えっ!? そっち!? いや、骨法はそういう意味じゃ……。◇兎オヤジの見聞録◇

たゆんたゆん

文字の大きさ
110 / 333
幕間

閑話 アマデオ・ファニート・ペラレスの憂慮1

しおりを挟む
 
 わたしはアマデオ・ファニート・ペラレス。

 この城では鉄犀てつさい騎士団の団長という肩書だ。それには理由わけがある。

 陛下からの密命で、西狭さいさ砦城主とりでじょうしゅジャコブ・ハビエル・ヴェルレーヌ候爵の周辺を洗い出していた。そのためには信頼を勝ちとり易い、騎士団長の立場が適任だ。

 候爵が公都に帰還した際に、陛下の紹介でこの任に就いたのが約1年前。

 そこからようやく尻尾を掴んだと思ったらこれだ。

 西狭砦周辺の村々を襲っていた盗賊団が、レリア様付きの騎士団に討伐されたと聞き、確認したところ首級しるしを見せられた。

 だが、聖レリア騎士団の騎士たちでは到底盗賊団の頭目に勝てなかったはず。

 この情報は候爵が自慢気に話していたからよく覚えている。そう、盗賊団と城主は最初からグルだったのだ。現に、連れ帰った女たちを冤罪えんざいで拘束し、なぶっている始末。ただれた治世に反吐へどが出る。

 そもそも、侯爵家は国の軍務を取り仕切り、四方の護りを固めるのが務め。それが平和ボケし、私腹を肥やし、陛下の威を借って辺境の地で国家転覆を図ろうとは、言語道断。

 あまつさえ、公女殿下の騎士団に手を出すなどと、何を考えているのだ!

 陛下の信に応えるためにも、もう我慢ならんっ!

 証拠は手にある。陛下から、生死は問わぬと言われているのだから、このまま斬り伏せる、と思って部屋にやって来たら可怪しな事になっているではないか。

 真っ白な全身鎧フルプレートに身を包んだ騎士が武器を振り回して暴れている。

 候爵はと探せば、全裸で雪毛ゆきげ兎人とじんに絡まれていた。状況からするに、盗賊に捕らわれれた際に助勢に入ったという者たちか。

 この状況で直ちに候爵を斬るのははばかられる。状況を作らねば……。

 兎人は無手の職種クラスのようだ。武器らしきものが腰に見えるが抜く気配がない。侮るつもりはないが、わたしは大騎士ロードナイト武闘家ケンプファーには遅れは取らぬ。

 正確には分らんが、手練てだれまとう雰囲気に気圧けおされている自分に気付く。

 斬り結ぼうとするが、刃が届く寸前でかわされるではないか。



 ――強い。これならば頭目を討ったと言ってもうなずける。



 侮るつもりはないが、やはり雪毛という外見から侮っていたことを恥じた。同時に、もっと戦っていたいという気持ちが、自然と湧いて来ることにも驚きを隠せない。どうなってる。

 だが、油断しきっている候爵を斬るなら今だと、わたしの勘が急かす。

 申し訳ないという気持ちと、この強さならという確信めいた勘から、わたしは【剣舞けんぶ】を使うことにした。戦闘職が時折、身に着けることが出来る起死回生を掴み取れる技だ。槍使いならば【槍舞そうぶ】、斧使いならば【斧舞ふぶ】という。

 この技を躱せなければ、それだけの男だったという事だろう。

 「いや、こういう場でなければ、心行くまで戦ってみたいという気持ちを押さえなかっただろう。だからこそ残念だ」

 「言ってる意味がわからん」

 「だろうな。行くぞ。【剣舞】・疾風はやて!」「のわっ!?」

 魔力で身体能力を一時的に増して放つ突きだ。そこに剣の力が加われば、常人ならば躱しきれん。

 そう思っていたのだが、世の中はまだまだ広いらしい。

 突然、脇腹に鈍い痛みと衝撃が入り、突きの軌道きどうが逸らされたのだ。その先に居たのは、候爵であることを判った上で、そのまま勢いを殺さずに腕を伸ばし切った。剣先から、何かを突き抜ける鈍い感触が小さく伝わってくる。

 驚きで目をみはったまま絶命した候爵が床に伏し、血溜ちだまりを作るのを乱れた呼吸を整えながら見下ろしていた――。



                 ◆◇◆



 候爵を殺したまでは良かったのだが、その後が大変だった。

 あの雪毛ゆきげ兎人とじんの指摘通り、公女殿下の御命令のものと陛下に伺いを立てると、同じように御叱りを受けたが、事が起きたばかりだと伝えるとぐに動いてくださったのは驚きだ。

 事があの兎人の通りに動いていることに気付き、ゾワリと肌が粟立つのを感じずには居られなかった。

 陛下からもあの兎人について聞かれたが、正直何も知らない。

 姫様の手助けとなってるということや、貴族に対してへつらわない態度を持ってるなど、観察から気付いたや先程指摘されたことなどを話したが、大して役に立っていないことに忸怩じくじたる思いがする。

 ただ、陛下が言うには、『そういうやからは下手に首輪を着けると、容赦なく咬み付いてくる。気のないふりをしながら、時々餌をやればいい。但し、慣れたと思って不用意に手を出すと咬まれるぞ』とのこと。要するに気を抜かぬことだと笑われた。

 身代わりに対する兎人と従者の身分を保証する書状と、褒章に宝物庫で転がっていた銀の指輪が、小型の転送魔法陣を経由して届けられる。

 何処の馬の骨とも知らぬ旅の獣人への扱いとしては破格だが、陛下には思うところがあるらしい。あとは、わたしが折り合いをつければいいだけの話だ――。



                 ◆◇◆



 今、こいつは神級バガヴァン魔道具と言ったのか?

