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二度目の話

私の知らなかったこと

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「アナ。ブレア公爵家が君との婚約を望んだとしても、王家が許可しなければいいだけだ。
 アナは私の婚約者候補の一人だから、今はまだ大丈夫だ。」

 王太子殿下は取り乱した私を宥めようとしているようだった。

「それは分かっていますわ!
 でもマニー国に出発する前に、あの男と偶然会ってしまったことがあって、その時に言われたのです。
 私が王太子殿下の正式な婚約者に決まらない限りは諦めるつもりはないと。
 あの男は怖過ぎです!」

 あ、ついあの日の出来事を言ってしまったわ。言ってから軽く後悔する私。
 なぜなら殿下の顔が…、本気で怒っている時の表情になっていたからだ。

 サァーっとその場の空気が冷たくなるのが分かった。
 殿下が怒ると、一気に声が低くなって、目が冷たくなって怖いのよー。
 さすが次期国王って感じで貫禄があるというか…。


「それは本当か?
 分かった。ブレア公爵令息には私から注意しておく。私の婚約者候補に近づくなと…。
 陛下にも、王命でアナを婚約させないで欲しいと私から頼んでおく。」

「あっ…!殿下から注意すると、私が告げ口したことがバレバレで余計に気不味くなるので、やっぱり大丈夫ですわ。
 それよりも、前みたいに王命で婚約させられないように、殿下から陛下に上手く言って下さると本当に助かります。
 あの王命での結婚は、私だけでなく、別に愛する人がいたあの男にとっても不幸でしたから。
 今世では、愛人を持つことを快く受け止めてくれるような、大人な考えのステキな御令嬢と結婚すればいいのです。私は絶対に無理ですから!」


 私のその話を聞いた殿下が神妙な表情に変わったのが分かった。


「アナ…、そのことなのだが…、バーカー子爵令嬢はアルマンの愛人ではない。
 このことを今更君に話すのもどうかとは思うが、アナは愛人の存在に未だに傷付いて、怯えているようだから一応伝えておく。」

「………え?」

「あの女が一方的にアルマンを慕っていただけで、アルマンは全く相手にしていなかった。眼中にもなかったと思う。」

 どう言うこと…?

「アナがブレア公爵家から助け出された後に、コールマン侯爵がアナの専属メイドから聴き取りをした話を私も聞いたのだが、バーカー子爵令嬢は、自分はアルマンの愛人であるかのようにアナに話をしたらしいが、それはあの可笑しな令嬢の思い込みか、ただの嘘だ。」

「しかし、あの時のメイド長は二人は愛し合っていたように見えたと話して……あっ!」

「…多分、アナとアルマンを仲違いさせるためにそのように言っていただけだ。」


 私は……


「アナ。私達が婚約していた時に、私達を仲違いさせようと、色々な令嬢が近づいて来たり、嫌がらせをしたりとあったが、その時のアナは私を疑ったりはしたか?」

「いえ。私は殿下を信頼していましたから。
 辛いと思ったことは沢山ありましたが、疑ったことは一度もありませんでしたわ。」

「そういうことだ…。
 あの時のアルマンは、婚約や結婚を急ぐあまり、アナとの信頼関係を築けていなかった。
 そんな時、少し抜けているアナは、うっかりバーカー子爵令嬢とメイド長に騙されたのだ。
 これは全て、あの時のアルマンが悪い。」

「私は何も知らずに、ただあの男を恨んでいたということですか。
 私のこんなところが、ダメなのでしょうね…。」


 その時にハッとした。
 もしかして、今世のバーカー子爵家が取り潰しになったのは…


「殿下。今世では、すでにバーカー子爵家は取り潰しになったと聞いたのですが、それはもしかして…」

「私は何もしてない。
 ブレア公爵家がバーカー子爵家が孤児の人身売買をしていることを突き止めたと聞いている。
 ちなみに一度目の時は、アナが亡くなってすぐに、コールマン侯爵がそのことを突き止めて、子爵家は取り潰しになったのだ。」

「お義兄様がですか?」

「ああ。コールマン侯爵はアナを不幸にしたバーカー子爵令嬢を許さなかったからな。
 何か不正をしていないか、色々と調べてくれたのだ。
 コールマン侯爵は、本当にアナを大切に想っていたんだよ。」


 やっぱりあの時のお義兄様も大好きだわ。
 あの時私は、自分は不幸だと思い込んでいたけど、最後までお義兄様が側にいてくれたから、孤独ではなかった。


「ブレア公爵家は公爵も、夫人も、アルマンまでも、一度目とは違った動きをしているから、分からないのだ。
 3人の誰かが記憶持ちだと思うが、今世の私はアルマンと距離を置いているから、なかなか調べにくいのだ。筆頭公爵家で力を持つ家門だしな…。
 だからどう動いてくるのか予想が難しい。気をつけてくれよ。
 私もアルマンも学園を卒業したから、アナと会う機会は少ないが、社交の場では顔を合わせることにはなるからな。」






 殿下が教えてくれた話に何となくショックを受けた私は、その日はなかなか眠れなかった。




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