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第5章 公都
第163話 えっ!? 今の見えたかよ!?
しおりを挟むえっ!? そこまでするのかよっ!?
不意打ち同然の号令と共に殺気が膨み、打ち出された矢の様に殺意の塊が突っ込んで来る刹那。俺はどうしてこうなったのかと、考えてしまっていたーー。
◆◇◆
辺境伯爵領の領都にあった迷宮を踏破した俺たちが農耕神殿に帰った時、イドゥベルガの婆さんの姿は無かった。
大司教の姉ちゃんに、『公都で待ってますからね』と言う要件が何かすらも判らないメッセージを託けて出発した後だったのさ。
本当、自由気儘な婆さんだぜ。
勿論、俺たちも公都へは行く予定で居たからな。領都から公都までの日数から算段した必要な物を買い足して、婆さんの後を追う形で出発したのが70日前の話だ。
北方の辺境伯爵領から公都までは、幾つもの領地を抜けて行く必要があった。
中世ヨーロッパとかの貴族がどうだったって言う正しい知識がねえから、ヒルダとマギーから『貴族とは』と言うありがたい講釈を聞きながら徒歩での旅を満喫する事にしたのさ。
『馬車を手に入れては?』とマギーから言われたんだが、丸太小屋は【無限収納】に収めれても、生き物は入らねえからな。諦めたんだよ。世話もせにゃならんからな。
大司教の姉ちゃんから、『公都の農耕神殿に乗り捨てで良いから使かわれますか?』とも聞かれたんだが、折角風情が楽しめるんだからと断ったのさ。
ああ、貴族の話な。
大枠だが、大体どこの国も、3公爵/5候爵/7辺境伯爵/15伯爵/31子爵/63男爵/300準男爵/500騎士爵を基準に考えるんだそうだ。勿論、国によっては増減があるから全部が同じと言う事じゃねえ。
凪の公国はどうかって言うと、全くこの通りなんだと。
公爵・伯爵・男爵が内政を、侯爵・辺境伯爵・子爵が軍事・外交を担当することが多いらしい。飽く迄、らしい、だぞ? で、その下の準男爵・騎士爵はそれぞれに人手のいる部署に回されるとか。まあ、小さな部署の監督が関の山だろう。
公爵から男爵の世俗貴族が124家族で、大体1貴族の1世帯が平均40名いるらしいから、貴族だけでも凡そ5000人もこの国にいる計算だ。ああ、王家は計算に入ってねえ。
準男爵は1世帯平均16人で4800人。騎士爵は1世帯平均13人らしいから、6500人。
税で貴族を養うのも楽じゃねえよな。
で、侯爵と辺境伯爵が国の外縁を交互に領地を拝領してて、ぐるりと睨みを効かせてる訳だ。その間に伯爵以下の貴族の領地があって、俺たちは公都へのルート上男爵領と公爵領を抜けて公都へ向かったのさ。
ああ、ヒルダの家の名前、アイヒベルガーじゃねえ。その名前の公爵家は凪の公国には存在しねえんだと。随分徹底的に家を潰したな。勘繰りたくなるってもんだぜ。
そんな話をしたり、途中で狩りをして肉を調達したり、にゃんにゃんして旅を楽しんだ訳さ。
あ~なんだ。その、マギーな。30日くれえは自制が効いたんだがよ。ヒルダやプルシャンがどうせ入るなら一緒に風呂へって事になってな。その前から妙にマギーからのボディータッチが増えたな、とは思ってんだわ。今思えば、あの2人にまんまと嵌められたんだが……。
いやな。ほら、俺も嵌めちまったのよ。マギーに……。
おほんっ!
あー言っとくが、プラムには手を出しちゃいねえ! 俺はロリじゃねえ!
ほら、温泉とかで父親と娘が一緒に男湯に入るだろうが。まさにあの心境だ。邪な目で見ることはねえ。寧ろ、愛でるもんだろ? だろっ!?
