136 / 333
幕間
女神たちの茶会14
しおりを挟む「どうやら【陰徳の指輪】とハクトの相性は良いようですね」
歓談室の中央に鎮座する水盤を覗き込みながら、安堵の声を漏らしていました。
わたしの1つ下の妹が凪の国を治める大公を唆して、ハクトに届けさせた神級魔道具です。唆したというのは語弊がありますね。気になるように仕向けた、が適当でしょうか。
神級と大それた呼び名ですが、わたしたち女神からすれば児戯に等しい、玩具と言っても差し支えない代物です。それでも地上の子たちには、大きな影響を及ぼすのですからしっかりと管理しなければなりません。
それにしても、ハクトはお人好しですね。
いえ、平和な日本で慎ましい生活をしていたからなのかもしれませんね。
フォルトゥーナでも、貧富の差は存在します。地球の日本以外の国でもよく似た状態が見られていますから、ハクトはまだマシな方でしょう。
搾取する者が居れば、搾取される者が居る。それから逃れれるためには他の者の物を奪うか、他の者のものになるか。自ら力を付けるしかない。
そういう者たちは心が歪になり、他者への思い遣りが無くなっていくものです。
そうではないハクトがスピカの伴侶に選ばれたのも、今となっては良かったのかも知れませんね。誰かのために怒れるというのは良い財産ですよ。大切になさい。
ですが、神族に手を付けたのはどうかと思います。
その瞬間を知っていたのはヘゼ姉様だけでしたから、今更どうしようもないのですが、神族に手を出すということが解っているのですか?
婚約という状態で、婚姻に至っていないのです。その状態で事に及べば、ただ一度で大きな業が積まれるということですよ?
その後の営みは、もう些細な事と処理されるでしょうから問題はないでしょうが……。
時代と共に変わっていく人と、悠久の時間の中で変わらない神族との価値観や見方の乖離はどうしようもありません。が、そこはスピカもしっかりと伝えなければなりません。まったく、あの子も何処かそそっかしいですからね。
困ったものです。
幸いというか、【陰徳の指輪】を嵌める前に事を起こしていたのが、不幸中の幸いでしたね。あれを着けて事に及んでいたら指輪が真っ黒になっていたことでしょう。そうなれば指輪の効果で、状態異常も発生していたかも知れませんね。知られていないようですが、あの指輪は一種の呪いの指輪です。
善いことをすれば周囲が騒がしくなり、悪事を働けば自信が苦しむという……。本当、人の子が作ったものにしてはよく考えた品と言えるでしょう。
だからこそ着ける者が現れず、大公家の倉庫に眠っていたのですから。
それを言うなら、ポリマもよく見つけたものですね。
「ん……。ザニア姉様がわたしを褒めるのは珍しい。もっと褒めていい」
ぽふっと腰に抱き着いて来た妹がそう言いながら、上目遣いにわたしを見上げてくるではありませんか。ふふふ。こういう顔を見せるので、妹は可愛いのです。
「そうですか? 貴女のことはちゃんと評価してるのですよ?」
「ん……。知ってる。でも、口に出さなきゃ伝わらないものもある」
「ふふふ。そうですね」
「ん……」
ポリマの頭を撫でながら、嬉しそうに目を細める顔を見て思い出したことがあります。
ハクトに付き纏うようになった、女たちのことです。その1人が、ポリマと似たような反応をしていたのを思い出しました。
「そう言えば、オークやエルフの面倒事をハクトに丸投げしましたね?」
「ん……。人族と獣人族にしかわたしの神殿無いから、神殿は当てにならない。それに、あの2つは問題児だから、フォルトゥーナの子は見向きもしない」
ポリマの言うことも一理あります。ポリマを信仰する者たちは獣人族や妖精族に多いのですが、人族がするように神殿を建てるまでの技術や熱意がありません。
まあ、それは彼らの種族特性も起因してるのですが、人族ほど勤勉ではないというのが1番の理由でしょう。手に入れた品をハクトがどう使うか、また楽しみが増えましたね。
「それもそうですね。貴女の計画通りに事が進むことを願っていますよ。ところで、ハクトに変な称号を着けたのは貴女ですか?」
ポリマの頭を撫でながら、思い出したことを聞いてみましょう。
「ん……。急用を思い出した。あうっ!」
途端に、ビクッと肩を震わせてポリマが腰からすっと離れ始めたではありませんか。
そんなに簡単に逃げれると思ったのかしら?
撫でていた手を開いて、そのままガシッとポリマの頭を抑え、ぎりぎりと指に力を込めます。
「ポ リ マ さ ん?」
「ざ、ザニア姉様。あ、頭が割れる! 出ちゃいけないものが出そうな気がする!」
「あらあら、それは大変。 それよりも急に何か思い出した事があるんじゃないかしら?」
両手をわたしの手に当てて必死に指を剥がそうと試みていますが、無駄な努力です。
「そ、そう言えば、アウヴァ姉様が『あんなに女を侍らせて、ハクトは女の敵か? いや、それを言うなら女殺しか』とか言ってた気がする!」
そういうことですか。アウヴァ姉様の宣言が引き金になったのですね。
姉様にも困ったものです。女神の宣告は即称号に反映されるというのに……。
「またアウヴァ姉様ですか……。この従者候補というのは?」
でも、もう1つ気掛かりな事があります。ヒルダとプルシャンの事は、わたしが率先して事を運びましたから良いのですが、知らぬ内にハクトの従者が増えそうな勢いなのです。
原因を突き止めねば、際限なく増えていくでしょう。
「ゔ、ヴィンデミアトリックス姉様! ね、『寝ただけなら気にしなかったんだけど、無自覚で【骨譲渡】してるのが問題ですわね。面倒ですから、自動更新にしておこうかしら』とか言ってた! あ、あと『馴染んだら隠さないといけませんわね』とか言ってた! あうううう……酷い目に遇った」
そういうことでしたか。【骨譲渡】のスキルはヴィンデミアトリックス姉様が手を入れていたものでしたね。ならば納得です。
そうすると、【骨譲渡】を行えば候補が増えるということかしら。姉様に確認しなければなりませんね。さて、知りたい情報が出て来たので、可愛い妹を解放してあげましょう。
涙目になりながら頭を擦るポリマの頭を再度撫でて、痛みを取っておきます。
「ポリマ、ありがとう。あと、頑張ってね?」
「ん……どういう意味?」
痛みが無くなったことに気付いたポリマが、怪訝そうに見上げてきたので、チラッと視線を動かしておきます。わたしも鬼ではありません。気遣いは出来ます。
「「ポリマ、ちょっと話がある」がありますの」
「ッ!? アウヴァ姉様に、ヴィンデミアトリックス姉様!? わ、わたしは話すことない! ザニア姉様に嵌めらたの! わたしは無実なのーーーーーーっ!!」
2人の姉様に、両脇を抱えられて引き摺られて行く妹を手を振りながら笑顔で見送り、ハクトの【骨法】を調べてみようと思ったその時、ポリマの叫びが遠くで響き渡っていましたーー。
「ザニア姉様の莫迦ーーーーーーーーーーっ!」
1
あなたにおすすめの小説
備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活
仙道
ファンタジー
リメイク先:「視線が合っただけで美少女が俺に溺れる。異世界で最強のハーレムを作って楽に暮らす」
ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。
彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる