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第4章 カヴァリ―ニャの迷宮
第146話 えっ!? 騎士なのかよ!?
しおりを挟む緑色の閃光は、転移陣が発動した時と同じ色だ。
つまり、あの矢に付与された転移陣で強制的に転移させられたってことか?
そもそも問題、何で矢に転移陣が付与できるのかさっぱり原理が解からん。
あのおかっぱ頭の嬢ちゃんが、それだけの力を持ってるってことか?
いや。普通に考えれば好きな時に好きなだけ転移できるなら、最強だ。背後に音もなく転移してズドンと射てば終わりだからな。第5席なはずがねえ。
つう事はだ、消去法であの莫迦でかい弩にカラクリがあると見た方が良いな。しかも、ホイホイ手軽に転移は出来ないと見た。
転移が普通に使えるなら、矢に魔法陣を仕込むなんてまどろっこしいことはせんだろう。
俺の一声で、咄嗟に1箇所へ固まった俺を含めた5人とスピカ、それにガイが目の前で肩を抱き合ってる。正確には、ガイが俺たち5人に覆い被さるような形なんだがな。
あ~~ノボルは、……姿が見えねえ。無理もないか。俺の声に反応できなかったからな。別のとこに飛ばされたか?
「皆、無事か?」
「うむ。問題ないぞ、主君」「わたしも大丈夫」「問題ありません」「痛いところないです!」
『何事もなくて良かったですね! それにしても、ここは何処でしょう?』
眩しさで一時的に失ってた視力が戻り、辺りの暗さに目が慣れて来た俺は、皆の返事を聞きながら辺りの様子を覗う。
俺たちを飛ばした魔法陣はもうねえ。あるのはあの矢だけだ。
ノボルの鉄仮面と革ジャンみたいな装備は、近くにない。あれは転移に含まれなかったってことか? 何が飛ばされて、何は飛ばされないのか良く解らん。
判るのは、ここが先まで居た第11階層よりもかなり低い、低いとは言わねえのか?
随分下がって来た階層だって事だ。ジメッとした湿気が毛に纏わり付くし、黴臭い。
空気も地下独特の重さがある。髭が重いって初めて感じたな。
「ヒルダ、この矢を預けとく。魔法を付与できる矢らしいぞ?」
まあ良い。一先ず、安全な場所を確保しねえと何も始まらん。探索はそれからだ。
「ほう。良いのか? 主君が良いなら、預からせてもらう」
「ああ、俺にはちんぷんかんぷんでさっぱり分らん。何か判ったら教えてくれ」
今は剣を使うように修練してるが、もともとヒルダは魔法使いだ。魔道具っていうのか? そっち系も専門家とはいかねえだろうが、それなり判るだろうという期待も込めて、手渡しておいた。
「うむ。承ったぞ、主君」
ダメ元だがな。
「頼む。さてと、ここが何階層なのかも定かじゃない今、迂闊に動きまわるのは得策じゃない。動くなら、皆一緒だ。マギーが先頭で今まで通り斥候役を頼む」
「畏まりました」
「プラムはプルシャンと一緒に居てくれ。プルシャンも無闇に矢を射たないようにな?」
「うん、判った」「わ、分かりました!」
「ガイは殿だ。後ろの守りを頼む。戦闘になったら、壁役だ。その時は前に来てくれ」
「――」
少しスリムになったが、相変わらず厳ついミヤマクワガタのような角を前方へ生え出させたバケツ型フルフェイスの兜が上下に小さく揺れる。あの×型に開いた覗き穴の中がどうなってんのか何時も気になるが、まだ見せてもらったことはねえ。
「ヒルダは、プルシャンたちの前で守りを頼む。必要なら魔法も使っていい」
「承知した。主君はどうするのだ?」
「俺か? 俺は遊撃だ。マギーが下がって来たら俺が前に出る。俺でどうにか出来なかったら、どの道終わりだ。そのつもりで居てくれ」
そんな事にならないことを願うばかりだが、ここが何階層か判らねえんだから、そういう気持ちの備えも大事になる。いざという時にもたついたらそれが命取りだからな。
4人が肯くのを見て、プルシャンの肩に居たスピカが俺の頭に飛び移って来た。
『わたしは?』
「スピカは、プルシャンと一緒にいてくれ。何か気付いたら教えてくれると助かる」
『分かりました! 暗くてあんまり見えないけど、感じることはできるから任せて下さい!』
「ああ、頼りにしてる」
俺の頭の上でピィピィと鳴く青い小鳥に声を掛ける俺の姿を、マギーとプラムが不思議そうに見てたが、敢えて言わねえことにした。説明が面倒なんだよ。
ヒルダとプルシャンにはスピカの声が聞こえてるから、通訳してくれるだろうさ。
隊列はコレで良い。
「足元の罠は特に注意しろ。気なるものがあったら、触る前に必ずマギーを呼べ。壁もだが、マギーが問題ないと言うまで触らねえように。マギー頼む」
そう言って見渡すと、皆が肯く。
「畏まりました」
小さくお辞儀をし、ふわりと踵を返すマギーの背中を目で追いながら、互いに視線を交わしあった俺たちはその後に続いて足を踏み出した――。
◆◇◆
洞窟というか、迷宮なんだが見た目は洞窟のような通路をどれくらい歩いたのか……。
こういう陽が全く差し込まない場所っていうのは、得てして時間の感覚が莫迦になる。体内時計は、陽が体に当たればこそリセットされて正常に戻るんだからな。
狭くないのが唯一の救いだ。これで狭かったら、誰かが可怪しくなっただろうさ。
そう、プラムを背負って歩きながら思う。
俺の感覚ではかれこれ2時間は歩いたと思うんだが、今も言った通り、体内時計が莫迦になり始めてるから、正確なことは判らねえ。
この世界に時計の技術は生まれてねえ。あるのは、陽の傾きで時を知らせるくらいだ。ゴーンとかカラーンとか鐘を鳴らしてな。けど、その音もこんな迷宮の奥まで響く訳がない。
今までは第10階層に、冒険者が言う“聖域”があった。魔物や魔獣が入ってこれない行き止まりの空間があるのさ。セーフティゾーンってやつだな。
ゲームにゃそんなもんはなかったが、現実問題あると助かる。
俺たちが探してるのはまさにそれなんだが、なかなか見付からねえのさ。そして、敵……この階層に出てくる魔獣のタイプが変りやがった。
ノボルが連れてきたのは、黒光りする蟻牛だったが、この階層にゃ同じ蟻牛でも赤いのが居がるのさ。それだけじゃねえ。
同じ黒と赤の色分けで、半蟻半牛の兵士や騎士が居やがったんだよ。
ケンタウロスって判るか? 下半身は馬で、馬の首の辺りから人の上半身が生えてるあれだ。あの蟻バージョンだとイメージしてくれ。
6本足の牛から生え出た4本腕の蟻が短槍と円盾を持ってウロチョロしてるんだぜ?
それが黒い体の兵隊だが、赤がやべえ。黒より体が一回りでかい上に、円錐形の傘が着いた騎乗槍と、その傘の曲線に合うような形に上部が加工された逆三角型の盾を2枚持ってんだ。
2本の腕で騎乗槍を構え、構えたランスに盾を合わせて突っ込んでくるのさ。
しかも! しかもだ! 小さく一礼して突っ込んでくるんだぜ!?
えっ!? 騎士なのかよ!? そう思っても無理はねえだろ?
おまけに材質は判らねえが、ズドンと迷宮の壁にランスの半分が突き刺さって折れねえんだよ。明らかに1階、2階飛ばされたどころの話じゃねえ。最下層に近いんじゃねえのか!?
ああ、【鑑定眼】な? 今休暇を取ってやがって仕事する気がねえらしい。
可怪しくねえか?
自分のスキルなのに自分の任意で使えねえって、どうなんだ?
何時になったら自分の意志で使えるようなるのか……。気長に待つしかなさそうだな。
まだどれも群れで出遭ってないから助かってるが、あれが集団で来たら脅威であることには変わりない。餓者髑髏が直ぐに喚べるのかどうかも確認してねえ。
倒した、死骸は全部【無限収納】へ放り込んである。現地調達の食糧さ。
「まずは休まねえと持たんよな」
疲労の色を隠せなくなってきた、マギーを見ながらポツリと呟いた時だった。
「ぎゃあああああああ――――――っ!!!」
進行方向から、男の絶叫が闇を切り裂いて俺たちの間を駆け抜けて行ったんだ――。
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