしないでよ!
「まぁまぁ、お母さま。そんな風に大きなお声を上げて、倒れでもしたら大変ですわ」
「オリビアと違って、あなたは本当に優しい子ねぇ、シーラ」
そして娘を見る目ではないくらい、その目を釣り上げ私を睨み付けた。
父と比べると、母はその半分にも満たないほどスレンダーだ。
そして髪の色も瞳の色も、私と同じ。
ブラウンがかった金色の髪に、オリーブ色の瞳。
シーラのふわふわしたピンクブロンドに蒼い瞳と比べれば、私たちには確かに華もなく平凡だ。
母は自分へのコンプレックスなのか、昔から自分に似た私には当たりがキツイのよね。
父は自分に似た子を。母は自分に似てない子を。
それぞれが溺愛したから、私はこの家では余り物にしかすぎず、いつも一人ぼっちだった。
でもだからといって、許される範囲とそうでないものがある。
「だから何を根拠としてそんなことを言っているのか聞いているのです。この婚約は両家との契約でもあるのですよ? それを子どもじみた理由で挿げ替えることなど出来ないことは分かっているではないですか」
「あのね、あのね、お姉さま。わたし、アレンさまの子を妊娠したみたいなのよぉ」
今まで高みの見物のように黙っていたシーラが、口を開いた。
まるで勝ち誇ったような笑み。
そして幸せをアピースするかのように、お腹をさする。
「こんなにおめでたいことはないわ。きっと、アレン様の……次期侯爵家の跡取りね」
「ああそうだな。きっとこの男爵家も盛り立ててくれることは間違いないだろう」
えっと。この人たちは何を言っているの。
話が全く頭に入ってこないというのは、まさにこういうことを言うのね。
ああ、ある意味確かに簡単な理由でもなければ、子どもじみた理由でもないわね。
私の婚約者と妹の間に、子ども?
それも妊娠をしたということは、私に隠れて付き合っていた上にそういう行為に及んだということよね。
結婚式の招待状を出したのがいつだっけ。
でも少なくとも、送るより前にはすでにそういうことになっていたはず。
だったら、なんで止めなかったの。こんなことになる前に、なんでもっと早く言ってくれれば良かったのに。
「えっと、ごめんなさいお父様。よく聞き取れなかったのです」
「まったく、お前は耳まで悪くなったのか。アレン殿の婚約者をシーラにすることにしたと言ったんだ!」
「えっと?」
なったというのは、結果ということなのかしら。
ん-。つまりは決定事項ってことよね。
ああ、きっと聞き間違えね。そんな馬鹿な話、聞いたこともないもの。
父は威厳たっぷりに言いはなったあと、自慢の髭を撫でた。
その分頭皮が寂しいのが残念なのよねと、心で思ったことは秘密だけれど。
でも、親馬鹿ぶりもここまで来ると病気ね。
なんでも両親に言えば思い通りになるってシーラは思っているし、父たちも私に言えば、私が何とかするって思っている。
しかもどうせ姉なのだから譲りなさい、我慢しなさいってこの後お母様が続くのでしょうね。
安定のいつもの会話過ぎて、ため息すら出てこないわ。
「先ほどもそのよう話をシーラとしましたわね。何を思ったか知りませんが、今の状況はお父様の方がよくご存じのはずですよね?」
「今の状況と言われても、何のことか分からぬなぁ」
はぁぁぁぁぁぁ? 分からぬですって?
