極道恋事情

一園木蓮

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春遠からじ

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 それによるとメビィらの護衛対象は預かった少年の父親らしい。台湾でIT関連の大手企業を経営しているCEOのようだが、彼の社が開発したシステムを巡って、とある組織に狙われているとのことだった。
 そのシステムが世に出回ると、どこぞの組織にとっては少々都合が悪いらしい。発売を阻止するだけでなく、ソフト自体を葬ってしまいたいが為に命を狙われているとのことだ。
 ここ一ヶ月の間はメビィらのチームが張り付いて台湾中のホテルを転々としていたそうだが、今朝からは香港へとやって来て、たまたま先程会ったカフェの近くに滞在する予定だという。まさか子供の命まで狙うとは思えないが、父親と共にいれば少なからずリスクはあるとのことで、メビィが鐘崎らに預けたのは彼らの手元にいれば安全だと思ったからだそうだ。
 体良く押し付けられた感は否めないところだが、確かに子供を抱えていては万が一の時に不安要素となるだろう。メビィの話ではあと三日もあればカタがつくとのことだが、ということはそろそろ大詰めにきていると思われる。
「こいつぁ……何かしら加勢が必要になるかも知れんな」
 鐘崎は周にも情報を伝えるべく隣の部屋へと向かった。源次郎と鄧にも一旦周らのスイートに顔を出してもらうことにする。
 経緯を説明する傍らで源次郎がすぐに少年の父親について調査に掛かった。インターネットで社のページを開いただけで源次郎にはその素性がおおかた分かったようだった。
「ああ、ここの社長殿ですか。IT関連の有名どころですな」
「源さん、知ってるのか?」
「ええ。少し前に僚一さんともこの社についての話題が上がったことがありましてな。問題のソフトというのは画期的なシステムだそうで、発表前に他社から狙われないかと危惧されていたそうですよ」
「何のソフトなんだ?」
「確か次世代コンピュータの大元になるとかで、いわゆる空中ディスプレイに関連したものだったような――。現在、開発は世界中で進んでいますが、コストと流通という面ではまだまだ課題が残ります。彼の社が開発しているシステムが広く流通の要になるとかだったような――」
 つまり同業者にとっては喉から手が出るほど欲する情報ということか。
「まあ、まだ段階としては第一歩といったところのようで、実のところスマートフォン並みに我々庶民の手に広く流通するまではもうしばし時間が掛かるようですが――」
「なるほど――」
「ただ、狙っている相手が少々厄介ではありますな」
「――と言うと?」
「おそらく同業種の企業でしょうが、メビィさんたちのチームが護衛につくくらいです。相手も裏の世界の者を抱え込んでいると見て間違いないでしょう」
「ふむ、台湾を出てこの香港に逃げてきたということから考えても、いよいよ緊張状態が切迫しているというわけか」
「まずはその相手を確実に絞るしかないでしょうな。この資料によると、メビィさんのチームでもまだ完全に敵の正体を掴めていないようですな」
「だがさっきの話だとあと三日もすればカタがつくってことだったが」
「そうですね。実はここ香港でこの週末にIT関連の大々的な会合が予定されています。もしかしたらその会合で彼の社が開発したシステムというのが発表されるのではないでしょうか?」
「――なるほど。メビィらがそのCEOと共にこの香港にやって来たのは、単に敵から逃げて来たというだけではないということか」
「あと三日でカタがつくということから考えても十中八九それで当たりではないかと――。まあ実際、台湾でもここ近日中で何かしらの実力行使を受けていたのかも知れません」
 諸々の理由から台湾を出て香港へと避難して来たということだ。
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