41 / 81
38.反省 Side.ユージィン
しおりを挟む
「カイザーリードをどこへやった?!」
あの腹立たしいルシアンから引き離したら憔悴しきってしまったカイザーリード。
時間さえ置けば気持ちも落ち着き忘れられる。そう思いながら見守っていたのに、少し仕事で王宮に行っている間に妻が勝手にどこかへと隠してしまった。
「もしかしてルシアンのところに行かせたんじゃないだろうな?!」
もしそうなら早く連れ戻さないとと声を荒げると、溜息を吐きながらそんなことはしないと言われてしまう。
「貴方。落ち着いてくださいな。私だって可愛い息子が手籠めにされるとわかっていて送り出すほど母親を捨ててはおりません」
「なら一体どこに隠したんだっ!」
「ソレですわ」
「ソレ?」
訝し気に聞き返すと、妻は俺の態度に苦言を呈する。
「貴方は怒りに囚われて、すっかりあの子を息子ではなく物のように扱ってしまっているでしょう?」
その言葉にドキッとしてしまう。
「あの子は自分の意思がある『人』ですわ。貴方の『魔剣』とは違うのです」
「違うっ…!カイザーリードは、魔剣はただの物なんかじゃない!一緒にするな!」
そう。魔剣カイザーリードは唯一無二の友であり、誰よりも自分に近しい者だった。
愛しい愛しい俺だけの魔剣。
会話だってできたし、いつだって俺の心に寄り添ってくれた。
『頼むぞ』と言えば『任せてほしい』と応えてくれ、『無理ばかりさせてすまない』と労えば『貴方の為に働けてただただ嬉しい』とはにかむように返してくれるそんな健気で可愛い相手だったのだ。
そんな魔剣を俺はただの物扱いしたことなんて一度もない。
大事に大事にしてきたつもりだ。
それは今世でも何も変わらない。
それなのに妻は冷たい目で俺を見つめてくる。
「貴方は一度自分を見直すべきですわ。あの子は泣いていました。婚約者が恋しいと。それを見て何も感じなかったのですか?」
「そんなもの、時間が経てば解決する問題だろう?!辛いのは今だけだ!」
「だから貴方はダメなのです。戦場で数多の部下を率い、素晴らしい実績を上げたことは認めますが、息子一人労わってやれないのであれば父親として失格です。あの子の幸せを本当に考えるのなら、こんな風に引き離すのではなく、どうすれば早熟な婚約者を改心させ、彼と幸せにしてやれるのかを考えてやるべきなのです。違いますか?」
「……………………」
妻の言いたいことはわかる。
でも認めたくはない。
「あんな奴に…可愛いカイザーリードを渡したくはない」
だからギリギリと歯噛みしてそう口にしたのだが、妻はサクッとこちらの心を抉ってきた。
「貴方が吟味に吟味を重ねて選んだ相手でしょうに」
「グッ……」
「貴方が選んで勧めた相手と嫌々付き合い、いざ仲良くなって相思相愛になったところで引き裂くだなんて、一体何をお考えですか?わざとカイを傷つけ虐めているようにしか見えませんわ」
「うぅ……」
「このまま追い詰めれば自死していた可能性もなくはなかったのですよ?気分転換に環境を変えようとした私は貴方に感謝されこそすれ、非難される謂れはございません」
キッパリとそう言い切られ、俺はぐうの音も出ないほどやりこめられてしまう。
「カイザーリードは私の実家に送りました。あそこにはカイの従兄弟もおりますし、きっといい気分転換になりますわ」
そして妻は励ますように俺の肩をポンポンと叩くとそのまま部屋から出て行った。
残された俺は思い切り溜息を吐き、ここ最近のカイザーリードの姿を思い出す。
食べては吐き、食べては吐きの繰り返しですっかりやせ細ってしまった姿を。
泣き腫らした目で婚約者の名を呼び、その姿は確かにいつ自死してもおかしくはないようにも見えた。
(そうだ。俺はどうしてその可能性を考えなかったんだ…)
カイがカイザーリードの生まれ変わりだとわかっていたから、自分から死を選ぶなんていう選択肢などないと心のどこかで思っていたのかもしれない。
(物扱い…か)
妻はきっと魔剣のことなど何一つ知らず俺を責めたのだろう。
わかっていたら絶対にあんな風には言わなかったはずだ。
魔剣とは常に主人と共にあるべきもの。
だからこそ失った時、あれほど絶望したのだ。
愛しい自分の半身のような存在。それが俺にとっての魔剣カイザーリードだった。
そんなカイザーリードが自分の息子となって帰ってきた。
だからその時こう思ったんだ。
またずっと一緒に居られる。
一生カイザーリードと共にいられるのだと。
けれどカイザーリードは魔剣ではなく今は『人』だ。
ルシアンに恋をする可能性だって十分あったし、そんな彼から引き離されれば悲しみもする。
当然食べなければ死ぬし、絶望したら自ら死を選ぶことだってあるかもしれない。
俺はそれを全くわかってはいなかった。
(カイが人ではなく魔剣だったら……)
そう思えど、もしもという考えが頭を過る。
自分が主人だったなら構わない。
けれどこれがもしルシアンだったら?
新たな生を受け、新たな主人としてルシアンと契約したとして、果たしてカイザーリードは彼を求めずにいられるのだろうか?
答えは否だ。
魔剣にとっての主人とは絶対的なもの。
その魂の本能で契約者である主人を求めるだろう。
つまりいくら距離を置こうと無駄なのだ。
カイザーリードは目に見えて悲しんでいた。
それなのに自分はそんなカイザーリードに何を言った?
聞く耳さえ持たず、一方的に自分の考えだけを押し付けなかっただろうか?
そう考えた時、あまりにも勝手な自分の考えに嫌でも気づかされてしまった。
「そうか……。俺はカイを自分の所有物だと…思い込んでいたんだ」
カイザーリードは前世では俺の愛しい魔剣で、今世では愛しい息子だった。
それは確かに事実ではあるけれど、俺はそれを履き違えて、いつの間にか宝物を大事にするように…つまり妻が言うように『物』に対するような感覚で接してしまっていたんだと気づいてしまった。
大事にするあまり、誰にも触れさせないようにしまっておく。そんな扱いをカイザーリードにしてしまっていることに気が付いて愕然となる。
「そんな…」
そんなつもりなどなかった。
でも無意識でそんな扱いをしてしまっていた。
カイザーリードの意見など聞かず、自分の意見を押し通した時点で、俺は確かに父親失格だったかもしれない。
「カイに…。妻にも、謝らないと」
そして俺は痛む胸を抱えながら、妻の元へと足を向けたのだった。
あの腹立たしいルシアンから引き離したら憔悴しきってしまったカイザーリード。
時間さえ置けば気持ちも落ち着き忘れられる。そう思いながら見守っていたのに、少し仕事で王宮に行っている間に妻が勝手にどこかへと隠してしまった。
「もしかしてルシアンのところに行かせたんじゃないだろうな?!」
もしそうなら早く連れ戻さないとと声を荒げると、溜息を吐きながらそんなことはしないと言われてしまう。
「貴方。落ち着いてくださいな。私だって可愛い息子が手籠めにされるとわかっていて送り出すほど母親を捨ててはおりません」
「なら一体どこに隠したんだっ!」
「ソレですわ」
「ソレ?」
訝し気に聞き返すと、妻は俺の態度に苦言を呈する。
「貴方は怒りに囚われて、すっかりあの子を息子ではなく物のように扱ってしまっているでしょう?」
その言葉にドキッとしてしまう。
「あの子は自分の意思がある『人』ですわ。貴方の『魔剣』とは違うのです」
「違うっ…!カイザーリードは、魔剣はただの物なんかじゃない!一緒にするな!」
