えっ!? そっち!? いや、骨法はそういう意味じゃ……。◇兎オヤジの見聞録◇

たゆんたゆん

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第2章 辺境伯爵領

第109話 えっ!? ぷらんびー!?

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 俺の目の前には大きな屋敷が立ってる。

 敷地は、あの新しく建てると聞いてた敷地面積と、あんま変わらん気がするな。

 「毛虫が何の用だ?」

 「女どもは残ってて良いぞ。痛い目にう前にさっさと帰んな」

 大きな格子扉の前で屋敷をながめていた俺に、門の左右に居る男たちが凄みながらやって来やがった。まあ確かに、それなりに可愛い娘だからな。プルシャンは更に美人だが。

 けど、んなことに時間を使ってる暇はねえんだよ。

 「あ~わりいな。俺の連れに手え出すんじゃねえよ。それよりも、ワディムさんに儲け話を持って来たんだよ。繋いでくれるか?」

 プルシャンの前に立って後ろへの視線をさえぎりながら話を持ちかける。

 「あ゛? 毛虫が会頭に何の用だ?」

 「痛い目に遭わねえと判らねえみてえだいでででっ!? て、手前てめえっ!? いでででっ!!」

 判り切ってたことだが、一見いちげんさんでおまけに雪毛ゆきげ兎人とじんじゃ相手にしてくれる訳もねえ。絡んでくる事を見越してたんだが、普通に釣れた。

 俺の服をつかんでやろうと伸ばして来た手を捕まえて、手首を極めてやる。

 「穏便に行こうかと思ってたんだが、予定変更だ。プランBでいく」

 「「「「「えっ!? ぷらんびー!?」」って何だい?」って、な、何ですか?」って何っスか?」

 「ねーヒルダ、ぷらんびーって何?」「われに聞くな」

 お前らな……。確かに「プランB」とは言ってねえが、ダメなら実力行使だって言っておいたよな? くそ。こういうとこでも説明が居るのかよ。面倒臭めんどくせえ。

 「そのまま押し入るって言っただろうがよ」「いででででっ!! は、離しやがれっ!」

 その言葉に「ああっ」って全員が思い出したような顔しやがった。



 おい。



 そのまま門番の手首を極めた状態から、振り払おうと伸ばしてきた逆の腕を取って背中で極めてやる。ああ、手首は放してるぞ。両手を取って向き合う気なんざねえよ。気持ちわりい。

 「てめえっ!」「おい、やめっぐはっ!?」

 逆上して殴り掛かってきたもう1人の門番のこぶしの前に、腕を極めた野郎の顔をずらす。鈍い音と小さな衝撃が腕越しに伝わってくるが、俺は痛くも痒くもねえ。肉の盾の完成だ。

 「あ~あ、ひでえやつだな。仲間の顔を容赦なく殴りやがって」

 「それは手前てめえが!」

 「あ? 勝手に人のせいにするんじゃねえよ。お前さんが殴って来なけりゃ、こいつも怪我せずに済んだだろうが。ほら、門を開けな。先触れが要るんだろうがよ?」

 「く、くそが。待ってろっ! 今人を呼んでくる!」

 「あ~急がんでも良いぞ。ゆっくり後から付いて行くからよ」

 門を開けて中へ駆け込んでいく、チンピラみたいな門番の背中に声を掛けて振り返ると、呆れ顔の5人が居た。ヒルダは仮面を着けてるから表情は判らねえが、プルシャンは機嫌が良さそうだ。

 「あんたねえ。どんだけやりなれてんだい?」

 「容赦無いですね~」

 「ハクトさん、格好良いっス」

 「驚愕。どっちがチンピラか判らない」

 「す、凄いでしゅ! あ……」

 ま、普通はこういう反応するわな。しゃあねえ。若い頃色々やってたのが生きてる。『昔取った杵柄きねずか』ってやつだ。

 「ハクト、こう、パパッとグルッとやってガンって防いだね!」

 「うむ。流石は主君だ」

 この2人は完全に楽しんでるな。

 「お前ら……。で、どうするよ? ここで待っとくか?」「手前っ、こんなことしてタダで済むと思ってんのか!? あだだだっ!」

 蚊帳の外に置いてた門番が腕を極められても凄もうとしやがったから、腕を更に極める。

 「主君、今更だ。ここで待っててもわれらも顔を見られてる。共に動いた方が安全だと思うぞ?」

 「それもそうだな。わりいな。このまま付き合ってくれるか?」

 ヒルダに言われて、他の面々を見回す。ま、ここで別れて何かあっても困るからな。

 「本当、今更だね」

 「ここまで来れば一緒ですよ~」

 「問題ないっス」

 「愚問。宿のために頑張る」

 「も、も、問題ありません!」

 「うん、わたしはハクトと一緒ならどこでも良いよ!」

 「つうことだ。案内頼むぜ?」「巫山戯ふざけんあだだだっ!!」

 暢気のんきな俺の言葉に次いで、門番の悲鳴が晴れた屋敷の庭に響き渡った――。



                 ◆◇◆



 今、怒号が飛び交う屋敷の中を俺たちは歩いてる。

 俺の前を歩くのは、何人目かの肉の盾だ。さっきの奴とは違って今度は泣きそうな面をして腕を極められてやがる。ったく、莫迦ばかの1つ覚えみてえに無闇に突っ込んでくるからこうなるってのによ。

