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「サルート……サルート……ああ、あそこか。これは丁寧にありがとう、サルート男爵令嬢。まったく、どっかの誰かとは大違いだ」
「どっかの誰かとは誰のことですかね」
「うるさいよ、おまえは。オレはサルート男爵令嬢とお話したいんだよ」
特段丁寧でもなんでもないのに、陛下は嬉しそうに微笑み返してくれる。
良かったーーー。こんなに身分の高い方に会うことも、ましてやお話しすることもなかったから、噛むかと思ったよ。噛まなかっただけでも、まずは御の字ね。
でもうちも見たいな弱小貧乏貴族の爵位まで覚えているなんて、さすが陛下ね。うちなんて赤字経営だって以外、特段なんの取柄もないのに。
「いえ。お見知りいただき、大変うれしく思います」
「それは、まぁ、な」
んんん? 思ったより歯切れの悪そうな返事ね。なんだろう。私が知らないところで何か両親がなにかやらかしていたかしら。
それか国に納めてる税金が国内一少ないとか? ああ、でもその線はありそう。なんせ、本当にお金ないからなぁ。
っていうか、それなら全然印象悪すぎじゃないのよ。えええ。どうしよう。マルクの婚約者としてはふさわしくないとか言われちゃうかしら。
あんなに二人は仲がいいし、ほら、おまえみたいなヤツには嫁にはやらないみたいな流れになっちゃう感じだと困るんだけど。
いや、正確には私が困るんじゃなくてマルクが困るってことなんだから。一応はマルクは私を助けるために婚約者に選んでくれたのに、恩をあだで返したらさすがにまずいわ。
聞いたら陛下は教えて下さるかしら。
「あ、あの、我が男爵家がなにか……」
「ああ、いやそういうんじゃないんだ。全然そういうんじゃないから、全く気にしないでくれ」
「……はい」
いやいやいやいや。気にしないでくれと言われても、死ぬほど気になるんですけど陛下。だって絶対今の反応、なにかやらかしているわよね。これは帰ってからすぐにでもユノンに探ってもらわないと。
もう本当にやめてよね。私が見てないところで勝手なことをするの……。また借金を見てないとこで作っていたのかしら。
それかありもしないような架空の投資話に手を出して、借金を増やしたとか。
あれほど注意しても、すぐ変な話やうまい話に手を出そうとするのよね。そのたびに、どれだけ私が苦労してきたかも知らないで。
一度や二度どころじゃなくて、ひっかかりやすいリストにでも載っているんじゃないかってぐらい、うちは詐欺とかによく狙われるのよね。
単純っていうか、世間知らずっていうか。特段人を信じやすいってわけでもないのに、お金が絡むとすぐに信じちゃうんだから。
目先の損得しか興味がなくて、頭悪いっていったらないわ。
ああでももう、そんなことに頭を悩ますのも終わりなのよね。私はもう、あそこには帰るつもりなかったんだ。そして金輪際、あの家を手伝う気も。
騙されたって、何されたって、もう私の知るところではない。
でもいつものクセって怖いわね。ずっとずっと染み付いてしまっている。家のことを一番に考えて、動いてしまうくせ。早く直さないとね。
「さぁ。挨拶も済んだので帰りましょうオリビア」
「え、あ、マルク様。もうよろしいのですか?」
ややムスっとしたような表情のマルクが私の手を掴んだ。そうやって急に手を握るの禁止ー。
びっくりするし、変なのよ。そう変。
マルクに顔を覗き込まれたり、触られたりすると変なの。自分が自分じゃなくなるみたいな感覚。男性に免疫がないってダメね。変に勘違いしちゃうのよ。
それもこれもみんな、アレンのせいだわ。自分は女の子たちと毎日遊びまくっているのに、私のことは存在すらいなかったように全く相手にもしてこなかった。
婚約者としての交流も、ほぼなかったのよね。お茶会や会話や、手紙すら交わしたこともないし。
それでいて、私が他の男性と話しているだけで浮気だとか男にだらしないとか酷い言い様だったし。
我ながら、よく我慢していたわね。今考えても本当に腹が立つわ。アレンは私のことをなんだと思っていたのかしら。
「おいおいおいおい、どこかに隠しておきたいほどの婚約者だとはいえ、まだ挨拶しかしてないだろうが」
「もう十分見せましたが」
「いや、おまえなぁ。見せたって、その見せたじゃ意味ないだろう」
「ふふふ。お二人は本当に仲がよろしいのですね」
「「どこが」」
私の言葉に二人の言葉がぴったりと重なる。
「ほら、息ぴったりではないですか」
「あはははは。そうだな」
「よりにもよって、陛下とだなんて……」
「だから不敬罪だっつーの。で、いい加減二人の馴れ初めくらい聞かせてくれよ。それぐらいいいだろう」
陛下の言葉に私は固まった。馴れ初め……馴れ初めってなんだろう。さっき会ったばかりで、これは演技なのですよなんて言えるわけがないし。
そうなのよね。この婚約の意図はなんとなくは理解していると思うんだけど、マルクから詳しい説明を全くうけていないし。むしろ私がそれを聞きたいのですよ、陛下。
なんて言えるわけないけど。
「あの、えっと?」
