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二度目の話

閑話 私が死んだ後 3

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 ブレア公爵side


 その後、気付くと王宮に来てきた。


「アルマン…、戻って来たのだな…。
 来ると思っていた。」

 王太子殿下は静かに私を迎えてくれたのだが、憎悪に満ちた目で私を見ていることに気付いた。

「シアは…、妻は死んだのですか?」

 声が震えてしまい、そのことを聞くのが精一杯であった。

「もうお前の妻ではないだろう。
 アナは死ぬ前に、お前との離縁を願い出た。
 バーカー子爵令嬢とお前は愛し合う仲で、私は二人の仲を引き裂く邪魔者でしかなかったと言っていたようだ。」

「誤解です!」

 なぜ、あの女が?

「コールマン侯爵が、アナの専属メイドに聴き取りをして聞いた話によると、私の結婚の前に、元婚約者のアナを早く片付けておきたいから、王命で急いで結婚させられたと思っていたようだ。」

「違います!私が望んで早く結婚したかっただけです!」

「それをアナには伝えたのか?」

「……。」

 伝えていなかった私は何も答えられなかった。

「あのバーカー子爵令嬢が、公爵家に訪ねて来た時に、アナに暴言を吐いたらしい。ただの王命で、運良くアルマンと結婚出来ただけの傷物だとか、自分は小さな頃から、アルマンと結婚の約束をするほど仲が良かったのだとか…。」

「あの女がシアに会いに来たのですか?」

 そんなこと知らなかった。
 しばらくは顔も合わせていなかったし、仲が良かったわけでもない。バカな女だからと放っておいたが…。
 隣国に行く前、何となくシアの様子がおかしいと思っていたが、あの時か!

 あのメイド長が使用人達に口止めをしていたのかもしれない。
 あの女、シアに何てことを!!

「今回のことは、公爵家のメイド長と使用人、侍医とバーカー子爵令嬢が悪いということは理解している。だが、私から見たら、お前のしたことも許せない。
 どうしてアナにお前の気持ちを伝えてやらなかった?
 アナは…、絶望の中で死んでいったのだ。」

「………。」

「コールマン侯爵に言われたよ。
 婚約解消は仕方がなかったが、なぜ義妹の気持ちを考えることなく、急いで家臣に押しつけるように婚姻をさせてしまったのかと。
 義妹は気持ちの整理をする時間もなかったし、結婚した後も、王命で仕方なく結婚してもらえた哀れな公爵夫人だと思い込んでいて、見ていて心苦しかったとな。
 陛下もアナの幸せを願ったとはいえ、王命で強引に話を進めてしまったことは間違いだったと心を痛めているようだ。
 私自身も…、自分が…許せない…。」

 殿下の声が怒りで震えている。

「そんなつもりは…。
 私が全て悪いのです。」

「コールマン侯爵はかなり怒っていた。メイド長と侍医の処刑は決まったのに、あのバーカー子爵令嬢は罪に問えないことをな。
 そしたら侯爵は、バーカー子爵家が、子爵領の孤児を人身売買していると情報を掴んできてくれたんだ。子爵家は取り潰しになるだろう。
 残念だが、バーカー子爵令嬢は貴族ではなくなるから、お前とは結婚出来ないな。」

「……あんな女と結婚なんて有り得ない。
 私が愛しているのはシアだけです。」

 シアに私の気持ちを伝えていなかったことを後悔した。
 私はシアを幸せにしたいと思いながら、不幸にさせていたということなのか……

「コールマン侯爵は怒らせると怖いということだ。
 お前とは今後の付き合いは最低限にしたいと言っていたから、侯爵家に謝罪がしたいだとか、墓参りがしたいとか、アナの最期を聞きたいとかで無理に接触をすることはやめておけ。」

「……っ!」

「自分だけ楽になろうだとか、変な考えは持つなよ。
 お前も私も、勝手に死ぬことを許されない身なのだ。
 これは王太子命令だ…。」





 その後の私は、何のために生きているのか分からなくなっていた。
 光のない日々がただ過ぎていく。
 そんな私は、殿下の側近を辞めて公爵家の仕事に専念することにした。


「公爵閣下、あの女が北の修道院に護送される日が決まったようです。御者と付き添いの騎士達は買収済みです。」

「分かった。その日は私も行く。」


 数日後、辺境に向かう馬車を森の中で待っていると、一台の古びた馬車がやってくるのが見えた。その馬車は私達の前で静かに停まる。

「ご苦労だった。」

 袋に入った金貨を御者と騎士達に渡す。

「女が途中で身を投げたということにしておきます。」

「頼んだ。」

 騎士は馬車のドアのカギを開けて、中にいる女を降ろすと、すぐに馬車を走らせて行ってしまった。

「えー!アルだったの?やっぱり私を助けに来てくれたのねぇ!」

 恐る恐る馬車から降りてきた女は、私がいることに気付き、喜んでいるようだった。

「………。」

「アルってば!私に会えたことが嬉しいからって、そんなに恥ずかしいがらないでぇ。」

 やはりバカだ。こんな女に私は愛する人の命を奪われたのか…

「早く行くぞ。」

「うん!」

 逃げられないように、直ぐに馬車に乗せる。

「アル、どこに行くのぉ?」

「公爵領だ。」

「嬉しい!私を公爵家に迎えてくれるのねぇ。」

 この女の声は、相変わらず私を不快にさせる。

「少し黙ってろ!」

「はぁい!アルはおしゃべりは好きじゃなかったもんねぇ。」


 馬車で数時間走ると、ブレア公爵領に入る。


「着いたぞ。早く降りろ。」

「えっ?ここは公爵家のお屋敷じゃないわよね?」

 本当にバカな女だ…。
 だが、こんな女に大切なものを奪われた私は、もっとバカだな…。

 馬車を降りて直ぐに、騎士達が女を拘束する。

「な、何をするのよ!私は公爵夫人になるのよ!馴れ馴れしく触らないでちょうだい。」

「煩いから、すぐに監獄に入れてくれ。」

「男の雑居房でよろしいのでしょうか?」

「ああ。その女には、そこが一番合っているだろう。
 囚人達には、恩赦は出来ないが、気分転換にその女を使っていいと言っておけ。
 殺すのだけは許さないということも伝えてくれよ。」

「閣下。雑居房には、殺人や強姦などの凶悪犯が20人くらい収監されていたかと思いますが…。」

「構わない。さっさと連れて行け。」

「えっ?アル、どういうこと?私を公爵家に迎えてくれるんじゃなかったのぉ?
 無理に結婚させられた女とは離縁できたんでしょ?邪魔者はもういないわよねぇ?」

 この女は、シアを邪魔者だと言ったのか…

「シアはこんな風に言われて傷つけられていたのか…。私は何も知らずに、ただ結婚出来たことに満足だけして、シアを不幸にしていたということなのだな。」

「え?シアって誰?」

「シアは私の愛する妻だ!
 私がいつお前なんかを妻にすると言った?お前のことなど、話の通じない犬や猫くらいにしか思っていなかったぞ。」

「嘘よ…。今日も私をこうやって迎えに来てくれたじゃないの!」

「黙れ!修道院なんて生ぬるい場所はお前には似合わないから、ここに連れて来てやっただけだ。」

 ここまで言っても、全く意味を理解していないような表情をするバーカー元子爵令嬢。

「アル、怒らないでぇ!私、アルに相応しいお嫁さんになるからぁ。
 ずっと好きだったの。だから許してぇ!」

「お前は私の大切なシアを傷付けた…。
 シアのいない人生なんて生きている価値もないが、私は自分で死ぬことも許されない。
 お前も残りの人生は地獄を味わえ…。」

「えっ?アル?ちょ…離してよー。」

 


 少しすると、監獄の方から女の叫び声が聞こえてきた。



 報復をしても、全く心は晴れなかった。

 私はどうしてシアを守れなかったのだろう?

 シアは私と結婚しなければ、こんなことにはならなかった。

 
 シアに逢いたい。

 もし時間が戻れるなら、愛してると伝えたい。

 
 こんな私に残ったのは、言葉に出来ないほどの後悔と、シアの結婚指輪だけだった。



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