 「あんた鬼畜だね」

 「せやい。んなに褒めんな。照れるじゃねえかよ」

 「褒めてないよ!?」

 背中から聞こえた虎人族の女クロの言葉に、冗談を返しておく。

 そう言いたくなる気持ちも解らんではない。

 屋敷に入った俺たちを待ってたのは武装したチンピラどもだったのさ。あの夜見逃した奴らの顔もちらほら見えた。

 だからどうしたって話なんだがな。

 一応俺以外が怪我しねえように骸骨騎士ガイよ喚び出して殿しんがりを守らせて、商会の会頭ワディムの執務室を目指してるんだが、構成員が五月蝿うるせえんだわ。

 聞いてた話じゃ、高利貸らしいがこの屋敷の中は「何処のヤクザの事務所だ!?」という感じなんだよ。これじゃカチワリ……じゃねえ、カチコミしてんのと変わんねえだろうが。

 最初に腕を極めてたやつは、玄関開けて入った瞬間にバッサリ斬られちまったんだわ。で、斬ったやつをかさず捕まえて肉の盾の取り換え完了。ここまでその繰り返しだ。

 言っとくが、俺からは手を出しちゃいねえぞ?

 こいつらが勝手に斬りかかって来るもんだからよ、肉の盾で防いで取り替えてるだけだ。斬りかかって来なきゃ誰も怪我することも死ぬこともねえって話なのに、何を血迷ってんだか……。

 「わはははは! 冗談だって。おい、ワディムさんの執務室はまだか? あんまり遅えと、お前さんもさっきの奴らみたいに斬られてしまうぜ?」

 「ひ、ひぃっ! た、頼む! 命だけは!」

 「莫迦か。俺は何にもしてねえだろうが。案内してもらってたら、お前さんらの仲間が勝手に案内させないようにしてるんだろう?」

 「それはあんたが!」

 「あ? 俺が何だって?」

 「ひっ! な、何でもない! そ、そこの角を曲がったとこにある部屋が会頭の執務室だ」

 男の言葉に視線を通路の奥に向ける。突き当りのT字路だ。

 ここには居ない若い男と女の切羽詰まったような声が、俺の耳に届く。

 「逃げて!」とか「止めてくれ!」とか良く分からん。こんなとこで痴話喧嘩ちわげんかか?

 幸いと言って良いのか、俺に手を出せば次に自分がどうなるのか理解できたらしい。チンピラどもは、遠巻きに俺たちを前後で挟むだけだ。

 始めからこうしててくれりゃ、直ぐにここまで来れたってえのによ。

 「ここか。おい、俺が直に開けたら失礼だからよ。お前さんが開けてくれ。ちゃんとノックするの忘れるなよ?」

 通路を曲がった先には扉は1つしかなかった。窓もない。随分用心深いな。

 このまま腕を極めててもらちが明かんから、取り巻きのチンピラどもの前に男を解放して扉の前に立たせる。執事が居れば取次はそいつがしてくれるんだろうが、この状況で何処をどう見回してもそれらしい姿のやつは居ねえ。

 「ーー」

 泣きそうなつらで俺を見る男を顎でしゃくる。

 男が意を決して、ノックしようと拳を振り上げた瞬間だった。

 カッと乾いた音がしたかと思うと、一振りの剣身が両開きの木製扉越しから現れて男を袈裟斬けさぎりにしやがったんだ。殺気を隠してこの芸当だからな。かなりの腕前だぞ?

 と思ったら、一気に殺気が膨らむ。

 『ーーーーッ!?』
 
 殺気に当てられたのか、周りで息を呑むのが判った。

 いや、チンピラどもは良いとして、黒オークの時の方がもっと酷い殺気だっただろうがよ。

 何が起きたのか判らねえ表情で事切れた野郎が、床に崩折れて行くのを視界に捉えたまま1歩下がる。

 「ちっ。お前ら離れてろ」

 行き場を失って立ち籠める血の臭いが廊下に充満する中、キィと扉の蝶番ちょうつがいが小さく鳴きながら両開きの扉が部屋の方に開いたーー。





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