私は返答に困って横に座るマルクを見上げた。マルクは私と視線が合うと、ただふんわりと表情を崩した。
「どっかの誰かとは誰のことですかね」
「うるさいよ、おまえは。オレはサルート男爵令嬢とお話したいんだよ」
特段丁寧でもなんでもないのに、陛下は嬉しそうに微笑み返してくれる。
良かったーーー。こんなに身分の高い方に会うことも、ましてやお話しすることもなかったから、噛むかと思ったよ。噛まなかっただけでも、まずは御の字ね。
でもうちも見たいな弱小貧乏貴族の爵位まで覚えているなんて、さすが陛下ね。うちなんて赤字経営だって以外、特段なんの取柄もないのに。
「いえ。お見知りいただき、大変うれしく思います」
「それは、まぁ、な」
んんん? 思ったより歯切れの悪そうな返事ね。なんだろう。私が知らないところで何か両親がなにかやらかしていたかしら。
それか国に納めてる税金が国内一少ないとか? ああ、でもその線はありそう。なんせ、本当にお金ないからなぁ。
っていうか、それなら全然印象悪すぎじゃないのよ。えええ。どうしよう。マルクの婚約者としてはふさわしくないとか言われちゃうかしら。
あんなに二人は仲がいいし、ほら、おまえみたいなヤツには嫁にはやらないみたいな流れになっちゃう感じだと困るんだけど。
いや、正確には私が困るんじゃなくてマルクが困るってことなんだから。一応はマルクは私を助けるために婚約者に選んでくれたのに、恩をあだで返したらさすがにまずいわ。
聞いたら陛下は教えて下さるかしら。
「あ、あの、我が男爵家がなにか……」
「ああ、いやそういうんじゃないんだ。全然そういうんじゃないから、全く気にしないでくれ」
「……はい」
いやいやいやいや。気にしないでくれと言われても、死ぬほど気になるんですけど陛下。だって絶対今の反応、なにかやらかしているわよね。これは帰ってからすぐにでもユノンに探ってもらわないと。
もう本当にやめてよね。私が見てないところで勝手なことをするの……。また借金を見てないとこで作っていたのかしら。
それかありもしないような架空の投資話に手を出して、借金を増やしたとか。
あれほど注意しても、すぐ変な話やうまい話に手を出そうとするのよね。そのたびに、どれだけ私が苦労してきたかも知らないで。
一度や二度どころじゃなくて、ひっかかりやすいリストにでも載っているんじゃないかってぐらい、うちは詐欺とかによく狙われるのよね。
単純っていうか、世間知らずっていうか。特段人を信じやすいってわけでもないのに、お金が絡むとすぐに信じちゃうんだから。
目先の損得しか興味がなくて、頭悪いっていったらないわ。
ああでももう、そんなことに頭を悩ますのも終わりなのよね。私はもう、あそこには帰るつもりなかったんだ。そして金輪際、あの家を手伝う気も。
騙されたって、何されたって、もう私の知るところではない。
でもいつものクセって怖いわね。ずっとずっと染み付いてしまっている。家のことを一番に考えて、動いてしまうくせ。早く直さないとね。
「さぁ。挨拶も済んだので帰りましょうオリビア」
「え、あ、マルク様。もうよろしいのですか?」
ややムスっとしたような表情のマルクが私の手を掴んだ。そうやって急に手を握るの禁止ー。
びっくりするし、変なのよ。そう変。
マルクに顔を覗き込まれたり、触られたりすると変なの。自分が自分じゃなくなるみたいな感覚。男性に免疫がないってダメね。変に勘違いしちゃうのよ。
それもこれもみんな、アレンのせいだわ。自分は女の子たちと毎日遊びまくっているのに、私のことは存在すらいなかったように全く相手にもしてこなかった。
婚約者としての交流も、ほぼなかったのよね。お茶会や会話や、手紙すら交わしたこともないし。
それでいて、私が他の男性と話しているだけで浮気だとか男にだらしないとか酷い言い様だったし。
我ながら、よく我慢していたわね。今考えても本当に腹が立つわ。アレンは私のことをなんだと思っていたのかしら。
「おいおいおいおい、どこかに隠しておきたいほどの婚約者だとはいえ、まだ挨拶しかしてないだろうが」
「もう十分見せましたが」
「いや、おまえなぁ。見せたって、その見せたじゃ意味ないだろう」
「ふふふ。お二人は本当に仲がよろしいのですね」
「「どこが」」
私の言葉に二人の言葉がぴったりと重なる。
「ほら、息ぴったりではないですか」
「あはははは。そうだな」
「よりにもよって、陛下とだなんて……」
「だから不敬罪だっつーの。で、いい加減二人の馴れ初めくらい聞かせてくれよ。それぐらいいいだろう」
陛下の言葉に私は固まった。馴れ初め……馴れ初めってなんだろう。さっき会ったばかりで、これは演技なのですよなんて言えるわけがないし。
そうなのよね。この婚約の意図はなんとなくは理解していると思うんだけど、マルクから詳しい説明を全くうけていないし。むしろ私がそれを聞きたいのですよ、陛下。
なんて言えるわけないけど。
「あの、えっと?」
私は返答に困って横に座るマルクを見上げた。マルクは私と視線が合うと、ただふんわりと表情を崩した。
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