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二度目の話

あの時と同じ

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「…やはり。コールマン侯爵令嬢、勉強でもしているのか?」

 あ、誰かに話しかけられている…
 
 ……ひぃー!

 慌てて立ち上がり、カーテシーをする私。

「このような場なのだから、気にせずに座ってくれ。」

「王太子殿下、ご機嫌麗しゅうございます。」

 座れと言われても、殿下が立っているのに座れないわ!

「コールマン侯爵令嬢は、もうマニー語の本が読めるのか?
 噂通りの才女なのだな。」

「ただ興味を持って見ていただけですわ。」

 気まずいわね。ただ、この前学園で会った時みたいに、冷ややかな雰囲気は感じられないからいいけれど。

「ここの席…、空いているか?」

「あ、空いていると思われます。」

 はい?王族用の別室があるわよね。何で私の前に座るのよ?
 少し離れた場所にいる護衛騎士達も、何か言いたそうな目で見ているわ。

 今すぐに帰りたいけど、今帰るのも感じ悪いだろうから、もう少ししたら席を立ちあがろう。

 それにしても、王太子殿下はこの時間はいつも生徒会よね?何でいるのかしら?
 もしかして…、テスト期間?

「君は、アルマンと仲がいいのか?」

 え?なぜ突然その話…
 どう見ても仲良さそうに見えないでしょうが!

「いえ。私のような者が、あのお方と仲が良いなどと言えるような立場にありませんわ。」

「なるほど…。君はあまりそう言ったことには興味はないということか。」

 あ…!その柔らかく微笑む表情は一度目の時と同じだわ。
 懐かしいわね。

「そうですわね。興味はないです。」

 このことは、あの男の友人で親戚でもある殿下にはハッキリ伝えておいた方がいいわね。

「興味がないって…。ぷっ、…くっ、くっ!
 す、すまない。誰もが憧れる公爵家の嫡男に向かって、興味がないなどとハッキリいう者がいることが面白くて…、つい…。」


 笑い方もあの時と変わっていなかった…


 はっ!…これは筆頭公爵家に不敬だったかしら?
 いけない!あの公爵家を怒らせると、ギロリー侯爵令嬢のように、没落させられてしまうわ。

「あ、あの…、このことはご本人様には…、内緒でお願いできますでしょうか?
 不敬だと思われたくはないのです。
 殿下にこのようなことを言うことも、大変無礼であることは承知しております。」

「…ダメだ。このことは、私からアルマンに伝えておく。」

「そんな…!」

 ええー!ブレア公爵家に睨まれてしまうわよ!

「…くっ。…冗談だ!言わないよ。
 内緒にするから、そんな泣きそうな顔をしないでくれ。
 コールマン侯爵令嬢が面白すぎて、つい揶揄ってしまった。すまないな。」

「酷いですわ!」

「そんなに怒らないでくれ。
 本当に悪かった…。」

 こんな風に私を揶揄うところも、あの時と変わってないのね…。

 早くこの場から離れた方がいいに決まっているのに、殿下と話をするのは思いのほか楽しかった。

 
 その後、殿下とどれくらい話をしただろうか…


「アナ。遅くなる前に迎えに来た!」

 お義兄様に声を掛けられてハッとした。

「お義兄様、どうして…?」

「コールマン侯爵令息、義妹殿を私の話に付き合わせてしまって申し訳ない。
 この年齢でマニー語の本を読んでいたから、気になって話しかけてしまったんだ。」

 殿下の言葉からは、私に気を遣ってくれているのが伝わるものだった。
 やっぱり今世の殿下もお優しい方なのね。何だか安心する。

「王太子殿下、私の義妹が大変お世話になりまして、ありがとうございました。
 アナ。最近は図書館での読書や勉強で忙しいからと、一緒にお茶をしたり、ゆっくりと食事をする暇がなかっただろう?
 今日は一緒に過ごしたいと思って迎えに来たんだよ。」

 やはり、しばらくはブラコンはやめられそうにないわね…。

 お義兄様が迎えに来てくれたことによって、この場から離れるための理由にもなるわ。

「お義兄様、ありがとうございます。
 忙しいお義兄様が迎えに来てくださるなんて、とても嬉しいですわ。」

「アナの淹れたお茶がどうしても飲みたかったんだ。
 帰ったら淹れてくれるか?」

 ああ、お義兄様の秘密の恋人が羨ましい。
 やっぱりお義兄様は素敵だもの。

「はい。勿論ですわ。」

「コールマン侯爵家の義兄妹は本当に仲が良いんだな。羨ましいよ。」

「アナは私の一番の宝物なのです。」

 え…!お義兄様、殿下にまでシスコンをアピールしないでよ。

「お、お義兄様。殿下になんて事を…。」

「コールマン侯爵令息は、義兄として君を可愛がってくれているのだから良いではないか。」

「お恥ずかしいですわ。」

 お優しい殿下は、こんなお義兄様に引かずにいてくれるのね。一度目と変わらずにいい人だわ。
 死神認定して悪かったかしらね。いや、この人も私が死ぬきっかけの一つであったのだから、いい人であっても、気を付けなければならないわ。


 この人と婚約したら、厳しい王妃教育が待っているし、努力しても結局は結ばれないのだから、近づいてはいけない。
 あの時のような、悲しい思いはしたくない。

 私は平凡な方と普通の結婚をして、普通の幸せを掴んで長生きしたいもの。


 殿下が図書館に来そうな日は、もう来るのはやめよう。
 後でお義兄様に、テスト期間がいつまでなのか聞いておいた方がいいわね。


 そういえば、最近は図書館ばかり来ていたから、王都の街中を散歩してなかったわ。
 明日は、お店や道を調べるために街歩きしようかしら。






 
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