そう。魔剣カイザーリードは唯一無二の友であり、誰よりも自分に近しい者だった。
愛しい愛しい俺だけの魔剣。
会話だってできたし、いつだって俺の心に寄り添ってくれた。
『頼むぞ』と言えば『任せてほしい』と応えてくれ、『無理ばかりさせてすまない』と労えば『貴方の為に働けてただただ嬉しい』とはにかむように返してくれるそんな健気で可愛い相手だったのだ。
そんな魔剣を俺はただの物扱いしたことなんて一度もない。
大事に大事にしてきたつもりだ。
それは今世でも何も変わらない。
それなのに妻は冷たい目で俺を見つめてくる。
「貴方は一度自分を見直すべきですわ。あの子は泣いていました。婚約者が恋しいと。それを見て何も感じなかったのですか?」
「そんなもの、時間が経てば解決する問題だろう?!辛いのは今だけだ!」
「だから貴方はダメなのです。戦場で数多の部下を率い、素晴らしい実績を上げたことは認めますが、息子一人労わってやれないのであれば父親として失格です。あの子の幸せを本当に考えるのなら、こんな風に引き離すのではなく、どうすれば早熟な婚約者を改心させ、彼と幸せにしてやれるのかを考えてやるべきなのです。違いますか?」
「……………………」
妻の言いたいことはわかる。
でも認めたくはない。
「あんな奴に…可愛いカイザーリードを渡したくはない」
だからギリギリと歯噛みしてそう口にしたのだが、妻はサクッとこちらの心を抉ってきた。
「貴方が吟味に吟味を重ねて選んだ相手でしょうに」
「グッ……」
「貴方が選んで勧めた相手と嫌々付き合い、いざ仲良くなって相思相愛になったところで引き裂くだなんて、一体何をお考えですか?わざとカイを傷つけ虐めているようにしか見えませんわ」
「うぅ……」
「このまま追い詰めれば自死していた可能性もなくはなかったのですよ?気分転換に環境を変えようとした私は貴方に感謝されこそすれ、非難される謂れはございません」
キッパリとそう言い切られ、俺はぐうの音も出ないほどやりこめられてしまう。
「カイザーリードは私の実家に送りました。あそこにはカイの従兄弟もおりますし、きっといい気分転換になりますわ」
そして妻は励ますように俺の肩をポンポンと叩くとそのまま部屋から出て行った。
残された俺は思い切り溜息を吐き、ここ最近のカイザーリードの姿を思い出す。
食べては吐き、食べては吐きの繰り返しですっかりやせ細ってしまった姿を。
泣き腫らした目で婚約者の名を呼び、その姿は確かにいつ自死してもおかしくはないようにも見えた。
(そうだ。俺はどうしてその可能性を考えなかったんだ…)
カイがカイザーリードの生まれ変わりだとわかっていたから、自分から死を選ぶなんていう選択肢などないと心のどこかで思っていたのかもしれない。
(物扱い…か)
妻はきっと魔剣のことなど何一つ知らず俺を責めたのだろう。
わかっていたら絶対にあんな風には言わなかったはずだ。
魔剣とは常に主人と共にあるべきもの。
だからこそ失った時、あれほど絶望したのだ。
愛しい自分の半身のような存在。それが俺にとっての魔剣カイザーリードだった。
そんなカイザーリードが自分の息子となって帰ってきた。
だからその時こう思ったんだ。
またずっと一緒に居られる。
一生カイザーリードと共にいられるのだと。
けれどカイザーリードは魔剣ではなく今は『人』だ。
ルシアンに恋をする可能性だって十分あったし、そんな彼から引き離されれば悲しみもする。
当然食べなければ死ぬし、絶望したら自ら死を選ぶことだってあるかもしれない。
俺はそれを全くわかってはいなかった。
(カイが人ではなく魔剣だったら……)
そう思えど、もしもという考えが頭を過る。
自分が主人だったなら構わない。
けれどこれがもしルシアンだったら?
新たな生を受け、新たな主人としてルシアンと契約したとして、果たしてカイザーリードは彼を求めずにいられるのだろうか?
答えは否だ。
魔剣にとっての主人とは絶対的なもの。
その魂の本能で契約者である主人を求めるだろう。
つまりいくら距離を置こうと無駄なのだ。
カイザーリードは目に見えて悲しんでいた。
それなのに自分はそんなカイザーリードに何を言った?
聞く耳さえ持たず、一方的に自分の考えだけを押し付けなかっただろうか?
そう考えた時、あまりにも勝手な自分の考えに嫌でも気づかされてしまった。
「そうか……。俺はカイを自分の所有物だと…思い込んでいたんだ」
カイザーリードは前世では俺の愛しい魔剣で、今世では愛しい息子だった。
それは確かに事実ではあるけれど、俺はそれを履き違えて、いつの間にか宝物を大事にするように…つまり妻が言うように『物』に対するような感覚で接してしまっていたんだと気づいてしまった。
大事にするあまり、誰にも触れさせないようにしまっておく。そんな扱いをカイザーリードにしてしまっていることに気が付いて愕然となる。
「そんな…」
そんなつもりなどなかった。
でも無意識でそんな扱いをしてしまっていた。
カイザーリードの意見など聞かず、自分の意見を押し通した時点で、俺は確かに父親失格だったかもしれない。
「カイに…。妻にも、謝らないと」
そして俺は痛む胸を抱えながら、妻の元へと足を向けたのだった。
31
あなたにおすすめの小説
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
婚約破棄させた愛し合う2人にザマァされた俺。とその後
結人
BL
王太子妃になるために頑張ってた公爵家の三男アランが愛する2人の愛でザマァされ…溺愛される話。
※男しかいない世界で男同士でも結婚できます。子供はなんかしたら作ることができます。きっと…。
全5話完結。予約更新します。
義理の家族に虐げられている伯爵令息ですが、気にしてないので平気です。王子にも興味はありません。
竜鳴躍
BL
性格の悪い傲慢な王太子のどこが素敵なのか分かりません。王妃なんて一番めんどくさいポジションだと思います。僕は一応伯爵令息ですが、子どもの頃に両親が亡くなって叔父家族が伯爵家を相続したので、居候のようなものです。
あれこれめんどくさいです。
学校も身づくろいも適当でいいんです。僕は、僕の才能を使いたい人のために使います。
冴えない取り柄もないと思っていた主人公が、実は…。
主人公は虐げる人の知らないところで輝いています。
全てを知って後悔するのは…。
☆2022年6月29日 BL 1位ありがとうございます!一瞬でも嬉しいです!
☆2,022年7月7日 実は子どもが主人公の話を始めてます。
囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/237646317
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
【完結】伯爵家当主になりますので、お飾りの婚約者の僕は早く捨てて下さいね?
MEIKO
BL
【完結】伯爵家次男のマリンは、公爵家嫡男のミシェルの婚約者として一緒に過ごしているが実際はお飾りの存在だ。そんなマリンは池に落ちたショックで前世は日本人の男子で今この世界が小説の中なんだと気付いた。マズい!このままだとミシェルから婚約破棄されて路頭に迷う未来しか見えない!
僕はそこから前世の特技を活かしてお金を貯め、ミシェルに愛する人が現れるその日に備えだす。2年後、万全の備えと新たな朗報を得た僕は、もう婚約破棄してもらっていいんですけど?ってミシェルに告げる。なのに対象外のはずの僕に未練たらたらなのどうして?
※R対象話には『*』マーク付けます。
ブレスレットが運んできたもの
mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。
そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。
血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。
これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。
俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。
そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる