えっ!? そっち!? いや、骨法はそういう意味じゃ……。◇兎オヤジの見聞録◇

たゆんたゆん

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幕間

女神たちの茶会14

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 「どうやら【陰徳いんとくの指輪】とハクトの相性は良いようですね」

 歓談室サロンの中央に鎮座する水盤を覗き込みながら、安堵の声を漏らしていました。

 わたしの1つ下の妹ポリマが凪の国を治める大公をそそのかして、ハクトに届けさせた神級バガヴァン魔道具です。唆したというのは語弊ごへいがありますね。気になるように仕向けた、が適当でしょうか。

 神級バガヴァンと大それた呼び名ですが、わたしたち女神からすれば児戯じぎに等しい、玩具がんぐと言っても差し支えない代物です。それでも地上の子たちには、大きな影響を及ぼすのですからしっかりと管理しなければなりません。

 それにしても、ハクトはお人好しですね。

 いえ、平和な日本で慎ましい生活をしていたからなのかもしれませんね。

 フォルトゥーナこの世界でも、貧富の差は存在します。地球の日本以外の国でもよく似た状態が見られていますから、ハクトはまだマシな方でしょう。

 搾取する者が居れば、搾取される者が居る。それから逃れれるためには他の者の物を奪うか、他の者のものになるか。自ら力を付けるしかない。

 そういう者たちは心が歪になり、他者への思い遣りが無くなっていくものです。

 そうではないハクトがスピカの伴侶に選ばれたのも、今となっては良かったのかも知れませんね。誰かのために怒れるというのは良い財産ですよ。大切になさい。

 ですが、神族スピカに手を付けたのはどうかと思います。

 その瞬間を知っていたのはヘゼ姉様だけでしたから、今更どうしようもないのですが、神族に手を出すということが解っているのですか?

 婚約という状態で、婚姻に至っていないのです。その状態で事に及べば、ただ一度で大きなごうが積まれるということですよ?

 その後の営みは、もう些細な事と処理されるでしょうから問題はないでしょうが……。

 時代と共に変わっていく人と、悠久の時間の中で変わらない神族との価値観や見方の乖離かいりはどうしようもありません。が、そこはスピカもしっかりと伝えなければなりません。まったく、あの子も何処かそそっかしいですからね。

 困ったものです。

 幸いというか、【陰徳いんとくの指輪】を嵌める前に事を起こしていたのが、不幸中の幸いでしたね。あれを着けて事に及んでいたら指輪が真っ黒になっていたことでしょう。そうなれば指輪の効果で、状態異常バッドステータスも発生していたかも知れませんね。知られていないようですが、あの指輪は一種の呪いの指輪です。

 善いことをすれば周囲が騒がしくなり、悪事を働けば自信が苦しむという……。本当、人の子が作ったものにしてはよく考えた品と言えるでしょう。

 だからこそ着ける者が現れず、大公家の倉庫ものおきに眠っていたのですから。

 それを言うなら、ポリマもよく見つけたものですね。

 「ん……。ザニア姉様がわたしを褒めるのは珍しい。もっと褒めていい」

 ぽふっと腰に抱き着いて来た妹がそう言いながら、上目遣いにわたしを見上げてくるではありませんか。ふふふ。こういう顔を見せるので、妹は可愛いのです。

 「そうですか? 貴女のことはちゃんと評価してるのですよ?」

 「ん……。知ってる。でも、口に出さなきゃ伝わらないものもある」

 「ふふふ。そうですね」

 「ん……」

 ポリマの頭を撫でながら、嬉しそうに目を細める顔を見て思い出したことがあります。

 ハクトに付きまとうようになった、女たちのことです。その1人が、ポリマと似たような反応をしていたのを思い出しました。

 「そう言えば、オークやエルフの面倒事をハクトに丸投げしましたね?」

 「ん……。人族と獣人族にしかわたしの神殿無いから、神殿は当てにならない。それに、あの2つは問題児だから、フォルトゥーナの子は見向きもしない」

 ポリマの言うことも一理あります。ポリマを信仰する者たちは獣人族や妖精族に多いのですが、人族がするように神殿を建てるまでの技術や熱意がありません。

 まあ、それは彼らの種族特性も起因してるのですが、人族ほど勤勉ではないというのが1番の理由でしょう。手に入れた品をハクトがどう使うか、また楽しみが増えましたね。

 「それもそうですね。貴女の計画通りに事が進むことを願っていますよ。ところで、ハクトに変な称号を着けたのは貴女ですか?」

 ポリマの頭を撫でながら、思い出したことを聞いてみましょう。

 「ん……。急用を思い出した。あうっ!」

 途端に、ビクッと肩を震わせてポリマが腰からすっと離れ始めたではありませんか。

 そんなに簡単に逃げれると思ったのかしら?

 撫でていた手を開いて、そのままガシッとポリマの頭を抑え、ぎりぎりと指に力を込めます。

 「ポ リ マ さ ん?」

 「ざ、ザニア姉様。あ、頭が割れる! 出ちゃいけないものが出そうな気がする!」

 「あらあら、それは大変。 それよりも急に何か思い出した事があるんじゃないかしら?」

 両手をわたしの手に当てて必死に指を剥がそうと試みていますが、無駄な努力です。

 「そ、そう言えば、アウヴァ姉様が『あんなに女をはべらせて、ハクトは女の敵か? いや、それを言うなら女殺しか』とか言ってた気がする!」

 そういうことですか。アウヴァ姉様の宣言が引き金になったのですね。

 姉様にも困ったものです。女神の宣告は即称号に反映されるというのに……。

 「またアウヴァ姉様ですか……。この従者候補というのは?」

 でも、もう1つ気掛かりな事があります。ヒルダとプルシャンの事は、わたしが率先して事を運びましたから良いのですが、知らぬ内にハクトの従者が増えそうな勢いなのです。

 原因を突き止めねば、際限なく増えていくでしょう。

 「ゔ、ヴィンデミアトリックス姉様! ね、『寝ただけなら気にしなかったんだけど、無自覚で【骨譲渡ほねじょうと】してるのが問題ですわね。面倒ですから、自動更新にしておこうかしら』とか言ってた! あ、あと『馴染んだら隠さないといけませんわね』とか言ってた! あうううう……酷い目に遇った」

 そういうことでしたか。【骨譲渡】のスキルはヴィンデミアトリックス姉様が手を入れていたものでしたね。ならば納得です。

 そうすると、【骨譲渡】を行えば候補が増えるということかしら。姉様に確認しなければなりませんね。さて、知りたい情報が出て来たので、可愛い妹を解放してあげましょう。

 涙目になりながら頭を擦るポリマの頭を再度撫でて、痛みを取っておきます。

 「ポリマ、ありがとう。あと、頑張ってね?」

 「ん……どういう意味?」

 痛みが無くなったことに気付いたポリマが、怪訝けげんそうに見上げてきたので、チラッと視線を動かしておきます。わたしも鬼ではありません。気遣いは出来ます。

 「「ポリマ、ちょっと話がある」がありますの」

 「ッ!? アウヴァ姉様に、ヴィンデミアトリックス姉様!? わ、わたしは話すことない! ザニア姉様にめらたの! わたしは無実なのーーーーーーっ!!」

 2人の姉様に、両脇を抱えられて引きられて行く妹を手を振りながら笑顔で見送り、ハクトの【骨法ユニークスキル】を調べてみようと思ったその時、ポリマの叫びが遠くで響き渡っていましたーー。

 「ザニア姉様の莫迦ばかーーーーーーーーーーっ!」





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