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「ユノン……ユノン、ユノン!」
私がどれだけ大きな声を上げても、ユノンはピクリとも動かない。そしてそれはその隣で同じように男たちに拘束されている御者もそうだ。
なんてことをしてくれたの。私がなびかないからって、こんなこと絶対に許されるわけがない。いいえ、絶対に許さない。
「二人に何をしたの!」
「騒がれると困るから少し静かにしてもらっただけさ」
「少し? これが、ですか」
「ああそうさ。貴族に対する侮辱罪は酷い場合は死罪にもあたるからな」
「それはあくまでも裁判の上のはずですわ。こんな形で危害を加えるなど、いくら平民であっても到底許されることではないですわよ」
「まぁそうだな。それならば証拠は全部消してしまえばいい」
「!」
証拠を消すって、この人は何を言ってるの?
頭がとうとうそこまでおかしくなってしまったの。元から平民を見下して、使用人に暴力をふるうのすら、なんとも思わないような人ではあったけど。
それでも二人はあくまでも私の使用人なのに。それをどうにかしようだなんて、犯罪を犯しますって宣言しているようなものじゃないの。
そしてそれを咎めることもしない、シーラも護衛も……。みんなどうにかしてるわ。
「状況がやぁっと分かったみたいね、お姉さま。さ、とっととアレン様の屋敷に行きましょう」
「シーラ、あなた分かってるんでしょうね」
「なぁに、たかが使用人ごときでそんな怖い顔しちゃって」
「本当だな、ただの平民ごときどうでもいいようなものを」
「ほら、だから言ったじゃないですかアレン様。お姉さまに言うことを聞かせるには、お姉さまが大切にしてる者たちを使えばいいって」
「シーラの言う通りだな。しかし大切なモノがまさか使用人とはな」
使用人だからなんだというの。私にとっては彼らは一番の理解者であり、ずっと傍で支えてきてくれた存在なのよ。
彼らがいなかったら、とっくに心なんて折れていた。
ここまで来られたのも、こんな風に抵抗できたのも、みんなと一緒に笑える時間があったから。それをこんな風に馬鹿にするなんて。
何にも知らないくせに。私のことも、彼らのことも、何一つ知ろうともしなかったくせに辞めてよ!
やっぱり、自分のことを言われる以上に腹が立つ。だって私にとっては何よりも大切なモノたちだもの。あんたたちに何が分かるというのよ。
「だってアレン様、お姉さまにはそんなモノたちしか仲間になってくれる人もいないんですもの」
「そうね。友達すらシーラはいなかったようだけど」
「馬鹿にしてるの!?」
つかつかと私に近づいてくると、シーラは思い切り平手打ちをした。
しかし痛みになど気にすることなく、ただ私はシーラを見る。シーラが大嫌いであろう余裕たっぷりな顔で。
「男にばっかり媚媚してたものねー。もう少しお友だちの作り方とか、お父様たちもシーラに教えてあげればよかったのに」
「まだ言うの!」
「だって本当のコトでしょう? 使用人たちと嘲笑うけど、そんな使用人にすら懐いてもらえないのだもの。可哀想だなって心から思うのよ」
「馬鹿にして」
「馬鹿にじゃなくて心配してるのよ。この先大変だろうなぁって」
「あんたに言われたくないわ! あんたはこれからもずっとそんな風に地を這いつくばって生きていくんだから!」
シーラとアレン様の計画なんて、大抵予想がつく。しかし時間稼ぎしたもの、ユノンが意識を取り戻す気配はない。
二人の安否のためにも、ここは大人しくついていく方が無難そうね。でも……不安でしかない。
自分に今置かれた状況よりも、意識を取り戻さない二人が。ああでもまたそんなことを言ったら、ユノンはきっと怒るんだろうな。
だけど本当にどうにかして二人を助ける方法を考えないと。
今日はすごく楽しい日になるはずだったのに、本当に最悪だわ。
そんなことを思いながら、私は言われるままアレンたちが乗ってきた馬車に押し込められた。
私がどれだけ大きな声を上げても、ユノンはピクリとも動かない。そしてそれはその隣で同じように男たちに拘束されている御者もそうだ。
なんてことをしてくれたの。私がなびかないからって、こんなこと絶対に許されるわけがない。いいえ、絶対に許さない。
「二人に何をしたの!」
「騒がれると困るから少し静かにしてもらっただけさ」
「少し? これが、ですか」
「ああそうさ。貴族に対する侮辱罪は酷い場合は死罪にもあたるからな」
「それはあくまでも裁判の上のはずですわ。こんな形で危害を加えるなど、いくら平民であっても到底許されることではないですわよ」
「まぁそうだな。それならば証拠は全部消してしまえばいい」
「!」
証拠を消すって、この人は何を言ってるの?
