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閑話4.次期王として Side.アーノルド
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俺はマーヴァインの第一王子として誕生したが、それはもう昔から厳しく教育を施された。
どうしてこんなにと泣いたことなんて一度や二度ではない。
でもその原因となる父のことを知り、優秀な者達がどんどん国から出ていってしまったという話も聞いて、そういう理由なら仕方がないとある程度成長してから割り切った。
父は愚かだ。
周囲がどれほど諫めようとしても無駄に終わり、挙句に父王を毒殺したという。
仕事なんてやっているつもりなだけでその実何一つやっておらず、ただ偉そうにしているだけ。
そんな状態で敬えと言われて敬えるはずがない。
けれどすぐ下の弟は違ったらしく、『僕も大きくなったら父上みたいにふんぞり返りたい!仕事もしなくていいんでしょう?すっごく楽だし、羨ましいなぁ。兄上!僕に王様を譲ってよ!』無邪気にそんなことを言ってきて愕然となった。
国のトップが責務を果たさず仕事もせずふんぞり返るだけなんて、考えただけで頭が痛い。
自分達が贅沢な生活を送れるのは責務を果たしてこそだというのに、この弟は何を言っているんだと。
俺はその言葉を聞いてすぐさま母へと相談しに行った。
すると母は顔色を悪くし、すぐに手を打つと言った。
弟はこの時点でまだ8才。間に合うはずだと。
ちなみにこの弟は俺と母を同じくする実の弟だ。
父には側室も二人いるが、いずれも女児を産んだため特に後継者争いには至っていない。
とは言え自分に何かあった場合弟に王位が行くのは確実な為、父そっくりになられては非常に困る。
それは誰もが同じように考えたのだろう。
そして弟は誰の案でそうなったのかは知らないが、隣国サザナードへと送られることになった。
サザナードとは実は去年父のせいでひと悶着あったため、心証が悪くなっていた。
事の始まりは軍備拡大を言い出した父をなんとか諫めるため軍務大臣が物申したのが発端だった。
その結果軍務大臣は父から暗殺者を差し向けられそうになったのだが、事前に警戒していたため事なきを得たという経緯があり、何かしらやらねばという状況に陥って『演習なら』と意見が出たため、形ばかりの誤魔化しをすることになった。
けれどギリギリになって自分も参加すると言い出した父が無理矢理その演習に参加し、あろうことか事故と称してサザナードの国境壁に向けて大砲を撃たせたのだ。
かなり距離があったため被害は特に出なかったものの、当然国として黙っていられないとサザナードから警告文が届けられた。
なのに父は『あんなに飛ぶとは思っていなかった』『あれは事故なのに大げさすぎる』などと言い放つ始末。
父は戦争を起こしたかったのだろうか?
それともただの馬鹿だっただけなのか…。
それから双国間はピリピリしていたのだが、それもあって半ば人質的に弟は向こうに送られたのだと思う。
これ以上父の悪影響を受けないように。
そして身の程をしっかりと弁えられるように。
画して弟はそこから8年間、サザナードでの生活を送ることとなる。
何故8年だったのかというと、向こうの王太子が結婚することが決まったからだ。
俺は知らなかったが、サザナードの王太子は現王の弟の子で、現王の実の子ではなかったらしい。
そんな王太子が選んだ花嫁が現王の娘だったからこそ初めて分かったことだった。
要するに、従兄妹同士で結婚と言うことらしい。
弟はどうやらその現王の娘を好きだったらしく、ずっと想い続けていたけど王太子に負けて涙を呑んだのだとか。
母の話では、久しぶりに会った弟は昔と違って凄くしっかりしていて、考え方もまともになっていたそうだ。
『サザナードのクリストファー陛下には本当に感謝しかない。どこに出しても恥ずかしくないほど立派に育てていただけた』と安堵したように手紙は綴られていた。
母や周囲の者達が弟をサザナードへ送り出したのはどうやら正解だったらしい。
真面に育ってくれて本当に安心した。
そして俺はそっとその手紙をしまい、留学先であるエディール国の学生寮で一息吐いた。
ここに来て早3年。
思えば随分有意義な学生生活を送らせてもらったように思う。
その生活も今日でおしまいだ。
母が最初留学の打診をした際にはかなり渋られたようだが、俺が実際に足を運んでアリスト陛下に顔通しをした後は特に嫌な顔をされることもなく滞在を許してもらうことができた。
そして今、俺にも大切な人がいる。
愛しい俺の婚約者、エリス。
彼女はアリスト陛下と公妃エディアス様の間に生まれた一人娘だ。
サザナードで作られた同性同士でも子を為せる魔法陣は今では当たり前のように使われるようになっていて、それで産まれた子も少なくはない。
魔法陣で遺伝子を改竄している関係で男同士の夫婦には娘が、女同士の夫婦には息子が産まれるらしいけど、それでも喜ばれている技術ではあると思う。
何と言っても愛する人との子を諦めなくても済むのだから。
そのお陰で俺もエリスと出会うことができたのだから、魔法陣を開発してくれたジオラルド様には感謝してもし足りないくらいだ。
エリスは俺の従兄妹と言うことから最初から親切に面倒を見てくれて、表情豊かに俺の側で自然に寄り添ってくれていた。
笑顔が可愛い彼女にいつの間にか恋をして、この三年で気持ちを通じ合わせることができたのはある意味奇跡だったと思う。
だから婚約の許可が出た時は夢かと思って思わず泣いてしまったほど。
だって、父がアリスト陛下にどんな態度を取っていたのかも祖父達から聞かされていたし、絶対に説得に数年はかかると思っていたから。
しかもアリスト陛下はこんなことも言ってくれた。
『将来子が二人産まれたら一人を公国の王にしてもいいけれど、一人しか生まれなかったらまたマーヴァインに統一してくれても構わない。その辺りは双方で話し合って平和的に決めていこう』と。
温かく歩み寄ってくれるその姿勢が嬉しくて、沢山子は欲しいと思っているので、一番優秀な子を公国にもらってやってくださいと言っておいた。
エリスはそれを聞いて張り切り過ぎよと笑っていたけど、気持ちは同じだったと思う。
公国は平和でいい国だから、このままもっともっと素敵な発展を遂げていって欲しい。
そんな風に思った。
なのに────そんな素敵な公国を害そうとするなんて、一体どういう了見だ?
留学を終え、エリスとの幸せな日々を夢見る俺を前に、父は許し難い暴言を吐いた。
(エリスを盾にアリスト陛下達を脅すだと?ふざけるな!!)
そんな気持ちで父と言い争っていたら母が飛んできて話を聞いてくれた。
そして一通り話を聞くと、父へと『アーノルドの結婚と同時に王位を譲り、退位すべき』と言ってくれる。
そもそもの話、こんな男が未だに王位に就いていること自体がおかしかったのだ。
さっさと引退してほしい。
どう考えても百害あって一利なしだろう。
そう思いながら冷たい眼差しを送った。
それから三日ほど経った頃だろうか?
あの男は母と俺を暗殺しようとしてきた。
ちなみに今の城の中にあの男の味方をする者など一人としていない。
万が一にでも頼みごとをされた場合は、全ての情報をこちらに提供することという魔法契約が結ばれているのだ。
抜かりはない。
そして明らかになった暗殺計画。
もうこうなっては放置などできるはずもない。
速やかに議会を招集し、結論を出させた。
(馬鹿なことを。こんな計画を立てさえしなければ王位を退くだけで済んだだろうに)
処刑場で父は最後の足掻きとばかりに色々叫んでいたけど、親殺しは自分自身のことだし、何だったら妻殺しと子殺しも未遂とは言え付け加えられている。
そういうところをわかっているのかいないのか、終始自分は何をやっても許されるはずという態度は一貫して改まることはなかった。
最後の最後まで往生際悪く暴れる父。
けれど当然逃げられるはずもない。
断罪の刃は無情にも落とされた。
その光景を子として、次期王としてしっかりと記憶に刻み込む。
こんな愚かな王には絶対になってはならない。
俺は妻と子を守る王になろう。
道を踏み外さないよう時には振り返って己を顧みよう。
そんな気持ちで父を見送った。
その後、妹姫が書いた絵本が国中の子供達へと配られ、瞬く間に広められた。
内容としては働き者を貶めようとした暴君は最後には滅びを迎えるというもので、子供にもわかりやすい内容になっていた。
どうかこれで愚かなことを考える輩が将来的に居なくなりますようにと願いを込めた妹の心境を思いながら、俺はそっと己の未来に思いを馳せたのだった。
どうしてこんなにと泣いたことなんて一度や二度ではない。
でもその原因となる父のことを知り、優秀な者達がどんどん国から出ていってしまったという話も聞いて、そういう理由なら仕方がないとある程度成長してから割り切った。
父は愚かだ。
周囲がどれほど諫めようとしても無駄に終わり、挙句に父王を毒殺したという。
仕事なんてやっているつもりなだけでその実何一つやっておらず、ただ偉そうにしているだけ。
そんな状態で敬えと言われて敬えるはずがない。
けれどすぐ下の弟は違ったらしく、『僕も大きくなったら父上みたいにふんぞり返りたい!仕事もしなくていいんでしょう?すっごく楽だし、羨ましいなぁ。兄上!僕に王様を譲ってよ!』無邪気にそんなことを言ってきて愕然となった。
国のトップが責務を果たさず仕事もせずふんぞり返るだけなんて、考えただけで頭が痛い。
自分達が贅沢な生活を送れるのは責務を果たしてこそだというのに、この弟は何を言っているんだと。
俺はその言葉を聞いてすぐさま母へと相談しに行った。
すると母は顔色を悪くし、すぐに手を打つと言った。
弟はこの時点でまだ8才。間に合うはずだと。
ちなみにこの弟は俺と母を同じくする実の弟だ。
父には側室も二人いるが、いずれも女児を産んだため特に後継者争いには至っていない。
とは言え自分に何かあった場合弟に王位が行くのは確実な為、父そっくりになられては非常に困る。
それは誰もが同じように考えたのだろう。
そして弟は誰の案でそうなったのかは知らないが、隣国サザナードへと送られることになった。
サザナードとは実は去年父のせいでひと悶着あったため、心証が悪くなっていた。
事の始まりは軍備拡大を言い出した父をなんとか諫めるため軍務大臣が物申したのが発端だった。
その結果軍務大臣は父から暗殺者を差し向けられそうになったのだが、事前に警戒していたため事なきを得たという経緯があり、何かしらやらねばという状況に陥って『演習なら』と意見が出たため、形ばかりの誤魔化しをすることになった。
けれどギリギリになって自分も参加すると言い出した父が無理矢理その演習に参加し、あろうことか事故と称してサザナードの国境壁に向けて大砲を撃たせたのだ。
かなり距離があったため被害は特に出なかったものの、当然国として黙っていられないとサザナードから警告文が届けられた。
なのに父は『あんなに飛ぶとは思っていなかった』『あれは事故なのに大げさすぎる』などと言い放つ始末。
父は戦争を起こしたかったのだろうか?
それともただの馬鹿だっただけなのか…。
それから双国間はピリピリしていたのだが、それもあって半ば人質的に弟は向こうに送られたのだと思う。
これ以上父の悪影響を受けないように。
そして身の程をしっかりと弁えられるように。
画して弟はそこから8年間、サザナードでの生活を送ることとなる。
何故8年だったのかというと、向こうの王太子が結婚することが決まったからだ。
俺は知らなかったが、サザナードの王太子は現王の弟の子で、現王の実の子ではなかったらしい。
そんな王太子が選んだ花嫁が現王の娘だったからこそ初めて分かったことだった。
要するに、従兄妹同士で結婚と言うことらしい。
弟はどうやらその現王の娘を好きだったらしく、ずっと想い続けていたけど王太子に負けて涙を呑んだのだとか。
母の話では、久しぶりに会った弟は昔と違って凄くしっかりしていて、考え方もまともになっていたそうだ。
『サザナードのクリストファー陛下には本当に感謝しかない。どこに出しても恥ずかしくないほど立派に育てていただけた』と安堵したように手紙は綴られていた。
母や周囲の者達が弟をサザナードへ送り出したのはどうやら正解だったらしい。
真面に育ってくれて本当に安心した。
そして俺はそっとその手紙をしまい、留学先であるエディール国の学生寮で一息吐いた。
ここに来て早3年。
思えば随分有意義な学生生活を送らせてもらったように思う。
その生活も今日でおしまいだ。
母が最初留学の打診をした際にはかなり渋られたようだが、俺が実際に足を運んでアリスト陛下に顔通しをした後は特に嫌な顔をされることもなく滞在を許してもらうことができた。
そして今、俺にも大切な人がいる。
愛しい俺の婚約者、エリス。
彼女はアリスト陛下と公妃エディアス様の間に生まれた一人娘だ。
