えっ!? そっち!? いや、骨法はそういう意味じゃ……。◇兎オヤジの見聞録◇

たゆんたゆん

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第3章 領都

第118話 えっ!? はっ!? い、いや、これには訳が!?

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 あれから襲われた暗部の姉ちゃんマルギットを風呂に入れて、飯を食わせた。

 その間に俺も、ひとっ風呂入り直すことにしたよ。流石に、体から血の臭いがするのはな。

 プルシャンとスピカは起きてくる気配はねえ。夢ん中だ。

 肉のにおいがしても起きてこねえとこを見ると、無理させてたんだなって思ってしまうぜ。あ~盛った猿じゃあるまいし、そこら辺は気を付けねえとな。

 んな事を考えながら、ぱしゃりと顔に湯を掛ける。雪毛ゆきげが湯の中で広がって体が溶けたような、フヤケたような姿になってるが毎度のことだ。

 「ふぅ~。一仕事の後の風呂は格別だな……」

 ウチの風呂は隙間なくはまってる。背筋を伸ばして湯の中に座れば胸の下までしか湯がねえ。出入りする側に変な角度や飾りを着けると危ねえから、どっからでも上がれるように、階段を着けてある。

 ああ、勿論床や壁は骨粘土ほねねんどでコーティング済みだ。防水対策は問題ねえ。

 壁に当たる部分は、40㎝くらいの幅で腰掛けて涼めるようにしてあるから、湯船自体はもう少し狭くなるな。でもまあ、3人で使うにゃ十分過ぎる広さだろう。10人になっても、まあ入れんことは……ねえか。

 俺が居る側は少し角度を着けて、斜めに座れるようにしてある。尻が当たる辺りに段を1つ付けてるから、リクライニングを倒した感じで湯に浸かれるのが売りだ。

 「主君」

 「ん?」

 仮面を着けたヒルダの顔が柱の陰から現れる。

 「マルギット殿だが、何処で寝てもらえば良いだろうか?」

 「そうだな~。流石に同じベッドでという訳にはいかねえし……。暖炉の前のソファーで寝たら良いんじゃねえか? まだシーツの予備があるだろ。渡しとけ」

 「承知した」

 「渡したら、こっちも頼む」

 「うむ。任せておけ」

 バサーッと湯を滴らせながら、俺も湯から上がることにした。ヒルダに頼んだのは乾燥だ。

 【生活魔法】ってなやつは便利なもんで、乾燥、着火、清掃までしてくれる優れもんだぞ?

 俺もザニア姐さんいわく、【生活魔法】も使えるらしいがなかなか習得できん。まあ、獣人は魔法が使えねえという事実を虎人族の女クロから聞くまでは簡単だろうと思ってたんだがな。

 なかなか厳しいぜ。

 風呂から出て、置いてある布で体を拭く。これでも・・日本人だ。風呂場のマナーはわきまえてるつもりだぞ? ある程度体を拭いてから、脱衣場に戻る。これだな。

 扇風機があれば最高なんだが、ま、これは慣れるしかねえ。

 そうこうしてたら、ヒルダが戻って来た。

 「おぉ、来たきた。頼む」

 「うむ。【乾きよあれ】」

 ヒルダのかざした両手からポゥッと温かいもんが俺にぶつかってくる。ぶつかってくるとはいっても、俺が吹き飛ぶような勢いじゃねえぞ?

 あー、団扇うちわで思いっ切り1回あおいだような強さの風だな。

 それが体中に広がって、しばらくしたら俺の毛がホワッホワになってたよ。

 風呂から出ると暗部の姉ちゃんマルギットがまだ肉を喰ってたから、「そのまま好きなようにして寝てくれ」とだけ言って、俺とヒルダは2回のベッドに上がる。俺の家だ、好きにさせてもらう。

 時間的に結構遅いと思うが、まあ問題ねえ。

 次の日が予定が入ってて忙しいという訳でもねえし、急いでここを動かねえといけねえという訳でもねえからな。気侭きままな旅さ。朝寝坊しても誰にも迷惑は掛けねえし、困らねえ。

 家はあるが、ホームレスみたいな生活だぞ?

 「さてと、寝るか。ほれ、プルシャンは向こう向いてるから今なら独占できるぞ?」

 「そ、そうか!?」

 先にベッドに横になってからヒルダを誘う。まあ、まだしわくちゃのまんまだが、骸骨姿よりかはましだ。服も身に着けてくれてるしな。

 嬉しそうに声を弾ませて俺の横に来るヒルダに腕枕をしてやって、俺は風呂あがりの心地良さに浸りながら意識を手放した――。



                 ◆◇◆



 『ーーい! ーー、起きて下さい! ハクトさん、起きて下さい!』

 目覚まし時計のように、スピカの同じ言葉が耳に響いてる。結構大きな声だ。

 「スピカさんや、もう少し寝かせてくれ。昨日の夜遅くに襲撃されて大変だったん……ん?」

 そう答えながら、体が動かないことに気が付く。

 『そうなんですか? じゃなくって! その女の子は誰なんですか!? 何でこんなとこに連れ込んでるんですか!? ハクトさん!?』

 額の上で忙しく跳び回るスピカの声を聞いてると只事じゃないと思えて来た。

 寝ぼけた頭がスゥッと覚めてくる。

 左右の腕は、プルシャンとヒルダに固定されて毎度のごとく動かん。動かねえんだが、今日は起き上がれねえ。何でだ?

 「ん? んんっ!?」

 頭をゆっくり持ち上げてみると、腹の辺りに黒髪が見えた。えっ!? 誰っ!?

 『ハクトさん、説明して下さい!』

 スピカの声で我に返る。同時に何度も額へ突き刺さるくちばし

 「えっ!? はっ!? い、いや、これには訳が!? あたっ! あたたたっ!? ちょっ、スピカさんや。まず話を聞いてくれ!」

 俺の声にプルシャンとヒルダが身動きするが、腹の上に居る奴はびくともしねえ。どうなってやがる!?

 「むにゃむにゃ……ハクトさま美味しいです……」

 へその方から腹に乗ってる奴の正体が判った。マルギットか!? 何でここに上がってやがる!? お前、ソファーで寝ろって言っといたろうが!?

 『むむむむ……』

 「こいつは昨日襲われて――」

 一瞬、嘴で刺すのを止めてくれた隙に説明をと思ったらーー。

 『少しは話を聞いてみようと思ったわたしが莫迦ばかでした! 問答無用です! わたしに断わりもなく女の子をベッドに連れ込んだ罰です!』

 マルギットこいつの寝言のせいで俺の退路が断たれたのが判った。

 マヂかよ。マルギットこの莫迦、何言ってくれやがるっ!?

 ギラリとスピカの嘴が光ったかのように見えた次の瞬間ーー。

 「いやっ! だからそれはっ!? ちょっ、スピカさんや、あたーーーーーーーーーーっ!!」

 俺の両目に激痛が走ったーー。





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