129 / 333
第2章 辺境伯爵領
第109話 えっ!? ぷらんびー!?
しおりを挟む俺の目の前には大きな屋敷が立ってる。
敷地は、あの新しく建てると聞いてた敷地面積と、あんま変わらん気がするな。
「毛虫が何の用だ?」
「女どもは残ってて良いぞ。痛い目に遭う前にさっさと帰んな」
大きな格子扉の前で屋敷を眺めていた俺に、門の左右に居る男たちが凄みながらやって来やがった。まあ確かに、それなりに可愛い娘だからな。プルシャンは更に美人だが。
けど、んなことに時間を使ってる暇はねえんだよ。
「あ~悪いな。俺の連れに手え出すんじゃねえよ。それよりも、ワディムさんに儲け話を持って来たんだよ。繋いでくれるか?」
プルシャンの前に立って後ろへの視線を遮りながら話を持ちかける。
「あ゛? 毛虫が会頭に何の用だ?」
「痛い目に遭わねえと判らねえみてえだいでででっ!? て、手前っ!? いでででっ!!」
判り切ってたことだが、一見さんでおまけに雪毛の兎人じゃ相手にしてくれる訳もねえ。絡んでくる事を見越してたんだが、普通に釣れた。
俺の服を掴んでやろうと伸ばして来た手を捕まえて、手首を極めてやる。
「穏便に行こうかと思ってたんだが、予定変更だ。プランBでいく」
「「「「「えっ!? ぷらんびー!?」」って何だい?」って、な、何ですか?」って何っスか?」
「ねーヒルダ、ぷらんびーって何?」「吾に聞くな」
お前らな……。確かに「プランB」とは言ってねえが、ダメなら実力行使だって言っておいたよな? くそ。こういうとこでも説明が居るのかよ。面倒臭え。
「そのまま押し入るって言っただろうがよ」「いででででっ!! は、離しやがれっ!」
その言葉に「ああっ」って全員が思い出したような顔しやがった。
おい。
そのまま門番の手首を極めた状態から、振り払おうと伸ばしてきた逆の腕を取って背中で極めてやる。ああ、手首は放してるぞ。両手を取って向き合う気なんざねえよ。気持ち悪い。
「てめえっ!」「おい、やめっぐはっ!?」
逆上して殴り掛かってきたもう1人の門番の拳の前に、腕を極めた野郎の顔をずらす。鈍い音と小さな衝撃が腕越しに伝わってくるが、俺は痛くも痒くもねえ。肉の盾の完成だ。
「あ~あ、酷えやつだな。仲間の顔を容赦なく殴りやがって」
「それは手前が!」
「あ? 勝手に人のせいにするんじゃねえよ。お前さんが殴って来なけりゃ、こいつも怪我せずに済んだだろうが。ほら、門を開けな。先触れが要るんだろうがよ?」
「く、くそが。待ってろっ! 今人を呼んでくる!」
「あ~急がんでも良いぞ。ゆっくり後から付いて行くからよ」
門を開けて中へ駆け込んでいく、チンピラみたいな門番の背中に声を掛けて振り返ると、呆れ顔の5人が居た。ヒルダは仮面を着けてるから表情は判らねえが、プルシャンは機嫌が良さそうだ。
「あんたねえ。どんだけやりなれてんだい?」
「容赦無いですね~」
「ハクトさん、格好良いっス」
「驚愕。どっちがチンピラか判らない」
「す、凄いでしゅ! あ……」
ま、普通はこういう反応するわな。しゃあねえ。若い頃色々やってたのが生きてる。『昔取った杵柄』ってやつだ。
「ハクト、こう、パパッとグルッとやってガンって防いだね!」
「うむ。流石は主君だ」
この2人は完全に楽しんでるな。
「お前ら……。で、どうするよ? ここで待っとくか?」「手前っ、こんなことしてタダで済むと思ってんのか!? あだだだっ!」
蚊帳の外に置いてた門番が腕を極められても凄もうとしやがったから、腕を更に極める。
「主君、今更だ。ここで待ってても吾らも顔を見られてる。共に動いた方が安全だと思うぞ?」
「それもそうだな。悪いな。このまま付き合ってくれるか?」
ヒルダに言われて、他の面々を見回す。ま、ここで別れて何かあっても困るからな。
「本当、今更だね」
「ここまで来れば一緒ですよ~」
「問題ないっス」
「愚問。宿のために頑張る」
「も、も、問題ありません!」
「うん、わたしはハクトと一緒ならどこでも良いよ!」
「つうことだ。案内頼むぜ?」「巫山戯んあだだだっ!!」
暢気な俺の言葉に次いで、門番の悲鳴が晴れた屋敷の庭に響き渡った――。
◆◇◆
今、怒号が飛び交う屋敷の中を俺たちは歩いてる。
俺の前を歩くのは、何人目かの肉の盾だ。さっきの奴とは違って今度は泣きそうな面をして腕を極められてやがる。ったく、莫迦の1つ覚えみてえに無闇に突っ込んでくるからこうなるってのによ。
「あんた鬼畜だね」
「止せやい。んなに褒めんな。照れるじゃねえかよ」
「褒めてないよ!?」
背中から聞こえた虎人族の女の言葉に、冗談を返しておく。
そう言いたくなる気持ちも解らんではない。
屋敷に入った俺たちを待ってたのは武装したチンピラどもだったのさ。あの夜見逃した奴らの顔もちらほら見えた。
だからどうしたって話なんだがな。
一応俺以外が怪我しねえように骸骨騎士よ喚び出して殿を守らせて、商会の会頭の執務室を目指してるんだが、構成員が五月蝿えんだわ。
聞いてた話じゃ、高利貸らしいがこの屋敷の中は「何処のヤクザの事務所だ!?」という感じなんだよ。これじゃカチワリ……じゃねえ、カチコミしてんのと変わんねえだろうが。
最初に腕を極めてたやつは、玄関開けて入った瞬間にバッサリ斬られちまったんだわ。で、斬ったやつを透かさず捕まえて肉の盾の取り換え完了。ここまでその繰り返しだ。
言っとくが、俺からは手を出しちゃいねえぞ?
こいつらが勝手に斬りかかって来るもんだからよ、肉の盾で防いで取り替えてるだけだ。斬りかかって来なきゃ誰も怪我することも死ぬこともねえって話なのに、何を血迷ってんだか……。
「わはははは! 冗談だって。おい、ワディムさんの執務室はまだか? あんまり遅えと、お前さんもさっきの奴らみたいに斬られてしまうぜ?」
「ひ、ひぃっ! た、頼む! 命だけは!」
「莫迦か。俺は何にもしてねえだろうが。案内してもらってたら、お前さんらの仲間が勝手に案内させないようにしてるんだろう?」
「それはあんたが!」
「あ? 俺が何だって?」
「ひっ! な、何でもない! そ、そこの角を曲がったとこにある部屋が会頭の執務室だ」
男の言葉に視線を通路の奥に向ける。突き当りのT字路だ。
ここには居ない若い男と女の切羽詰まったような声が、俺の耳に届く。
「逃げて!」とか「止めてくれ!」とか良く分からん。こんなとこで痴話喧嘩か?
幸いと言って良いのか、俺に手を出せば次に自分がどうなるのか理解できたらしい。チンピラどもは、遠巻きに俺たちを前後で挟むだけだ。
始めからこうしててくれりゃ、直ぐにここまで来れたってえのによ。
「ここか。おい、俺が直に開けたら失礼だからよ。お前さんが開けてくれ。ちゃんとノックするの忘れるなよ?」
通路を曲がった先には扉は1つしかなかった。窓もない。随分用心深いな。
このまま腕を極めてても埒が明かんから、取り巻きのチンピラどもの前に男を解放して扉の前に立たせる。執事が居れば取次はそいつがしてくれるんだろうが、この状況で何処をどう見回してもそれらしい姿のやつは居ねえ。
「ーー」
泣きそうな面で俺を見る男を顎で抉る。
男が意を決して、ノックしようと拳を振り上げた瞬間だった。
カッと乾いた音がしたかと思うと、一振りの剣身が両開きの木製扉越しから現れて男を袈裟斬りにしやがったんだ。殺気を隠してこの芸当だからな。かなりの腕前だぞ?
と思ったら、一気に殺気が膨らむ。
『ーーーーッ!?』
殺気に当てられたのか、周りで息を呑むのが判った。
いや、チンピラどもは良いとして、黒オークの時の方がもっと酷い殺気だっただろうがよ。
何が起きたのか判らねえ表情で事切れた野郎が、床に崩折れて行くのを視界に捉えたまま1歩下がる。
「ちっ。お前ら離れてろ」
行き場を失って立ち籠める血の臭いが廊下に充満する中、キィと扉の蝶番が小さく鳴きながら両開きの扉が部屋の方に開いたーー。
1
あなたにおすすめの小説
備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活
仙道
ファンタジー
リメイク先:「視線が合っただけで美少女が俺に溺れる。異世界で最強のハーレムを作って楽に暮らす」
ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。
彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる