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「お嬢様、暇な人捕まえてきましたよー!」
ノックもそぞろに執務室に入って来る ユノンに連れられた人を見た瞬間、私は思わず吹き出した。
歳は私たちよりも一回りほど上だろうか。ただ背もユノンよりもかなり大きく、その腕の太さはある意味私の太ももくらいあるのではないだろうか。
よく言えば眼光鋭く。普通に言えば、うん……かなり人相がわるーい。だけどこの人はそう、こんなとこに連れて来てもいい人でもなければ、絶対に暇な人でもなかったはずだ。
「ユノン、ギルド長連れてきちゃダメでしょう」
「えー。だって、あの中で一番暇そうでしたよ!」
親指を立てながら、グッドって。いや、ホントにそれダメでしょう。絶対暇そうに見えるけど、暇じゃなかったヤツだと思うし。
だいたい、ギルドの責任者をこんなことで屋敷に呼びつけるとか聞いたことないし。
「なんか、ちっがーーーーーぅよ」
「えー? だってほら、人悪そうに見えるし、ちょうどいいじゃないですか」
「こらそこ。人が悪そうなんじゃなくて、ちょっと人相が残……。あああ、すみません。なんでもないです」
もーーーー。ユノンが変なこと言うから勢いで言いかけちゃったじゃないのよ! 元々何度かこの領地に冒険者ギルドを作るにあたって交渉はしたことがある方だけど、こんなに砕けてしゃべれる間柄ではないのよ。
よりによって、自分で恥を上塗りしちゃうだなんて。本当に、見た目は怖い人だけどすごく人情味溢れる方なんだから。
でも今からそれを言っても、なんだか嘘くさく思えちゃうし。どうする、どうしよう。
「あははははは。人相が悪い自覚はありますし、大丈夫ですよ。それに、あの中では自分が確かに一番暇でしたしね。ユノンの話を聞いて、さすがに危険だと思って来たんです」
「申し訳ありませんギルド長。わざわざこんなとこまで来ていただいて」
「なになに、いいんですよ。世の中、持ちつ持たれつではないですか。散々、うちはかなり優遇されてるんです。むしろこんなことお安い御用です」
「優遇なんてそんな……。ただ冒険者ギルドを誘致するのに、土地をタダで提供しているだけですわ」
貴族の一部には、冒険者がいると治安が悪くなると嫌う人たちがいるのは確かだ。それによって、その領地にはギルドが立てられなかったりする。
依頼はするくせに、場所は貸さない。私に言わせれば、傲慢極まりない。王都でさえ、冒険者の重要性を分かっているのに、それを排除したがるなんて。
中には確かにガラの悪い冒険者たちもいる。でもそういった者たちの取り締まりは全てギルド長の手腕に任せていて、今のところ問題はない。
またうちの領地に限っては、冒険者たちがテントなどを張る広場の警備を引退した元冒険者に給与を払ってお願いしているから、本当にいざこざは少ないのよねー。
「いや、それだけじゃないじゃないですか。元冒険者たちを使用人や広場の警備で使って下さったり、あとは仕事がない時は率先して仕事を振って下さる」
「でも仕事っていっても、私が頼むのは村の整備や雑用ばかりよ。この前だって、屋敷の整備とか全然関係ない仕事振っちゃったし」
「それでもいいんですよ。あいつらは仕事がねーとか金がねーとか、腐っているより体を動かす方が好きですから」
「ん-。それならいいんだけど」
「まぁ、お嬢ちゃんの笑顔見たさにって奴らも多いですけどね」
「むぅ、ちゃん付けって」
「あはははは。すみません、ついうちの娘と同じくらいなので」
豪快に笑いながら頭をかくギルド長を見ていると、なんだかこんな人が父だったらきっと幸せだったのになぁと想像してしまう。
もちろんそんなことは夢でしかなく、今から起こるであろうことを考えたら、現実はもっと厳しいのだけれど。でもそれでも、そんな人がいてくれるだけ、今の私には何よりも有難かった。
「はいはい。無駄話はそれぐらいにして。旦那様が乗り込んできちゃったら困るので支度してくださいな」
「そうね。ギルド長、うちの使用人の服は入るかしら~」
「え。もしかして襟のある、堅苦しそうな服なんじゃないですか、それは。じ、自分そういうのはちょっと……」
「さ、ユノン案内してあげてね」
「はぁい。さ、とっとと着替えて下さい」
「え、え、え。このままではダメなのか?」
「「ダメです」」
「あああああ」
二人に言われてやや絶望のような表情を浮べながら、ユノンに引率されたギルド長はとぼとぼと部屋を出て行った。