頭がとうとうそこまでおかしくなってしまったの。元から平民を見下して、使用人に暴力をふるうのすら、なんとも思わないような人ではあったけど。
それでも二人はあくまでも私の使用人なのに。それをどうにかしようだなんて、犯罪を犯しますって宣言しているようなものじゃないの。
そしてそれを咎めることもしない、シーラも護衛も……。みんなどうにかしてるわ。
「状況がやぁっと分かったみたいね、お姉さま。さ、とっととアレン様の屋敷に行きましょう」
「シーラ、あなた分かってるんでしょうね」
「なぁに、たかが使用人ごときでそんな怖い顔しちゃって」
「本当だな、ただの平民ごときどうでもいいようなものを」
「ほら、だから言ったじゃないですかアレン様。お姉さまに言うことを聞かせるには、お姉さまが大切にしてる者たちを使えばいいって」
「シーラの言う通りだな。しかし大切なモノがまさか使用人とはな」
使用人だからなんだというの。私にとっては彼らは一番の理解者であり、ずっと傍で支えてきてくれた存在なのよ。
彼らがいなかったら、とっくに心なんて折れていた。
ここまで来られたのも、こんな風に抵抗できたのも、みんなと一緒に笑える時間があったから。それをこんな風に馬鹿にするなんて。
何にも知らないくせに。私のことも、彼らのことも、何一つ知ろうともしなかったくせに辞めてよ!
やっぱり、自分のことを言われる以上に腹が立つ。だって私にとっては何よりも大切なモノたちだもの。あんたたちに何が分かるというのよ。
「だってアレン様、お姉さまにはそんなモノたちしか仲間になってくれる人もいないんですもの」
「そうね。友達すらシーラはいなかったようだけど」
「馬鹿にしてるの!?」
つかつかと私に近づいてくると、シーラは思い切り平手打ちをした。
しかし痛みになど気にすることなく、ただ私はシーラを見る。シーラが大嫌いであろう余裕たっぷりな顔で。
「男にばっかり媚媚してたものねー。もう少しお友だちの作り方とか、お父様たちもシーラに教えてあげればよかったのに」
「まだ言うの!」
「だって本当のコトでしょう? 使用人たちと嘲笑うけど、そんな使用人にすら懐いてもらえないのだもの。可哀想だなって心から思うのよ」
「馬鹿にして」
「馬鹿にじゃなくて心配してるのよ。この先大変だろうなぁって」
「あんたに言われたくないわ! あんたはこれからもずっとそんな風に地を這いつくばって生きていくんだから!」
シーラとアレン様の計画なんて、大抵予想がつく。しかし時間稼ぎしたもの、ユノンが意識を取り戻す気配はない。
二人の安否のためにも、ここは大人しくついていく方が無難そうね。でも……不安でしかない。
自分に今置かれた状況よりも、意識を取り戻さない二人が。ああでもまたそんなことを言ったら、ユノンはきっと怒るんだろうな。
だけど本当にどうにかして二人を助ける方法を考えないと。
今日はすごく楽しい日になるはずだったのに、本当に最悪だわ。
そんなことを思いながら、私は言われるままアレンたちが乗ってきた馬車に押し込められた。
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