えっ!? そっち!? いや、骨法はそういう意味じゃ……。◇兎オヤジの見聞録◇

たゆんたゆん

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第3章 領都

第131話 えっ!? 1人しか居ねえんじゃねえの!?

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 わいわいぎゃーぎゃーと、騒がしく魔法契約をすまませる彰たちを横目に、俺は妙な胸騒ぎを覚えていた。

 契約を破ったり、破られたりしねえようにすりゃあ良いだけなのに、大袈裟おおげさな話だ。

 ……とは思ったが、流石にそれは呑み込んでおいた。

 下手にくすぶるまで収まった火に油を注ぐ必要はねえだろう?

 あーだこーだ言いながらも彰と取り巻きの可愛子ちゃんたち全員が、魔法契約にサインし効力を発揮したとこで、俺たちの居る第二礼拝堂の外が騒がしくなり始めたんだ。

 あ? ああ、契約書の写しは大司教の姉ちゃんに保管してもらうことにした。もう1枚は当然サインした本人のもんだな。

 保管は自己責任と思ってたら、皆揃って彰に渡してやがった。お前らな……。

 まあ良い。

 「お前ら、入り口の直線上から離れてろ。彰、得意な獲物は何だ?」

 「ん~剣かな。でも、今迄僕の力に耐えれた剣ないんだよね」

 何だそりゃ? 勇者が持つ力ってやつか? 

 「んじゃこれ、使ってみるか? 俺の従者じゃねえと持つことも出来ねえんだが、何か力貰ったんだろ? 都合良さそうなものねえのか? っと。これだ」

 そう言って【無限収納】から、深淵しんえんの森で魔硬木まこうぼくを切り倒すのに使ってた7ペース約2.1mの真っ白な剣鉈けんなたを取り出して、石畳に突き刺す。

 「うわーっ! 凄い剣だね!? これ使っていいの!? 伯父さん!?」

 「持てたら、な」

 「大丈夫さーー」バチン「ったーっ!!?」

 案の定、莫迦バカでかい静電気が弾けたような音がして、剣鉈の柄をつかもうとしていた彰の手を弾いた。ほらな?

 「おうおう、結構痛そうだな。大丈夫か?」

 「イツツツツ。油断してた。でも、スキルあるからいけると思うんだよね。ただ……」

 弾かれた方の右手をぷらぷら振りながら、彰の歯切れが悪くなる。ん?

 「ただ?」

 「うん、そのスキル使っちゃうと、僕専用になっちゃうんだ。伯父さんも持てなくなっちゃうんだけど……」

 「おう、んなことか。持ってけ。どうせまた作れば・・・・・・済むこった」

 「え? 作る? 伯父さんもしかして生産系の職なの?」

 「ん~……違うと言えば違うんだが、間違ってもねえというか……」

 「内緒?」

 「おう、わりいな。本家筋ほんけずじの話でな、世界は違えど話せねえんだわ。そのなんだ、お前が言うチート? と言えなくもねえわな。ああ、言っとくが勇者でも魔王でもじゃねえから」

 骨法こっぽうに絡む話は、伝承者以外は秘事ひじだ。こいつも俺が骨法家こっぽうかじゃなく、柔道家だと思ってるだろうからな。稽古つけてやった時も柔道技しか使ってねえし。

 【骨法スキル】も同じ扱いでいく。

 「ぷっ。何だよそれ。まあ良いや。じゃ遠慮なく貰うね?」

 「ああ、俺が触れなくなるんならこれくらいは餞別せんべつだ。【白骨化はっこつか】、【魔骨化まこつか】、【骨硬化ほねこうか】」

 彰が何かする前に、【骨法スキル】で強化しておく。今までの武器は自分の力に耐えれないみたいなこと言ってたからな。少しはつだろう。

 スキル名で気が付かれたら、そんときゃそん時だ。

 【白骨化】で一段と白が鮮やかになり、【骨硬化】で全体が1ペース約30cmくらい縮んだ感じがした。結果的には彰の背丈と同じくらいになったから、おんの字だろう。

 「おお~~っ!? すっげえ白くなった!」『綺麗……』

 彰と取り巻きの可愛子ちゃんたちには好評だ。飾りっけのない剣鉈でわりいが、肉切り包丁にはなるだろうさ。と思った時だった――。




 ドゴオオオオン!!




 という轟音と一緒に、第二礼拝堂の扉が壁もろとも破壊されたのよ。

 「「「「「「「「「きゃあぁ――――っ!!?」」」」」」」」」「「「「「「っ!!?」」」」

 騒がしいのには気付いていたが、こんな事になるとは想像してなかったぞ?

 ウチ以外の女たちが悲鳴を上げる中、崩れた壁から立ち上る土埃つちぼこりの向こうに大きな影が動くのが見えた。壁を壊したやつか?

 「何処に隠れたかと思ったら、こんなとこに居やがった。手間かけさせやがって」

 「伯父さん、まずいのが来た」

 その埃の向こうから飛んで来た声に、彰が眉をひそめてる。

 「何だ?」

 「勇者だよ」

 「えっ!? 1人しか居ねえんじゃねえの!?」

 「この世界に何人勇者が居るのか知らないけど、律令神殿には僕を含めて9人勇者が居るんだよ」

 「9人!? マヂでか!?」

 「大マジ」

 魔王1人に勇者1人がRPGじゃセオリーだろ!? どんだけ安売りしてんだ!?

 「因みに、お前は?」

 「9人中9番目。一番遅く入ったし、実力も一番下」

 「マヂか」

 「ごめん」

 「「「「「「「「レオナッ!!!」」」」」」」」「えっ!?」

 彰との会話も、可愛子ちゃんたちの悲鳴で中断され、その声に彰もビクッと体を震わせた。

 土埃が外から吹き込む風邪で払われた先に居たのは、ジャラリと首から太い鎖を伸ばす莫迦バカでけえ牛男に担がれた金髪の姉ちゃんだったんだわ。

 牛男の片手には掛矢かけや見てえな形をしたでけえハンマーが握られてるのも見える。

 木製じゃねえよな。壁が壊せるんだからよ。

 どうやら、その時に別れた律令神殿の姉ちゃんらしい。自由になったって静江ばあちゃんも言ってたしな。逃げようとしたとこを捕まったか?

 牛男。あ~何つったか。ミノタウロスか?

 F○の三日月湖周辺で出てた、モンスターだったか? 画像は思い出すが、あとはさっぱりだな。武器とかも持たずに裸一貫だった気がするが……。

 目の前の牛男は、ご丁寧に金属製の半身鎧ハーフプレーとらしき鎧を着てる。半身っつても、肩と胸を守るだけで、あとは、籠手と脛当てくらいだ。腰回りは、ベルトに前掛けが垂れてる感じだぜ?

 「こいつが勇者?」

 えらく野性的じゃねえか。これで人の言葉話せてるってーー。

 「違うって、あのミノタウロスは勇者の召喚魔獣だよ! あそこの影に居る!」

 あ、っそ。おほん。んな目で俺を見るな!

 彰の指差す方を見ると、ミノタウロスの少し後ろに。黒いフルフェイスのヘルメット見てえなもんを被った男が立ってたのさ。口の部分は、あれだ、「冊」って字みたいになってやがる。

 「彰、あいつ……」

 「ふはははははは! 貧乏くじかと思ったが、何だよ。こりゃツイてたな。偉い上玉が居るじゃねえか。喜べ! 今日からお前らは俺のもんだ」

 彰に確認しようと思った矢先に、胸糞の悪くなる言葉が俺の耳に飛び込んで来る。

 「おい、彰」

 苛っとして、つい語調が荒くなっちまった。

 「何かごめん。僕もあんな感じになってたんだよね? 見てて痛いわ」

 「どう見ても、お前の不始末だ。さっさとその剣を使えるようにしやがれ。あの捕まった娘ぐれえは助けてやるからよ」

 「う、うん。判った! これ、時間掛かるから、時間稼ぎもお願いっ! 【聖契之儀せいきつのぎ】」

 そう言うと、剣鉈を中心に白く発光する直系2パッスス約3mの円が現れ、円の中心へ向けてさらに4重の円が生まれ、円と円の間に幾何学模様が描かれていく。綺麗なもんだな。

 「厄介な。聖剣契約かよ。おい、あの小僧を叩き潰せ。女どもは殺すなよ?」

 聖剣契約? ああ、彰のこの術の事か。色々とバレてんだな。ったく。

 それにしても、と黒いフルフェイスのヘルメットみたいなのを被っているやつ。俺には、あいつにしか見えねんだわ。

 「おい、お前」

 「あん?」

 「勇者らしいな?」

 革ジャンじゃねえのが残念なとこだな。革鎧で代用ってとこか。胸に柄杓ひしゃくの柄もねえし。

 「けっ、雪毛か。おい、この毛虫もついでに潰しとけ」

 「お前、世紀末の暗殺拳を伝承し損なった三男坊をリスペクトしてんのか?」

 名前を言わねえのはせめてもの情けだ。それに、無意識でしてんのなら、こういう言い方が傷をえぐらなくて済むだろ?

 「はああああっ!? て、テメエ、転生者か!?」

 「決め台詞セリフを言う気か? 俺の名を」

 「黙れええええええーーっ!! くそうっ!! このネタ知ってる奴居ねえと思ってたのにっ!! 殺せっ! すり潰せっ!!」

 「ああ、すまん。気にしてたのか」

 成り切り勇者の罵声で、折角の決め台詞を言わせてもらえなかったぜ。

 ふーふーと鼻息を荒くしてるとこみると、よっぽど恥ずかしったみてえだな。だったら使うんじゃねえよ、ボケ。



 ブモオオオオオオオオオオー―ーーッ!!!!



 ミノタウロスの口から、気の抜けるような大きな牛のいななきが第二礼拝堂の崩れた壁から空に吸い込まれると、その手に握られたハンマーと腕がひゅんっと消えたーー。





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