8 / 135
二年生 前期
8 儚げな美少女、ではありません
しおりを挟む平日の十八時から二十時は、女性専用宿の食堂でバイトをしている。
ニ時間で百ソル。
Aランチ一食分にもならない。
ちなみに休日の日中は錬金術師ギルドでバイトをしている。
私は宿の常客のお姉さん達に、今日のランチがカチカチのコッコだったことを愚痴っていた。
「ランチでコカトリスが出るなんて、さすが王立魔法学園だな」
食いしん坊のセイラさんが言う。
セイラさんは熊獣人で、背が高くてがっしりした体型の頼れるお姉さんだ。
「普通のお昼ご飯にコカトリスなんて贅沢ですよね。うちじゃお祭りとかお祝いごとの時にしか食べられませんでしたよ」
高位貴族のセレブっぷりにドン引きだ。
流石に二年生にもなれば慣れるけど、初めてAランチのお値段を見た時は衝撃だった。
ちなみにAランチは時価で、本日のコカトリスは二百ソルだった。
「で、結局その猫のお嬢さんが言いたかったのは、魔法の研究をするなってことじゃなくて、最近やたら構ってくる男の子に近寄るなってことだったのね」
そう話しをまとめてくれたのは、菫色の髪をポニーテールにしたスレンダー美女のアンさん。
スレンダーなのに、出る所は出ていて羨ましい。
このふたりはチームを組んでいて、今は王都周辺の仕事を中心に受けている。
貴族女性や子供の護衛で人気があるらしい。
「そうなんです。魔法の研究にケチ付けられたのかと思って応戦したのに、最後になって''エルダー様に馴れなれしくするのはおやめなさい''って言われて、思わず意味分からなくてポカンとしちゃいました」
「ふふっ。応戦、ね。その子達驚いたでしょうね。シェリルちゃん、何か言われても言い返すように見えないから」
アンさんの言葉を聞いて、セイラさんもケタケタ笑いながら言う。
「見た目だけなら儚げな美少女なのにな」
ええー。
「それは褒めてるんですか?貶しているんですか?」
「両方!」
明るく返された。
「この間酔っ払いがこの宿に入って来た時だって、ちっちゃいシェリルが腰に手を当てて仁王立ちなんかしちゃってさ」
「あの時は驚いたわ。なんでよりによってシェリルちゃんが酔っ払いの獣人に立ち向かってるのって、思わず二度見したもの」
ちっちゃいってこの前エルダー様にも言われたな。
そう、残念なことに私は背が低い。
この世界は背の高い人が多くて、私と同年代の女性でも百六十センチはあるのが普通なのに、何故か私は百五十センチしかない。
前世でもそんなに背が高いほうじゃなかった。
来世では是非人を見下ろせるくらいの身長にしてもらいたい。
「だって、ここは女性専用の宿ですよ?男性は入っちゃダメじゃないですか」
「それはそうだけど、何もわざわざ一番弱そうなシェリルが先頭切って向かうことないだろ!」
弱そう…それも今日ライリー様に言われたな。
私が全体的にほっそりしているのはお母様譲りだ。
肌も何もしなくても真っ白で、血管がうっすら見えるほど。
それに、ふわふわの金髪に明るい緑色の瞳、すっと通った小ぶりな鼻と唇が絶妙な位置にあり、自分で言うのも何だけど、我が顔ながらたいへん可愛らしいと思う。
背が低く、ほっそりした体付き、真っ白な肌に可愛いお顔。
結果、可憐で儚げとか守ってあげたいとか言われがちなのだ。
確かに、強そうには見えないだろう。
「やっぱり、体を鍛えたほうがいいでしょうか?」
「「そういう意味じゃない!」」
二人同時に突っ込まれた。
子供の頃は領地を駆け回り風魔法をぶっ放していたけど、最近は学園とバイトの時間以外はほぼ研究しかしていない。
もともと筋肉モリモリなわけではないけど、体も鈍っていることだろう。
ライリー様の魔法騎士の訓練に参加しようとは思わないけど、私を弱いと勘違いしてくる輩を返り討ちに出来るくらいにはしておきたい。
それにもうすぐ合同遠征実習もある。
「なんか変なこと考えてんな?」
「シェリルちゃんが黙りこくった後って、大体おかしなこと言い出すものね」
「変なことなんて考えていませんよ。もうすぐ合同遠征実習だから、やっぱり少し体を鍛えたほうがいいかもと考えていたんです」
「ああ、もうそんな時期なのね」
アンさんが納得した声を出す。
毎年十月、魔法学園と騎士学校の生徒が合同で魔の森へ行き、魔物の生態調査と討伐をおこなう一大行事がある。
冬になって森の食料が乏しくなると、魔物達が村や町を襲うことがあるため、その前に数を減らしておくのだ。
もちろん各領地や王国の騎士達も討伐に行くけど、あまり強くない魔物の生息地は、学生達の実戦経験の場とされている。
う~ん、体を鍛えるか~。
「走る以外に、何したら体を鍛えられますかね?」
「「そこから?」」
また同時に突っ込まれた。
でも二人共さすが売れっ子冒険者で、体を鍛える方法をいろいろ教えてくれる。
セイラさんは何故か戦い方まで身振り手振りつきで教えてくれ始めた。
いや私、魔法が使えるから体術はそんなに…とは言えず、促されるまま体術の型をひと通り教わっていたら、
「シェリル!あんたまだ帰ってなかったのかい?寮の門限過ぎちまうよ!」
宿の女将さんが私達を見て声をかけてきた。
盛り上がり過ぎて時間を忘れてしまっていた。
「いけない!もうこんな時間!セイラさん、アンさん、また教えてください!」
私は慌ててバックを掴み宿を出る。
後ろからセイラさんとアンさんがまたね~と言ってる声がした。
「気を付けて帰るんだよ!」
女将さんに見送られて寮までの道を急ぐ。
宿から寮までは大通りばかりで、行き帰りに危険が少ないのもこのバイトを決めた理由のひとつだ。
「ギリギリ間に合いそう」
門限に間に合わないと反省文を書かされるのだ。
それだけは避けたい。
と思っていたのに…
このあと、女の人に絡む酔っ払いに遭遇し、風魔法でくるくる回転させて遊んでいたら、門限を過ぎてしまい反省文を書かされた。
人助けをしたのに~と言いながら反省文を書いていたら、寮母さんに笑われた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,272
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる