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21.別荘にて

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屋敷へ一歩足を踏み入れると、使用人達がズラッと並んで出迎えてくれて歓迎してもらえた。
こんなこと初めてだから物凄くびっくりしてしまう。
やっぱり久しぶりに来た主家の者を出迎えるから、どうしても仰々しくなってしまうんだろうか?
ルシアンは気にした様子もなく俺の手を取りながらスタスタと歩いていくし、俺はただエスコートされるがままについて行くことしかできない。

「連絡した通り今回は俺と婚約者の二人だけなんだ。よろしく。部屋は同室にしてもらえたかな?」

ルシアンのその言葉に家令らしき壮年の男性が戸惑うように『本当によろしいのですか?』と尋ねたけど、ルシアンは『不慣れな場所に連れてきてしまった婚約者を一人にして不安にさせるほど甲斐性無しのつもりはない。面倒は全部俺が見るから大丈夫』なんて言い出したから不覚にもドキッとしてしまった。
猫を被っているルシアンに『男前だな』と思ったのは初めてかもしれない。

「では、ご案内いたします」

そして用意された部屋へと案内されたのだけど、兎に角広い。
ドアをくぐった先に何部屋あるんだと数えたくなるくらいだ。
これなら全然同じ部屋でも大丈夫だろう。
比べちゃダメだけど、これまでの宿とは大違いだ。

「カイ。この後の晩餐も楽しみにしているといい。名物料理が目白押しだからな」

荷物を整理しソファで一息ついているとルシアンが俺の腰を引き寄せ髪にキスを落としながらそう言ってきた。
名物料理…気になる。
前世では食事なんて関係なかったけど、今世では幼い頃から父が『カイ、これは父さんの好きな料理なんだ。口に合うか?』とか『この料理は昔母さんと付き合うきっかけになった料理で…』等々色んなエピソードを教えてくれながら食べてきたから、それなりに興味があった。
美味しかったらレシピを聞いて、帰ってから屋敷のシェフに作ってもらえるかもしれない。
美味しい料理を食べたらきっと両親も笑顔になるだろうし、旅行を楽しめて良かったなと言ってもらえる気がした。

それから間もなく晩餐の席へと移動し、美味しい料理に舌鼓を打ってからルシアンと一緒に庭へと向かう。
陽も落ちて薄暗くなってはいるものの、雪が月明かりを受けているせいか比較的明るく見える。そこに色とりどりの光り輝く魔石が各所に配置され、それはもう美しい幻想的な光景が広がっていて、思わず見惚れてしまった。

「すご…」
「気に入った?」

侍女達が一緒だからか猫を被った姿でそう言ってくるけど、今の俺はそれよりも目の前の光景に目を奪われていたからそれどころではない。

(こんなの初めて見た)

そうして立ち尽くしていたら、ルシアンが小声で物騒な言葉を呟いた気がした。

「チッ…。魔石を全部破壊してやりたくなるな」

聞き間違い?いや。きっと気のせいだろう。
もしそれが本当なら折角の美しい光景が台無しだ。

「カイ。折角だし、デートがてら歩こう?」

にこやかな笑みで俺へと手を差し伸べてくるルシアン。
うん。やっぱりさっきのは聞き間違いだったんだな。
そして仲良く手を繋ぎながら庭園を歩く。
ルシアンとこんな風にいい雰囲気になるなんて旅行前は思ってもみなかった。
得も言われぬ幻想的な庭を婚約者と歩くのはなんだか緊張して鼓動が早くなっている気がする。
トクトクと鳴る鼓動を抱えながらそっとルシアンの方を見つめると、背景と相俟って二割増しでカッコよく見えた。

(…………ヤバい。思った以上に重傷だ)

恋してるんだと自覚しただけなのに、どうしてこうも変わってしまったのか。
これまではイライラすることだって多かったのに、今はそれが鳴りを潜めて、全部好意に変わってしまっている気がする。

(俺ってこんなに単純だったっけ?)

でもそれも仕方がないことかもしれない。
前世では複雑な人の感情の機微なんて俺には関係なかったし、興味もなかった。
ただ主人と相思相愛であればそれで良かったのだから。
今世で人として生き、それを少しずつ学んでいっている状態なんだし、前向きに考えよう。
そう考えながらキュッとルシアンと繋いだ手に力を込める。

「カイ?」

どうかしたかと振り向いてくるルシアンに、俺ははにかむように笑いながら素直に気持ちを吐露した。

「こんなに綺麗な庭をルシアンと一緒に歩けて、嬉しいなって思って」

ヘヘッと笑うとまるで不意打ちを食らったような虚を突かれた顔になった後、急に抱き寄せられてギュッと抱きしめられた。

「カイ。今夜、放してやれなくなったらすまない」
「???」

どこか切なげな声で小さく耳元で囁かれて、言われている意味が分からず困惑する。
また抱き枕にしたいってことか?
多分そういう意味だよな?

(昨日だって一晩中抱きしめて寝てただろうに。変なルシアン)

でもまあここは婚約者として大らかに受け止めるべきだろう。

(よしっ!)

「ルシアンが好きなだけ俺を独占していいからな」
「…………っ!カイ!」

何故かその後メチャクチャ激しくキスされたんだけど、そんなに感動したのか?!
流石に侍女達の前ではやめてくれ。
恥ずかしさが半端ない。
でもどう足掻いても逃がしてはもらえなくて、俺は腰砕けになるほど唇を貪られてしまった。


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