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二年生 前期

5 闇魔法の可能性

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あれから休み時間ごと、お昼休みや放課後まで、エルダー様が纏わりついてくるようになった。

邪魔だ。
とても邪魔だ。

でも爵位が高いエルダー様に話しかけられたら、相手にしない訳にもいかない。

ものすごく面倒くさい。

しかもアマーリエ様がエルダー様に、
もう少しで恋に落ちるかしら?
なんて言ってるのを聞いてしまって、手に持っていた本をぶん投げそうになった。
踏み止まったけど。

それから、ライリー様が何を思ったのか魔法騎士の訓練に誘って来た。
もちろん断った。
あの時目の端に映ったアマーリエ様は、見るからにガッカリしていた。

まあ、そんなのはもうどうでもいい。

今日は私の人生の集大成!
いや、今日がスタート地点だ。

魔法学園に入学してから魔術学の先生に私の研究について相談し、助言をもらい、他先生方にも協力を仰ぎ、さらに研究を重ね、
今日の魔術学の授業で発表することになったのだ。

うん。頑張った!私!
そして、頑張れ!私!

たとえどんなに邪魔が入っても、浮気男ざまあみろ計画を完遂して、アイツを見返してやるんだ!!!


「今日の授業は、シェリル・マクウェンさんに、闇魔法の研究発表をしてもらいます」

魔術学のファロット先生がそう言って、壇上を私に譲ってくれる。

ファロット先生は魔法学園唯一の女性教師で、黒髪に黒い瞳をしている。
初めて会った時、前世を思い出して懐かしさで泣きそうになった。

「皆様、本日はよろしくお願いします」

挨拶をして本題に入る。

「我がメネティス王国は、魔族の血を引くものが多く、闇魔法の属性を持つものが他国に比べて多いのは皆様ご存知だと思います。
実際、闇魔法の属性を持つ方は、差し支えなければ手を挙げて頂けますか?」

生徒の半分近くが手を挙げた。

王族のレオナルド殿下、アマーリエ様はもちろん、ユラン様、エルダー様、ウィルフレッド様も挙げている。

「半数くらいは闇魔法をお持ちのようですね。私も闇魔法を持っています。
闇魔法の代表的な術は、洗脳・服従・魅了・記憶操作が上げられます。つまり闇魔法は、意思・心・記憶に影響を与え、操作することが出来るのです」

ここでひと呼吸。

「では、闇魔法を使ったことのある方はいらっしゃいますか?」

教室内が静まり返る。

「闇魔法を使用するには、国王陛下の許可が必要です。誰にでも使えるわけではありません」

ユラン様が答えてくれた。
続けてレオナルド殿下が言う。

「使用される側も犯罪者やそれに準ずるもので、国王陛下の裁定のもと、自白を促したり、牢の中で従順にさせる為に使用することが多い。
闇魔法は、人格そのものを変えてしまう危険な魔術が多く、使用する側も非常に繊細な魔力操作が必要な上、魔力を大量に消費する。
闇魔法の使用を許されるのは、魔術師団や魔法騎士の中でも極限られた者だけだ」

そう、闇魔法は許可なく使うことは出来ない。
だからこれまで実際に試すことが出来ないでいた。

「そうですね。闇魔法はその属性を持つ人は多いのに、実際使うことが出来るのは限られた方だけで、許可なく使うと罪になることもあります。
こんなに持っている人がいるに使えないなんて、なんだか勿体ないですね」

私はちょっと困ったような顔をして続ける。

「それにしても、人格をすっかり変えてしまうなんて、闇魔法は恐ろしいものですね。そう考えると、闇魔法を持つものが畏怖を持たれるのは仕方のないことなのでしょうか」

これには皆も困った顔をする。

メネティス王国は魔族が作った国で、闇魔法持ちが多いからそんなことはないが、一部の国では闇魔法持ちは畏怖され、迫害されることがあるのだ。

「ですが、火魔法だって使い方を間違えば危険ですし、水魔法も風魔法も土魔法も同じでしょう。では、何故闇魔法だけがこんなに恐れられているのでしょうか?」

私の質問に、皆考え込んでしまった。

ふと、ウィルフレッド様が顔を上げ、何か言いたげに口を開けて……閉じた。

閉じないで!
言いたいことがあるなら言って!

「ウィル、何か考え付いたんじゃないのか?」

レオナルド殿下がウィルフレッド様の様子に気付き、声を掛けてくれた。
ウィルフレッド様は少し戸惑っていたが、口を開いた。

「…火や水は…身近にある。危険になっても、どう対処したらいいか分かっている」

おお!
ウィルフレッド様の声、初めて聞いたかも!

「人は…わからないものや、知らないものに恐怖を感じるから…」

うんうん。

「………」

「………」

口が閉じてしまった。

「確かに、全く知らない魔物が現れたら、どう対処していいか分からなくて恐怖を感じるかもしれないな。闇魔法が恐れられているのは、闇魔法自体が知られていないからってことか」

ライリー様がウィルフレッド様の言ったことを補足してくれた。
アマーリエ様が手を挙げる。

「闇魔法が目に見えないことも問題だと思いますわ。火魔法だったら見ることも出来るし、熱さを体感することも出来ますが、闇魔法が影響を及ぼす意思や心は見えませんもの。
魔法をかけられても、気付くことすら出来ないのは恐ろしいことですわ」

「知らないから、見えないからと言って無闇に恐れるのは愚かなことですが、闇魔法を周知させる為だけに洗脳や魅了をかける訳にはいかないでしょう。
それに、実際闇魔法は危険な術が多い。広く周知されても、畏怖されることに変わりはないでしょう」

ユラン様が難しい顔をして言う。
私は頷いて先を続けた。

「確かに、今現在闇魔法で使用されているのは、洗脳や魅了など、意思や心を強制的に変えたり支配するものなので、簡単には使えませんし、使うものでもありません」

さあ、ここからが本題だ。

「闇魔法は、意思・心・記憶に影響を与える魔法です。
現在闇魔法として知られているのは、強い魔力で強制的にそれらを変え、支配する術ばかりですが、闇魔法の利用法はそれだけなのでしょうか?」

私は静かになった教室を見渡して言った。

「私はここに、闇魔法の新しい可能性を提示したいと思います。
それは、傷付いた心の治療。癒しの魔術です」
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