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茶会の後で
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王妃殿下と入れ替わりでやって来た王弟殿下は、満面の笑みを浮かべていた。
「リーゼ、待たせて悪かったな。
今日も会えて嬉しいよ」
王弟殿下が来ることはさっき知らされたばかりだったから、待ったつもりはなかったのだけど……
「王弟殿下、ご機嫌よう。
多忙な殿下にわざわざお時間を作って頂けるなんて、大変恐縮してしまいますわ」
私を外堀から埋めようとする王弟殿下に、ついチクリと言いたくなってしまう。
「ふっ! そんなに嫌そうにしないでくれ。
……私はその裏表のない君を好きになったから構わないが」
「殿下……、好きだなんて軽々しく口にしないでくださいませ。
ところで、義兄は急に会議が入ったらしいですわ。
……殿下は何か知っていますか?」
好きだと言われて恥ずかしい私は、すぐに話題を逸らすことにした。
「クリフォード卿は責任ある立場のようだし、あの部署は忙しいから急に会議が入るのは仕方がないと思うぞ」
「……そうでしたか」
王弟殿下の腹黒特有の胡散臭い笑顔を見て、私は全てを悟ったのだった。
「リーゼ。クリスティーナや王妃殿下と茶は沢山飲んでいるから、もういいよな?
今からクリスティーナが勉強をしている所を見に行かないか?」
「……王女殿下の勉強している姿を見に行ってもいいのですか?」
「あのクリスティーナの学ぶ姿が気になるだろう?
リーゼには甘えてあんな感じだが、あれで結構、頑張っているんだ。亡くなった姉に似て、負けん気の強いところがあるらしい。
私たちが突然見に行ったら講師たちが気を遣うから、隠れてこっそり見に行かないか?」
「見に行きたいです!」
可愛いティーナの勉強をする姿を見に行けるなんて、こんな嬉しいことはないわ。
「よし! 今から行こう」
王弟殿下にエスコートされて、王宮の奥にある王族のプライベートな場所に移動する。
途中で警備をしている沢山の近衛騎士達とすれ違ったが、ティーナの勉強する姿を見に行けることで気分が高揚しワクワクしていた私は、全く気にならなかった。
ティーナの勉強している部屋の外には、護衛騎士が数人立っている。騎士は王弟殿下を見ると黙礼し、音を立てずに部屋の扉を少し開け、覗き込むのにちょうどいい隙間を作ってくれた。
そのタイミングで王弟殿下は私に目配せをしてきたので、そろりと慎重にドアへ近づき、部屋の中を覗き込む。
部屋の中ではティーナが頭の上に本を置いて、歩き方の練習をしている姿が見えた。どうやら勉強ではなく、ウォーキングレッスンを受けているようだ。
まだ六歳くらいの幼いティーナが真顔になって頑張っている姿は、悶えるくらいに可愛い……
私はそんなティーナを見て、心の中で『頑張れー!』と叫び続けている。
「あっ!」
ティーナが声を上げた瞬間、本がバサッと落ちてしまう。
『ドンマイ!』と声を掛けたくなるが、今の私は隠れている身なので何とか堪える。
「王女殿下、どんな時も慌ててはいけませんわ。
慌てる姿を見せることは、弱みを見せているのと変わらないのです。そんな王女殿下を見て、良からぬ考えを持つ者はつけ入ろうとするでしょう。
気分を切り替えて、またあちらから歩いて来て下さい」
「分かりました」
講師らしきマダムが淡々と話をしている。
なかなか厳しいことを言うのね……
でも、ティーナは泣くことも嫌がることもなく素直に応じている。
凄いわ! 根性のあるティーナが大好きよ!
