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「お似合いですよ、お嬢様」

「そうかしら」

「ええ、もちろん」


 一目で上質と分かるシルクのドレスは私の瞳と同じ色をしていた。細部にまで刺繍が施されており、サイズも申し分ない。

 まるで私のために作られたと思えるようにぴったりで、しっとりと肌に吸い付く。

 こんなに高いドレスを着たのは初めてね。しかも村にいるだけなのに、こんなに高い物を着るだなんて何か変な感じ。

 貴族は本来、ほぼドレスで過ごす。でも私は仕事をしたり動き回ることが多かったため、ドレスは夜会の時しか着て来なかった。

 それに一度袖を通したドレスは着ないという貴族ポリシーなどもなく、着回せれば十分と、ほとんどドレスを持っていなかったし。

 だからこんな風に、何にもない日に着飾ることは初めてなのだ。でもそれ以上に、このドレスを受け取った時からドキドキしている。

 先ほどのユノンの言葉。あとからこれを送った本人が来る。

 そう、つまりここにマルクが来るということ。マルクが贈ってくれたこのドレスを着て、ちゃんと化粧までして待っていたら、マルクはどんな反応をしてくれるのかしら。

 そんなことをふと思ってしまったために、この気持ちを隠したくて私は着替える間ずっとユノンに話しかけていた。


「ありがとう、ユノン」

「でも次回からは化粧する時は黙って下さいね。全然出来ませんから」

「ぅぅぅ。ごめん」

「まったく。うれしいのは分かりますが、はしゃぎすぎですお嬢様」

「は、はしゃいでなんていないもん」

「じゃあ、なんだって言うんですか?」

「はしゃいでたんじゃなくて……ただ、私のためにドレスを贈ってくれたのがうれしかったの」

「まったく、子どもみたいですねお嬢様は」

「うーーー。仕方ないじゃない」

「分かってますよ。子どもみたいで可愛らしいという意味です」

「なにそれー。ユノンそれ、褒めてるの?」

「もちろんですけどー」

「もぅ」


 アレンは私には興味なかったから、贈り物なんてもらったことはなかったのよね。かろうじて、アレンの代わりに仕事をしていた時は、お義母様からお古のドレスをいただいたことはあるけど。

 でも貴族は同じドレスを着ないから、私がお義母様のドレスを手直しして着てたら陰口を言う人もいたのよね。

 別にドレスに罪はないんだし。いるかいらないかって言われたらまた別問題だけど。でもあの時は着ないという選択肢もなかったから。

 考えたら実家にいた時だって、いつもシーラは新しい服を買ってもらえて、私は誰かのお下がりばっかりだったのよね。

 自分だけのモノは欲しかったけど、お金は無限にはわいてこないし。諦めてしまっていた。


「でもさぁユノン、このドレス一枚でいくらぐらいするのかしら。すごく高そうよね」

「すぐ値段のことを口に出す癖、絶対にやめた方がいいですからね」

「あー」

「あー、じゃないですよお嬢様。品がなさすぎです」

「はぁい」


 分かってはいるけど、癖って抜けないのよね。でもマルクの前でやってしまったら、恥ずかしすぎるわ。ユノンの言うように絶対に気を付けよう。


「着替えも終わったことですし、さっさと下降りますよ? 他にもたくさん届いてますから」

「え? たくさんって、何が?」

「とにかくたくさんですよ。まだ開ける暇がなかったので、ご自分の目で確認して下さい」

「えええええ」


 嫌な予感と共に、昨日別れ際にマルクの前で呟いた言葉を私は思い出していた。
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