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Ⅰ章.始まりの街カミエ
15.宮社での暮らし①
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初日はかなりドタバタしたが、坤島での生活が二か月もするとだいぶ落ち着いてきた。
しかし、食事の支度や洗濯などの家事一切は、なぜか自分が仕切る羽目になっている。
芹さんは……まぁ、仕方ないだろう。あの人の態度をみればわかるが、宮社の中でもそれなりに高位な立場であり、本来は専属の社人が付いていたのだろうと思われるからだ。
ハクは、芹さんが良いとこのお嬢さんだったと言っていただけあって、自分で家事をしたことが無かったのか、家事の才能が一切ないということだ。
なんとか洗い物は教えたが、炊事はハクに任せると壊滅した日があり、その日は一日食事が無かった。なにせ、一日分の米や麦が消し炭となってしまい、汁物は食べられる物にはならなかった。漬物だけで一日を過ごすのは、なまじ暇な時間が多いときつかったよ。
漬物だけをかじった日、自分は芹さんにお願いして鍛冶場と少量の素材を使わせてもらった。
美味いオカズを作るからと、芹さんを口説き落として素材を入手してフライパンを作ったのだが、出来上がったのは深めのフライパンだったので、どちらかというとスキレットに見た目が近いと言うべきだろう。
この世界で初めて鍛冶をして作ったのがフライパンというのが、刀匠としては微妙だったのは事実だ。
ちなみにフライパンは金属板をまげて加工する板金物だが、スキレットは鋳鉄で、溶かした鉄を鋳型に入れて作る鋳造品だ。鋳物である分、全体的に厚みがあり、冷めにくいという利点があるが、最初はシーズニングという油をなじませる作業が必要な点面倒かもしれない。
この日の夕食は、こちらでは高級品の豆腐が出てきた。芹さんとハクは実験材料として自分の豆腐を提供するなどという真似は決してせず、仕方なく自分用の豆腐を使っておかずを作る。
石焼豆腐というのは、単に豆腐の水気を切って、食べやすい大きさに切ったものを胡麻油を引いたフライパンでじっくり両面を焼いたものだ。刻んだねぎと大根おろしに醤油を添えると、非常においしい。
新たに作った汁物に漬物、豆腐だけといった夕食だったが、自分の豆腐は石焼豆腐にしてしまったので、自分の膳だけ豆腐が半分の大きさで寂しい。残る半分は、芹さんとハクの膳に小分けにしてのせてある。
これは、フライパンを作る理由に美味いおかずを作ると言った手前、作ったものを芹さんに出さない訳にはいかず、当然ハクだけに出さないという選択肢もない結果の為だ。
焼いた豆腐なんてうまいのかという顔で見ていた二人だが、少し食べただけでどうやら納得してもらえたらしい。あっという間に二人の小皿から石焼豆腐が消え失せていた。
自分も箸で少量切り分けて口にするが、今日作ったばかりのフライパンにしては良い仕事をしてくれたというべきだろう。
汁物もそこそこ上手くできたなと、二口目の豆腐を食べようとしたが、自分の豆腐が忽然と姿を消している。
そして芹さんとハクの皿の上には、なぜか最初に取り分けたのと同じ大きさの石焼豆腐が……
狐面越しとはいえ、ジト目で二人をみるが、二人はどこ吹く風といった雰囲気で食事を続けている。
芹さんから奪還しようと試みたが、恐ろしい目つきで睨まれ抵抗を断念した。
続いてハクからの奪還を試みるが、自分の箸は全てハクの操る箸によって弾かれ、豆腐に到達できなかった……
というかハク、それ自分が切り分けた部分がしっかり残ってるのに、『剣帝』の加護まで使ってガードするのは止めようよ……
フライパンの制作は食生活の向上に大きく貢献した。卵焼きや野菜炒めなどが作れるようになり、芹さんとハクが大喜びしたのは事実だ。
しばらくのちに、賄い方から調理担当の社人がやってきて、料理のレシピをまとめて行ったり、大量のフライパンの発注があったり、鍛冶方にフライパンの制作を教えたりと手間はかかった。
しかし、結果的に宮社内での自分の存在場所を確保できたこと、宮社内の、巧部(鍛冶)・木工部・大炊部(賄い方)・図書部などといった各組織の社人との伝手ができたのは大きく、鍛冶場をある程度使えるようになったことと、木工部などに簡単な制作依頼ができるようになったことは大きかった。
それぞれ部とはついているが、この場合は部活動の部ではなく、役所の部署のことをいうので、楽しいわけではないことを伝えておく。
それらを円滑に進めることができたのは、スキル【Wiki Reading】のおかげでもある。某レシピサイトなどには遠く及ばないものの、豆腐料理を検索すればある程度の料理名と簡単ながら制作方法が検索できるのだ。
自分の知識だけでは試行錯誤するしかないから、失敗料理を多く量産してしまうことになっていただろう。
