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聖騎士

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 いつものように、孤児院で掃除と洗濯をした後に、女の子達に本を読んであげていると、外が騒がしいことに気付く。


「誰か来たのかしら?」

「あっ、もしかして聖騎士様が来てくれたのかな?」

「男の子たちが喜んでいる声が聞こえるから、きっとそうだわ。」

「えっ!聖騎士様が孤児院に遊びに来るの?」

「うん。忙しいからなかなか来てくれないけど、時間がある時に遊びに来てくれて、男の子達に剣術を教えてくれるんだよ。」

「そうだったのね…。知らなかったわ。」

 
 窓の外を見てみると、聖騎士が数人いて、男の子達に剣術を教えているのが見える。

 忙しくて滅多に来れないから、私が孤児院で手伝いを始めてから今日まで、偶然会わなかったのね……。


 その後も室内で女の子達と過ごしていた私は、職員のマダムに呼ばれる。


「リーゼさん。そろそろお茶の時間だから、騎士様達にお茶を淹れてあげてくれる?
 私みたいなオバさんより、若くて綺麗なリーゼさんがお茶を淹れてくれた方が、騎士様達は喜んでくれると思うのよ。」


 このマダムの職員さんは、現場の職員をまとめているボスみたいな方だと思う。


「……滅相もないです。
 私は、大人の魅力溢れるマダムの淹れてくれたお茶が大好きですし。」

「ふふっ……。お上手ねぇ。
 リーゼさんは、仕事を一生懸命やってくれるし、子供達をすごく可愛がってくれるから、私は貴女に幸せな結婚をしてもらいたいのよ。貴女はきっと、いいお母さんになるわ。
 独身の聖騎士様が沢山いるから、行ってきなさい。素敵な出会いがあるかもしれないわよ。」


 おばちゃんがよく言いそうなセリフを言われてしまったなぁ。


「私、今は結婚願望はないので……」

「勿体ないこと言わないの!
 お茶を頼んだわよ。
 応接室で待ってもらっているから。」

「……分かりました。」


 強引なマダムは最強で、断ることは許されないようだ。
 そんな私がお茶の準備をして応接室に向かうと、聖騎士が数人、ソファーに座っていた。

 チラッと見た感じ、みんな初めて見る人達のようだった。

 お茶を淹れ終えた私は、すぐに子供達の所に戻る。


「リーゼさん、聖騎士様はどうだった?」

「お茶を出してすぐに退室してしまったので、特に話はしませんでしたわ。」

「もう!リーゼさんは若いのだから、もっと積極的に動かないとダメよ。」


 そんな話をして、その日の孤児院のお手伝いは終わった。


 しかしその翌日、また聖騎士達が孤児院にやって来たようだった。


「昨日来てくれたばかりなのに、今日もですか…。」

「男の子達が喜ぶから、時間がある時はよく来てくれるのよ。
 忙しい時なんかは、全く来なくなるけどね。」

「騎士って仕事は、男の子達の憧れのお仕事だからね。」


 職員達とそんな話をしていたら、マダムの職員さんに呼ばれる。


「リーゼさん。聖騎士様がリーゼさんを呼んでいるわよ。」

「……聖騎士様がですか?」

「あの方、聖騎士団で最年少で部隊長になったっていう、すごい方よね?
 次期、騎士団長と言われていて、令嬢達に大人気だと噂で聞いたことがあるわ。
 ふふっ……。リーゼさんたら、なかなかやるじゃないの!
 騎士様を応接室に案内してあるから、早く行ってあげて。ゆっくり話をしてきていいからね。」


 わざわざ応接室に案内しなくても……
 玄関先でいいのに。

 あのマダムは、ノリが良くて楽しい人だけど、お見合いオバさんみたいな人だなぁ。

 応接室には、どことなく不安そうな表情をした、あの聖騎士様がいた。


「リーゼ……。やはり、君だったか。
 昨日、ここに来た騎士達が、孤児院で美しい令嬢が働いていたと話していて、特徴がリーゼと一緒だったし、子供達が〝リーゼお姉ちゃん〟と呼んでいたと聞いて……。
 もしかしたら、君かもしれないと思って、気になって来てしまった。
 仕事を辞めたと聞いた……。私は、ずっと君を心配していたんだ。」

「騎士様……、ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。」


 うーん……。気まずくて、何を話していいのか分からないなぁ。


「君が身分の高い後見人に引き取られたと聞いた。
 私が聞いていいのか分からないが……、君は今どこにいるんだ?
 今の生活は、君にとって幸せなのか?」


 ただの客と店員という関係だったにも関わらず、この聖騎士は、私のことを真剣に心配してくれていたようだ。
 そういえばあの時、おじ様と私が聖騎士団で噂話になっていると教えてくれたのも、心配して話してくれたのかもしれない。

 この人は、やはり普通にいい人のように見える。


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