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19.聖女と王宮へ
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レイも無事に帰ってきたことだし、指名依頼なんてそうそうないから大丈夫だろうと思いつつも結局は心配が勝ってレイに特製ポーションを色々押し付けてしまっている今日この頃。
レイは苦笑しながらもそれを受け取ってくれて、お金も入れてくれるからなんだか申し訳ない。
そんなレイだけど、極たまに教会に顔を見せてくれるようになった。
俺が聖女様に振り回されてストレス溜まるって愚痴った次の日は大抵狙ったように来てくれるから、きっと気遣ってくれてるんだと思う。
まあ仕事の邪魔にならないようにって昼時を狙ってきてくれるから一緒に昼を食べる形になるんだけど、タイミング悪く聖女様と遭遇することもしばしば。
「また来たの?!」
「はい。お邪魔しています」
「冒険者は忙しいのでしょう?無理してこなくてもいいんじゃないかしら?」
「いえ。ジェイドの顔を見れば頑張ろうと思えるので」
「…それには同感だけれど、私とジェイドの時間を奪わないでもらえるかしら?」
「ジェイドは俺のなので」
「ジェイドは私のよ?勝手なことを言わないでもらえるかしら?」
「聖女様?俺は聖女様のものじゃないんですけど?」
「あら、私の従者でしょう?私は間違ったことは言っていないわ」
「……そうですね」
何を張り合ってるんだか知らないけど、レイとの二人の時間を邪魔しないでほしい。
でもジェイドに俺のって言ってもらえるのは素直に嬉しいな。
「レイ、今日の夕飯は何が食べたい?」
「そうだな。冷蔵庫にオーク肉を買っておいたから、前に作ってくれたスタミナ炒めが食べたい」
「了解。じゃあそれメインで他のメニュー決めておくな」
「ああ」
嬉しそうに笑ってくれるレイに美味しいもの作ろうっと!
そんな風に思ってたら横から聖女様が口を挟んできた。
「私は前に作ってもらったヘルシーな蒸し鶏が食べたいわ」
「わかりました。他には何かありますか?」
そう尋ねたらパアッと顔を輝かせてあれこれと食べたいものを追加で言われたので脳内メモにしっかりと書き込んでおく。
偏食さんにはちゃんと聞いておかないと食べてもらえないからな。
本当に、レイみたいになんでも美味しそうに食べてくれるなら色々挑戦的な新しいメニューも作れるのにな。
それにしてもどうして聖女はこんなに勝ち誇った顔でレイを見てるんだろう?それが不思議。
「ジェイドが作る料理は本当に美味しいですものね。ちゃんと私の好みのものを作ってくれるし、そっちのレイとは違って何品も聞いてもらえて…嬉しいわ」
「まあ聖女様は偏食ですから。そんなことよりレイ、今日も気を付けて」
「ああ。ジェイド、大変だとは思うけど頑張って」
「ありがとう」
そう言ってにこやかに去っていくレイはカッコいい。
やっぱいいよな~と思いながら背中を見送ってたら聖女様に急かされて仕事に戻る羽目になったけど、こればっかりは仕方がない。
(さ、午後も頑張るか)
そう思いながら今日は慰問だったよなと準備を始める。
こうした変わらない日々はこれからも続くのだと────そう思っていたけれど、翌日王宮からの文が届いたことでそれはあっさりとその様相を変えることとなる。
***
「王太子殿下が危篤…ですって?」
なんでも王太子でもある第一王子が何者かに毒を盛られ数日。いよいよ危なくなってしまったのだとか。
「どうしてもっと早く文を届けなかったのです?!」
毒を盛られてすぐなら危篤状態になる事はなかっただろうにと聖女は怒りを露にする。
「は…。それが王宮侍医達が毒消しポーションを処方するから大丈夫だと……」
「それが効かなかったから私が呼び出される羽目になっているのでしょう?!」
聖女が怒るのも当然だ。
医者のプライドだか何だか知らないが、大事な王太子の命を優先せずしてなんとすると言ってやりたい。
しかもこんな危篤状態になってからの召喚ではもし仮に王太子が亡くなったとしたら聖女にその罪を押し付ける気満々ではないか。
本当にどうしようもない連中だ。
「聖女様、文句を言うのは後にしましょう。事態は刻一刻を争います」
聖女が有罪になったらたまったものではないので俺も教会に常備薬として置いていた自作ポーションを鞄へと次々突っ込み聖女を促す。
「聖女様なら大丈夫。危篤状態からでも回復させられますよ」
「ジェイド…」
「魔法薬師の俺もついていますし、気負い過ぎず、聖女様らしく王太子殿下をお助け下さい」
「そう。そうね。ありがとう、ジェイド」
そして文を持ってきた使者に先導してもらい二人揃って馬に跨り王宮へと向かう。
馬車じゃないのかって?
使者からは当然馬車を勧められたけど、聖女様は結構ギリギリの状態の人のところに派遣されることもあるので急ぎの時の移動は馬なんだ。
普段おっとりして見える聖女様だけど、この騎馬での聖女様はカッコいいのでファンは増える一方だったりする。
慈愛溢れる聖女様はいつだって弱い者のところへと駆け付けてくれるのだ。金はしっかり取るけどな。
ドドッドドッと馬を駆り、「開門!」と声を張る使者に連れられ中へと入る。
ちなみに俺は城の中に入るのは初めてだ。
巨大な城の中は迷路のようで、置いていかれたらきっと迷子になってしまうことだろう。
「こちらでございます」
そう言って通された部屋の中では虫の息とでも言わんばかりの綺麗な男が横たわっていた。
どことなく誰かに似ているような気がするけど誰だろう?
そう思いながらも俺は聖女様の隣で王太子の容態を確認する。
毒と聞いたが何の毒だろう?
聖女様も持ち前の鑑定魔法を使い容態を正確に把握しにかかっていた。
「ジェイド。トラジオンの毒と出たわ。回復はさせるけど後の処方薬をお願い」
「了解です」
トラジオンの毒とはまた厄介なものを持ち出してきたものだ。
即効性があるが倒れてから死ぬまでに二週間~ひと月ほどかかる毒で、その間死ぬほど苦しむことになる。
この毒を盛ったものは余程この王太子に恨みを抱いていたのだろうか?酷いことをするものだ。
そんな死の淵にある王太子に聖女がその聖なる力を振るう。
ポゥッと全身が温かな光に包まれ、毒に蝕まれている王太子の身体をゆっくりと癒していく。
とは言え状態が状態なので当然すぐに完治とはいかない。
じわりと汗が浮く聖女様の額をそっと横から拭いながら、俺は手早く処方薬の配合を考えていく。
(トトロ草とネラ草、後はククの実、ああレトロ草も入れるか)
念のため回復後の王太子の状態を考えて微調整をした方がいいかもしれない。
そんな風に考えを纏め終わったところで聖女様が俺へと声をかけてくる。
「ジェイド、ポーション」
「もしかして魔力切れですか?」
「そうよ。早く!」
今日は朝一で魔力を大量に使う患者が来ていたせいで魔力が足りなくなったらしい。
俺はすぐさま手製のマジックポーションを手に聖女様へと差し出すが手が塞がってるから飲めないわよと逆切れされた。
「じゃあ飲ませるのでちょっと上向いてください」
「集中したいから無理だわ」
いつもなら上を向いてくれるのに?
(……俺にどうしろと?)
仕方がないので「上を向けないなら口移しになりますけど?」って脅し半分に言ったら嬉しそうな顔で「それがいいわ!早く早く!」っておねだりされた。何故だ。
いいのか本当に…。てっきり乙女の唇を狙わないでとか言って諦めて上を向いてくれると思ったんだけどな。当てが外れた。
素直にちょっと上向いてくれたら済む話なのに…。
けど聖女様は頑として譲らない方向のようで早くしろの一点張り。
え~?と思ったけどまあ相手が相手だけに人助けだしと割り切って、後で結婚しろとか言ってこないでくださいよと釘を刺してから仕方なく口移しでそれを飲ませた。
(本当に頼むよ、聖女様!)
とは言え効果は絶大で、聖女様はそこからあっという間に王太子を快癒させてしまった。
「終わったわ」
無事に王太子を救い満面の笑みでそう宣った聖女様は、それはそれはもうとっても満足げだった。
だが俺は一言言いたい。
(危篤状態の王太子様の治療をダシにキスを強請るなんて図太いにも程があるぞ!)と。
レイは苦笑しながらもそれを受け取ってくれて、お金も入れてくれるからなんだか申し訳ない。
そんなレイだけど、極たまに教会に顔を見せてくれるようになった。
俺が聖女様に振り回されてストレス溜まるって愚痴った次の日は大抵狙ったように来てくれるから、きっと気遣ってくれてるんだと思う。
まあ仕事の邪魔にならないようにって昼時を狙ってきてくれるから一緒に昼を食べる形になるんだけど、タイミング悪く聖女様と遭遇することもしばしば。
「また来たの?!」
「はい。お邪魔しています」
「冒険者は忙しいのでしょう?無理してこなくてもいいんじゃないかしら?」
「いえ。ジェイドの顔を見れば頑張ろうと思えるので」
「…それには同感だけれど、私とジェイドの時間を奪わないでもらえるかしら?」
「ジェイドは俺のなので」
「ジェイドは私のよ?勝手なことを言わないでもらえるかしら?」
「聖女様?俺は聖女様のものじゃないんですけど?」
「あら、私の従者でしょう?私は間違ったことは言っていないわ」
「……そうですね」
何を張り合ってるんだか知らないけど、レイとの二人の時間を邪魔しないでほしい。
でもジェイドに俺のって言ってもらえるのは素直に嬉しいな。
「レイ、今日の夕飯は何が食べたい?」
「そうだな。冷蔵庫にオーク肉を買っておいたから、前に作ってくれたスタミナ炒めが食べたい」
「了解。じゃあそれメインで他のメニュー決めておくな」
「ああ」
嬉しそうに笑ってくれるレイに美味しいもの作ろうっと!
そんな風に思ってたら横から聖女様が口を挟んできた。
「私は前に作ってもらったヘルシーな蒸し鶏が食べたいわ」
「わかりました。他には何かありますか?」
そう尋ねたらパアッと顔を輝かせてあれこれと食べたいものを追加で言われたので脳内メモにしっかりと書き込んでおく。
偏食さんにはちゃんと聞いておかないと食べてもらえないからな。
本当に、レイみたいになんでも美味しそうに食べてくれるなら色々挑戦的な新しいメニューも作れるのにな。
それにしてもどうして聖女はこんなに勝ち誇った顔でレイを見てるんだろう?それが不思議。
「ジェイドが作る料理は本当に美味しいですものね。ちゃんと私の好みのものを作ってくれるし、そっちのレイとは違って何品も聞いてもらえて…嬉しいわ」
「まあ聖女様は偏食ですから。そんなことよりレイ、今日も気を付けて」
「ああ。ジェイド、大変だとは思うけど頑張って」
「ありがとう」
そう言ってにこやかに去っていくレイはカッコいい。
やっぱいいよな~と思いながら背中を見送ってたら聖女様に急かされて仕事に戻る羽目になったけど、こればっかりは仕方がない。
(さ、午後も頑張るか)
そう思いながら今日は慰問だったよなと準備を始める。
こうした変わらない日々はこれからも続くのだと────そう思っていたけれど、翌日王宮からの文が届いたことでそれはあっさりとその様相を変えることとなる。
***
「王太子殿下が危篤…ですって?」
なんでも王太子でもある第一王子が何者かに毒を盛られ数日。いよいよ危なくなってしまったのだとか。
「どうしてもっと早く文を届けなかったのです?!」
毒を盛られてすぐなら危篤状態になる事はなかっただろうにと聖女は怒りを露にする。
「は…。それが王宮侍医達が毒消しポーションを処方するから大丈夫だと……」
「それが効かなかったから私が呼び出される羽目になっているのでしょう?!」
聖女が怒るのも当然だ。
医者のプライドだか何だか知らないが、大事な王太子の命を優先せずしてなんとすると言ってやりたい。
しかもこんな危篤状態になってからの召喚ではもし仮に王太子が亡くなったとしたら聖女にその罪を押し付ける気満々ではないか。
本当にどうしようもない連中だ。
「聖女様、文句を言うのは後にしましょう。事態は刻一刻を争います」
聖女が有罪になったらたまったものではないので俺も教会に常備薬として置いていた自作ポーションを鞄へと次々突っ込み聖女を促す。
「聖女様なら大丈夫。危篤状態からでも回復させられますよ」
「ジェイド…」
「魔法薬師の俺もついていますし、気負い過ぎず、聖女様らしく王太子殿下をお助け下さい」
「そう。そうね。ありがとう、ジェイド」
そして文を持ってきた使者に先導してもらい二人揃って馬に跨り王宮へと向かう。
馬車じゃないのかって?
使者からは当然馬車を勧められたけど、聖女様は結構ギリギリの状態の人のところに派遣されることもあるので急ぎの時の移動は馬なんだ。
普段おっとりして見える聖女様だけど、この騎馬での聖女様はカッコいいのでファンは増える一方だったりする。
慈愛溢れる聖女様はいつだって弱い者のところへと駆け付けてくれるのだ。金はしっかり取るけどな。
ドドッドドッと馬を駆り、「開門!」と声を張る使者に連れられ中へと入る。
ちなみに俺は城の中に入るのは初めてだ。
巨大な城の中は迷路のようで、置いていかれたらきっと迷子になってしまうことだろう。
「こちらでございます」
そう言って通された部屋の中では虫の息とでも言わんばかりの綺麗な男が横たわっていた。
どことなく誰かに似ているような気がするけど誰だろう?
そう思いながらも俺は聖女様の隣で王太子の容態を確認する。
毒と聞いたが何の毒だろう?
聖女様も持ち前の鑑定魔法を使い容態を正確に把握しにかかっていた。
「ジェイド。トラジオンの毒と出たわ。回復はさせるけど後の処方薬をお願い」
「了解です」
トラジオンの毒とはまた厄介なものを持ち出してきたものだ。
即効性があるが倒れてから死ぬまでに二週間~ひと月ほどかかる毒で、その間死ぬほど苦しむことになる。
この毒を盛ったものは余程この王太子に恨みを抱いていたのだろうか?酷いことをするものだ。
そんな死の淵にある王太子に聖女がその聖なる力を振るう。
ポゥッと全身が温かな光に包まれ、毒に蝕まれている王太子の身体をゆっくりと癒していく。
とは言え状態が状態なので当然すぐに完治とはいかない。
じわりと汗が浮く聖女様の額をそっと横から拭いながら、俺は手早く処方薬の配合を考えていく。
(トトロ草とネラ草、後はククの実、ああレトロ草も入れるか)
念のため回復後の王太子の状態を考えて微調整をした方がいいかもしれない。
そんな風に考えを纏め終わったところで聖女様が俺へと声をかけてくる。
「ジェイド、ポーション」
「もしかして魔力切れですか?」
「そうよ。早く!」
今日は朝一で魔力を大量に使う患者が来ていたせいで魔力が足りなくなったらしい。
俺はすぐさま手製のマジックポーションを手に聖女様へと差し出すが手が塞がってるから飲めないわよと逆切れされた。
「じゃあ飲ませるのでちょっと上向いてください」
「集中したいから無理だわ」
いつもなら上を向いてくれるのに?
(……俺にどうしろと?)
仕方がないので「上を向けないなら口移しになりますけど?」って脅し半分に言ったら嬉しそうな顔で「それがいいわ!早く早く!」っておねだりされた。何故だ。
いいのか本当に…。てっきり乙女の唇を狙わないでとか言って諦めて上を向いてくれると思ったんだけどな。当てが外れた。
素直にちょっと上向いてくれたら済む話なのに…。
けど聖女様は頑として譲らない方向のようで早くしろの一点張り。
え~?と思ったけどまあ相手が相手だけに人助けだしと割り切って、後で結婚しろとか言ってこないでくださいよと釘を刺してから仕方なく口移しでそれを飲ませた。
(本当に頼むよ、聖女様!)
とは言え効果は絶大で、聖女様はそこからあっという間に王太子を快癒させてしまった。
「終わったわ」
無事に王太子を救い満面の笑みでそう宣った聖女様は、それはそれはもうとっても満足げだった。
だが俺は一言言いたい。
(危篤状態の王太子様の治療をダシにキスを強請るなんて図太いにも程があるぞ!)と。
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