その場合、短期間でここまで状況が改善されなかったと思うと、やはり知識の蓄積は大きいと再確認した。
しかし、食事の支度や洗濯などの家事一切は、なぜか自分が仕切る羽目になっている。
芹さんは……まぁ、仕方ないだろう。あの人の態度をみればわかるが、宮社の中でもそれなりに高位な立場であり、本来は専属の社人が付いていたのだろうと思われるからだ。
ハクは、芹さんが良いとこのお嬢さんだったと言っていただけあって、自分で家事をしたことが無かったのか、家事の才能が一切ないということだ。
なんとか洗い物は教えたが、炊事はハクに任せると壊滅した日があり、その日は一日食事が無かった。なにせ、一日分の米や麦が消し炭となってしまい、汁物は食べられる物にはならなかった。漬物だけで一日を過ごすのは、なまじ暇な時間が多いときつかったよ。
漬物だけをかじった日、自分は芹さんにお願いして鍛冶場と少量の素材を使わせてもらった。
美味いオカズを作るからと、芹さんを口説き落として素材を入手してフライパンを作ったのだが、出来上がったのは深めのフライパンだったので、どちらかというとスキレットに見た目が近いと言うべきだろう。
この世界で初めて鍛冶をして作ったのがフライパンというのが、刀匠としては微妙だったのは事実だ。
ちなみにフライパンは金属板をまげて加工する板金物だが、スキレットは鋳鉄で、溶かした鉄を鋳型に入れて作る鋳造品だ。鋳物である分、全体的に厚みがあり、冷めにくいという利点があるが、最初はシーズニングという油をなじませる作業が必要な点面倒かもしれない。
この日の夕食は、こちらでは高級品の豆腐が出てきた。芹さんとハクは実験材料として自分の豆腐を提供するなどという真似は決してせず、仕方なく自分用の豆腐を使っておかずを作る。
石焼豆腐というのは、単に豆腐の水気を切って、食べやすい大きさに切ったものを胡麻油を引いたフライパンでじっくり両面を焼いたものだ。刻んだねぎと大根おろしに醤油を添えると、非常においしい。
新たに作った汁物に漬物、豆腐だけといった夕食だったが、自分の豆腐は石焼豆腐にしてしまったので、自分の膳だけ豆腐が半分の大きさで寂しい。残る半分は、芹さんとハクの膳に小分けにしてのせてある。
これは、フライパンを作る理由に美味いおかずを作ると言った手前、作ったものを芹さんに出さない訳にはいかず、当然ハクだけに出さないという選択肢もない結果の為だ。
焼いた豆腐なんてうまいのかという顔で見ていた二人だが、少し食べただけでどうやら納得してもらえたらしい。あっという間に二人の小皿から石焼豆腐が消え失せていた。
自分も箸で少量切り分けて口にするが、今日作ったばかりのフライパンにしては良い仕事をしてくれたというべきだろう。
汁物もそこそこ上手くできたなと、二口目の豆腐を食べようとしたが、自分の豆腐が忽然と姿を消している。
そして芹さんとハクの皿の上には、なぜか最初に取り分けたのと同じ大きさの石焼豆腐が……
狐面越しとはいえ、ジト目で二人をみるが、二人はどこ吹く風といった雰囲気で食事を続けている。
芹さんから奪還しようと試みたが、恐ろしい目つきで睨まれ抵抗を断念した。
続いてハクからの奪還を試みるが、自分の箸は全てハクの操る箸によって弾かれ、豆腐に到達できなかった……
というかハク、それ自分が切り分けた部分がしっかり残ってるのに、『剣帝』の加護まで使ってガードするのは止めようよ……
フライパンの制作は食生活の向上に大きく貢献した。卵焼きや野菜炒めなどが作れるようになり、芹さんとハクが大喜びしたのは事実だ。
しばらくのちに、賄い方から調理担当の社人がやってきて、料理のレシピをまとめて行ったり、大量のフライパンの発注があったり、鍛冶方にフライパンの制作を教えたりと手間はかかった。
しかし、結果的に宮社内での自分の存在場所を確保できたこと、宮社内の、巧部(鍛冶)・木工部・大炊部(賄い方)・図書部などといった各組織の社人との伝手ができたのは大きく、鍛冶場をある程度使えるようになったことと、木工部などに簡単な制作依頼ができるようになったことは大きかった。
それぞれ部とはついているが、この場合は部活動の部ではなく、役所の部署のことをいうので、楽しいわけではないことを伝えておく。
それらを円滑に進めることができたのは、スキル【Wiki Reading】のおかげでもある。某レシピサイトなどには遠く及ばないものの、豆腐料理を検索すればある程度の料理名と簡単ながら制作方法が検索できるのだ。
自分の知識だけでは試行錯誤するしかないから、失敗料理を多く量産してしまうことになっていただろう。
その場合、短期間でここまで状況が改善されなかったと思うと、やはり知識の蓄積は大きいと再確認した。
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