サザナードで作られた同性同士でも子を為せる魔法陣は今では当たり前のように使われるようになっていて、それで産まれた子も少なくはない。
魔法陣で遺伝子を改竄している関係で男同士の夫婦には娘が、女同士の夫婦には息子が産まれるらしいけど、それでも喜ばれている技術ではあると思う。
何と言っても愛する人との子を諦めなくても済むのだから。
そのお陰で俺もエリスと出会うことができたのだから、魔法陣を開発してくれたジオラルド様には感謝してもし足りないくらいだ。
エリスは俺の従兄妹と言うことから最初から親切に面倒を見てくれて、表情豊かに俺の側で自然に寄り添ってくれていた。
笑顔が可愛い彼女にいつの間にか恋をして、この三年で気持ちを通じ合わせることができたのはある意味奇跡だったと思う。
だから婚約の許可が出た時は夢かと思って思わず泣いてしまったほど。
だって、父がアリスト陛下にどんな態度を取っていたのかも祖父達から聞かされていたし、絶対に説得に数年はかかると思っていたから。
しかもアリスト陛下はこんなことも言ってくれた。
『将来子が二人産まれたら一人を公国の王にしてもいいけれど、一人しか生まれなかったらまたマーヴァインに統一してくれても構わない。その辺りは双方で話し合って平和的に決めていこう』と。
温かく歩み寄ってくれるその姿勢が嬉しくて、沢山子は欲しいと思っているので、一番優秀な子を公国にもらってやってくださいと言っておいた。
エリスはそれを聞いて張り切り過ぎよと笑っていたけど、気持ちは同じだったと思う。
公国は平和でいい国だから、このままもっともっと素敵な発展を遂げていって欲しい。
そんな風に思った。
なのに────そんな素敵な公国を害そうとするなんて、一体どういう了見だ?
留学を終え、エリスとの幸せな日々を夢見る俺を前に、父は許し難い暴言を吐いた。
(エリスを盾にアリスト陛下達を脅すだと?ふざけるな!!)
そんな気持ちで父と言い争っていたら母が飛んできて話を聞いてくれた。
そして一通り話を聞くと、父へと『アーノルドの結婚と同時に王位を譲り、退位すべき』と言ってくれる。
そもそもの話、こんな男が未だに王位に就いていること自体がおかしかったのだ。
さっさと引退してほしい。
どう考えても百害あって一利なしだろう。
そう思いながら冷たい眼差しを送った。
それから三日ほど経った頃だろうか?
あの男は母と俺を暗殺しようとしてきた。
ちなみに今の城の中にあの男の味方をする者など一人としていない。
万が一にでも頼みごとをされた場合は、全ての情報をこちらに提供することという魔法契約が結ばれているのだ。
抜かりはない。
そして明らかになった暗殺計画。
もうこうなっては放置などできるはずもない。
速やかに議会を招集し、結論を出させた。
(馬鹿なことを。こんな計画を立てさえしなければ王位を退くだけで済んだだろうに)
処刑場で父は最後の足掻きとばかりに色々叫んでいたけど、親殺しは自分自身のことだし、何だったら妻殺しと子殺しも未遂とは言え付け加えられている。
そういうところをわかっているのかいないのか、終始自分は何をやっても許されるはずという態度は一貫して改まることはなかった。
最後の最後まで往生際悪く暴れる父。
けれど当然逃げられるはずもない。
断罪の刃は無情にも落とされた。
その光景を子として、次期王としてしっかりと記憶に刻み込む。
こんな愚かな王には絶対になってはならない。
俺は妻と子を守る王になろう。
道を踏み外さないよう時には振り返って己を顧みよう。
そんな気持ちで父を見送った。
その後、妹姫が書いた絵本が国中の子供達へと配られ、瞬く間に広められた。
内容としては働き者を貶めようとした暴君は最後には滅びを迎えるというもので、子供にもわかりやすい内容になっていた。
どうかこれで愚かなことを考える輩が将来的に居なくなりますようにと願いを込めた妹の心境を思いながら、俺はそっと己の未来に思いを馳せたのだった。
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さてさてマーヴァインの方はどうでしょうか…。
無能なりに頑張るならまだしも、搾取が当たり前な馬鹿父兄からの決別成功ですね。
ありがとうございます。
そうなんですよね。困った両親なのですよ(^_^;)
ありがとうございます♪
認識一致しました(´∀`*)
仲良し親子なのでここはバッチリです。