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二度目の話

社交

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 今日は私の自国でのデビューのため、家族で王宮に来ている。

 一度目の人生の時は、当時の婚約者だった王太子殿下が私をエスコートしてくれていたけど、今世の私のデビュタントボールのエスコートは、大好きなお義兄様だ。

 正式な婚約者がいない私は、親族にエスコートしてもらうつもりではいたのだが、家族の中ですでにお義兄様が私のエスコートをすると決まっていたらしい。
 
 しかし、お義兄様が私のエスコートをすると聞いた時、私は素直に喜べなかった。
 お義兄様は留学から帰国して初めての夜会なのだから、私なんかより秘密の恋人を優先した方がいいと思ったから…


 私、お義兄様の恋人から見たら、邪魔な小姑でしかないわね。


「お義兄様、今日は素敵なご令嬢との出会いがありましたら、ぜひその方をダンスにお誘いして下さいね。
 それに…、もしお義兄様に恋人がいらっしゃるならば、私はお義兄様の恋を応援したいので、その時はぜひ私にお義兄様の愛する人を紹介して欲しいですわ。」


 私は、お義兄様の幸せを応援していますよということを伝えたつもりだったのだが…

 お義兄様は深いため息をつく。

「おっちょこちょいのアナは何を勘違いしているのだろうな…?
 アナは私の心配よりも自分のことを考えた方がいいと思う。
 今夜は、マニー国の時のようにはいかない。
 アナが殿下の婚約者候補の筆頭だとか嫌な噂話があるようだし、あの男がまた絡んでくるかもしれないから、今日は行動に注意した方が良さそうだ。」


 私では恋の相談すら出来ないってことなのね。
 私はお義兄様にあまり信頼されていない…
 

「そうですね…。今日は気を付けますわ。」


 我が国のデビュタントボールは、まず国王陛下達にデビュタントを迎えた者達が挨拶して、挨拶が終わった後に王族のダンスで夜会が始まり、その後でデビュタントのダンスを爵位ごとに分かれて踊るのだ。
 先に准男爵家や男爵家、子爵家の子息や令嬢が踊り、その後に伯爵家、侯爵家、公爵家の子息と令嬢が踊る。

 爵位が高い貴族になると、下位の貴族よりも人数が減るため、この広いホールでダンスを踊るのは目立つような気がする。
 そして、みんな当然のようにダンスが上手いので、粗相は出来ないのよね。何かやらかしたら家門の恥みたいな感じになってしまうから。

 でも一度目の時のように、殿下の婚約者として王族に混ざってダンスをした時のプレッシャーと比べたら、今回は大したことはないわね。
 お義兄様と踊るダンスは好きだし、こんな風にお義兄様がパートナーをしてくれる夜会は、もうすぐなくなるだろうから、最後だと思って楽しく踊ろうかしらね。


 ということで、普通に楽しく踊ることにした私。


「他の令息や令嬢は、緊張しているような雰囲気なのに、アナは随分と余裕で踊っているな。」

「ふふっ。お義兄様がパートナーなのですから、楽しく踊りたいと思いましたのよ。
 大好きなお義兄様を独り占め出来るのは今だけでしょうから。」

「お望みなら、アナがずっと独り占めしていいんだぞ。」

「嬉しいですわ。
 でも、いつまでも私がブラコンでいたら、お義兄様の幸せの邪魔をしてしまいます。
 私はお義兄様には幸せになってもらいたいのですわ。」

「私は幸せだ。可愛いアナとこうやってダンスができるのだから。」

 お義兄様の優しく微笑んだ顔は、今日もパーフェクトだった。


 お義兄様とダンスを終えた後に、お父様ともダンスをし、休憩のためにお義兄様と飲み物を飲んでいると、声を掛けられる。


「コールマン侯爵令嬢。デビューおめでとう。」

「王太子殿下、ありがとうございます。」

 二人でいる時とは違った雰囲気で話す殿下。

「コールマン侯爵令嬢、私と踊って頂けますか?」


 そういえば…、婚約者候補だからダンスは誘うと言われていたわ。
 他の婚約者候補達とも踊ったらしいし。


「はい。喜んで。
 お義兄様、少し離れさせて頂きます。」

「分かった。ここで待っている。」

 お義兄様の目が笑ってないわね。
 私がおっちょこちょいだからと、何かを心配しているのかもしれない。


 殿下とのダンスは一度目の人生ぶりだけど、相変わらず、殿下のダンスは踊りやすかった。


「アナ。君とコールマン侯爵令息のダンスは目立っていたぞ。
 君たち義兄妹が誰と結婚するのか、みんな興味を持っているようだ。」

「私はお義兄様が決めた相手と結婚しますわ。
 それより、殿下も早く相手を決められては?」

「私はアナに決めている。」

「殿下…、私はうっかり足を踏むかもしれませんわね。」

「揶揄っているわけではないのだがな。
 それより、来月に隣国の王子と王女が外遊に来る。」

「ええ。一度目の時もそんなことがありましたわね。」

「その時に、大きく動き出すと思う。
 隣国から来る第二王女は敵だ。その女を挑発するために、アナには私と仲の良いふりをしてもらう。」

 殿下は和かな表情のまま、周りで踊る人に聞こえないくらいの声で、凄いことを言っている。

「えっ?第二王女は…、殿下の…」

「詳しくは全て終わったら話す。
 今言えることは、あの女は私達共通の敵だから始末しなくてはならないということだ。
 アナ…、協力してくれ。」

「……分かりました。」

「ありがとう。
 念のために私の側近にも気をつけてくれ。」

「はい。」




 殿下から言われたことがあまりにも衝撃的だった私は、その後に食べたスィーツの味を全く感じられなかった。




 
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