一つ屋根の下に、良い大人の男女が居て、人の目を気にせずに肌を露出してたら目で追っちまうってもんだぜ。そこに恋愛感情が生まれる以前に、性欲は生まれるわな。マギーは最初からOKのサインを出してたみたいなんだが、俺の方が気付かなかったらしい。いや、まあ結局はしちまったんだから仕方ねえ。嫁にするかどうかはこれから考えるが、男の甲斐性は見せねえとなとは思ったさ。
で、そんなこんな賑やかな徒歩での旅も終盤に差し掛かった時だった。
マギーから、『公都近くにあるガルニカ塁砦に詰めている騎士団は、勇猛だが短慮なので塁砦に近づいたら目立たないように』って注意されてたのによ。
丸太小屋をしまう前に、大司教の姉ちゃんからもらった公都周辺の地図を先に見ちまってたのさ。現在地を確認しておこうと思ったんだわ。
それがこれだ。
縮尺がどの地図も違うのは何でだって聞いたらよ、『仮に全てが他国に渡ったとしても正確な距離を計算できない様にするためです』とマギーが答えてくれたよ。
そしたら、向こうから複数の馬蹄の音がするじゃねえか。慌てて、ログハウスを仕舞ったね。差し押さえられたら大変だ。風呂が無くなるのは辛い。
そうこうしてると、十騎ばかりの偉そうな騎士がやって来た。馬の上に乗ってるんだから、仰け反ってる姿勢が偉そうに見えるんだよ。
「我らは、ガルニカ塁砦を守る青牛騎士団であるっ! 先程この辺に家が見えたが、どこにやった?」
と言う訳で見つかっちまったのさ。
後は、売り言葉に買い言葉。擦った揉んだで砦に連行されることになっちまった訳よ。
身元保証人は農耕神殿だからと言っても聞き入れてもらえず、『それなら実力で無実を証明しろ』と訳の解らねえ論法で闘技場に連れ出されて模擬戦を行うことになっちまった訳なんだがーー。
◆◇◆
「主君っ!」「ハクトッ!」「旦那様っ!」「ーーっ!」『ハクトさんっ!』
走馬灯じゃねえにしても、一瞬でパラパラ漫画みてえにここまでの記憶がスライド写真みてえに流れて行ったわ。俺が一瞬、ボーッとしてる様に見えたんだろう。襲いかかってくる騎士を指差して声を上げるヒルダたちの姿が見えた。
「余所見とは、毛虫の最後に相応しいな」
けっ。こいつもか。長剣の刃は、下段。切上げか、切上げから刺突への変化だな。
闘技場の各所に灯された松明の明かりに照らされた刀身が、ぬらりと明かりを反射したと思った瞬間、仰け反った俺の鼻面をスレスレで刃が通り過ぎる。
「遅せえよ」「何っ!?」
刃が通り過ぎた後刃、掴んでくれとばかりに伸びた腕が俺の前にある。後は掴んで投げるだけだ。簡単過ぎて欠伸が出らあっ。
「よっ!」「なっ!? がはっ! ごっ!」
重心も前に動いてんだから、それを利用して一本背負。からの、喉へ足刀を入れて止めだ。止めと言っても、首の骨を折るほどじゃねえ。暫くは動けんくらいだろうさ。
現に、ゴホゴホと咽せ返ってる。
審判役で突っ立ってる騎士団長の男に向かって、今ぶっ倒した男の奥襟を掴んで足元に放り投げてやった。迷宮で随分レベルが上がったからな。色々底上げされているんだろうさ。
「えっ!? 今の見えたかよ!?」「い、いや。俺にはさっぱり」「は? 何で毛虫が切られてねえんだ!?」「今のは切られるタイミングだろ!?」「やっーーええっ!?」「何だ!? 何しやがった!?」「何かの魔法か!?」
外野が騒がしい。
「あ~訓練でも実践が座右の銘だったか? 随分お粗末だな。んな訓練にもならん下っ端引っ張り出すなよ。可愛そうだろうがよ」
ポリポリと額と頬を守る面当てから覗く顎の毛を掻きながら嘯く。ああ、これな? 迷宮でヒルダの祖父さんに盾でぶん殴られたろ? あの後な、正座させられて結構な時間説教くらったんだよ。
で、仕方ねえから骨粘土で作ったのさ。まあそりゃあ良い。問題は騎士団長だ。
どうだ? 喰い付くか?
おうおう。んな怖え目で睨むんじゃねえよ。
「……すまんな。小手調べに下から数えた方が早い奴を当てちまったようだ」
ーー嘘だな。
俺が見た感じじゃ、団長の足元に転がってるくらいの奴は数えるくらいしか居ねえ。
「みたいだな。んじゃ、さっさと次を頼むわ。これで終わりって訳じゃねえんだろ? それともあれか? 鬱憤を晴らせたから無罪放免か?」
「ふはははっ。冗談が上手いじゃないか。アマドッ! 相手してやれ。解ってるだろうな?」
「はっ! ご指名に感謝します!」
相変わらず目だけは笑わねえ団長が天井に向かって笑い、野次馬どもの方へ呼び出しをすると短槍を持った騎士が1歩皆より内側に踏み出して敬礼する。ああ、手を上げるのじゃねえぞ? 日本式に言えば“直立不動”だな。
凪の公国に来て挙手式の敬礼は見たことねえ。他の国はしてるかもしれんがな。
「始めっ!!」
懲りもせず、部下の都合の良いタイミングで号令を掛けるもんだぜ。
「しっ!!」
「よっ、ほっ」
右に左に突き出される刺突を躱す。騎士も手を休めるつもりはないらしい。
そりゃそうだ。槍は手数で勝負だからな。だが、莫迦正直に横薙ぎを使わずに攻めてくるのには何か意図があるんだろう。
「ずりゃっ!」「ーーっ!?」
短槍だからそこまで間合いが遠くはねえが、懐に入り辛い。穂先をよく見てればーーっ!?
気合と共に突き出された槍の穂先を左頬に掠らせるかどうかで、一歩踏み込んで躱した鼻先に剣尻形の返しが付いた鏃が居やがったーー。
「主君っ!?」「ハクトッ!?」「危ないっ!」『「きゃーーっ!!?」』
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