 何をどう見れば、銀製の指輪がそう見えるのだ。

 陛下も『只の魔道具だが、宝物庫に入ったら何となく目に止まってな』と笑っておられた程度の物だぞ?

 兎人の言葉に、思わず失笑してしまう。

 「ふん、何を莫迦ばかな事を。貴様の目は節穴のようだな。何処の馬も知れん者にいきなり国宝級の魔道具が下賜されるはずがなかろう。誰がどう見ても、一般級サマニ―の銀製指輪だ」

 その言葉に、何やら思案顔だった男がわたしのてのひらにある指輪に手を伸ばしてくる。こいつ、めずに収める気だな。

 「じゃあ、ありがたく頂戴しておきますよ」

 つかむ寸前で掌を下げると、兎人の指が指輪を探す。

 「何を言ってる。我らの目の前で嵌めるのだ」

 「は? 嘘だろ!?」

 こいつ、陛下から下賜された物を何だと思っているのだ。

 「だから何を言ってるのだ。陛下から下賜された物を身に着けぬまま行かせる訳がなかろう? 売っても大した額にはならんだろうが、それをさせると思うか?」

 「無理だろうね~。あ~その前に。この国じゃ、結婚するとお互いが何かのアクセサリーを送る習慣があるか?」

 ボリボリと頭を掻き、変なことを聞いてくる。アクセサリーを結婚時に送る? そのような習慣など我が国にはない。何を言ってるのだ?

 「特にはありませんわ」

 殿下も思い当たる節がないようだ。王侯貴族が知らぬのだ、そんな習慣はない。

 「無いのか。リリーさんや獣人はどうだ?」

 「あ~特に無いかな。気を付けなきゃいけないのは、女の人の尻尾。つがいじゃないのに触ろうとすると、咬み付かれるからおっさん気をつけてね?」

 狼人ろうじんの女騎士に尋ねるが、同じようだ。ふむ。獣人の尻尾にはそ言う意味合いがあるのだな。気を付けるとしよう。

 「そうかい。ありがとよ。じゃあ、着けさせてもらうからな」

 そう言いながら、指輪を受け取り右手の人差し指に差し込む兎人。

 すると可怪しな事を言い始めた。

 「主君、指輪が光らなかったか?」

 「うん、わたしも光ったように見えた」

 2人が従者がそう言い始めるではないか。兎人もそれにうなずいてるとことを見ると、本当に光ったのか? わたしも殿下も指輪を嵌める瞬間を見てるのだぞ?

 「光りましたか?」

 「本当に光ったのか? 何も見えなかったぞ?」

 殿下にも視線で伺いを立てるが、首を振られた。殿下にも見てない。

 不思議なことがあるものだ。

 「よし、【還って良いぞ】」

 そんな事に思いを彷徨さまよわせていると、兎人が真っ白な全身鎧フルプレートを身に着けている巨人のような騎士に触り消し去ったではないか!?

 武闘家ケンプファーだと思っていたら、召喚士サモナーだっというのか!? あの動きで!?

 わたしはこの時初めて、背筋に冷たい汗が垂れるのを感じた。

 だとしたら、途轍とてつもなく危険な相手に剣を向けていたということだぞ!?

 魔法使い系の職種クラスが魔法を発動させるためには、どんなに短くても最終的に発現させるための詠唱が必要になる。立ち止まって精神を集中させるという行程が必須だ。だが、こいつはわたしの剣を躱している時、その後も、息を切らしていなかった。乱れてもない。

 つまり、あの動きをしながら、魔法を打つことが出来たということだ。

 常識では考えられぬが、動きながらの詠唱……。この男ならやりかねん。そう自然とに落ちた。

 「じゃあな」

 手を上げて短く挨拶をし、従者と共に部屋を出て行く兎人の後ろ姿を見送るわたしの中に、言いようのない不安が湧き上がって来ているのに気付く。

 「殿下。あのままかせてもよろしかったのでしょうか?」

 「あの戦力が敵側の手に落ちたら!?」と思わずにはいられない。

 その思いが自然と口からこぼれ出ていた。

 「わたしたちの側から不用意な干渉をすると、敵対されることは目に見えています。サポート役を密かに付けさせますから大丈夫でしょう」

 その答えを聞いて、「ああ、この方は紛れもなく陛下の御子なのだな」と嬉しく思うのだった――。





しおりを挟む
感想 138

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
リメイク先:「視線が合っただけで美少女が俺に溺れる。異世界で最強のハーレムを作って楽に暮らす」  ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

処理中です...