えっ!? そっち!? いや、骨法はそういう意味じゃ……。◇兎オヤジの見聞録◇

たゆんたゆん

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第3章 領都

第130話 えっ!? 嫁っ!?

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 「うががあああああああああああああーーーーーーっ!!!!!」『アキラッ!!!』



 彰の奴が突然、絶叫しながら転げ回り始めたじゃねえか!?

 取り巻きの娘たちが慌てて駆け寄るのが見えた。俺だって、可愛子ちゃんたちが居なけれや駆け寄ってたぞ?

 「来た!」「ふえっ!?」

 それに次いで、礼拝堂の空気が宿屋の時のように厳かな雰囲気に変わり始めたのに気付いた俺は天井を見上げる。それに釣られた大司教の姉ちゃんが視線を上に上げた時、懐かしい声が聞こえてきたんだーー。






 《ハクトちゃんにも、困ったものです。静かに生活したいと言っていたのに、こんなことを繰り返していては遠のくばかりですよ? でも、この度は看過できない状況ですのでわたしが九柱を代表して命じます。九十歩くじゅうぶ あきら、律令神殿の闇を払いなさい。そのための力を授けます。あなたたちに掛けられていた不当な契約と呪いは、今この時を持って無効となりました。貴方を慕う律令神殿の娘も同様です。ヴィンデミアトリックスに感謝しなさい。貴方が望むならまた同じ道を歩むことも出来るでしょう。どうするかは、彰。貴方自身が決めなさい。それと、ハクトちゃん。この声、あの頃に似せたのにまだ気付かないかしら? 大きくなりましたね。願わくば、あなたの歩む道に幸多くありますように》






 『………………』

 「おい、止めろ。そんな目で俺を見るんじゃねえ」

 すうっと厳かな空気と気配が礼拝堂から消えていくと、その場に居合わせた面々がこぼれ落ちんばかりに目を見開いて、俺を見てやがったのさ。

 『………………』

 「俺じゃなくって彰の方を注目してやれ。女神様から直接任務を貰ってただろうが。流石は勇者様だな! 律令神殿が黒だってことは確定だ。良かったな、彰。あの可愛子ちゃんとも一緒になれるかも知れねえぞ?」

 仕方ねえから、彰の方に注意を逸らすことにした。絶叫してたのが嘘みてえにケロっとしてやがる。ああ、ちょっと吐いたのか。

 『………………』

 「伯父さん」

 「おう」

 口元を拭いながら、彰の奴が代表して声を掛けて来た。

 「僕は勇者だけど、伯父さん何者なにもんだよ?」

 「雪毛で兎人のオヤジだな」

 「……勇者ってチート職だよ?」

 胡座あぐらを組んだまま見上げてくる。

 「何だそのちーとしょくってのは? 少しショックなのか?」

 最近の若えもんが使う言葉はさっぱり分らん。

 「マジで!? それ知らないの!? チートっていうのは狡いとか、あり得ないくらい他から優遇されてるって言う意味で使われてる言葉で、勇者て職はそれくらい規格外なんだよ?」

 「お、おう」

 いや、そんなに逆ギレせんでも……。

 「でも、女神様に普通に話しかけて、答えてもらえるってあり得ないって。神殿に居てもそんなこと起きないんだよ!?」

 いや、普通なんだが……? 夢にも出てくるし?

 「そ、そうか?」

 「それに、僕は呼び捨てなのに。何で伯父さんはハクトちゃんなのさ!?」

 「お、おう? いや、呼び捨ての時もあるぞ?」

 「マジで!? 交信したの1柱だけじゃないの!?」

 「あ~~そこはノーコメントで」

 このタイミングで全員って言うとまずいよな。流石にそれくらいは判るぜ。

 「あるんだ!? 頭が可笑しくなりそうだ」

 「笑っとけ」

 「笑えないから、こうなってるんだけど!?」

 「血管切れるぞ?」

 「誰のせいだと思ってんの!?」

 「あ~きっかけはお前じゃね?」

 「僕!? 僕が悪いの!?」

 「いや、悪いとは言ってねえが、下手こいたというか……」

 「それ、遠回しに僕が悪いって言ってるのと同じだから!?」

 「そうか? まあ元気になって良かったな?」

 「何で聞くの!?」

 「いや、ほら、お前の取り巻きの様子を見たら……な?」

 これ幸いとばかりに、彰の周りに駆け寄ってきてる3人をあごでしゃくる。

 「う……」

 零れ落ちそうなのは、目じゃなくて今度は涙だがな。あとの5人は遠巻きだ。つうコトは、可怪しくなってから、彰に連れ回された連中か。

 「それで? 2年前からの記憶は思い出せたのかよ?」

 「う、うん。それはありがとう」

 「おう。良かったな」

 「あ、あの、ハクト様? ハクトちゃん……というのは?」

 『ヘゼ姉様です。多分、わたしの代わりに顕現してくださったんだと思います』

 腰砕けの大司教の姉ちゃんが、縋り付くように俺の体を掴んで立ち上がってくるのを見ながら、スピカ立像から降りてくる青い小鳥スピカの声に視線を上げる。

 また、西狭さいさの街の神殿で起きたような、青い小鳥が俺の頭に舞い降りるシーンの再現になっちまった。大司教の姉ちゃんだけでなく、ここの神官だって言う可愛子ちゃんも「ああっ!?」って顔になってたよ。マズったな。

 ん~。そうだよな。ヘゼ姉さんの声、どっかで聞いたことがあるってずぅっと引っ掛かってんだ。けど今日の一言で気付いちまった。

 気付いたら気付いたで、恐ろしい縁を感じちまったのさ。

 ぶるっと鳥肌が立っちまったよ。



 ーー静江ばあちゃん。



 俺の、ひいひいひいひい婆ちゃんだ。

 ああ、滅茶苦茶長生きした大好きだった皺くちゃの静江ばちゃん。俺が餓鬼ガキの頃に死んじまったんだが、まさか家系図に名前が載ってる人が女神とは思わんだろうがよ。

 それも、スピカに見初められる前にってたとわ。言葉がねえとは事だぜ。

 女神の血を引いてる? いや、それはねえはずだ。

 「あ~まあ何となく察してくれ。お前さんもあの婆さんから手紙か何かで知ってるんだろ?」

 「え、ええ。それはもう! ですがこんな畏れ多い方だとは露知つゆしらずもーーむぎゅっ!?」

 「はい、そこまで。それ以上は禁止な?」

 慌てて頬をこうぐにゅっと片手で挟んで、タコの口みたいにして喋れなくする。勿論、長々と挟んでる訳がねえ。すぐ解放したわ。綺麗な姉ちゃんだから余計にな。

 「俺には普通に接してくれ。俺よりかはあきらだろう。律令神殿の後ろ盾は期待できねえんだから、できればこっちで支援してもらえると助かる。血は薄いが、これでも肉親だからな」

 「ハクト様とアキラ様がですか……? 勿論支援は惜しみませんが……」

 「あ~これも禁止事項な。アキラは流れ人、俺は稀人まれびとだ。これ以上の説明は要らんだろ?」

 『っ!!?』

 「お前さんらも、ここで聞いたことを話さないという魔法契約を結んでもらわないと帰せねえからそのつもりでな?」

 『は、はい。ハクト様!』

 「うおっ」

 綺麗にハモりやがった。どこぞのアイドルグループみたいだな。

 「僕と対応違う……」

 「ねるな。結果はどうあれお前が遣って来た事は、やらされた事とは言え、褒められたもんじゃねえ。マイナススタートだって解ってんだろうが。幸いそこの3人の可愛子ちゃんたちは付いて来てくれそうだし良かったんじゃねえの?」

 「ゔ……でも、伯父さんだって綺麗どころが居ますよね?」

 「あ~まあ色々あってな。そこの仮面を着けてるのがヒルダで、紺色の髪の美人がプルシャン。んで、この青い小鳥はスピカって言ってな。訳ありでこんな姿なんだが、3人は俺の嫁だ」

 『えっ!? 嫁っ!?』

 そう紹介すると驚かれた。紹介された本人らはにへらと笑いながらくねくねしてるがな。スピカもそんな感じが伝わって来た。

 いや、小声で「雪毛なのにあんな美人の奥さんが」とか、聞こえてるって。

 「おう。で、あとの2人は従者というか、メイドとメイド見習いだな。黒髪の和風美人の方がマルギットで、可愛らしい雪毛の兎人がプラムだ」

 和風美人で通じるのは彰だけだろうが、紹介された2人も満更では無さそうでへにゃへにゃ緩んでやがる。というか、プラムに飯食わしてやらねえとな。

 その前にやることを済ませちまうか。

 「ケルスティンさんや」

 「ひゃいっ! あ。す、すみません」

 俺の呼び掛けにビクッと驚いて飛び上がる大司教の姉ちゃん。

 「魔法契約書を9人分頼む。彰と取り巻き全員な」

 「あの、わたしは?」

 「あんたは婆さんからもう聞いてたんだろ? 今更だし、いい大人だ。信用するさ」

 「ハクト様……」

 「ほら、ちゃっちゃと済ませてプラムに飯食わせてやりてえんだ。頼むわ」

 「は、はい、ただいま!」

 「農耕神殿の大司教を顎で使う伯父さんて……」

 ぱたぱたと契約書を取りに走る大司教の姉ちゃんの後ろ姿を見て、彰の呆れた声が聞こえた。ほっとけ。

 「凄い方なのですね?」

 「皆も、これだけは覚えといて。伯父さんを怒らせないように。何時もはあんな感じで優しいけど、怒らしたら怖くて漏らす」

 「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」

 「阿呆アホ

 「あたっ!」

 「何、莫迦バカなことをコソコソ言ってやがる。あとな。兎人になって地獄耳になったから忘れねえようにな?」

 「うへ。藪蛇やぶへびだった」

 ぱすんと平手で後頭部をはたいたら、彰の取り巻きからくすくすと笑い声が漏れた。

 「良かったな、彰。このら、お前さんと居る時1人も笑ってなかったんだぞ? 大事にしてやりな。ま、付いて来てくれるかどうかはお前さん次第だぜ?」

 「うん。伯父さん、本当ありがとう。皆もごめん。出来るなら、皆で女神様からもらった使命を果たしたいと思ってる。力を貸して欲しい。でも、今までの事もあるし、僕に対して思うこともあるだろから、どうしたいかじっくり考えて」

 彰がそう言って頭を下げると、黙ってうなずき返してた。脈はあると思うがな。

 まあ、頑張れ。

 「お待たせしました。9人分の魔法契約書です。内容はここで見聞きした事と、ハクト様とアキラ様の情報を口外しないという内容で宜しいですね? 契約を破った場合ですが、どちらかの奴隷ーー」

 「いや、奴隷は要らん。アキラ、お前は?」

 被せ気味に断った。

 「僕も要らない」

 「では、どう致しましょうか?」

 「そうだな。絶対に破りたくないと思わねえと、こういうもんは効力がねえ。奴隷落ちで済むなら話してもって思ったら契約した意味がねえだろ?」

 「「確かに……」」『……』

 大司教の姉ちゃんと彰がうなずく横で、何を言い出すのかとおびえた表情で俺を見る取り巻きの可愛子ちゃんたち。若い娘が嫌がりそうなことな……。ふふふふ。良い事思いついたぜ。

 「こんなのはどうだ? 【契約を破った場合、農耕神殿から始めて、律令神殿を除く領都の8柱神殿で、丸1日ずつ、大礼拝堂で女神様に全裸で踊りを奉納する。この契約が無効だと契約書を第三者が破棄した場合、同様に破棄した者にも・・効果が及ぶ】」

 破った奴も、破られた奴も一緒に裸踊りの刑だ。これなら必死に守るだろ?

 「鬼畜だ」「嘘でしょ」「鬼が居るわ」「信じられない」「全裸で大礼拝堂!?」「そうなったら死ぬしか無いわ」「恐ろしい」「何て事を思いつくのよ」「悪魔」

 「五月蝿うるせえよ。心無い言葉にオジサン傷付いたから【罰の間、自害できない】も追加な?」

 『えええええええええええ――ーー――っ!?』

 何故だか知らねえが、絶望に彩られたような悲鳴が第二礼拝堂に響いていたーー。





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