今のティーナは前世なら幼稚園の年長さんくらいだから、あれくらいの年齢なら優しい幼稚園の先生と楽しく遊んで、ちょっとした習い事をして、発表会や運動会の練習を頑張るくらいなのに。王女って身分は本当に大変なのね。
あんな小さなうちから、弱みを見せてはいけないと教育されるなんて……
あ、貴族の教育もそんな感じか。
大変だけど、貴族に囲まれて生きていくにはこの教育は必要だ。
でも、頑張るティーナが可愛いから、私は二人で会う時にいっぱい甘やかしてあげよう。
そこに長い時間をいるわけにはいかないので、数分ほど見た後、私たちはその場を離れることにしたのであった。
「リーゼ、待たせて悪かったな。
今日も会えて嬉しいよ」
王弟殿下が来ることはさっき知らされたばかりだったから、待ったつもりはなかったのだけど……
「王弟殿下、ご機嫌よう。
多忙な殿下にわざわざお時間を作って頂けるなんて、大変恐縮してしまいますわ」
私を外堀から埋めようとする王弟殿下に、ついチクリと言いたくなってしまう。
「ふっ! そんなに嫌そうにしないでくれ。
……私はその裏表のない君を好きになったから構わないが」
「殿下……、好きだなんて軽々しく口にしないでくださいませ。
ところで、義兄は急に会議が入ったらしいですわ。
……殿下は何か知っていますか?」
好きだと言われて恥ずかしい私は、すぐに話題を逸らすことにした。
「クリフォード卿は責任ある立場のようだし、あの部署は忙しいから急に会議が入るのは仕方がないと思うぞ」
「……そうでしたか」
王弟殿下の腹黒特有の胡散臭い笑顔を見て、私は全てを悟ったのだった。
「リーゼ。クリスティーナや王妃殿下と茶は沢山飲んでいるから、もういいよな?
今からクリスティーナが勉強をしている所を見に行かないか?」
「……王女殿下の勉強している姿を見に行ってもいいのですか?」
「あのクリスティーナの学ぶ姿が気になるだろう?
リーゼには甘えてあんな感じだが、あれで結構、頑張っているんだ。亡くなった姉に似て、負けん気の強いところがあるらしい。
私たちが突然見に行ったら講師たちが気を遣うから、隠れてこっそり見に行かないか?」
「見に行きたいです!」
可愛いティーナの勉強をする姿を見に行けるなんて、こんな嬉しいことはないわ。
「よし! 今から行こう」
王弟殿下にエスコートされて、王宮の奥にある王族のプライベートな場所に移動する。
途中で警備をしている沢山の近衛騎士達とすれ違ったが、ティーナの勉強する姿を見に行けることで気分が高揚しワクワクしていた私は、全く気にならなかった。
ティーナの勉強している部屋の外には、護衛騎士が数人立っている。騎士は王弟殿下を見ると黙礼し、音を立てずに部屋の扉を少し開け、覗き込むのにちょうどいい隙間を作ってくれた。
そのタイミングで王弟殿下は私に目配せをしてきたので、そろりと慎重にドアへ近づき、部屋の中を覗き込む。
部屋の中ではティーナが頭の上に本を置いて、歩き方の練習をしている姿が見えた。どうやら勉強ではなく、ウォーキングレッスンを受けているようだ。
まだ六歳くらいの幼いティーナが真顔になって頑張っている姿は、悶えるくらいに可愛い……
私はそんなティーナを見て、心の中で『頑張れー!』と叫び続けている。
「あっ!」
ティーナが声を上げた瞬間、本がバサッと落ちてしまう。
『ドンマイ!』と声を掛けたくなるが、今の私は隠れている身なので何とか堪える。
「王女殿下、どんな時も慌ててはいけませんわ。
慌てる姿を見せることは、弱みを見せているのと変わらないのです。そんな王女殿下を見て、良からぬ考えを持つ者はつけ入ろうとするでしょう。
気分を切り替えて、またあちらから歩いて来て下さい」
「分かりました」
講師らしきマダムが淡々と話をしている。
なかなか厳しいことを言うのね……
でも、ティーナは泣くことも嫌がることもなく素直に応じている。
凄いわ! 根性のあるティーナが大好きよ!
今のティーナは前世なら幼稚園の年長さんくらいだから、あれくらいの年齢なら優しい幼稚園の先生と楽しく遊んで、ちょっとした習い事をして、発表会や運動会の練習を頑張るくらいなのに。王女って身分は本当に大変なのね。
あんな小さなうちから、弱みを見せてはいけないと教育されるなんて……
あ、貴族の教育もそんな感じか。
大変だけど、貴族に囲まれて生きていくにはこの教育は必要だ。
でも、頑張るティーナが可愛いから、私は二人で会う時にいっぱい甘やかしてあげよう。
そこに長い時間をいるわけにはいかないので、数分ほど見た後、私たちはその場を離れることにしたのであった。
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