えっ!? そっち!? いや、骨法はそういう意味じゃ……。◇兎オヤジの見聞録◇

たゆんたゆん

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第3章 領都

第119話 えっ!? 宜しいのですか!?

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 俺は今、いや、問題児マルギットと2人で猛省中だ。

 SEIZAでな。

 何でか知らねえが、スピカが正座を知ってたのは驚きだな。でもよ、獣人の骨格で正座はきついってえのが良く判ったぜ。膝から下は兎の足をそのまま人間の足にくっつけたような感じなんだよ。

 わかるか?

 兎が正座してる姿なんて見たことねえだろうが。太った猫でも、開脚止まりだぞ?



 ーー足の感覚がねえ。



 マルギットの言い分はこうだ。

 俺たちに風呂に入れてもらい、飯を食わせてもらって言われた通りソファーで寝るつもりだったのだが、気が付いたら暖炉の火が消えていた。

 自分は蜥蜴族と人族の混血ハーフなので冷えに弱い。

 どうしようかと考えていたら、俺が・・・「そのまま好きなようにして寝てくれ」と言ったのを思い出し、自分も2階に上がってベッドの端で寝ることにしたんだと。

 で、ベッドの端で寝てたのは良いんだが、寒さには敵わず俺の足に触ってみたら温かいじゃないか。これならばと、足を抱いて寝てたら、朝にはああなってたらしい。

 いや、「らしい」と言われてもな。俺としては被害者だぜ?

 冤罪えんざいだ。

 意義ありっ! と言いたいとこだが、何とまあ、スピカの声がヒルダとプルシャンにも聞こえるようになってるじゃねえか。俺に味方はねえのさ。

 こういう時は、素直に謝っとくに限る。落ち着きゃあ、説明にも耳を向けてくれるだろうさ。

 ん? スピカの声? あ~……正直俺もその辺りの事は良く判らん。

 スピカが言うには、『わたしに祈る者が増えたのです! 力が戻って来た証拠です!』とぴぃぴぃぱたぱたと嬉しそうに飛んでたな。

 「おう。良かったな」くらいしか言いようがねえ。

 だからこの場では、スピカの声が聞こえてねえのはマルギットだけってこった。

 スピカのお言葉はヒルダが通訳してくれてるんだが――。

 「おい、プルシャン何するつもりだ!?」

 「んふふふ~♪ 足、しんどそうだな~って思って。モミモミしてあげよっか?」

 俺たちの後ろに回り込むプルシャンの顔が、悪戯いたずらを企んでるって表情だったんだよ。くそ、誰の入れ知恵だ!?

 「い、いや。ありがたいが、気持ちだけ貰っておく。おい、莫迦ばか、止めろっ!」

 「マルギットもしたげるねぇ~」

 「い、いえっ!? 結構ですから!?」

 なんやかんやで、マルギットの素が出てる気がするな。あの時は随分冷たい印象だったが。ま、危機的な状況だ。形振なりふり構っていられねえのは俺も同感だぜ。

 『やってください!』

 嘘だろっ!? 願い叶わず、スピカの有罪宣告が下されちまった。同時に、プルシャンの手が俺たちの足をむんずと握り締めやがったよ。

 「えいっ!」

 触られた感覚は無えが、痛みとは違う体を硬直させる痺れが全身を走る。



 「「あ゛ーーーーーーーーーーーーっ!!!」」



 俺たちの阿呆あほな叫び声が草原を駆け抜けていったーー。



                 ◆◇◆



 『ごめんなさい!』

 俺の目の間で、青い小鳥スピカがぺこぺこ頭を上下させてる。

 スピカの溜飲りゅういんが下がった頃合いを見計らって説明したら、今度は話を聞いてくれてな。こんな状況だ。

 ま、誤解を招くような事になったのは、問題児マルギットのせいなんだが、俺にも非がないとは言い切れねえ。

 「ま、これでお相子あいこだな」

 『「「おあいこ?」」』

 3人。いや、あの顔じゃマルギットもわかってねえな。おいおい、これも通じねえのかよ。

 「あ~誰が良い、悪い、無しってこった。解るか?」

 『おあいこです!』「おあいこ!」「ふふふ。おあいこだな」

 平和で何よりだ。

 「で、マルギットさんや。何でまた襲われることになっちまったのか、聞いてないんだが?」

 「ふえっ!?」

 1人「なる程」と相槌を打ってやがる問題児に話を振ると、驚いた顔で見返された。

 「いや、だからな。何でそんなにポンコツなんだ」

 あれ? 何でこんなこと言ってんだ?

 「ゔ……」

 俺の一言に、問題児の目が潤んだのが判った。

 小聡明あざとい。わざとかどうか判らんが、涙はずりいよな。

 「あ、いや、すまん。つい本音がぽろっと出ちまった。襲われた理由。理由を聞いてねえ」

 「ゔ、ゔ……ぽんこつ……意味は分かりませんがさげすまれてのは解ります」

 「いや、だから、すまん。逢った時のイメージが強くてな。もっとシャキッとしてるかと勝手に思ってたんだよ。まあ、あの時よりかは今の方が好感が持て……いや、そうじゃねえ! 襲われた理由を教えてくれって言ってんの」

 「副団長の任を解かれました」

 「……は!? 任を解かれた? どういうこと? 何かしくじったのか?」

 その言葉に耳を疑った。確か姫さん直属の暗部じゃなかったのかよ!?

 「いえ。逆です」

 「逆?」

 「『ハクト様たちを支援するのに、騎士の肩書きを持っていては逆に怪しまれるでしょうから、この任が一段落するまでわたしの騎士の任を解きます』とおっしゃらられました」

 「あ~ということは何だ。今無職ってことか?」

 「ゔっ。そう、なります」

 「そうかよ。で、それと襲われた事には何か関係があんのか?」

 「襲って来た者が何者かははっきり判りませんが、恐らくヒュドラの筋の者かと思ってます。その闇ギルドには暗殺を請け負う者も抱えているという話も有りますから……」

 それにしちゃあ、お粗末だったけどな。いや、アレくらいでもここでは凄腕になるのかもしれねえな。ま、それは良いとして、だ。

 「なる程な。向こうさんにはお前さんが解雇されたことは知られてねえが、姫さんの暗部だってことはバレてたってことか。連中の調査能力も莫迦にできねえってこった」

 「……お恥ずかしい限りです」

 判ってることを指摘されて悔しそうにうつむ問題児マルギット

 「で、どうするつもりだ?」

 「え? どうする、とは?」

 俺の質問に意味が解らず、顔を上げて聞き返して来た。

 「だから、今無職で食い扶持ぶちを繋ぐ決まった仕事がねえんだろ? どうするんだ、って聞いてるんだよ」

 「幸い、領都まで数日の距離ですから、領都で仕事を見繕って……」

 「それで俺たちの支援を、俺たちが必要な時に出来ると?」

 「ゔっ……」

 「あ゛~~っ! 煮え切らねえなーーっ! スピカさんや良いかよ」

 『わたしは構いません。メイドは必要です!』

 「は?」

 聞き間違えたか? 今メイドって言ったよな? こっちにもその言葉があるのか?

 「マルギット殿は」

 「ヒルダ様、どうぞ敬称はお省き下さい」

 ヒルダの問い掛けをさえぎるが、どうやら呼び方がむず痒いらしい。

 「そうか。ではそうさせてもらう。マルギットは家事に関するスキルを持っているのか?」

 「は、はい。炊事、洗濯、掃除、買出し、子守、おおよそメイドがする全ての業務はメイドとしてまぎれ込むことが多かったのでこなせます」

 おおそりゃ凄えな。そりゃセールスポイントには持って来いじゃねえか。

 「素晴らしい! 雑役女中メイド・オブ・オールワークスではないか!? 主君! わたしも賛成だ!」

 「ん~みんなが良かったらわたしもいいよ~」

 ヒルダは完全に乗り気だ。プルシャンも問題なし、と。

 「あ~その前に、メイド・オブ・オールワークスってこっちの言葉じゃねえよな? 何でんな単語を知ってるんだ?」

 「何を言ってるのだ、主君。この世界には長い年月を掛けて、数えきれぬ程の“流れ人”や“稀人まれびと”が入って来てるのだ。メイド文化が定着したのは数百年も前の話だぞ?」

 「マヂでか!? 凄えな」

 どんだけ文化に影響を与えてんだ。

 その中には良いものあれば、教えちゃまずいものもあるだろうによ。先人が莫迦じゃなかったことを今更ながら願うだけだな。

 「んじゃ。お前さんを完全に信頼した訳じゃねえが、知らねえ間柄でもねえ。ウチには秘密が多いが、最終的に街で主従契約結ぶっていうんなら、ここに住むか?」

 「……えっ!? 宜しいのですか!?」

 殆ど採用は決まってるんだが、本人の意思確認は要るだろ?

  「おい、人の話を聞いてたのかよ。主従契約するんなら3食風呂付き屋根付きで住まわせてやるって言ってんの。解ってんのか?」

 「は、はいっ! 主従でも、奴隷でも何でもします! ここに置いて下さいっ! もう、お風呂無しの生活など考えられませんっ!!」

 本当に意味が解ってるのかと思ってたら、そっちが本命かよ。まあ、風呂がねえ家の方が多い世の中で、こんなに贅沢に湯を使えるってことはそうそうねえだろうからな。

 何だよ。笑えば可愛らしい顔も出来るじゃねえか。

 「ま、契約するまでは仮採用だがな。宜しく頼むわ」

 「は、はいっ! 皆様、どうぞ宜しくお願い致します!」

 喜色満面きしょくまんめんな顔で頭を下げる問題児マルギットに、思わず俺も笑みがこぼれちまったが、仮であることは念を押しておいた。

 流石に契約はと思ったが、ヒルダがうなずいてるとこを見れば間違ってなかったんだろう。人の口には戸は立てられねえが、極力バレないようにしたいってのが人情だ。

 いつまでバレずに済むか……。はっ。考えても仕方ねえ。バレるまでぼちぼちやるだけさ。

 開いた窓から朝陽と涼しい微風そよかぜが家の中を入り込み、風呂の水気を運び去ってくれる。いつもの朝の風景だ。

 ガヤガヤと女たちの声を聞きながら、朝飯用の食材を取り出してマルギットに渡す。

 俺が料理しなくても良いってのは楽だな。

 そんなことを思いながら、ソファーに腰を下ろして足を揉む。さっきの正座が意外にこたえてるみたいだ。怖えな、正座。

 こうして俺たちはメイドを雇うことになったーー。





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