【完結】元主人が決めた婚約者は、まさかの猫かぶり野郎でした。

オレンジペコ

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38.反省 Side.ユージィン

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「カイザーリードをどこへやった?!」

あの腹立たしいルシアンから引き離したら憔悴しきってしまったカイザーリード。
時間さえ置けば気持ちも落ち着き忘れられる。そう思いながら見守っていたのに、少し仕事で王宮に行っている間に妻が勝手にどこかへと隠してしまった。

「もしかしてルシアンのところに行かせたんじゃないだろうな?!」

もしそうなら早く連れ戻さないとと声を荒げると、溜息を吐きながらそんなことはしないと言われてしまう。

「貴方。落ち着いてくださいな。私だって可愛い息子が手籠めにされるとわかっていて送り出すほど母親を捨ててはおりません」
「なら一体どこに隠したんだっ!」
「ソレですわ」
「ソレ?」

訝し気に聞き返すと、妻は俺の態度に苦言を呈する。

「貴方は怒りに囚われて、すっかりあの子を息子ではなく物のように扱ってしまっているでしょう?」

その言葉にドキッとしてしまう。

「あの子は自分の意思がある『人』ですわ。貴方の『魔剣』とは違うのです」
「違うっ…!カイザーリードは、魔剣はただの物なんかじゃない!一緒にするな!」

そう。魔剣カイザーリードは唯一無二の友であり、誰よりも自分に近しい者だった。
愛しい愛しい俺だけの魔剣。
会話だってできたし、いつだって俺の心に寄り添ってくれた。
『頼むぞ』と言えば『任せてほしい』と応えてくれ、『無理ばかりさせてすまない』と労えば『貴方の為に働けてただただ嬉しい』とはにかむように返してくれるそんな健気で可愛い相手だったのだ。
そんな魔剣を俺はただの物扱いしたことなんて一度もない。
大事に大事にしてきたつもりだ。
それは今世でも何も変わらない。
それなのに妻は冷たい目で俺を見つめてくる。

「貴方は一度自分を見直すべきですわ。あの子は泣いていました。婚約者が恋しいと。それを見て何も感じなかったのですか?」
「そんなもの、時間が経てば解決する問題だろう?!辛いのは今だけだ!」
「だから貴方はダメなのです。戦場で数多の部下を率い、素晴らしい実績を上げたことは認めますが、息子一人労わってやれないのであれば父親として失格です。あの子の幸せを本当に考えるのなら、こんな風に引き離すのではなく、どうすれば早熟な婚約者を改心させ、彼と幸せにしてやれるのかを考えてやるべきなのです。違いますか?」
「……………………」

妻の言いたいことはわかる。
でも認めたくはない。

「あんな奴に…可愛いカイザーリードを渡したくはない」

だからギリギリと歯噛みしてそう口にしたのだが、妻はサクッとこちらの心を抉ってきた。

「貴方が吟味に吟味を重ねて選んだ相手でしょうに」
「グッ……」
「貴方が選んで勧めた相手と嫌々付き合い、いざ仲良くなって相思相愛になったところで引き裂くだなんて、一体何をお考えですか?わざとカイを傷つけ虐めているようにしか見えませんわ」
「うぅ……」
「このまま追い詰めれば自死していた可能性もなくはなかったのですよ?気分転換に環境を変えようとした私は貴方に感謝されこそすれ、非難される謂れはございません」

キッパリとそう言い切られ、俺はぐうの音も出ないほどやりこめられてしまう。

「カイザーリードは私の実家に送りました。あそこにはカイの従兄弟もおりますし、きっといい気分転換になりますわ」

そして妻は励ますように俺の肩をポンポンと叩くとそのまま部屋から出て行った。
残された俺は思い切り溜息を吐き、ここ最近のカイザーリードの姿を思い出す。

食べては吐き、食べては吐きの繰り返しですっかりやせ細ってしまった姿を。
泣き腫らした目で婚約者の名を呼び、その姿は確かにいつ自死してもおかしくはないようにも見えた。

(そうだ。俺はどうしてその可能性を考えなかったんだ…)

カイがカイザーリードの生まれ変わりだとわかっていたから、自分から死を選ぶなんていう選択肢などないと心のどこかで思っていたのかもしれない。

(物扱い…か)

妻はきっと魔剣のことなど何一つ知らず俺を責めたのだろう。
わかっていたら絶対にあんな風には言わなかったはずだ。

魔剣とは常に主人と共にあるべきもの。
だからこそ失った時、あれほど絶望したのだ。
愛しい自分の半身のような存在。それが俺にとっての魔剣カイザーリードだった。
そんなカイザーリードが自分の息子となって帰ってきた。
だからその時こう思ったんだ。

またずっと一緒に居られる。
一生カイザーリードと共にいられるのだと。

けれどカイザーリードは魔剣ではなく今は『人』だ。
ルシアンに恋をする可能性だって十分あったし、そんな彼から引き離されれば悲しみもする。
当然食べなければ死ぬし、絶望したら自ら死を選ぶことだってあるかもしれない。
俺はそれを全くわかってはいなかった。

(カイが人ではなく魔剣だったら……)

そう思えど、もしもという考えが頭を過る。
自分が主人だったなら構わない。
けれどこれがもしルシアンだったら?
新たな生を受け、新たな主人としてルシアンと契約したとして、果たしてカイザーリードは彼を求めずにいられるのだろうか?
答えは否だ。
魔剣にとっての主人とは絶対的なもの。
その魂の本能で契約者である主人を求めるだろう。
つまりいくら距離を置こうと無駄なのだ。

カイザーリードは目に見えて悲しんでいた。
それなのに自分はそんなカイザーリードに何を言った?
聞く耳さえ持たず、一方的に自分の考えだけを押し付けなかっただろうか?

そう考えた時、あまりにも勝手な自分の考えに嫌でも気づかされてしまった。

「そうか……。俺はカイを自分の所有物だと…思い込んでいたんだ」

カイザーリードは前世では俺の愛しい魔剣で、今世では愛しい息子だった。
それは確かに事実ではあるけれど、俺はそれを履き違えて、いつの間にか宝物を大事にするように…つまり妻が言うように『物』に対するような感覚で接してしまっていたんだと気づいてしまった。
大事にするあまり、誰にも触れさせないようにしまっておく。そんな扱いをカイザーリードにしてしまっていることに気が付いて愕然となる。

「そんな…」

そんなつもりなどなかった。
でも無意識でそんな扱いをしてしまっていた。
カイザーリードの意見など聞かず、自分の意見を押し通した時点で、俺は確かに父親失格だったかもしれない。

「カイに…。妻にも、謝らないと」

そして俺は痛む胸を抱えながら、妻の元へと足を向けたのだった。



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