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第二章 側妃問題はそっちのけでイチャつきたい!

39.報告 Side.ディオ

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ディアが到着すると聞いて出迎えに行くと、セレナ王女と遭遇した。
どうやら友人の屋敷に泊まりに行っていたらしい。

「ディオ王子。ご挨拶が遅れ申し訳ありません」
「いえ。こちらこそ突然お邪魔してすみませんでした」
「体調を崩されていたとお聞きしましたが、もう大丈夫なんですか?」
「ええ。もうすっかり良くなりました」
「良かったです。ルイージ王子も心配していたので」
「ルイージ王子?ロロイアの?」
「ええ。つい先日までこちらに滞在していたんです」

どうやらルイージ王子がまだ帰国していないのにルーセウスはガヴァムまで飛んできてくれたようだ。
なんだか申し訳ない。

「後でルーセウスに謝らないと」

だからそう言ったのだけど、セレナ王女は笑いながら、気にしなくていいと言ってくれた。

「元々ルイージ王子は私の客人でしたし、両親もいたから大丈夫ですわ。それよりルーセウスにロロイアの情報をくださったのはディオ王子ですよね?もしかしてお詳しいんですか?」
「そうですね。多少は」
「それなら是非ここに滞在している間、色々教えていただきたいですわ!」

目を輝かせてそう言ってくるセレナ王女は恋する乙女そのもので、とても微笑ましい。
だから彼女が会話のとっかかりにしやすいロロイアの情報を少しだけ教えてあげた。

そうこうしているとルーセウスがやってきて、その後すぐディアが来た。

「只今到着致しました」

綺麗なカーテシーでルーセウスへと挨拶をするディア。
そんなディアを見つめ鷹揚にルーセウスが話しかける。

「ヴァレトミュラは快適だったようだな。顔色も良く安心した」
「ええ。行きに比べれば天国のようでしたわ」

笑顔でやり取りする二人を見て、思わずふっと視線を逸らす。
お互いの立場もわかってるし、ルーセウスの愛情だって疑う余地もないけど、仲良く話す二人を見るのはできれば避けたかった。
嫉妬と言えばそれまでだけど、見たくないものは見たくない。

そんな居心地の悪そうな俺を見てセレナ王女は気を遣ってくれたのか、その場から連れ出そうとしてくれる。

「ディオ王子!二人の仲を邪魔しても悪いですわ!先程のお話、もっと聞かせていただきたいので、あちらでゆっくりお話ししましょう」
「え?」
「ふふっ。ルーセウス。ごゆっくり」
「は?!」

有り難い。でもディアにルーセウスを取られたような気持ちにもなって複雑だ。
でもそんな中、セレナ王女をルーセウスが引き止めた。

「セレナ!ディオは置いていけ!連れて行くな!」

嬉しい。
でも同時に自己嫌悪の気持ちが込み上げてくる。
俺はなんて心が狭いんだろう?

「久し振りの婚約者との時間を邪魔しちゃ悪いと思って気を遣ってあげたのに、酷い言いようね。ディオ王子。ルーセウスはあんなこと言っていますけど、照れ隠しなんですよ?ディア王女がゴッドハルトに来てからなんだかんだで浮かれてましたし、ちょっと会えないだけで『会いたい』とか言ってたんですから。素直じゃないんですよ。本当に」
「は?!俺が会いたかったのは…!」

ほら。こんな言葉にまで昏い喜びを感じている自分がいる。
ルーセウスが会いたかったのはディアじゃなく俺なんだって、浅ましく喜んでいるんだ。
本当に性格が悪い。
だからロクサーヌにフラれたのかも。
そんな思考に囚われそうになっていたら、ディアが俺に声を掛けてきた。

「はいはい。落ち着いて。────ディオ。報告があるのよ。セレナ王女と話すのは晩餐の席じゃダメかしら?報告書は作っておいたけど、できれば直接話したいわ」

そう言われれば嫌とも言いにくい。
話はちゃんと聞こう。

「わかった。────セレナ王女。ロロイアの話は晩餐の席でも構いませんか?」
「え?まあ…仕方ありませんね。それなら晩餐の席と言わず、明日にでもゆっくりお話ししましょう。そうだ!ディオ王子も剣は嗜まれてますよね?明日一緒に鍛錬場で手合わせしてもらえませんか?ディア王女は剣を嗜まれないらしいので残念に思っていたんです。偶にはいつもと違う人と手合わせをした方が良い刺激に繋がりますし、良かったら是非お付き合いしてください」

明日ゆっくり、か。
でも鍛錬場へ行くならルーセウスも一緒に行きやすいし、今日みたいに別行動にならずに済む。
俺がここにいる間くらいはルーセウスをディアと二人きりにはさせたくないし、これは受ける一択だろう。

「そうですね。では明日是非手合わせさせてください」

その言葉を受けてパッと顔を輝かせ、満足げにしながら去っていくセレナ王女。
これで明日は問題ない。
そう思ったのに、何故かルーセウスに食いつかれた。

「ディオ!俺との時間は?!」

どうやら俺がセレナ王女と二人きりで鍛錬場へ行くと思い込んでるらしい。
それは流石にない。
俺はルーセウスと一緒にいたくて受けたのに。

「セレナ王女と二人でお茶を飲むより、ルーセウスとの時間を取りたいなと思っただけだったんだけど、ダメだったか?」

一緒に…来てくれないんだろうか?
俺よりディアとの時間を優先されたら────そう思ったらすごくモヤモヤした。

ルーセウスはダメじゃないとは言ってくれたもののちょっと不機嫌だし、どうしていいのかわからなくなる。
そんな俺を見兼ねたのかディアが俺の手を取り、『ちょっと暫くディオを借りますわ』と言って問答無用で俺をその場から連れ去った。


***


「ディオ。いくらなんでも酷いわ。嫉妬し過ぎよ?」

開口一番ディアがそう言ってくる。
ディアは状況把握がしっかりできているようで、俺が嫉妬していたのも筒抜けのようだった。

「私とルーセウス王子の間に愛がないのなんてわかり切っているでしょう?ここにいる間ずっと嫉妬しているつもり?そういうのはやめてちょうだい」
「…………」

そんな事ちゃんとわかっている。
それでも嫌なものは嫌だし、できれば見たくない。

「お願いだから冷静になって。全く本当に…あんな脳筋王子のどこがいいのかしら?」
「ルーセウスは良い所しかないだろう?」
「ちょっと盲目的に愛し過ぎよ?ロクサーヌの時の二の舞はやめてちょうだいね?」

ロクサーヌの時の二の舞────。
盲目的に愛し過ぎて、失敗すると言うことだろうか?

ズキッと胸が痛んで落ち込んでしまう。

「ああ、もう!落ち込まないの!本当に恋愛に関しては一途と言うか何と言うか、ポンコツね」

こうはなりたくないわとディアは言うけど、好きなものは好きなのだ。
しょうがないじゃないか。

「まあ…ロクサーヌを忘れられたのなら良かったと思うわ。ルーセウス王子は鬱陶しいほど貴方しか見えてないし、一途な者同士お似合いよ」

そう言ってその話を切り上げ、ディアは本題とばかりに報告書を手渡してきた。

「ゴッドハルトの隣国、ニッヒガングが不穏な動きを見せて来たわ」

パラリとその報告書をめくりザッと内容へと目を通す。

最近ニッヒガングの王の体調が悪いらしく、そこに付け込んで貴族達に不穏な動きが広がっているらしいとは聞いていた。
どうやら今回、報告が上がるほどの動きが見られたらしい。

今の王には弟が三人いて、その内の一人が領土を広げたいと目論んでいるようなのだが、その王弟────ヴィレが一部の貴族らや軍務卿と手を組み、更にゴッドハルトに隣接している不穏な動きのあるバロン国に内密に使者を送った様子。

「バロン国と結託してゴッドハルトに戦争を仕掛ける気か」
「まあ最終的にはそうして来るでしょうね」

ゴッドハルトは無事に国の立て直しを終え、国内の問題が落ち着きつつある転換期だ。
恐らくそこに油断が生じると踏んだのだろう。
そこに直近で絶好の機会となるガヴァムの戴冠式がやってくる。
ディアとの婚約もある為、欠席は絶対にないと考えたのだろう。

ガヴァムの戴冠式に参列するためゴッドハルトから王族が出払うのを待ち、一気に双方から仕掛けてくるのではないかというのがディアの見解だった。

「ガヴァムはここから遠いわ。向こうに着いたのを見計らって仕掛ければ勝率はより上がるでしょうね」

軍が持ちこたえるにしても戦力の分散は免れないし、同時攻撃されるのなら余計にトップの細かな指示は必要不可欠だ。
戴冠式という厳粛な場でツンナガールで話すのは難しい。
そもそもそう言った魔道具の持ち込みも制限されるだろうし、手元に置いておけないと言うのが実情となるだろう。

「もしかしたらセレナ王女がここの留守を任される可能性もあるかもしれないけど、彼女に非常時の適切な指示が出せるかどうか…」

ディアは憂うようにそう告げた。
確かに経験不足の中でそれは難しいと言えるだろう。
でもそんな計画、そもそも早急に潰してしまえばよくないだろうか?

「ディア。明日、出掛けてきていいかな?」
「ちょ…ちょっとディオ?まさか貴方自ら潰しに動いたりはしないわよね?」
「そのつもりだけど?」
「…………まあそうよね。貴方なら首謀者全員を潰すのもわけないでしょうね。でもね?ルーセウス王子はきっと黙って見送ってはくれないわよ?」

確かに。
ルーセウスは多分許してはくれないだろう。
ゴッドハルトのためだと言っても多分『それなら自分も行く』と言ってくるはず。
それは流石に避けたい。

「……しょうがない。取り敢えず指示出しだけにしておくか」
「そうしてちょうだい。それでも十分貴方なら潰せるでしょう?」

それからツンナガールで裏稼業の密偵達へと指示を出し、首謀者の割り出しを頼んでおいた。
内容によって全員事故死で片付けてもらえば戦争は回避できるだろう。

「はぁ…こんな些事よりルーセウスとの恋愛の方が百倍難しい」
「えっ?!何を言ってるの。そっちの方が百倍簡単でしょう?あんなに惚れ込まれてるのに悩むなんておかしいわよ?!」
「まあルーセウスの気持ちを疑う気は全くないけど、…………嫉妬心が暴走しそうで、感情の持って行き場に困る」
「お願いだから私に八つ当たりするのだけはやめてちょうだいね?ディオが本気を出したら私なんて瞬殺よ?!」

暗器を持たせたらきっと世界一だとディアは言うけど、それは言い過ぎだろう。
まあ手加減さえしなければ、どんな相手でも一撃で仕留める自信はあるけど、流石にディアを殺す気はない。

「早くルーセウスのところに行きたい」
「はいはい。報告はもう終わったからもういいわよ。行ってらっしゃい」

呆れたようなディアに見送られ、俺は恋しいルーセウスの元へと向かったのだった。


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