今どの口がそんなこと言っているのかしら。
一応仮にもここの当主で、私の父親よね。
いくら家のことを全て私にやらせているとは言ったって、この秋に自分の娘の結婚式があるって分かっているでしょう。
それにもう式場もドレスも全て用意が終わっているし、招待状も送ってしまった。
それにそのお返事もちらほら集まってきているっていうのに。
ホントいい加減にしてほしいわ。
「これはもう決定事項だ」
「決定事項って。ですから、そんな簡単なことではないとシーラにも説明したのですが?」
「こんな良き日に、本当に相変わらず細かいことをグズグズとうるさいわね。お父様が決定と言ったら決定なのですよ! どうしてそんなことも分からないの! 仮にもあなたは娘なのだから、親の言うことを聞くのは当たり前でしょう」
「仮にも、ね」
そこだけは本音よね。知っているわ。
何が良き日なのよ。こっちは何にもいいことないじゃない。
それが娘に言うセリフなのかしら。私だって、仮でもなんでもちゃんとあなたたちの娘なのですけど?
私のことなんてどうでもいいっていう態度をあからさまにされると、私でも傷つくのよ。
まぁ、そんなこと一度だって気に留めてくれたことなんてないわよね、あなたたちは。
「そう言われましても」
「黙りなさい、オリビア」
神経質そうに母は、ナイフとフォークを持った手を勢いよくテーブルに叩きつける。
人には散々マナーは大事だと言うくせに、本人のマナーがなってないという残念な見本ね。
こんな人になりたくないっていうのを、地で行っているコトに気づいていますか?
もうホント、うんざりする。
早くここから出ていきたい。あんな婚約者だって、結婚すれば少しは変わるかもしれない。
今は浮かれて女の子たちと遊ぶのに夢中でも、きっと身を固めれば当主としての自覚も出てくれるはず。
そう思えばこそ、今までいろんなことに耐えてきたのだもの。
あと少し、あと少し。この嫌味な家族も、私を見ようとしない婚約者も。
結婚さえすれば、みんな上手くいくはずなのよ。
だからこんな押し迫った時に、ごちゃごちゃ言わないで。もうこれ以上、私の邪魔をしないでよ!
「まぁまぁ、お母さま。そんな風に大きなお声を上げて、倒れでもしたら大変ですわ」
「オリビアと違って、あなたは本当に優しい子ねぇ、シーラ」
そして娘を見る目ではないくらい、その目を釣り上げ私を睨み付けた。
父と比べると、母はその半分にも満たないほどスレンダーだ。
そして髪の色も瞳の色も、私と同じ。
ブラウンがかった金色の髪に、オリーブ色の瞳。
シーラのふわふわしたピンクブロンドに蒼い瞳と比べれば、私たちには確かに華もなく平凡だ。
母は自分へのコンプレックスなのか、昔から自分に似た私には当たりがキツイのよね。
父は自分に似た子を。母は自分に似てない子を。
それぞれが溺愛したから、私はこの家では余り物にしかすぎず、いつも一人ぼっちだった。
でもだからといって、許される範囲とそうでないものがある。
「だから何を根拠としてそんなことを言っているのか聞いているのです。この婚約は両家との契約でもあるのですよ? それを子どもじみた理由で挿げ替えることなど出来ないことは分かっているではないですか」
「あのね、あのね、お姉さま。わたし、アレンさまの子を妊娠したみたいなのよぉ」
今まで高みの見物のように黙っていたシーラが、口を開いた。
まるで勝ち誇ったような笑み。
そして幸せをアピースするかのように、お腹をさする。
「こんなにおめでたいことはないわ。きっと、アレン様の……次期侯爵家の跡取りね」
「ああそうだな。きっとこの男爵家も盛り立ててくれることは間違いないだろう」
えっと。この人たちは何を言っているの。
話が全く頭に入ってこないというのは、まさにこういうことを言うのね。
ああ、ある意味確かに簡単な理由でもなければ、子どもじみた理由でもないわね。
私の婚約者と妹の間に、子ども?
それも妊娠をしたということは、私に隠れて付き合っていた上にそういう行為に及んだということよね。
結婚式の招待状を出したのがいつだっけ。
でも少なくとも、送るより前にはすでにそういうことになっていたはず。
だったら、なんで止めなかったの。こんなことになる前に、なんでもっと早く言ってくれれば良かったのに。
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