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二度目の話

外出

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 いざという時に逃亡することを考えた私は、積極的に外出するようにした。

 まずはこの周辺の道を細かく覚える必要があるから、徒歩で散歩することにした。勿論、一人で出歩くことは出来ないから護衛付きだけど。
 基本的に王都での移動は、馬車ばかりだったから、邸の周りの道すらよく知らずにいたのよね。

 お金も金貨ばかりだと不便だから、街に出た時に何かちょっとした物を買って、お釣りの小銭を溜め込んでいる。
 
 そのうち、乗合馬車の場所もチェックしておきたいわね。

 家庭教師の先生との勉強時間が決まっているから、逃亡計画の準備は、平日の勉強を終えた後の午後の時間になってしまい、お義兄様とお茶をする時間がなくなってしまったけど、今はこっちが大切だから仕方がないわ。

 メイド達の淹れるお茶の方が美味しいから、何の問題もないはずよ。
 秘密の恋人がいるお義兄様に義妹がベッタリなのは良くないし、少しずつお義兄様離れをしていく必要があるもの…。
 寂しい気もするけど、お義兄様の幸せのためには我慢。
 お義兄様がシスコンだって思われたくないし…、しょうがないわよね。


 ある日私は、逃亡後の生活のことを考えた時に、平民の生活についてや潜伏先を決めるのために、色々と調べておいた方が良いだろうと考えた。
 だけど、うちの図書館にはちょうど良い本がないことに気付いてしまったのだ。

 これは王宮の図書館に行くしかないかしら。
 本の数は国内一だし、一度目の人生では、王妃教育でよくお世話になったのよね。

 確か、利用許可証を持っていれば利用できたはず…。

 図書館で勉強したいと言って、お父様に頼んでみようかしら。
 両親とはあの日から、食事の時に最低限の会話をするだけになっているけど、勉強したいって言えば、お父様ならすぐに利用許可証は用意してくれると思うのよ。


 家令にお父様と話がしたいと言ってみたら、お父様はすぐに時間を空けてくれた。


「お父様。私、王宮図書館で勉強がしたいので、図書館の利用許可証が欲しいのです。」

「…分かった。すぐに手配する。」

 良かったわ。やはり勉強するって言えば問題ないわね。
 うちの両親の結婚第一主義なところは嫌だけど、それ以外のことに関しては、そこまで煩くはないから憎めないのよね。

「ありがとうございます。
 お仕事中に申し訳ありませんでした。
 失礼致します。」

「ま、待ってくれ。」

 下がろうとした私を呼び止めるお父様。

「はい。何でしょうか?」

「アナ……。その…。他に何か欲しい物はないか?」

「…特にありませんわ。」

 本当は現金が欲しいと言いたいところだけど、流石に言えないわよね。何に使うんだとか聞かれそうだし。

「そうか…。
 アナ、あまり頑張りすぎないようにな…。」

 は?今までお義兄様と一緒になってガリ勉を推奨してきたくせに、どういうこと…?

「はい。分かりました。」

 その後お父様は、すぐに図書館の利用許可証を用意してくれた。

 やったわー!

 早速、その日の勉強を終えた午後の時間に、王宮図書館に行くことにした。

 予想はしていたけど、利用している人は私よりも年上ばかりだったから、まだ少しだけちんちくりんの私は少し浮いているような気がする。
 でも別に気にしない。静かにしていれば、文句を言われることはないだろうし、学園みたいに、絡んでくるような令嬢もいないから。


「コールマン侯爵令嬢、本日が初めてのご利用ですので、図書館内をご案内致します。」

 親戚そうな司書さんが案内しながら、利用方法などを丁寧に教えてくれた。
 本当は知っているのだけど、こんなちんちくりんの私に気を遣ってくれているのが、痛いほど伝わってくるから、知らないフリをして聞いていよう。

「本棚の上の方にある本は私達がお取り致しますので、遠慮なくお呼び下さい。」

「ありがとうございます。」


 どれどれ、本を探してみようかしら。

 逃亡するなら、住みやすい南部地方の都市がいいかしら。
 …なるほど。乗合馬車だけでなく、船もあるのね。
 船はどこに行けば乗れるのかしらね。

 逃亡というよりは、旅行にでも行くような気持ちになってきてしまい、調べるのが楽しくなってきた私は夢中で本を読み続けていた。

 それを毎日続けていたら、司書さん達が私を覚えてくれたようで更に親切にしてくれるようになった。

「コールマン侯爵令嬢、今日はいつものお席が使用中のようです。よろしければ、あちら側のお席も空いております。あちら側の奥のお席はいつも空いていて、静かでお勧めでございます。」

「教えて下さってありがとうございます。」

 すっかり常連さんの扱いになってきているわね。

 あっ!マニー国の本があるわ!
 その日は、マニー国を紹介する本を夢中になって読んでいたのだが…


「…コールマン侯爵令嬢?」


 夢中で本を読んでいた私は、近くで名前を呼ばれるまで、誰かが来たことに気付けなかった。




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