ノックもそぞろに執務室に入って来る ユノンに連れられた人を見た瞬間、私は思わず吹き出した。
歳は私たちよりも一回りほど上だろうか。ただ背もユノンよりもかなり大きく、その腕の太さはある意味私の太ももくらいあるのではないだろうか。
よく言えば眼光鋭く。普通に言えば、うん……かなり人相がわるーい。だけどこの人はそう、こんなとこに連れて来てもいい人でもなければ、絶対に暇な人でもなかったはずだ。
「ユノン、ギルド長連れてきちゃダメでしょう」
「えー。だって、あの中で一番暇そうでしたよ!」
親指を立てながら、グッドって。いや、ホントにそれダメでしょう。絶対暇そうに見えるけど、暇じゃなかったヤツだと思うし。
だいたい、ギルドの責任者をこんなことで屋敷に呼びつけるとか聞いたことないし。
「なんか、ちっがーーーーーぅよ」
「えー? だってほら、人悪そうに見えるし、ちょうどいいじゃないですか」
「こらそこ。人が悪そうなんじゃなくて、ちょっと人相が残……。あああ、すみません。なんでもないです」
もーーーー。ユノンが変なこと言うから勢いで言いかけちゃったじゃないのよ! 元々何度かこの領地に冒険者ギルドを作るにあたって交渉はしたことがある方だけど、こんなに砕けてしゃべれる間柄ではないのよ。
よりによって、自分で恥を上塗りしちゃうだなんて。本当に、見た目は怖い人だけどすごく人情味溢れる方なんだから。
でも今からそれを言っても、なんだか嘘くさく思えちゃうし。どうする、どうしよう。
「あははははは。人相が悪い自覚はありますし、大丈夫ですよ。それに、あの中では自分が確かに一番暇でしたしね。ユノンの話を聞いて、さすがに危険だと思って来たんです」
「申し訳ありませんギルド長。わざわざこんなとこまで来ていただいて」
「なになに、いいんですよ。世の中、持ちつ持たれつではないですか。散々、うちはかなり優遇されてるんです。むしろこんなことお安い御用です」
「優遇なんてそんな……。ただ冒険者ギルドを誘致するのに、土地をタダで提供しているだけですわ」
貴族の一部には、冒険者がいると治安が悪くなると嫌う人たちがいるのは確かだ。それによって、その領地にはギルドが立てられなかったりする。
依頼はするくせに、場所は貸さない。私に言わせれば、傲慢極まりない。王都でさえ、冒険者の重要性を分かっているのに、それを排除したがるなんて。
中には確かにガラの悪い冒険者たちもいる。でもそういった者たちの取り締まりは全てギルド長の手腕に任せていて、今のところ問題はない。
またうちの領地に限っては、冒険者たちがテントなどを張る広場の警備を引退した元冒険者に給与を払ってお願いしているから、本当にいざこざは少ないのよねー。
「いや、それだけじゃないじゃないですか。元冒険者たちを使用人や広場の警備で使って下さったり、あとは仕事がない時は率先して仕事を振って下さる」
「でも仕事っていっても、私が頼むのは村の整備や雑用ばかりよ。この前だって、屋敷の整備とか全然関係ない仕事振っちゃったし」
「それでもいいんですよ。あいつらは仕事がねーとか金がねーとか、腐っているより体を動かす方が好きですから」
「ん-。それならいいんだけど」
「まぁ、お嬢ちゃんの笑顔見たさにって奴らも多いですけどね」
「むぅ、ちゃん付けって」
「あはははは。すみません、ついうちの娘と同じくらいなので」
豪快に笑いながら頭をかくギルド長を見ていると、なんだかこんな人が父だったらきっと幸せだったのになぁと想像してしまう。
もちろんそんなことは夢でしかなく、今から起こるであろうことを考えたら、現実はもっと厳しいのだけれど。でもそれでも、そんな人がいてくれるだけ、今の私には何よりも有難かった。
「はいはい。無駄話はそれぐらいにして。旦那様が乗り込んできちゃったら困るので支度してくださいな」
「そうね。ギルド長、うちの使用人の服は入るかしら~」
「え。もしかして襟のある、堅苦しそうな服なんじゃないですか、それは。じ、自分そういうのはちょっと……」
「さ、ユノン案内してあげてね」
「はぁい。さ、とっとと着替えて下さい」
「え、え、え。このままではダメなのか?」
「「ダメです」」
「あああああ」
二人に言われてやや絶望のような表情を浮べながら、ユノンに引率されたギルド長はとぼとぼと部屋を出て行った。
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